ちっちゃくても12ツール付き!締めることだけに特化した自転車用マルチツール

【男前マルチツールの世界】

マルチツール。それは、手に収まるほどのコンパクトなボディにさまざまな道具を詰め込んだ“ハンドツール”。とかく専用ツールに比べ「間に合わせ」と思われがちですが、そこにはマルチツールだからこそ味わえる奥深い世界が存在します。

そんなマルチツールの男前な魅力を紹介する連載第21回は、台湾製の自転車用コンパクトマルチツール BETO「BT-345 Co2」(実勢価格:2200円前後)です。最大の特徴はそのサイズ。全長わずか4.8cmと、人差し指の第二関節くらいの長さで、携帯性に優れたマルチツールです。

 

■緩んだボルトを締めるだけ!でもそれで充分

BETOは台湾の自転車用工具や空気入れを製造するメーカーです。過去にはグッドデザイン賞やレッドドットデザイン賞などを受賞した製品も手掛けています。

自転車用の工具はこれまでに【男前マルチツールの世界】でも紹介したことがありますが、この「BT-345 Co2」はサイズでいえば最も小さなものかもしれません。ここまで小さいと不安に思いますよね。

「これ本当に使えるの?」って。

その不安、間違ってません。このコンパクトなシャーシに12種のツールが組み込まれているのですが、その多くはドライバーと六角レンチです。いずれも長さは2cm程度。非常に短いのが特徴です。そのため、深い穴の中や狭い場所の奥にあるボルトにはアクセスすらできません。

また、ツールが短ければハンドルとなるシャーシも短いので、強いトルクを掛けることは困難です。ココがこの製品のポイント。使い方を理解すれば、前述のネガティブな要素は気にならなくなるはずです。

固く締まったボルトを緩めることはこの工具ではできません。ですが、逆に言えばその必要がないことを意味します。自転車に乗って出かけた先で起こるトラブルを解消するための工具が携帯用工具なのです。

どんなに素晴しい携帯用工具でも、それだけで自転車をメンテナンスしたり、パーツを交換したいりする人は少ないかと思います。特に趣味として自転車に乗る人であれば、携帯用工具だけで自転車を組もうとは思わないでしょう。不可能ではないかもしれませんが、効率が悪く時間もかかります。

出先でのトラブルで最も多いのはボルトの緩みです。自転車に限った話ではありませんが、路面からの衝撃が常に伝わるボルトは必ず緩むものなので、定期的にチェックすることが必要です。

それでもボルトが緩んだらどうするか? 締めこむだけです。自転車であれば、ハンドル周りやサドル、シートポスト、変速機やそのハンガー周りのボルトは、気付かぬうちによく緩みます。

▲露出したボルトには使える

とりあえず、その場で不具合ない程度に締めこみ、帰宅してから専用の工具で改めて点検すれば良いのです。少なくともユーザー自身が自転車のパーツを交換できる人であれば、そのように考えることでしょう。

自転車なんて組めないし、ちゃんとした工具を持っていない。メンテナンスはプロ任せ、という方でも、自転車屋さんまで自力でたどり着かなければなりません。携帯工具が無ければ安心して乗れませんよね。

しかし、ちょっとそこまで行くだけだから携帯工具なんて要らないよね、と思う人は多いし、グループライドであれば「自分は持って行かなくてもいいか?」なんて思う人もいるでしょう。でも、不幸にもそんな時にトラブルが発生します。

自転車に限らず、自分で運転する乗り物の管理は基本的に自己責任です。トラブルに対応出来るツールは、携帯して出かけましょう。

12種類のツールの中でも最もユニークなのがCO2カートリッジを使った空気入れです。CO2ボンベは別売りで、1本300円くらいで販売しています。

出先でのパンクは厄介事のひとつ。最近はチューブレス化が著しく、パンクの可能性は少なくなってきましたが、チューブレスでもパンクはします。パンク修理キットは持っておくに越したことはありません。

ブルーアルマイトに光るこの部分がカートリッジを挿すインフレーターで、ボンベをねじ込むとインフレーター中央のピンがボンベに穴を開け、CO2を気化させて噴射します。その噴射した二酸化炭素でタイヤを膨らませます。

使用する際は、充分に下準備をして“あとは空気を入れるだけ”となってからボンベを装着しましょう。一旦ガスが噴出しはじめると途中で止められません。準備をする前に装着すると虎の子のボンベを無駄にするのでご注意ください。

ちなみにCO2ボンベを使うと、ボンベ内の二酸化炭素が気化する際、気化熱によって周囲の空気から熱が奪われ、ボンベとチャージャー部分が急激に冷え真っ白になります。これを素手で触ると非常に痛い目に合うので、ツールの納められたハンドル部分を持って空気を注入しましょう。できれば軍手やグローブをするのがベストです。

使用可能なバルブは仏式と米式に限られます。日本ではママチャリや実用車で多く使われている英式バルブには使えませんのでご注意ください。

レンチ類は主に自転車で多く使用されている六角ボルトに対応します。また、プラスドライバーは変速機の調整に適しています。

不満を挙げるとすれば、グリップをハンドルに留めるロックオングリップに使用されている2.5mmがないこと。以前は2mmのボルトで両端のリングを締めあげていましたが、最近は2.5mm 1本が使われることが多いようです。このアイテムが作られたのが10年ほど前ですから、アップデートされることを望みます。

星型のトルクスレンチも付いています。ディスクローターを留めるボルトに多用されています。最近はマウンテンバイクだけでなく、ロードバイクやグラベルバイクなどでもディスクローターを装備したモデルが増えているので、出先でのメンテナンスにはマストな工具だと思います。

基本的にどのツールも極短ですが、しっかりとしているので使い難さは感じませんでした。ツールを取り出す際は、大きなツールが入っている側を一度倒し、内側から細かいツールを押し出すと取り出しやすいですね。

*  *  *

シャーシは樹脂製で軽量です。一番大きな8mmHEXには中央に穴が開けられていますが、これも軽量化のためと思われます。ほんのわずかでも軽量化への努力が感じられる仕様は、スポーツバイクに乗っているライダーにとっては嬉しいというか、配慮を感じました。

携帯工具に関しては「あれも、これも」と欲張ることで大型化する傾向にありますが、結局、工具自体が重くなったり、嵩張ったりすることで、そもそも携帯しない。なんてことがよくあります。

あらゆる事態に対処できることは望ましいことですが、その逆の発想で作られたこのマルチツールはとても面白い。まずは危機的状況を脱すること、そしていつも携帯してもらうこと。この二点にフォーカスした自転車用のマルチツールですね。価格がリーズナブルなことも魅力です。

>> [連載]男前マルチツールの世界

<取材・文/GOL>

GOL|歯科技工士、ECディレクター、webライターまで幅広く活動しております。指先に伝わるハンドツールの質感や重さ、音などアナログな部分に惹かれて今に至ります。一番好きなのは懐中電灯。

 

 

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