ヤマハのラインナップで中核を担う存在になっているのが「MT」シリーズ。250ccクラスの「MT-25」から1000ccクラスの「MT-10」まで、幅広い排気量をカバーしていますが、シリーズを牽引する存在なのが特徴的な3気筒エンジンを搭載した「MT-09」です。
過激な特性で熱烈なファンを獲得するとともに、“ちょっと危ないバイク”というイメージもあったマシンですが、フルモデルチェンジを受けて生まれ変わったとのこと。
同時にモデルチェンジされた「TRACER9 GT」や「MT-07」と合わせて試乗する機会があったので、どのようなところが進化しているか体感してきました。
■フレームからエンジン、足回りまで一新
2013年に「MT-09」の初代モデルが登場したときはなかなか衝撃的でした。2気筒と4気筒の“良いとこどり”を実現したという845ccの3気筒エンジンを搭載し、強烈な加速感を実現。スーパーモタードの要素を取り入れて、前後のピッチングを多めにとったサスペンション、エンジンの真上に座ってハンドルを上から押さえつけるようなライディングポジションと相まって、新たなジャンルを切り拓いたモデルでした。
▲初代「MT-09」
サスペンションがよく動くため、より加速感が強調され、その特性の虜になるライダーがいる一方で、「危ない」とか「免許がいくつあっても…」という声も聞かれるマシンでした。
▲2代目「MT-09」
2017年には、より過激さを強調したフロントフェイスを採用するなど2代目にモデルチェンジしますが、エンジンや足回りなどの基本設計は従来モデルから大きく変更はされませんでした。
▲最新となる3代目「MT-09」
今回の新型モデルは3代目となりますが、エンジンや足回りだけでなく骨格であるフレームまで一新。エンジンの排気量は888ccに拡大されました。最高出力も120馬力と、厳しくなった排ガス規制に対応しながらも前モデルから4馬力のアップを果たしています。
新設計のフレームはCFアルミダイキャスト製で、リアフレーム・リアアームまで含めて約2.3kgの軽量化を達成。剛性バランスを最適化する過程で、前モデルに比べて横剛性は約50%アップしているとのこと。レーサーレプリカを知る世代なら、形状を見てFZRシリーズなどに採用されていたデルタボックスフレームに似ていることにグッと来るかもしれません。
初めて目にした人が違和感をおぼえそうなのはマフラー。一瞬「排気口はどこ?」と探してしまいました。答えは、膨張室の下に2つ穴が開けられています。
サイレンサーが伸びていない形状を採用することで、マスの集中化と約1.7kgの軽量化を実現。左右シンメトリーな排気口とすることで、路面に反射した排気音が左右の耳に均等に届くという効果もあるそう。楽器メーカーをルーツに持ち、昔から排気音にもこだわってきたヤマハらしい工夫といえるでしょう。
足回りの構成も一新されています。インナーチューブ径41mmの倒立式フロントフォークはマウント位置が下げられ、従来に比べてピッチングを抑えた設定に。前モデルまではサスペンションを大きくストロークさせて曲がるようなスーパーモタード的セッティングでしたが、新型では通常のロードスポーツに近い動き方になっています。また、フロントに伸び・圧双方の減衰調整機構が追加されているのもうれしい進化です。
■刺激的な加速はそのままに安心感と軽快感が大きく向上
走らせてみると、フレームを新設計とした効果をすぐに感じられました。従来からの最大の魅力である加速力はさらに磨き上げられ、軽く右手をひねるだけで俊敏な加速を味わえますが、その際の安心感が段違いに高められています。試乗はサーキットと公道で行いましたが、従来モデルにあった乗り手を選ぶ感じは薄れ、安心してアクセルを開けられました。
もうひとつ感じたのが、軽快感が向上していること。コーナーで車体をバンクさせたり、左右に切り返す挙動が明らかに軽くなっています。車重が189kgと前モデルから4kg軽量化されていますが、それ以上に軽快感はアップしていました。これは重量物を中央に集めるマスの集中化が図られていることと、新開発の“SPINFORGED”ホイールが効いているようです。
ヤマハ独自開発の工法で、鋳造ホイールでありながら鍛造ホイールに匹敵する強度と靭性のバランスを実現した“SPINFORGED”ホイール。前後で約700gの軽量化を果たしているほか、ホイールの円周に近いリム部分を特に薄く・軽く作ることで慣性モーメントを約11%低減しています。
正直なところ、700g程度でどのくらい変わるのか? と思っていましたが、乗ってみると効果は明らか。試乗後に回転させた状態で左右に傾ける実験を体験させてもらいましたが、新しいホイールは明確に軽い力で傾けられることを実感させられました。
従来モデルより「MT-09」の魅力は、刺激的な加速感と、中型バイクかと思えるほど軽快な運動性能でしたが、新型ではその魅力を磨き上げただけでなく、安心してアクセルを開けられる特性となっていました。この安心感の高さには電子制御機構の進化も大きく貢献しています。
6軸の角速度・加速度センサーを備え、トラクションコントロール機構やブレーキコントロール機構がバンク角や加速度に応じて効くようになっているので、コーナーリング中やアプローチでの安心感が飛躍的に向上。サーキット試乗ではコーナー入口でリアタイヤを少し滑らせてしまったりもしましたが、何事もなかったかのように走り続けられたことには驚きました。全方位的に進化し、魅力を増しながら110万円(税込)という価格は非常にお得感が高いと感じます。
■バリエーションモデルも進化
「MT-09」には、足回りにより高性能なサスペンションをアッセンブルした「MT-09 SP」というモデルが存在します。フロントにはKYB製のフロントフォーク、リアにはオーリンズのサスペンションを装備。レバー、ハンドルなどもブラックにされており、リアアームはバフ&クリア塗装が施されます。こちらの価格は126万5000円。
先代モデルでは、スタンダードモデルはサスペンションがよく動いたため、よりピッチングを抑え、走りを追求したいユーザーは「SP」を選ぶ傾向がありました。しかし、新型モデルでは全体にピッチングの動きが抑えられたため、サーキット走行など高いレベルの走行性能を求めるユーザー以外はスタンダードモデルでも満足できるかもしれません。
走らせてみると、今回用意されていたサーキットを区切った試乗コースではスタンダードモデルのほうが乗りやすいと感じたほど。サスペンションセッティングを煮詰めれば違った印象になるかと思いますが、スタンダードモデルの完成度がかなり高まっていることを感じました。
「SP」モデルには高速巡航時に便利なクルーズコントロール機能が装備されていたり、細かな部分での違いはあるので、購入する際に迷うポイントではありますが、以前のように「SPモデルでないと」と考える必要はなさそうです。
フレームやエンジンは「MT-09」と共通ですが、フロントに大型のスクリーンを装備し、ツーリング時の快適性を高めているのが「TRACER9 GT」です。前後にKYB社とヤマハの共同開発による電子制御サスペンション「KADS」を採用しながら、145万2000円という価格が魅力的です。
写真の車両はトップケースやサイドケースなどのオプションを装着したものですが、こうしたツーリング向けのアクセサリーが豊富に揃っているのも、このモデルの魅力。サイドケースの取り付けステーには振動を減衰するダンパーも内蔵されており、防振対策も万全です。
また、シートは「MT-09」と異なり、前後が別れたタイプとなっており、2段階に高さ調整も可能になっています。
電子制御のサスペンションは車両の情報に基づいて走行中に自動で減衰力を制御。反応速度も速く、自然な走行フィーリングを妨げません。スポーツ走行に適した「A-1」と荒れた路面での快適性を重視した「A-2」モードを選ぶことも可能です。
試乗コースはサーキットでしたが、大きなスクリーンと電子制御サスペンションのおかげで乗り心地は非常に快適。「MT-09」と同じエンジンを搭載しているので加速は過激ですが、怖さを感じることなくサーキットを走ることができました。
クルーズコントロール機能も装備されており、電子制御サスペンションを搭載していながら、この価格はかなりお買い得と言えるでしょう(輸入車で同様のスペックの車両を想像すると、200万円以上かも)。
最後に乗ったのが、688ccの2気筒エンジンを搭載する「MT-07」。兄弟モデルと同様のフェイスデザインとなっていますが、今回は大きなスペック変更はありません。最高出力は73馬力、フロントフォークは正立式でトラクションコントロールなどの電子制御も搭載されていないのですが、これもなかなか元気な走りを味わわせてくれました。
「MT-09」の過激な加速を体験した後なので、同じようにアクセルを開けても大丈夫だろうと右手をひねると、いとも簡単にフロントタイヤが地面から離れます。「MT-09」には電子制御で前輪のリフトを抑制するLIF(リフトコントロールシステム)が搭載されていますが、先程まではその制御に助けられていたのだということを痛感しました。
2気筒のエンジンは十分にパワフルで、サーキットを走ってもパワー不足を感じることはありません。270度クランクのおかげでトラクションがいいので、コーナーからの立ち上がりも気持ちいい。ABS以外の電子制御機能がなく、バイク本来のバランスの良さが感じられる点も好感が持てます。81万4000円という価格も魅力の1つですね。
* * *
新しくなった「MT-09」と「MT-09 SP」「TRACER9 GT」「MT-07」に試乗しましたが、一番印象に残ったのはやはり「MT-09」でした。できるのなら、そのまま乗って帰りたいと思ったくらい。3気筒エンジンの爆発的な加速力も魅力なのですが、やはり軽快な操作性が印象的。筆者はレーサーレプリカ全盛期に免許を取ったので、軽くて意のままに動く車体に惹かれてしまう傾向にあります。当時の400ccクラス並みに軽快に動く車体は、レプリカ世代にこそおすすめしたいと思う完成度でした。
>> ヤマハ「MTシリーズ」
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/423562/
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