世界唯一のAIによる議論プラットフォーム「D-Agree」。AGREEBIT代表桑原氏にその革新性について聞いてきた

日本人は議論が苦手だと言われてきました。会社の会議では権威のある人物に忖度してしまうなど、議論する場の形骸化が指摘されることもあり、「出来レース」と揶揄されることもあります。

また、現在オンライン上ではあちこちで議論が行われていますが、合理的な意見集約ができているケースはそう多くありません。SNSで行われる議論は白熱するあまり単なる口げんかになってしまうことも。

従来の議論の構造を見直し、合理的な合意形成をするためにはどうすれば良いのでしょうか。

今回は、AIによる合意形成支援SaaSサービス「D-Agree」を手がけるAGREEBIT株式会社代表の桑原氏に、「AIによる合意形成の可能性」について話を伺いました。

これまでの議論の構造には課題があった

ーー今回「D-Agree」の提供を開始した理由・経緯を教えてください。

桑原:D-Agreeは10年以上前から大学で研究されている分野のひとつの成果として、国家プロジェクトから生まれています。AIの精度自体がかなり高まってきたので、2019年3月に会社を立ち上げ、研究成果の社会実装を担っています。

ーーアカデミック分野の研究成果から生まれたということですね。AIが意見集約や議論の合意形成を支援するSaaSサービスとしては世界初ということですが、元からニーズのある分野だったのでしょうか。

桑原:実はコロナの前は全然反応がなかったんです。誰もオンライン上でディスカッションをする意義に気づいてくれませんでした。

それがコロナになって、多くの人に興味を持っていただき、今年5月末にローンチを迎えたところです。

ーー従来のリアルな場での議論にはどのような課題があったのでしょうか。

桑原:リアルな議論の課題は、同じ空間、時間に物理的に集まる必要があること、参加者が集まりづらいこと、集まっても意見が出づらいこと、集まった意見を集約しづらいことなどが挙げられます。

また、議論でよくあるのが、声の大きな人や権威のある人への忖度が発生するという点です。偉い人の一声で物事が決められてしまうなら、議論は形骸化したものになってしまいます。

ーーなるほど。一方で、コロナになってから様々な議論がオンラインで行われていますよね。オンライン上での議論についてはどのような課題を感じますか。

桑原:オンライン上の多くの議論では、意見を出すことはできていますが、集約や合意形成ができていません。ファシリテーターがいなかったり、そもそも人々がディスカッションをしようとしていないことが原因として考えられます。

AIによる客観的なファシリテーションを

ーー「D-Agree」の強みを教えてください。

桑原:AI、特に「マルチエージェント」と言われる研究領域では、我々が技術的にトップだと思っています。我々は特許も取得していますので、議論を支援するAIファシリテーションや議論構造をリアルタイムでまとめられるシステムとしては他社に比べて大きなアドバンテージを持っていると思っています。

今はひとつのAIのみで動作していますが、今後は複数のAIを協調、連携させることを目指しています。

ーー「D-Agree」では人工知能が自動的に議論のファシリテーションを行うことで、人の主観的な評価や忖度を排除できるということですね。具体的にはどのようなことが行われるのでしょうか?

桑原:議論が開始すると、AIは発言を促すようなファシリテーションをします。また、AIは発言をリアルタイムで解析しているため、発言の偏りなどを検知すると「異なる視点をお持ちの方」など反対意見を積極的に集めて議論を活性化します。

人間だと、個々に発言された内容を拾う・拾わないという判断も人間によってばらつきが生じますが、AIならあらゆる意見を分析できます。

また、発言量が少ない人であってもAIがバランスよく聞くことで発言量が増えます。実際に当社のデータでは、人間によるファシリテーションよりもAIによるファシリテーションのほうがユーザーの発言量が1.5~2倍多くなっています。

ーー意見集約までAIが行うのですか。

桑原:いえ、AIは基本的に合意形成のサポートをしているだけで、実際にものごとを決めるのは人間です。本サービスには投票機能があって、ある程度まとまった意見に投票をしてひとつの意見を確定させることができます。あくまで参加者が投票などを用いて結論を出す仕組みにしています。

ーーD-Agreeでは「炎上防止フィルター」というものも実装されていますよね。どのようなケースで使用することを想定していますか。

桑原:従来から我々はフィルターについてかなり研究していて、途中で技術的なブレークスルーが起きたためにフィルター精度を飛躍的に高めることができました。

そこから学習モデルを変えながら、ディスカッションのなかで不適切な発言や炎上しやすいものをフィルターすることができるようになりました。フィルターはONとOFFを切り替えることもできます。

炎上防止フィルターが有効なケースは、主に参加者が限定されていないディスカッションです。オープンにディスカッションして、かつ様々な思考をお持ちの方がいる場合は、フィルターをONにすることで議論に禍根を残すことがなくなります。

反対に、会社の社員だけで行うディスカッションなどは炎上するリスクが少ないため、OFFでも大丈夫でしょう。

フィルターは単に単語をブロックするだけでなく、文脈によってNGかどうかを判断することもできるため、かなり有効活用できます。

マーケティングから政策まで可能性は無限大

ーー議論を行った後、各意見に投票できる機能などもありますね。テクノロジーで政策のあり方を変えるような、いわゆるPoliTech領域での活用なども想定されているということですか。

桑原:はい、視野に入れています。

世界的にはダイレクト民主主義の流れになっていますよね。現時点では限られた人達のなかで色んなことが決められていますが、SDGsやウィックド・プロブレムと言われるような社会課題について多様な人達に多様な意見を出してもらい、そのなかで議論をしなければ解決できない課題も多くあります。

政策課題など、市民の意見をダイレクトに反映すべきところにはどんどん使っていっていただきたいですね。

ーー議論の中から政策課題の解決案などを導き出す際には、出された発言の評価が重要になってきますね。後から発言を評価する仕組みがあるのでしょうか。

桑原:ある参加者の発言で議論が活発化した場合、その発言にポイントが入る仕組みを導入しています。 さらに、最初のアイディアに意見をした人も、その後の反応に応じてポイントが入る仕組みです。最後に参加者ごとのポイントをランキング形式で公表することができます。

これはリアルな会議ではできなかった評価方法で、ヒントやアイディアを出した人とその後の反応をした人の評価を分けることができます。

ーーなるほど。そのようなポイント制による評価を実際の政策議論に活用したケースはあるのですか。

桑原:はい、実際に名古屋市の実証実験では、議論を行った結果をもとに、市長が表彰を行っています。

また、アフガニスタンではカブール市内の区ごとに意見を出しあい、上位の意見には実際にバジェットが与えられるなど、政策にも活用されています。

アフガニスタンは宗教上の理由で女性が公に意見できないので、オンライン上での意見集約が重宝されるんです。

また、現地の人たちは相互に信頼関係が希薄なため、ファシリテーションを現地の人に任せてしまうと恣意的な扱いを受けてしまうと考えているようです。その点、D-Agreeでは日本から来たAIが公平にファシリテーションするため、すごく信頼してくれています。

ーー政策以外ではどのような領域でD-Agreeの活用が期待できそうですか。

桑原:はい、今までではメーカーがアンケート調査などを実施していましたが、D-Agreeではディスカッションというかたちで顧客から意見を取り出せるので、貴重なインサイトが得られると思います。

その先のことは確定していませんが、今後色々なデータをビッグデータとして分析できるようになるかもしれません。

例えば、化粧品の販売員は顧客の課題を聞き出して、それに対して適切な商品を売ります。しかし、AIが課題抽出を行えば、複数の顧客から同時に課題抽出ができるようになるでしょう。

(文・江連良介)


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