「コーデック」って何? ワイヤレスイヤホン選びで知っておきたい基礎知識

音楽リスニング用ガジェットの定番となったワイヤレスイヤホンやヘッドホン、そしてBluetoothスピーカー。これらBluetoothで接続する製品のスペック欄には、「コーデック」という項目と共に、aptX Adaptive、LDAC、AACといった用語が書かれています。また2023年中にはaptX LosslessやLC3(LE Audio)といった新たなコーデックも実用化される見込みです。

そこで、ワイヤレスオーディオデバイスを検討&購入する際に知っておきたい基礎知識として、コーデックについて解説します。

 

■コーデックによる違いは音質や遅延

コーデックとは、ワイヤレスイヤホンやヘッドホン、そしてBluetoothスピーカーなど、Bluetoothによるワイヤレス伝送の音楽リスニングで用いる音声圧縮変換方式です。

Bluetooth接続の場合、通信速度は接続の安定などにも影響されるため、データ伝送に使える実効値は最大1Mbps程度。これはCD音質などのデジタル音源そのままの音質を伝送するには足りないため、リアルタイムで音声を圧縮して伝送しています。この音声圧縮変換方式がコーデックで、技術方式の違いによりデジタル伝送時の音質や遅延に影響します。

主なBluetooth接続のコーデックは以下があります。

▼SBC(Subband Codec)

Bluetoothの規格上、唯一の必須コーデック。このSBCが存在するおかげで、コーデックの問題で音が出ないということはありません。音質面では48kHz/16bitで最大345kbps。ちなみに遅延が大きいという弱点があります。

▼AAC(Advanced Audio Coding)

デジタル音声全般で用いられる技術を用いたコーデック。iPhoneシリーズの対応で知られています。SBCよりも高音質で48kHz/16bitで最大320kbpsというスペック。遅延は中程度です。

▼aptX

クアルコム社独自コーデックのスタンダード版。Androidスマホの多くの機種で対応しています。CD相当の音質で、48kHz/16bitで384kbps。遅延はやや小さめです。

▼aptX LL(Low Latency)

aptXの低遅延版。音質の仕様はaptXに準じていて、48kHz/16bitで384kbps。遅延がとても小さくゲームや動画試聴向け。Bluetoothトランスミッタ等で数多く採用されています。

▼aptX HD

aptXの高音質版。48kHz/24bitで576kbpsのハイレゾ相当の伝送に対応。遅延は中程度です。対応機種は少なく、主にヘッドホンで採用されています。

▼aptX adaptive

データ転送量の可変が特徴のaptX系技術の最新版。機種により対応状況が異なりますが、96kHz/24bitで最大620kbpsのハイレゾ相当の音質までカバー。遅延もやや小さく、音途切れが少なく、ワイヤレスイヤホン向けの方式です。

▼LDAC

ソニーが開発した高音質コーデック。ハイレゾ相当の96kHz/24bit、音質優先モードでは最大990kbpsと転送レートを限界まで高めて高音質化しています。遅延はやや大きいようです。

そして以下の2つのコーデックは、2023年1月時点ではまだ対応環境は整っていませんが、2023年中の実用化が期待される最新コーデックです。

「aptX Lossless」

クアルコム社独自のaptXのロスレス版。CD音質そのものである44.1kHz/16bitの音声を無劣化で伝送します。

「LC3」

2022年に策定された、Bluetoothのオーディオ規格を大幅に刷新するLE Audioで採用するコーデック。低ビットレートでの高音質と低遅延を実現すると言われています。

 

■どんなコーデックを選べば良いのか

そして気になるのが、実際にどんなコーデックを選べば良いのかということではないでしょうか。

最初に知っておきたいポイントは、Bluetoothの音楽再生で使われるコーデックは、音楽を再生するスマホなどの送信側と、ワイヤレスイヤホンなどの受信側の両方が揃って初めて利用可能になるということです。

Bluetoothの規格上、すべての機種がSBCコーデックへの対応を必須にしているため、コーデックが原因で音が出ないといったことはありません。またスマホなどでBluetoothを利用する際のコーデックは、アプリ等で選択できる場合を除いて、自動的に利用可能な最も高音質なコーデックが選ばれます。このため、普段はコーデックの存在を意識する必要はありません。

そこでまずは、スマホやイヤホンの各種コーデックへの対応を確認してみてください。

iPhoneシリーズはスタンダードなSBCとAACのみの対応です。このためiPhoneユーザーがワイヤレスイヤホンを選ぶ際にコーデックで考えるべきは、AACコーデック対応くらいです。

一方、Androidスマホは機種により対応状況が異なるので、製品情報やスペック欄の確認が必須です。AndroidスマホはaptXコーデック対応モデルが多く、aptX発展版の各種コーデック、LDACコーデックの対応機種も増えています。

完全ワイヤレスイヤホンなどワイヤレスイヤホン・ヘッドホンでは、パッケージや製品スペックの表記を確認してみましょう。

2023年1月時点では、aptX Adaptive、LDACに対応するスマホやワイヤレスイヤホンは、コーデックの対応状況としては最も充実しています。またコーデックについて記載がないワイヤレスイヤホンは、SBCコーデックのみ、SBC/AACのみ対応と考えていいでしょう。

2023年中には、aptX Lossless、LC3といった最新コーデックの対応機種も登場する見込みです。ただ、コーデックはスマホ、ワイヤレスイヤホンそれぞれに数年単位の時間をかけて徐々に普及していくものです。すぐに既存のコーデックから置き換わることはありません。

Bluetoothで接続する完全ワイヤレスイヤホンなどの普及で注目される機会の増えたコーデックですが、実際のところSBC/AACコーデックのみ対応のiPhoneでも、高音質なワイヤレスイヤホンでは十分に高音質を実感できます。ワイヤレスイヤホンの音質としてはドライバーユニットや筐体といったイヤホン部の影響が大きく、コーデックはあくまでワイヤレス伝送部の技術。でも、せっかくワイヤレスイヤホンを購入するなら、イヤホン部の実力を最大限発揮するために対応コーデックも意識しておくのはアリですよ。

 

<取材・文/折原一也

折原一也|1979年生まれ。PC系出版社の編集職を経て、オーディオ・ビジュアルライター/AV評論家として専門誌、Web、雑誌などで取材・執筆。国内、海外イベント取材によるトレンド解説はもちろん、実機取材による高画質・高音質の評価も行う。2009年によりオーディオビジュアルアワード「VGP」審査員/ライフスタイル分科会副座長。YouTube「オリチャンネル」

 

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