ここ数年、テクノロジー、イノベーション、電子政府、働きやすさ、といった文脈で注目される北欧・バルト地域。
この地域にはフィンランドやエストニアなど、規模は小さいながらもスタートアップが活発な国が多くあります。この地域は日本企業にとってどんな意味があるのでしょうか。
北欧と日本のスタートアップエコシステムを繋ぐイノベーション・ラボ・アジアでインベストメントアドバイザーを務めるオリバー・ホール氏、同 主任コンサルタント ユリアン・森江・原・ニルセン氏、北欧・バルト地域で投資活動を行うベンチャーキャピタル、NordicNinjaでマネージング・パートナーを務める宗原智策氏が解説します。
北欧はビジネス環境として優れているのか?
ホール氏は「ここ数年、日本企業から北欧企業への投資が目立つようになってきている」と話します。その理由は「北欧にはユニコーン企業を生み出すためのフレームワークがあり、ビジネスに関わる多くのランキングで上位に位置しているから」だそうです。
国連が発行する『Sustainable Development Report 2021』内のSDGs ランキングでは、1位をフィンランド、2位をスウェーデン、3位をデンマークが獲得。上位10カ国のうち5カ国が北欧・バルト地域の国でした。
ホール氏は「北欧はグリーンテクノロジーが発達した地域であるため、こうした結果が出ている」と言います。
これだけではありません。世界銀行が発行する『Doing Business 2020』では、ビジネスのしやすい国ランキングの4位にデンマーク、9位にノルウェー、10位にスウェーデンが入っています。
さらに、トランスペアレンシー・インターナショナルが発表する『Corruption Perceptions Index 2020』内の透明性ランキングでは、1位にデンマーク、3位にスウェーデン、7位ににノルウェーがランクイン。
また、2020年発表のIMD世界競争力ランキングでは、2位にデンマーク、6位にスウェーデン、7位にノルウェーが入っています。
「デジタルの競争力を見てみましょう。欧州委員会発表の『The Digital Economy and Society Index 』では、各国のコネクティビティ、人的資本、インターネットサービスの活用、デジタル技術の統合、デジタル公共サービスを評価しています。ここでは1位フィンランド、2位スウェーデン、3位デンマークとなっています」と、北欧もデジタルの強さも強調します。
さらに、IMDによるデジタル競争力ランキングでは、3位デンマーク、4位スウェーデン、9位ノルウェー、10位フィンランド。
北欧・バルト地域は国連発表の『E-Government Survey 2020』でも好成績を残しています。結果は1位デンマーク、3位エストニア、4位フィンランド、6位スウェーデンです。
「北欧市民は行政と福祉国家に信頼を寄せています。国連が発表する世界幸福度ランキングで北欧諸国が数多く登場するのも、そうした背景があるからでしょう」。
ここ数年の北欧投資ブーム
ニルセン氏は「現在、北欧はイノベーションのアイコンとして注目されています」と言います。
欧州の投資状況を見てみると、2019年から2020年にかけて投資案件数が減少。一方で、2019年の投資最高額は420億ドル、2020年の投資最高額は490億ドルと増加しています。そのため、「コロナ禍で投資案件が減少し、投資額が減少した」とも言い切れない状況です。
では、欧州のスタートアップのエコシステムはどうなっているのでしょうか? ニルセン氏は一人当たりのスタートアップ企業数(国別)を見ながら、「バルト地域のエストニアの一人当たりの企業数が多いことがよくわかります。これは欧州平均の4.6倍です」とエストニアのスタートアップの層の厚さを強調。
このランキングでは3位デンマーク、4位フィンランド、6位スウェーデン、11位ノルウェーと、北欧諸国が目立ちます。
また、国別一人当たりの累積投資額を見ると、1位はスウェーデンで910ドル、4位フィンランド、6位エストニア、9位デンマーク。ヨーロッパ平均が172ドルです。北欧・バルト地域の強さが見えてきます。
こうした中で、日本企業の北欧への投資はどうなっているのでしょうか? イノベーション・ラボ・アジアの調査によると、2013年にソフトバンクがフィンランドのスーパーセルを買収してから、43の日本企業が68の北欧企業に投資しています。
また、これまでの日本企業から北欧スタートアップへの投資件数を見ると、2019年がピークとなっています。ニルセン氏は「2021年は折り返したところです。ここまでのペースだけで言えば、2021年は2019年と変わりないですね」と期待を滲ませます。
押さえておきたい北欧ビジネストレンド
NardicNinjaはフィンランド、エストニア、スウェーデンに拠点を持ち、北欧・バルト地域8カ国で活動するベンチャーキャピタルです。同社の宗原氏は北欧・バルト地域のスタートアップの特徴を「自国の小さな人口・小さなマーケットを認識し、外部のマーケットを常に意識していること」と話します。
さらに、「北欧・バルト地域のスタートアップはデジタルに強いです。逆に、日本企業は製造業が強いです。なので、日本企業と北欧・バルト地域のスタートアップは将来性のある組み合わせだと思います」と言います。
同氏は、北欧・バルト地域のビジネスを考える上で3つのキーワードが重要だと考えています。「デジタル化」「サステナビリティ」「インパクト投資」です。
北欧・バルト地域のデジタル化で特に注目すべきなのがMaaS(Mobility as a Service)です。
宗原氏は「MaaSは交通をクラウド化して、相乗り、タクシー、レンタカー、自転車シェアなどを組み合わせて最適な移動手段を繋ぐことを指します。北欧スタートアップでは、フィンランドのMaaS Globalが提供するアプリ『Whim』が良い例です。MaaS Globalは三井不動産と共同で日本国内で実証実験をしています」と言います。
サステナビリティで注目すべきはThe Upright Project。このスタートアップはさまざまな企業のデータを集め、その企業が社会にどう影響するのかを可視化します。
「こうしたサービスは今後トレンドになるかもしれません。SDGsやESG投資の文脈を見ても、企業の社会的な持続可能性は企業価値の判断材料になりえます」と宗原氏は分析します。
インパクト投資に関して、同氏は「金銭的な価値だけでなく、社会的な価値も重視した投資手法です」と説明。北欧はこの投資手法のフロントランナーで、要注目の地域です。2020年、北欧におけるインパクト投資額は16億ユーロに達しました。また、投資額はこの10年で大きく伸びています。
宗原氏は「北欧スタートアップに対する投資の3分の1がインパクト投資です。インパクト投資の潮流が世界的に主流になっていく中で、『インパクト投資の方向性を見ておく』という意味でも、北欧に注目すると良いでしょう」と締めくくりました。
(本記事は、イベント「今が旬!北欧エコシステムを検討するべき理由」を編集・再構成したものです)
(文・佐藤友理)
- Original:https://techable.jp/archives/157982
- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
- Author:Techable編集部
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