複業人材が地方自治体のヒーローに! DXや広報分野で民間の知見を求める自治体が多いワケとは?

2018年に厚生労働省がモデル就業規則を改訂したことや、コロナ禍をきっかけとしたリモートワークの浸透により、複業を解禁する企業や複業を検討している個人が増加しています。

最近では、厚生労働省が「企業に対し、従業員に複業を認める条件の公表を求める方針」と発表し、ニュースで話題になったことが記憶に新しいのではないでしょうか。

そんな中、複業の波は民間企業だけではなく自治体にも広がっています。株式会社Another worksは、複業したい人と自治体をマッチングするサービス「複業クラウド for Public」を提供しており、提供開始からわずか2年で約60もの自治体に導入されました。

今回は、自治体が複業人材を受け入れる壁やメリットなどを代表取締役の大林尚朝氏にご寄稿いただきました。

自治体における複業登用のポイント

複業クラウド for Publicでは、自治体と約半年間、実証実験という形で複業人材登用に関するプロジェクトを進めます。ポイントは、複業人材のほとんどがプロボノ(専門知識やスキルを生かして取り組むボランティア活動全般)として自治体に参画している点です。

自治体と関わるときに、最初に無償/プロボノで開始する一番の理由は、自治体の決裁フローや商習慣です。

民間企業とは違い、自治体は何か費用が発生することに対して住民や議会への説明責任が求められます。そのため、まずは費用が発生しないプロボノという形で登用せざるを得ないという自治体は少なくありません。

ただ、実証実験の間に何かしらの成果を出せば、自治体は結果を「裏付けとなる根拠」として挙げ、説明責任を果たすことができます。その結果、来年度からの予算が取りやすくなります。

自治体が複業人材を受け入れるときの「壁」

弊社のミッションは「自治体に複業人材が入ることで、住民サービスが向上したり、行政課題を抜本的に解決したりする事例をいかに多く作れるか」です。ファーストステップとして、まずはプロボノで自治体へ「複業」する人材を登用していただくことが大事なのです。

しかし、自治体が複業人材を受け入れるときは、バイアスという壁が立ちはだかります。複業人材の登用に慣れていない自治体からすると未知の領域であるため、挑戦するにあたってネガティブなバイアスがかかってしまうことがあります。

特に「複業人材が本当に自治体のことを理解してくれるのか」「目線や使用言語を合わせてくれるのか」というバイアスを取り除くことは難しいでしょう。

もう一つ壁となるのは、複業人材を受け入れる際の見極めです。登用の際は「複業人材が自治体が抱えている課題を解決できるスキルを持っているのか」を確認することはもちろん「なぜその自治体で複業をしたいのか」という想いを見抜くことが必要です。

ほしいアウトプットが出なかった場合、継続して採用し続けることが難しくなるため、スキルにおいては特にシビアに見極めなければなりません。また、今までの公務員採用とは全く違う採用という部分も壁になります。

自治体が複業人材を受け入れる3つのメリット

自治体が複業人材を受け入れる際の壁について解説してきましたが、もちろんメリットもたくさんあります。

①職員の意識改革、スキルアップに繋がる

弊社では、複業クラウド for Publicを導入している首長から「職員の意識改革、スキルアップに繋がる」と声が寄せられることが多くあります。

民間人材の仕事の進め方や考え方は、行政職員の通常業務に還元できます。

例えば、民間人材が当たり前のように設定している“KPI”の手法、会議の進め方や議事録の取り方、期限の切り方(タスク期限の考え方も含め)、新規事業や企画の立ち上げ方、アイデアの出し方などが挙げられます。

②官民連携による住民サービスの向上

民間の複業人材のノウハウや知見を取り入れることは、間違いなく住民サービスの向上に繋がります。

「民間人材の常識が行政の非常識」「行政の常識が民間の非常識」というケースがほとんどですが、これは決して悪いことではありません。むしろ双方をブレンドすることでいい化学反応を起こすことができます。

実際にメール文化の自治体がSlackを導入したり、紙ではなくPDFでやり取りをして生産性を上げたりと、これまで多くの官民連携による化学反応が生まれてきました。

③関係人口の増加

自治体における複業人材登用は、基本的にオンラインで受け入れます。全国各地から人材を募集することができるため、関係人口の増加につながります。弊社の取り組みでも、プロジェクト終了後もその地域に関わり続ける複業人材が多いです。

DXや広報人材を募集する自治体が激増

複業人材を必要とする多くの自治体は、DXや広報の人材を募集します。

DXにおいては、総務省が掲げる「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」の推進を命じられている自治体にとって、急務の課題となっています。

しかし、DXという新しい領域についての知見がない自治体は少なくありません。そこに民間でのDX経験や知見のある人材が「DXとはそもそも何なのか」を整理したり、課題に対して多くの手数を一緒に練ったりするだけで、現状はプラスへと変わります。

例えば奈良県三宅町では、DXアドバイザーがDXに関する勉強会を開き、職員全員のDXに対する認識を揃えました。そして、DXに関する84個の課題を抽出し、そこから課題解決のための173のアイディアを提示したそうです。

また、広報においては、多くの自治体が「時代に合わせた広報のあり方」を外部人材から求めているようです。

行政サービスが多様化している中で、広報の手法も幅広くなっています。例えば、自治体の発信媒体として広報誌が挙げられますが、今ではホームページやSNSなど、さまざまな媒体が存在しています。

自治体が発信したい内容も、若者に届けたい情報や市外の人に届けたい情報など、多種多様です。広報戦略の部分から変える必要がある今、広報のトレンドやノウハウを持っている人材が求められているのです。

実際に、兵庫県三木市では3名の複業人材を登用し、情報発信指針(案)の作成や、数値目標の設定、目標達成に向けた加速策の検討などを行いました。その結果、2022年1月~3月の全国紙掲載数は昨年の11件に対し15件と増加しました。

複業人材の活用が自治体でも当たり前になる時代へ

コロナウイルス感染症拡大により、働き方におけるパラダイムシフトが起こりました。

これまでは対面での採用活動・業務が主流でしたが、昨今はオンラインでの採用活動・業務が主流となっています。物理的距離という壁がなくなったことで、複業人材を採用するかどうかという「ゼロイチ」議論ではなく、「いかにうまく採用するか」という議論が交わされるようになりました。

それは民間企業だけではなく、自治体においても同じです。今後は今まで複業人材を登用してこなかったような領域でも、複業人材の活用が当たり前になる時代となるでしょう。

<著者プロフィール>

大林尚朝
株式会社Another works
代表取締役

大分県大分市出身。早稲田大学法学部卒業。株式会社パソナキャリアカンパニーに新卒入社し、顧問やフリーランスを業務委託紹介する新規事業に従事。2018年に株式会社ビズリーチのM&A領域の新規事業における創業メンバーとして参画。2019年5月7日に株式会社Another worksを創業。


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