深海底で試料を採取する「しんかい6500」のジオラマが完成!【達人のプラモ術<しんかい6500>】

【達人のプラモ術】
バンダイ
エクスプローリング・ラボシリーズ

1/48 しんかい6500
05/05

戦闘機やバイク、ロボット、スポーツカーなど、さまざまなプラモデルの作り方・楽しみ方を紹介する、プロモデラー長谷川迷人さんによる【達人のプラモ術】。

日本の誇る有人潜水調査船しんかい6500のジオラマ製作最終回は、完成したしんかい6500の船体を、海底で吹きだすブラックスモーカーをイメージして製作したベースを組み合わせて完成を目指します!

長谷川迷人|東京都出身。モーターサイクル専門誌や一般趣味雑誌、模型誌の編集者を経て、模型製作のプロフェッショナルへ。プラモデル製作講座の講師を務めるほか、雑誌やメディア向けの作例製作や原稿執筆を手がける。趣味はバイクとプラモデル作りという根っからの模型人。YouTubeでは「プラモ作りは見てナンボです!「@Modelart_MOVIE」も配信中。

 

■チムニーの塗装

深海は太陽の光が届かない暗黒の世界です。前回も書きましたが、ジオラマを製作する際に、この暗黒の世界を再現するとしたらどんな色で塗れば良いのか大いに悩むところです。真っ黒に塗ればOKというワケにはいかないですからね。

深海底の色は、しんかい6500などが撮影したスポットライトの中だけで目にすることができるワケですが、それを見ると驚くほど色が溢れている世界でした。特にブラックスモーカーを吹きだすチムニー周辺は、吹きだす熱水(ブラックスモーカー)に硫黄化合物が多く含まれていることから、黄色やオレンジ、グリーンなどの明るい色を見ることができます。

チムニーとは海底からつき出して熱水を噴出する煙突状の構築物。大きなものだと30メートルにもなる。

今回スタイロフォームで製作した海底は、全体にダークグレーをベースカラーとして塗装。チムニーまわりはオレンジやグリーンといった色をエアブラシで塗り重ねて再現し。仕上げにライトグレーでドライブラシを施して岩のエッジを際立たせました。

▲塗装を済ませたジオラマベース。チムニーまわりは蓄積した硫化物のイメージで色を重ねて塗装。右上の穴は展示スタンドを取り付けるためのもの

 

■ブラックスモーカーの再現

さてチムニーの塗装を済ませたら、吹きだすブラックスモーカーを再現します。

©2012 Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology

使ったのは手芸用の綿、ぬいぐるみ等の中に詰めてある素材で100均ショップで入手できます。ジオラマでは、綿は煙などの再現によく使われている素材です。

▲ブラックスモーカーは手芸用の綿をダークグレーに塗装したもの

今回は吹きだすブラックスモーカーになってもらうので、缶スプレーのダークグレーで綿全体を塗装しています。チムニーから噴き出される熱水は、黒だけではなく灰、白などが存在、墨汁のような真っ黒い色(ブラックスモーカー)が多いようです。

綿だけでは吹きあがる噴煙のカタチにすることができないので、内側に透明プラ棒で芯を立てて、そこに塗装した綿を巻きつけて、噴煙のように成型しています。

チムニーから噴き出される熱水には、黒、灰、白、透明と様々な物があるそうで、含まれる硫化物が海水と反応して墨汁のような真っ黒(ブラックスモーカー)になるのだそうです。熱水の温度が低く、含まれる金属硫化物が少ない場合、硫黄・硫酸塩鉱物などが多く沈殿して、白色になるのでこちらはホワイトスモーカーと呼ぶそうです。どちらにしても吹きだす熱水の温度は300℃以上。硫化物は人間にとって猛毒です。いやぁ雑学の勉強になりますね(笑)。

▲綿を使い4本のチムニーから吹きあがるブラックスモーカーを再現

 

■極限環境生物を作る

チムニーの周囲には、驚くことに独自の生命圏が存在していて、チューブワームや二枚貝のシマイシロウリガイ、ユノハナガニ、ゴエモンコシオリエビなどが群生しています。

作例ではシマイシロウリガイとジャイアントチューブワームを粘土で自作して、チムニー周囲に配しています。深海生物なので体は真っ白、チューブワームは内側から真っ赤な本体が飛び出しています。

深海生物ってアップで見るとエイリアンみたいでかなり気持ち悪いですよねぇ…。それはさておき、白い生物群は今回のジオラマにおいて良いアクセントになります。

▲シマイシロウリガイとチューブワームは造形粘土を使って製作

▲チムニー周辺に、粘土で製作した二枚貝シマイシロウリガイとチューブワームを配していく

▲実際には海底が見えないくらいびっしりと群生しているが、作例ではイメージでそれらしく再現

 

■しんかいをベースと組みせて深海ジオラマの完成!

キットには展示用のクリアー成型のスタンドが付属しており、これが高さや角度を自由に変えられるスグレ物なので、ステー部分をそのままベースに取り付けています。

このベースにしんかい6500を乗せて、位置を決めていきます。イメージとしては吹き上がるブラックスモーカーに近づき、試料を採取するしんかい6500といったところです。

▲キットに付属している展示用のスタンド。アームの角度や高さを変えられる

▲作例ではアーム部分のみをベースに取り付け

▲完成したジオラマベースにしんかい6500を乗せてみる

▲ブラックスモーカーの調査で噴煙に接近するしんかい6500のイメージで、スタンドアームの角度と高さを調整する

 

■LEDで遊んでみました

しんかい6500の前に製作した宇宙船アーク号で使用したLEDの発光ユニットを使って、チムニー周囲を赤く発光させてみたのですが、深海の海底火山のようなイメージになりました。実際には海底火山の近くには危険で近づくことは不可能ですが、ジオラマならではの遊び心です。

▲チムニーの奥で赤く光るLEDが、海底火山の溶岩のようなイメージ

▲LEDの発光がジオラマの雰囲気を盛り上げてくれる

▲部屋の照明を落とすことでキットに組み込まれているLEDの発光ギミックも効果を発揮

▲今回使用した赤色LEDと9V電源ユニット

 

■これが完成した「しんかい6500」のジオラマだ!

 

■科学プラモはホビーのロマン!

今回製作した科学プラモ、しんかい6500。キットの完成度が高く、内部構造の再現など単体でも楽しめますが、ジオラマ素材としても想像力を広げられる実に楽しいプラモデルだと思います。ぜひ製作にチャレンジしてみて下さい!

▲同じアングルでも通常のライティングと照明とバック暗く、LEDで海底を光らせたものでは作品の雰囲気が大きく変わる。これも情景模型の楽しみ

 

■しんかい6500に続く次世代機『しんかい12000』開発中!

しんかい6500は進水してからすでに四半世紀が過ぎ、常にアップデートはされていますが、さすがに老朽化が否めません。他国ではより高性能な深海探査艇なども登場していることもあって、現在水深1万2000mまで潜航可能な次世代船開発が進められています。その名は「しんかい12000」!

▲しんかい12000の完成予想イラスト ©2012 Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology

「しんかい12000」は、マリアナ海溝のチャレンジャー海淵といった人間が知る最も深い場所への潜水が可能。計画案では全長15mの船内に圧力殻をふたつ設けることで、乗員最大5名に。トイレも設けられ、高性能の燃料電池の搭載で最長で2~3日間(「しんかい6500」は1回の潜航時間が8時間)水中で生活が可能になるという。生物や岩石などの試料を採取するロボットアームは、触れたときの感触や温度が分かる新機能が採用され、超高精度のカメラや新しい浮力材など多くの新技術が盛り込まれるそうです。

「しんかい12000」が進水したら、最新の科学プラモということでバンダイにぜひキット化していただきたい!

>> [連載]達人のプラモ術

<製作・写真・文/長谷川迷人>

 

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