文章生成AIモデル「GPT-3」が与えた“ゼロショット”の衝撃

Webサイト制作において、ターゲットに合わせた訴求文を作ったり、掲載場所に応じて文章の長さを変えたりする「テキスト作成」は、簡単なようで時間や労力がかかるものです。

そんな中、注目されているのが文章生成AIモデル「GPT-3(Generative Pre-trained Transformer 3)」。

今回は、ノーコードWebサイトビルダー「Slideflow」を提供する株式会社デジタルレシピCTOの古川渉一氏に、GPT-3の特徴や「今後AIによるコンテンツ生成はどうなるのか」についてご寄稿いただきました。

テキスト作成における「文章生成AIモデル」の必要性

2022年10月18日、AIコンテンツプラットフォームの「Japser」を提供するスタートアップ企業のJapserが$1.5Bの評価額で$125Mの調達を発表し、Japserのリリースからわずか18か月でユニコーン企業(企業評価額が10億ドル以上で設立10年以内の企業)となり、大きな衝撃を与えました。

参考:Jasper

JasperはSNSや広告、ブログ記事、メール、Eコマースなどに活用できる、AIによる文章や画像を生成するサービスです。

Tech Crunchの取材によれば、初年度で売上は4,500 万ドル(日本円で67億円)。2022 年の終わりには、売上7,500 万ドル(日本円で112億円)を見込んでおり、誰の目から見ても明らかな急成長を遂げています。

JasperはGPT-3(文章生成AIモデル)を活用していることを明言しており、マーケターは「GPT-3によるコンテンツ生成を間違いなく使うべきだ」と主張しています。

株式会社デジタルレシピでは2021年からパワーポイントを元にしたノーコードWebサイトビルダー「Slideflow」を提供している中で、Webサイト制作においてテキストの作成が顧客のペインとなっていることに気づき、AIライティングの可能性を探っていました。

自社のサービスを客観的に見て、ターゲットに合わせた訴求文を作ったり、掲載場所に応じて文章の長さを変えたりすることは簡単なようで意外と時間や労力がかかるものです。

GPT-3 の特徴

参考:OpenAI

ここで少しGPT-3について説明を加えておきましょう。

GPT-3はイーロン・マスクをはじめとする有名投資家が参加し、2015年に設立されたOpenAI社が開発を行っている大規模言語モデルです(ただし、イーロン・マスクは利益相反の恐れや方針の相違から2019年に幹部職を退任しています)。

技術的な説明はここでは割愛しますが、GPT-3はAIのビジネス活用に大きな影響を与えました。

​ポイントとなるのは以下の2つの観点です。

  1. 大量のデータが必要であったが、これがほぼ不要になったこと
  2. 独自のモデル開発も不要になったこと

従来はこの2つの大きなハードルがあり、限られた企業しかAIをビジネスに活用することができませんでした。

GPT-3は事前学習のデータが450TB(フィルタリング後570GB)と非常に大きいため、独自の学習なしでも十分な性能を発揮します。

この独自の学習なく、タスクの説明を与えるだけでタスクをこなすことを「ゼロショット」と呼びます。

またAPIを通してファインチューニングと呼ばれる独自の学習の実行が簡単にできるので、複雑な独自のモデル開発は必要ありません。

AI開発をGPT-3に任せて、よりユーザー体験や付加価値提供、AIをどう活用するか、という部分にフォーカスできることで、AI開発の民主化が国内にも押し寄せてくるのではないかと思っています。

国内での事例

国内では、10月上旬に登場したAIによるプログラム作成「AI Programmar」が2日間で23万件以上のコード生成が行われています。

また、弊社が開発、運営しているAIによるライティングアシスタント「Catchy」ではリリース後3か月で無料会員が1万5,000人、有料会員が350人を超えています。

CatchyではGPT-3を活用することでサービスとしての利便性の向上や、キャンペーンやイベントなどのマーケティングに限られたリソースを割り当てることができます。

例えば8月末にはクリエイターのための謝罪文作成AIという切り口で、Twitter上で2万リツイート、3.3万いいねを獲得し、多数のテレビ、Webメディア、ラジオに取り上げていただきました。

SNSの反応を見ると、「仕事がなくなってしまう」といった凄さを認めつつ恐怖を感じている声や、「AIの割にはすごいけど、まだ実用化は遠い」といった“まだ実用化は難しいのではないか”などのさまざまな声があがっています。

“新しくてよくわからないもの”に怖さを感じるのは当然だとは思いますし、開発者である私自身、ここ数年のAIの発達には驚かされています。

ただ、その上で、過度に怖がる必要はないと思っています。

洗濯を例にするならば、洗濯機があるからといって、クリーニング店がすべて潰れるかというと決してそんなことはありません。

「普段使うシャツやタオルは洗濯機、オシャレ着や大事なときに着る服はクリーニング店に依頼する」、という風に使い分けている人もいるでしょう。

AIも同じです。すべてがAIに取って代わったり、完全に分業したりするわけではなく、あくまでパートナーとして一緒にコンテンツを作っていくという方向に進んでいくものだと思っています。

今後AIによるコンテンツ生成はどうなるのか

最後に、シリコンバレーの老舗ベンチャー・キャピタル(VC)であるセコイアキャピタルが2022年9月に発表した未来予想を紹介します。

参考:セコイアキャピタル

(このセコイアの記事自体も「co-written with GPT-3」と表記がある通り、GPT-3と共同執筆をしています)

テキスト領域においては、特定領域に特化したサービスやより性能のよいモデルの登場、画像においてはサービスやデザインのモックアップの作成サービスの登場を予想しています。

このような流れを汲むと、「作る」こと自体の価値が相対的に低下し、AIが作ったものをビジネス上の文脈に合わせて「選ぶ」力の価値が求められる時代がくるのではないでしょうか。

ディープラーニングという言葉が現れてから約7年。AIによるコンテンツ生成は実用期を迎えています。爆発的な普及はもう目の前に迫っているかもしれません。

<著者プロフィール>

古川渉一
株式会社デジタルレシピCTO

1992年鹿児島生まれ。東京大学工学部在学中に学生向けイベント紹介サイトの立ち上げなどを行い、卒業後エンジニアとしてSocialDogなどの複数のSaaSの立ち上げに参画。自身でも複数回の事業譲渡を経験。2021年にデジタルレシピCTO就任。AIライティングアシスタントCatchy(キャッチー)はリリース4か月で有料会員は400人を超える。AIをいち早く身近なサービスとして実装し、届けることを強みとしている。Twitter:@sho_furu


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