憧れの“メッツカラー”後方排気も!レプリカ世代垂涎のTZRが大集合!

1980〜90年代のレーサーレプリカブームの頃、ホンダの「NSR250R」と双璧を成していたのがヤマハの「TZR250」。2ストロークエンジンを搭載し、並列2気筒の初期型から、後方排気、V型とわずか数年の間にパワートレインも進化していきました。今からは信じられないほど進化のスピードが速く、公道だけでなくサーキットでの速さも追求していた時代のマシンは、今でも多くのライダーを惹き付けています。

そんな熱かった時代のマシンが集まるTZRオーナーのミーティングにお邪魔し、それぞれの愛車を取材させてもらいました。TZRのミーティングは全国各地で開催されており、関東は15回目。参加マシンをTZRに限っていないこともあって、当日はヤマハの2ストロークを中心に120台を超えるマシンが集結していました。興味深いのは、いわゆるレプリカ世代だけでなく、20代の若いオーナーの姿も少なくなかったこと。それぞれの愛車とともに紹介します。

 

■自分の手でオーバーホールした初期型

1985年に発売された初期型(1KT)を7年ほど前に購入したというオーナーの“NABECKパパ”さん。フレーム番号が8000番台ということで、かなり初期に作られた個体と思われます(信じ難いかもしれませんが、この年、TZRは2万6000台も販売されていました)。年式相応にヤレていたエンジンは自分の手でオーバーホール。息子さんが同じ型のTZRでレースを楽しんでいることもあり、パーツなどはストックがあったとのことです。

発売当時から評価の高かったSSイシイ製のチャンバーも、そんなパーツのひとつ。あとはバックステップが付いている程度で外装はノーマル然としていますが、実はリプロ品のデカールを貼っていたり、自身の手でカウルを補修していたりと、このルックスを維持するために結構苦労しているとのこと。

2ストエンジンの生命線とも言える2ストオイルは、最近はAmazonでも販売しているトーハツ製を使っているとか。船外機などを作っているメーカーですが、過去にはバイクのエンジンを手掛けていたこともあり、息子さんもレースで使っているが評価は高いといいます。

 

■憧れのメッツカラー後方排気を入手

当時を知る世代なら、雑誌の裏表紙によく広告が載っていたキリン「メッツ」カラーのTZRに憧れを抱いていた人も少なくないでしょう。車体が当たる懸賞でしたが、実物を目にした人はほとんどいないので、実際に当選した人がいるのか疑問の声もありましたが、幸運にもその車体を譲り受けたのが現オーナーの須崎さん。前オーナーが転倒して手放したいとのことで声を掛けられたといいます。

傷が入っていた外装はショップにペイントを頼んで復元。貴重な個体だけに、アンダーカウルのYECステッカーの部分はマスキングで保護して塗り直すという手間を掛けています。「アッパーカウルはノーマルよりキレイなくらいだと思います」と須崎さんも胸を張ります。

後方排気なのでテールカウルに隠れていますが、チャンバーはTZRオーナーズクラブの人に作ってもらったというオリジナル。キャブレターは2ストには珍しいFCRを装着しています。ノーマルでは正立式だったフロントフォークは倒立に。ホイールはアドバンテージの「EXACT」をおごるなど、貴重なマシンにふさわしい仕上がりになっています。

 

■伝説のマシンを手に入れた若きオーナー

こちらも、3MAという型式から「サンマ」と呼ばれることもある後方排気のマシン。しかも、ただのTZRではなくチャンバー製作で有名なYUZO MRDによるコンプリートマシン「YSSM」です。オーナーの宮田さんは、まだ26歳ながら3MAとNSRを乗り継いでこれが3台目の2ストレプリカなのだとか。「NSRは低速トルクがあって乗りやすいのですが、もう少し刺激がほしいなと思っていたところに、このマシンに出会ったんです」と語ります。

フロントホイールがノーマルの17インチから、16インチへと小径化され、タイヤも細いバイアスになっているのが最大の特徴。現行のフロント重視のマシン作りとは正反対の方向性ですが、そんなマシンに20代の若者が乗っているのがユニークです。実際の乗り味は「すごい勢いでマシンが寝るので怖いくらい。フロントを使わずリアで曲がれと言われているよう」とのこと。ただ、その分乗りこなす楽しみがあるといいます。

チャンバーはもちろんYUZO MRD製。外装のペイントも、このコンプリート車を手掛けていたショップに頼んで塗り直してもらったとのこと。貴重なマシンが若きオーナーの手で蘇る姿には大きな希望を感じます。

 

■現代の若者も2ストの速さには魅せられる!?

2ストロークのレーサーレプリカが大きなブームとなった要因には、車検のない250ccでも大排気量に負けない走りを実現していたことがありますが、その魅力は現在になっても色あせていないようです。

2年前、20歳のときにこの3MAを購入したという中島さんは、そのきっかけを「大型乗りの友人がいて、それと一緒に走れるマシンということで、2ストのレプリカを探し始めました」と語ります。

子どもの頃からモトクロスを楽しみ、2ストマシンの速さを知っていたとのことですが、それにしても後方排気のTZRを選ぶところがかなりマニアックです。「ヤフオクを見ていたら、出品者がたまたま近所の車屋さんだったので、直接見に行って決めました。父もバイク乗りだったので『変なの買ってきたな』とかいいながらニヤニヤしてたので、喜んでたんだと思います」(中島さん)。

このマシンは倒立フォークが採用された後期型(1990年発売)ですが、そのフロントフォークは、サスペンション整備で有名なテクニクスでメッキやカシマコートなどを施すフルオプションでオーバーホールしているとのこと。ほかにもNSRをレストアしているなど、かなり2ストレプリカの沼にハマっているようです。

 

■ライバルメーカーのスタイルに憧れてTZ風に仕上げる

同じく1990年式の後期型3MAですが、こちらなんとワンオーナー。カウルやアルミタンクなどはヤマハの市販レーシングマシン「TZ250」のものを移植しており、レーサー然としたスタイルに仕上がっています。フロントフォークや、ラジアルマウント化されたキャリパーなどもTZ用。ホイールもTZ用のマグネシウムホイールを装着しています。

エンジンの中身やカセット式のミッションも、できる限りTZのパーツを使用しているとのこと。メーターやラジエーターなど細かいパーツもTZのものが使われています。そこまでTZにこだわる理由について、オーナーの“チュー”さんは「実はライバルメーカーでレースをしていたんですが、そのときからTZのデザインがカッコいいなと思っていて、それを再現したかったんです」と語ります。

作業はほぼ自身で行っているとのことですが、異なる年式のTZパーツを用いている割に、違和感なくまとまっている点にセンスを感じます。2ストマシンを長く維持するコツについても聞いてみたところ、「こまめに乗ること。あと遠出をするときなどは、ガソリンに少しだけ2ストオイルを混合しています」とのこと。美しいマシンだけに、長く走り続けてほしいところです。

 

■V型エンジンの各種パーツの組み合わせで70PSを実現

かつて世界チャンピオンを獲得した原田哲也のレプリカカラーが鮮やかなマシンは、チャンピオン獲得と同じ1993年式の「TZR250RS」。1991年からV型2気筒化され、3XVという型式となりますが、その後も「SP」や「RS」「SPR」などさまざまなタイプが用意され、年式ごとにポートの形状や電装などが異なるなど進化を続けていました。

オーナーの“宗谷の蒼氷”さんは、twitterでもTZRの情報を発信しているちょっとした有名人。原田と同じ歳なこともあって、このカラーにこだわっているとか。カウルは中国製のものにカラーリングしているとのことですが、純正品よりも柔らかくて割れにくいとのことです。

エンジンはチャンバーやCDIなどがセットになった、RC SUGOのレース用キットを装着していますが、そのままでは全く走らないため、シリンダーやヘッド、ピストン、ポート形状などをキットに合わせてセットアップ。「SP」や「SPR」の部品を組み合わせたエンジンは、約70PSを発揮しているとか。まだまだ進化を続けているようです。

 

■最新技術でインジェクション化したマシン

一見すると普通の3XV(それでも今やレアですが)に見えますが、実はキャブレターが電子制御のインジェクションとなっているというスゴいマシン。手掛けたのは、旧い2ストマシンのインジェクション化で実績のあるYarouWorksです。

NSRやRGV-Γなどレプリカマシンのインジェクション化を手掛けているショップですが、3XVはキャブレターが前後シリンダーで分離しているため、苦労も多かったとのこと。しかし「学習機能があって走れば走るほど調子が良くなるのが魅力」とオーナーの“すこてぃっしゅ”さんは話します。

外観からはわかりにくいですが、茶こしのようなフィルターが付いているのがインジェクション本体。チャンバーはRC SUGOのものを装着しており、かなり乗りやすいとか。軽量・コンパクトな車体で旋回性の良いマシンは現行車にはなかなかないので、長く乗り続けるためにインジェクション化は効果的な方法と言えそうです。

 

■空冷化した1KTのエンジンを搭載した魔改造YSR

車体は原付の「YSR」ですが、初期型TZR(1KT)のエンジンを搭載しているのが“空冷YZ”さんのマシン。しかも、腰上のシリンダーやヘッドは「DT125」のパーツを使って空冷化されています。エンジンのストロークが同じで、掃気ポートの位置も共通のためクランクケース側は無加工で装着しているとのことです。

1KTはクランクケースリードバルブ式のため、その部分を塞いだり、単気筒エンジンのシリンダーをふたつ並べて装着するために空冷フィンをカットしたりはしているようですが、驚くほど違和感なくまとまっています。エンジンが大きくなっているのに合わせて、フロントフォークは「TZR50」と「TDR50」のパーツを組みわせてセットしているとか。魔改造と呼ぶにふさわしいマシンですが、会場まで自走で来ても違和感はあまり感じなかったとのことです。

*  *  *

最終型でも発売から20年以上が経過しているTZRですが、オーナーは各々にカスタムやメンテナンスを行いながら、バイクライフを楽しんでいる様子。純正パーツが出なくなるなどネガティブな要素もありますが、現行車にはない魅力を持っていることは間違いありません。若いオーナーが惹き付けられていることからも、そのことが伝わってきます。もう二度と市販されることはないであろう貴重なマシンだけに、長く元気に走り続けてほしいものです。

 

<取材・文/増谷茂樹

増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。

 

 

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