企業の秘密を「マシン・ツー・マシン」で保護する1Passwordが110億円調達、約2180億円の評価額に

左からDave Teare(デイブ・ティアー)氏、Jeff Shiner(ジェフ・シャイナー)氏、Roustem Karimov(ルーステム・カリモフ)氏、Sara Teare(サラ・ティアー)氏。

トロントを拠点とする1Password(ワンパスワード)は、高収益な上に財務状況を公開できるほど透明性が高いという稀有な企業の1つである。

そして2021年7月終わりに、同社はシリーズBラウンドで1億ドル(約110億円)の資金を調達し、同社の評価額を20億ドル(約2180億円)に倍増させたことを発表した。

かつては自力で運営していた1Passwordが2019年、初めて外部資本を調達したことはまだ記憶に新しい。Accel(アクセル)が主導した2億ドル(約220億円)のシリーズAは、同ベンチャー企業の35年の歴史の中で、単一の投資としては最大規模のものだった。2005年に設立された1Passwordは当時すでに、スタートアップとは言い難い存在だったのだが。

Accelが再度主導した今回のラウンドには、Ashton Kutcher(アシュトン・カッチャー)氏のSound Ventures(サウンド・ベンチャーズ)、Kim Jackson(キム・ジャクソン)氏のSkip Capital(スキップ・キャピタル)の他、Shopify(ショッピファイ)のCEOであるTobias Lütke(トバイアス・トビ・ルーク)氏、Shopifyの社長であるHarley Finkelstein(ハーレー・フィンケルシュタイン)氏、Slack(スラック)の共同創業者兼CEOであるStewart Butterfield(スチュワート・バターフィールド)氏、Squarespace(スクエアスペース)の創業者兼CEOであるAnthony Caselena(アンソニー・カセレナ)氏、Atlassian(アトラシアン)の共同CEOであるMike Cannon-Brookes(マイク・キャノン=ブルークス)氏とScott Farquhar(スコット・ファーカー)氏、Eventbrite(イベントブライト)の共同創業者兼会長のKevin Hartz(ケヴィン・ハーツ)氏などが名を連ねる。

CEOのJeff Shiner(ジェフ・シャイナー)氏によると、1Passwordは設立当初から利益を上げており、ARR(年間経常収益)は最近1億2000万ドル(約132億円)に達したという。Under Armour(アンダーアーマー)、Shopify、PGA、IBM、GitLab(ギットラブ)、Slack(スラック)、PagerDuty(ページャーデューティー)といった多数のビッグネームを含む9万以上の企業が、同社のSaaSプラットフォームを利用している。2019年11月の調達時の顧客5万社から、ここまでの増加である。

2組の創業者夫妻であるDave Teare(デイブ・ティアー)氏とSara Teare(サラ・ティアー)氏、Roustem Karimov(ルーステム・カリモフ)氏とNatalia Karimov(ナタリア・カリモフ)氏は、ウェブサイト構築の別の会社を成長させていく中で、パスワード管理に関する苦労に着目したことから1Passwordのアイデアを思いついた。

当初は消費者のみを対象としていたものの、その後パスワード管理サービスを企業にも提供するようになる。すでに成功を手にしていた同社は、これによりさらにレベルアップすることになる。

そして同社に目をつけたのが、ブートストラップ・ビジネスや収益性の高い企業に投資してきた実績のあるAccelだ。シリーズAラウンド、BラウンドともにAccelから投資の打診がきたのである。

AccelのパートナーであるArun Mathew(アラン・マシュー)氏は両ラウンドで1Passwordへの投資を推進しており「1Passwordは非常にユニークな企業プロフィールを持っています。このようなファンダメンタルズと指標を持ちながら、市場の追い風に乗っている企業を見るというのは本当に珍しいことです。今回のラウンドによって会社全体がこの市場を勝ち抜くためにさらにアグレッシブになれることを期待しています」と話している。

前回の増資以来1Passwordは進化し続けている。決して栄光に甘んじないという同社の精神を体現しているのだとシャイナー氏はいう。同社は174人いた従業員数を475人にまで増やしているが、その中には以前はなかったGo-to-Marketチームの結成も含まれている。

ここ数カ月の間に1Passwordはビジネスサービスを拡大しており、4月にはSecrets Automationを、さらに最近では「重要な」ビジネス情報を保護することを目的としたエンタープライズ向けサービスである1Password Eventsを発表。また、Linux Desktop Applicationや、SlackやRipplingとの統合も始動している。

画像クレジット:1Password

シャイナー氏によると、Secrets Automationにより企業のインフラの秘密を「マシン・ツー・マシン」で保護することができるという。

「パスワード管理は通常、人間と機械の間で行われます。そのためこれは私たちにとっては大きな勝利であり、今後はより広範なインフラに拡大することができます」と同氏。オランダのSecretHub(シークレットハブ)を買収したことで、Secrets Automationの立ち上げが実現したのである。

サイバーセキュリティ分野におけるスタートアップの数が、近年増え続けていることから、同社は新たな資本の一部をさらなる買収に充てようと計画している。

Accelのマシュー氏は「バランスシートが強化されたことで、想定内のリスクを取ることができるようになり、潜在的なM&Aや、機会があればさらに積極的な投資を行うことができるようになりました。この会社は約16年もの間、ビジネスにとっても消費者にとっても最高の秘宝の1つであり続けていると言えます」と話している。

新型コロナウイルス(COVID-19)によるパンデミックとそれにともなう在宅勤務の増加により、1Passwordのサービスに対する需要は高まる一方である。実際、1Passwordはビジネスアカウントごとに、各従業員が自宅で使用するためのファミリーアカウントを無料で提供しているという。

「仕事と家庭が混合するようになったため、これはユーザーにとって大きなメリットになるでしょう」とシャイナー氏。

この境界線の曖昧さこそが、Accelが1Passwordにさらなる可能性を見出している理由の1つである。AccelのパートナーであるEthan Choi(イーサン・チョイ)氏によると、同社のポートフォリオには24件のアクティブなセキュリティ投資があるという。

「今回の(1Passwordに対する)強化は、これが今日のセキュリティの最も重要な分野の1つであるという我々の信念を体現するものです。CIOやCISOは、従業員が生産性を高め、必要なアプリケーションにアクセスできるよう望んでいますが、同時にそれらが安全であることが大前提です」とチョイ氏。

1Passwordは16年前に設立されたにもかかわらず、まだ「表面をなぞっているに過ぎない」とシャイナー氏は考えている。

「我々の目前に広がっている莫大なチャンスに胸を躍らせています。急いで前進していかなければなりません」と同氏は話す。

多くの経験豊富な技術者の知見を得られたことも、より多くの資金を調達できた要因だとシャイナー氏はいう。

「Accelとはすでにすばらしい関係性を築いていますが、さらに多くの人材を迎え入れ、それによってもたらされる経験はこの上なく貴重なものです」。

関連記事:1Passwordが企業秘密管理のSecretHubを買収、法人向け総合サービス展開へ

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:1Password資金調達トロントAccel

画像クレジット:1Password

原文へ

(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)


Amazonベストセラー

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA