スタートアップ企業の規模が小さい時点であれば、全員が顔見知りで作業をよどみなく進めることができるでしょう。
しかし、組織の規模が大きくなると、直接的なコミュニケーションが難しくなり、間接的なコミュニケーションの重要性や情報の整理が課題になってくると言います。
このように、スタートアップ企業が成長するにつれて、さまざまな課題が発生するとのこと。
今回は、法人向けオンラインカウンセリングサービス「Smart相談室」を提供する株式会社Smart相談室 代表取締役の藤田康男氏に、多くのスタートアップが直面するという5つの危機や、危機を乗り越える際に大切なことについて解説していただきます。
意外と知られていないグレイナーモデル
スタートアップが大きくなるにつれて「必要とされる人材」「組織全体に求められる能力」が変わるのは、直感的にも経験的にもご存知の方が多いと思います。
組織が小さい時、数人レベルであれば、全員が顔見知りで阿吽の呼吸で作業が進んでいきます。意思決定もよどみなく、スムーズに行われます。
社員数が少し多くなれば、簡単な説明が必要だったり、意思決定の背景を共有することを意識したりするようになります。更に組織が大きくなると、直接的なコミュニケーションが難しくなり、間接的なコミュニケーションの重要性や情報の整理が課題になってくるでしょう。
このような話について、従業員支援サービスを運営する立場から、アドバイスを求められる機会がたくさんあります。そして、その際に、この組織拡大については、変化のモデルがあることをご存じない方が多いことに驚きます。
もしかすると、このような話題にそもそもモデルがあるという考えに結びつかないのかもしれないですね。はじめにこのモデルについて整理します。
私が今回取り上げるのは、経営学者のラリー・E・グレイナーが提唱した「5段階企業成長モデル」です。その名の通り、5段階で企業が成長していくというものです。
まさにこれから組織拡大するという、スタートアップ企業の方にとってイメージしやすい内容となっています。ポイントは、成長の過程でそれぞれ問題が発生する、ということです。
第1段階
規模でいうと3名〜30名くらいでしょうか。いわゆる、起業直後の創業期ですね。創業者がグイグイ引っ張って、すべての業務を指揮命令、または自分でやる時期です。
この時期は、大きくなるにつれて、創業者一人の力では事業を運営することができなくなります。
ここで、創業者が複数名で事業を回すことを意識しないと、創業者自身がボトルネックとなって、事業は大きくなりません。個人商店のイメージをもってらえば良いと思います。これを「リーダーシップの危機」と言います。
第2段階
30名〜100名くらいです。「リーダーシップの危機」は業務を、社員に割り振ることで乗りきれました。その後、創業者が社員に指示を出すことで事業が運営され、規模が大きくなっていきます。
この時に、組織階層や機能別組織、役職などが生まれてきます。結果として、決められた範囲での仕事を行うことになりますので、社員は、自主性がなくなります。
自主性がなくなると従業員が指示を待つ形となり、上司の指示の範囲が成長の上限となります。これを「自主性の危機」と言います。
第3段階
「自主性の危機」は権限移譲により乗り越えることができます。マネージャー層に大胆に権限委譲することで、本来のポテンシャル以上の行動ができ、成長を促すことになります。
しかし、その動きが過度になると、暴走し始める社員が生まれてきます。暴走の結果、各部門がバラバラになったり、コンプライアンス上の問題が発生したりとコントロール不能に陥り、企業の成長を妨げます。
これが「コントロールの危機」と言われるものです。
第4段階
「コントロールの危機」を乗り越えるのが、調整や管理です。調整や管理の機能を充実させれば、コントロールの危機を乗り越えられます。管理部や企画部のような調整部署の設立や、各種規程や決裁制度、業績評価制度などの導入がこれにあたります。
その後、この流れが行き過ぎると、いわゆる“お役所的な”組織になってしまい、話が前に進まなくなります。原文では「red tape」という単語を使っています。直訳すると「官僚主義」です。これが「形式主義の危機」です。
第5段階
お役所文化を乗り越えるのが、協働による成長です。社員一人ひとりが自律して動くことで組織が成長するようになります。この考え方は、昨今でもよく耳にしますよね。何年も前に、グレイナーは言っていたんです。
以上が、グレイナーが提唱した「5段階企業成長モデル」です。
皆さんの組織は、今、どの段階でしょうか?また、これまでの段階で上記に当てはまる出来事はありましたか?将来への備えは万全でしょうか?こんな思考方法によって使っていただくフレームワークです。
Smart相談室のケース
現在、Smart相談室の社員数は17名です(2023年1月末)。約1年間で15名近く社員数が増えました。ちょうど、第1段階の「リーダーシップの危機」を経験する段階です。
幸い私は、過去に何度か組織を大きく成長させた経験があり、グレイナーの5段階企業成長モデルを知っていたので、早めに手を打つことができました。
具体的には、下記の流れで手はずを進めました。
・組織を、セールス、開発、コーポレートに分けて、それぞれマネージャーを配置
・それぞれの部署でやることを決定
・これまで私がやっていたことをそのままお任せ
更に、ちょっとした工夫もしています。具体的には、下記のようなものです。
・現段階で権限移譲を積極的に進めている
・必要以上にルールを設定していない
・ビジョンや事業の方向性は、創業者の私が中心となって決める
・外部への発信は、創業者の私が率先して行う
上記のように取り組むことで、悪い部分を抑えながら、良い部分を伸ばし、次の段階につなげられると確信しています。
我々のような規模感で、ありがちなケースとしては「社長が仕事を手放さない」「作業が属人化して、標準化が進まない」などがあげられますが、何とかそのような状況を乗り越えられているかな?と感じています。
危機到来、それは崩壊なのか?
グレイナーの理論にあるように危機は、それぞれの規模で発生することが想定されています。Smart相談室は、そのフレームワークを想定してアクションを重ねています。
正直、いつ当該の危機が訪れるのか、予兆はあるのか、今、どの段階なのか、などは正確にはわかりません。ただ大事なのは、そういう危機が訪れる、訪れては超えまた訪れる、と認識しておくことです。
そして、仮にその危機が訪れたとしたならば、正面から対応することです。複数回の組織開発を経験すると、多かれ少なかれ危機が訪れることを体験します。その危機に対応すれば、組織は大きくなり次の段階に進むことも体験します。
逆に言うと、危機の訪れは、次の段階に進むためのトリガーのようなものだと捉えられるようになります。
これらの危機は、対応しなければ確実に組織崩壊につながりますから、必ず対応が必要です。できるのであれば、危機が訪れる前に仕組みを導入し、備えるのが良いでしょう。
実態としては、危機が訪れてから対応することが多いのではないかと思います。私自身もそうですが、問題が顕著にならないと現実味がありませんし、優先順位もあがりません。
裏を返せば、一般的なフレームワークとして、可視化は非常に有効な経営管理ツールということになりますね。
押し寄せる危機に対応することのプレッシャー
さて、現実的な問題として、危機が発生してからの対応を進めるケースが多くなると思います。組織には慣性が働きますから、これまでの流れに何らかの圧力を掛けてグイっと方向性を変えていく作業を行うことになります。
これは私の個人的な意見ですが、このようにグイっと方向性を変えていく作業を行う際、組織内で一番、プレッシャーがかかるのがミドルマネージャーだと思います。
次にメンバー達です。メンバー達は一番効果を感じやすく、一番恩恵を受ける属性なので、少数の味方を見つけ、小さな成功体験を組織全体に伝播させることで徐々に変化していくことになります。
そして、それを高いテンションで、中期的に先導していくミドルマネージャーにもプレッシャーが掛かります。抵抗勢力への対応も神経を擦り減らすことになります。
その状況に対して、トップマネジメントができることは、3つあります。
1つ目は、率先して方向性を示すこと。2つ目は、ミドルマネジメントと役割分担をしてビジョナリーなアクションを担当すること。3つ目は異なるレイヤーの相談をしっかり受け取ることです。
特に難しいのが、異なるレイヤーの相談をしっかり受け取ることです。
そもそも、その活動ができるのであれば、危機をうまく乗り越えられる、とも考えられます。ただ、この対応が難しい要因として「そもそも相談の量が多く現実的に対応できない」側面と「相談者が相談しにくい、したくないと考えて相談しない」側面があります。
両方とも想像しやすい側面だと思いますが、実際に対応するのは難しいと思います。私も組織をマネージメントしていた際に同じ悩みを抱えていました。
この悩みを解決するために作ったのが、法人向けオンラインカウンセリングサービスのSmart相談室です。
Smart相談室で従業員のモヤモヤを解消
「メンタル不調になる前に、誰かに相談することで、調子をよくしてもらって帰ってもらう」そんなサービスができないだろうか、と考えて作ったのがSmart相談室です。
利害関係のない社外の専門家が相談窓口になることで、社内相談窓口担当の工数を削減し、働く方々のメンタルヘルス改善や離職率低下など、働く環境の改善に寄与します。
Smart相談室を活用することで組織的な危機を乗り越えやすくなるはずです。
実際に、相談者の多くは、会社に言いにくい、部下に言いにくい、というような内容を第三者のSmart相談室に相談し、必要に応じて会社に思いを訴えています。
相談内容や訴えは、建設的なものが多く、現場メンバーやミドルマネジメントがいかに真剣に危機を乗り越えようとしているのかがわかります。
これはいわゆる「個人と組織の間にギャップが発生している状態」で、このギャップを取り除くことで、組織が円滑に大きくなっていくはずです。変化への対応をSmart相談室で促進していただけると幸いです。
<著者プロフィール>
藤田康男
株式会社Smart相談室
代表取締役医療系人材紹介会社にて10年間、複数事業の立ち上げや組織マネジメントに従事したのち、2021年2月に株式会社Smart相談室を設立。これまでのマネージメント経験から、従業員のメンタル不調に関して課題感を持ち、独自の視点から、課題に対するソリューション「Smart相談室」を提供中。日本の生産性を高め、社会に貢献したいと考えている。
Smart相談室:https://smart-sou.co.jp/ Twitter:https://twitter.com/Yasuo_chan
- Original:https://techable.jp/archives/196965
- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
- Author:Techable編集部
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