【コラム】親愛なるEUへ、テックスタートアップ政策の優柔不断をやめてコミットする時がやってきた

EUは、その無気力、欠点の数々、官僚主義のフェティシゼーションなどを考慮に入れても、究極的には良いアイデアだ。欧州経済共同体が設立されて64年になるかもしれないが、マーストリヒト条約でEUが創設されて29年が経ち、この国際機関は今でも優柔不断なミレニアム世代のように振る舞い、テックスタートアップ政策を喜んでいじくり回している。EUはそろそろデジタルノマドをやめ、長年の懸案であるスタートアップへの対応について、1つの「場所」にコミットする時期に来ているのではないだろうか。

1つだけ誰もが同意できることがあるとすれば、それは今がユニークな時期であるということだ。新型コロナウイルスのパンデミックは世界的に、特にヨーロッパでテクノロジーの受け入れを加速させた。ありがたいことに、テック企業やスタートアップ企業は、確立した経済の大部分よりも回復力が高いことが証明されている。その結果、EUの政治指導者たちは、ヨーロッパのより持続可能な未来のために、イノベーション経済に目を向け始めた。

しかし、この時が訪れるまでには時間がかかった。

ヨーロッパのテックシーンは、スタートアップの設立数、テック分野の人材、資金調達ラウンド、IPO、イグジットなどの面で、米国やアジアに比べてまだ遅れをとっている。もちろん、ヨーロッパ市場が非常に細分化されていることも助けになっておらず、それは今後も長く続くだろう。

しかし、米国やアジアのテック巨人たちに対抗するために、スタートアップ企業の法律、税制、人材育成を改革するというEUの義務に関しては、言い訳はまったく存在しない。

だが率直に言ってEUは、スタートアップを取り巻く環境を整えることができないようだ。

これまであった提案の数々を考えてみよう。

古くは2016年に「Start-Up and Scale-Up Initiative」が発足した。同年には「Scale-Up Manifesto」も発表された。そして2019年には「Cluj Recommendations」、2020年にはオプション改革のための「Not Optional」という取り組みが行われた。

現実を受け入れよう。ヨーロッパのVC、創業者、スタートアップ協会コミュニティは、国やヨーロッパのリーダーに対して、何年も前からほとんど同じことを言っている。

2021年になってついに、これらの努力の集大成に近づくものが出てきた。

2021年前半のEU議長国であるポルトガルは勇敢に難局に立ち向かおうと決断し、EUが必要とするものの最終的な草案に近いものを作成した。

欧州のエコシステム関係者との綿密な協議を経て、同国はスタートアップの迅速な創出、人材、ストックオプション、規制の革新、資金調達へのアクセスなど、さまざまな問題を取り上げた上で、競争条件を整えるための8つのベストプラクティスを特定した。考えられる問題は網羅している提案だ。

これらは「Startup Nations Standard(SNS)」と呼ばれる立法文書としてまとめられ、2021年3月19日に行われたDigital Dayで、欧州委員会とともに、情報社会・メディア総局(DG CNECT)とその担当であるTierry Breton(ティエリー・ブルトン)委員に提出された。このことについては、当時書いた

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明らかに実現可能なこれらの提案に、EUはようやく理解を示し署名するだろうか?

少なくとも今回は、進展がありそうに思えた。この日、25の加盟国が宣言に署名し、おそらく初めて、この政策についての政治的コンセンサスが形成されたように見えたのである。

実際、ポルトガルのAntónio Costa(アントニオ・コスタ)首相は、このイニシアチブを統括するための機関(European Startup Nations Alliance、ESNA)の設立を発表している。この機関は、基準の監視、開発、最適化を行い、その成功と失敗に関するデータを加盟国から収集し、その結果を欧州理事会の議長国が変わるのに合わせ年2回の会議で報告するとのことだった。

冷えたバイラーダエスプマンテDOCでも開けて、これらの提案された政策のうち、少なくとも基本的な部分をEUがようやく実施し始めるかもしれないことを祝えそうなものだ。

しかし、そうは問屋が卸さない。パンデミックがいまだに続いている中、EUのリーダーたちはこれらのテーマについて考える時間を持て余していたようだ。

そこで今度はEmmanuel Macron(エマニュエル・マクロン)仏大統領が、ヨーロッパの主要なテック創業者、投資家、研究者、企業CEO、政府関係者など150人以上の選りすぐりのグループを集めて、スタートアップについて考える「Scaleup Europe」というイニシアティブを打ち出した。また、研究・イノベーション総局(DG RTD)のMariya Gabriel(マリヤ・ガブリエル)委員による「Global Powerhouse Initiative」も出てきた。

そう、ご列席のみなさん、EUはまるで巨大な金魚のような記憶力で、再びすべて同じプロセスを繰り返していたのだ。

このような集団行動が悪いというわけではない。しかし、EUのスタートアップは、もっと断固とした行動を必要としている。

現状では、非常に合理的なポルトガルの提案を実行する代わりに、2022年にフランスが議長国になるまで、EUの歯車がゆっくりと回転するのを待たなければならない。

とはいえ、うまくいけば、La French TechStartup PortugalStartup Estoniaのような組織で構成される、欧州共同体から委任されたテックスタートアップ政策の実施を監督する機関がようやく手の届くところに見えてくるかもしれない。

しかし外から見る者にとっては、EUの政策の歯ぎしりはまだまだ続くのではないかと感じてしまう。フランスは「La French Tech for Europe」を提唱し、ポルトガルはESNAをすでに立ち上げているが、これらの取り組みは連携が取れているとは言い難い。

つまるところ、テックスタートアップの創業者や投資家たちは、この新しい組織がどこから来たのか、どこの国が立ち上げたのかなどということは気にしないだろう。

何年もの貢献、何年もの協議を経て、今こそ行動を起こすべき時だ。

今こそEU加盟国は合意して前進し、確立されたベストプラクティスに基づいて他の加盟国が追いつけるように支援する時だ。

待望のEUテック巨人が開花し、米国生まれのビッグテックに対抗し、EUがようやくその力を発揮してもいい時期が来たのだ。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:EUコラムヨーロッパ

画像クレジット:picture alliance / Getty Images

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)


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