スバルの後輪駆動スポーツカー「BRZ」がフルモデルチェンジ。10年分の進化を遂げた2代目は、兄弟車であるトヨタ版の「GR86」との差異化をより明確化している。
そんな注目の新型を、ようやく公道でドライブした。新しさと懐かしさがミックスした走りは、アンダー350万円のスポーツカーとしては異例の完成度だった。
■かつての「シルビア」乗りが見た新型BRZの印象とは
筆者の愛車遍歴を振り返ると、最初に手にしたクルマは中古の日産「シルビア」だった。“S13”型と呼ばれる1988年発売の5代目だ。その次の愛車も、またシルビア。人生で初めて新車で購入した、1999年デビューの7代目“S15”型だった。
こうした遍歴を踏まえた上でいいたいのは、筆者が“シルビア好き”ということではなく(それも事実だが)、クーペボディのスポーツカーが好きで、その好みは今も変わっていないということ。ミニバンが流行し、トレンドの中心としてSUVが全盛となった今でも、スポーツカーを所有していたいという思いを持ち続けている。
今回は、かつてシルビアのオーナーで無類のスポーツカー好きという筆者の視点から、ようやく公道試乗が叶った新型BRZの印象をお伝えしたい。
■スポーツカーらしい美しさに満ちた新型BRZ
約10年ぶりのフルモデルチェンジで2代目へと生まれ変わったBRZ。以前、プロトタイプでサーキットをドライブした際にも、そのレベルアップした走りに驚かされた。
試乗したプロトタイプはサーキット走行用に強化された車両ではなく、市販モデルと同じ仕様。にもかかわらず、サーキット走行でも不満は一切なく、完成度の高さに驚くばかりだった。テールスライドの素直さも含めてコーナリングの爽快さが好印象で、自分の思い通りに操れるドライバビリティの高さが見事だと感じた。
プロトタイプの走りがあまりに魅力的だったため、筆者は実はそのままスバルディーラーへと駆け込み、オーダーしようかと思ったほど。しかし「つい最近、別のクルマを買ったばかりだから」と自分にいい聞かせ、なんとか我慢した。
そんなインパクトのあるプロトタイプの試乗から3カ月。先日、市販モデルを公道でドライブする機会を得た。
市販モデルを前にしてまず感じたのは、デザインのカッコ良さだった。新型はプラットフォームやボディ骨格といった基本構造を初代から受け継いでいるが、10年分の進化を踏まえたルックスは、イマドキのスポーツカーらしい美しさに満ちている。
特にヘッドライトやフロントバンパー、フロントフェンダー後方のエアアウトレットなどは巧みに現代化。中でもエアアウトレットは実際に穴が開いていて、直進安定性の向上をサポートする機能アイテムとなっている。
リアピラー辺りからキャビン後方を内側へと絞り込むことで、相対的に張り出しが増して力強さを強調したリアフェンダー、そして、洗練されたリアコンビネーションランプ回りの造形も色気が増している。初代に比べてクーペとしての魅力は明らかに高まったように思う。
考えてみると、プロトタイプ試乗時は走りのポテンシャルを理解しようと一生懸命で、おまけに初対面ということもあってテンションも上がっていたから、新型のデザインをチェックする余裕などなかった。しかし今回は、冷静かつじっくりと新型を鑑賞したこともあり、明らかにレベルアップした新型のデザインを堪能することができた。
■懐かしい感覚がある新型BRZのインテリア
ドアを開けて室内に乗り込んでみよう。
ドライビングポジションが低く、SUVやミニバンとは違って沈み込むように乗り込む感覚は、筆者がシルビアに乗っていた頃よりもずっと特別なものとなった。中でも新型は、シート設計の変更によって着座位置の基準値が5mm低くなり、その分スポーツカーらしい低いドライビングポジションが強調されている。
運転席に座って思ったのは、どこか懐かしい感覚があるということ。低いドライビングポジション、そして低く座ることによるインパネやドアに包まれる感覚など、いかにもクーペらしいそれは、シルビアに乗っていたあの頃の記憶を思い出させてくれる。もちろん、大画面のカーナビを組み込めるなど表面的にはアップデートされているし洗練度も増しているが、根底にあるクーペの雰囲気は変わっていない。だから懐かしいのだ。
今回の試乗車のトランスミッションはMTだった。なので走り出す際は、クラッチペダルを踏んでシフトレバーを1速に入れて…となるのだが、こうしたアクションもなんだか懐かしい。シフトレバーを動かす際のフィーリングが、“S15”シルビアのそれを想起させる感触だったのだ。
ちょっと引っ掛かる感覚があって、これ以上に引っ掛かると“硬くて入りにくい”と判断してしまう、その一歩手前の絶妙な操作感。適度な硬さのダイレクト感というよりは、ちょっとだけ濁った感覚。だけどカッチリ感は悪くない。ベストかといえばそうとは思わないけれど、グニャリとはしていない骨のあるフィーリングだ。
こうしたシフトフィールもシルビアを思い出させてくれる。実は新型BRZの6速MTは設計自体新しくなってはいるものの、供給元は引き続きアイシン社であり、ルーツをたどれば“S15”シルビアに使われていたものに行き着く。だからこそ、懐かしさを覚えるのかもしれない。
■気軽に爽快な走りを楽しむにはちょうどいいパワー感
一方、峠道を走ってみると、ハンドリングは“S15”シルビアはもちろんのこと、初代BRZに比べてもレベルアップの伸び代が大きいことがよく分かる。
初代も後期モデルはかなり性能を高めていたが、新型はそれ以上。ハンドルを切れば切っただけ素直に曲がるし、コーナリング中の車体の安定感やハンドル修正の少なさは見事というほかない。タイトコーナーから高速コーナーまで、4本のタイヤがまるでドライバーの手足になったかのように感じられ、クルマとの一体感を味わえるのはさすが最新のスポーツカーだ。
また、ブレーキングと同時に滑らかなシフトダウンを行うための運転テクニックであるヒール&トウの決まりやすさも、新型BRZの美点。音と回転数がしっかりリンクしているのか、それとも、エンジンの回転上昇が素直だからかは分からないが、驚くくらい正確に回転を合わせられるのだ。
では、気になるパワー感はどうだろう?
2リッターから2.4リッターへと排気量が拡大されたことによるトルクアップの効果は大きく、峠道の上り坂でもパワー不足を感じないで済むようになった。2リッターだった初代は物足りなさを覚える状況も多少あったが、新型ではそうした心配はいらない。コーナーの立ち上がりでは十分な加速を披露してくれる。
ただし、ターボエンジン搭載車のような過激さはないため、ドリフトに適したミニサーキットなどで積極的にテールスライドを楽しむような走りをしたい人などは、モアパワーを望みたくなるかもしれない。
とはいえ筆者は、新型BRZのパワー感に十分満足できた。それはきっと、歳と経験を重ねて「この程度のパワーの方が気兼ねなくアクセルペダルを踏み込んで走りを楽しめる」という喜びを覚えたからだろう。上を目指せばキリがないが、気軽に爽快な走りを楽しむなら、新型BRZくらいのパワー感がちょうどいいと思う。
新型になって走りのレベルが飛躍的にアップしながら、価格上昇を可能な限り抑えた新型BRZは、若い人にも積極的に選んで欲しいスポーツカーだ。それと同時に、クーペに乗っていたあの頃を思い出す大人にもオススメできる。シルビアを乗り継いだ筆者も、これなら欲しいと素直に思う。
<SPECIFICATIONS>
☆S(6MT)
ボディサイズ:L4265×W1775×H1310mm
車重:1270kg
駆動方式:RWD
エンジン:2387cc 水平対向4気筒 DOHC
トランスミッション:6速MT
最高出力:235馬力/7000回転
最大トルク:25.5kgf-m/3700回転
価格:326万7000円
>>スバル「BRZ」
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
【関連記事】
どこが同じで何が違う?「GR86」と「BRZ」はデザインや足回りの作り分けが絶妙
トヨタとスバルの協業で逆境を打破!「GR86」&「BRZ」でスポーツカーは復権するか★岡崎五朗の眼
【もうすぐ出ますよ!注目の日本車】スバル新型「WRX」はSUVルックで力強さをアピール
- Original:https://www.goodspress.jp/reports/404291/
- Source:&GP
- Author:&GP
Amazonベストセラー
Now loading...