コロナ禍で教育を受ける生徒たちに1人1台学習用PCと十分なネットワーク環境を提供するGIGAスクール構想の実施が急速に行われました。同時に、10年ぶりの学習指導要綱の改訂もあり、教育現場は変容しつつあります。
その中で体育の授業もICTとの組み合わせによって大きく変わろうとしています。教育業界向けにも映像分析ツールを展開する株式会社SPLYZA広報・マーケティング担当豊嶋果以氏にご寄稿いただきました。
コロナ禍でGIGAスクール構想が加速
2019年12月、文部科学省が打ち出した「GIGAスクール構想」。児童・生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組みのことです。
当初は2023年度からの実現に向けて5年計画で進められていましたが、2020年の新型コロナウイルス感染拡大による臨時休校などの影響でオンライン授業の必要性も高まり2020年、GIGAスクール構想の実施が急速化しました。
GIGAスクールが実現されたことにより、小中学校では96%高校では86%(令和3年7月時点)が「全学年」または「一部の学年」で端末の利用を開始しています。
学校でのICT普及率の増加により、さまざまな場面でICTが活用されるようになりました。例えば、クラウド型の学習支援ツールや、オンライン授業用のWEB会議ツールとして活用されています。学校生活の様々な場面でICTが用いられています。
社会に出て求められる能力への対応
GIGAスクール構想だけでなく、2020年度から22年度にかけて10年ぶりに小学校から高校までの学習指導要領に大きな改訂がありました。
ICTの普及やグローバル化などが急激に進み、変化の激しい時代の流れについていかなくてはならなくなり、「何を学ぶか」だけではなく「どのように学ぶか」が重要視されるようになったためです。
社会に出ると、「正解のない問題」が多く存在します。自ら課題を発見→仮説→判断→実行という能力がより一層求められるようになり、授業形式や内容の変化だけでなく、これまで定量的な評価に重きが置かれがちだった評価制度にも変化があります。
文部科学省は変化の激しい時代についていくために必要な力は「生きる力」と「確かな学力」と提示しています。その“生きる力”を身につけるため、以下の3つの柱をあげています。
【新学習指導要領の「3観点」】
- 知識及び技能
- 思考力・判断力・表現力
- 学びに向かう力、人間性など
この学習指導要領の改訂によって、「アクティブラーニング」や「探学習」「STEAM教育」といった教育システムが話題にもなっています。学習指導要領改訂に伴い、高校では「探究学習」が必修化されたり、小中学校においても「アクティブラーニング」が推奨されるようになってきました。
体育・スポーツは探究学習の素材
前段でも述べたように、社会に出てからは「正解のない問題」の方が多く存在し、自ら課題発見・課題解決を行う必要があります。スポーツはまさにその「正解のない問題」です。
このサイクルは、スポーツの「正解のない問題」を解決するために必要なサイクルで、社会の課題発見・課題解決のサイクルと同様のものです。体育やスポーツこそ「探究学習」の素材になります。
体育×「思考(探究)学習」事例
船橋市立法典西小学校では、弊社が提供する映像版探究学習ツールSPLYZA Teamsを利用し「体育×思考学習」という新しい体育の授業を小学校4年生で実施しています。
SPLYZA Teamsは、授業映像の共有・振り返り・コミュニケーションが場所やデバイスを問わずに行えるツールです。
新指導要領に即した「新しい体育」授業の実現や、授業内容の共通理解促進、効率的な学習の記録化ができます。自由なタグ付け(シーンのラベリング)や描き込みでの振り返りを通してトライアンドエラーの体験と主体的・対話的で深い学びを実感することができます。
ここではポートボールの授業の例をご紹介します。ポートボールとは、バスケットボールに類似していてゴールの代わりに台上に乗ったゴールマンという役割の人がボールをキャッチすると得点となるスポーツです。主に小学校の体育授業の一環で行われます。
【授業の流れのイメージ】授業を撮影し、SPLYZA Teamsで担当教員が問いを提示、(別時間)児童たちがグループごとに自分たちの映像を見ながら、提示された問いに対する回答の思考学習を実施します。
SPLYZA Teams上に児童たちもポイントを描き込み、仮説を立てて次回のアクションプランを考えます。(別時間)次の体育の授業で再度ゲームを実施、思考学習で出た改善点や仮説をもとに実践するという授業の流れになります。
思考学習後のポートボールでは、それぞれが思考学習で分析した内容をもとに考えてプレーする姿が見られるようになったそうです。
また、児童の振り返りとしては
「分析前は、どこに飛ばしたらチームの仲間に届き、相手のチームに邪魔をされないかなどをあまり考えていませんでした。分析をして、みんなの考えを見たら、前よりパスをする位置やパスされた時にボールを受け取る位置に気をつけてプレーすることができました。待っている時にも声かけをしました。」
「みんなでパスの位置や、いるところの位置を考えてゲームをするようになりました!チームワークも良くなり、ゲームが楽しく行えるようになりました」
などの声があがるようになりました。
また、もう1つ弊社が提供している“スマホで撮るだけ、AIによるマーカーレス動作分析アプリ「SPLYZA Motion」”も跳び箱の台上前転の授業で利用し、自分達で動作分析を行っています。
SPLYZA MotionはiPadもしくはiPhoneで撮影するだけでAIにより自動で測定する部位をマーキング、体の各部位の角度/角速度、速度/加速度、特定の位置からの距離など測定できます。
オフラインでも利用可能で、難しい操作や準備も不要なため小中高生でも手軽にスポーツサイエンスに取り組めます。
SPLYZA Motionを利用した授業の流れは、以下の通りで2時間連続で授業が行われます。
・第5校時
前授業時に各自動画を撮影し、通常の映像を見ながら「よかった点・課題」の振り返りを行い、学習カードに記入します。その後、運動学習を行い次はSPLYZA Motionの動作分析用に再度撮影をします。
・第6校時
5校時の最後に撮影した映像を使って SPLYZA Motionで動画分析を行います。SPLYZA Motionはスティックピクチャー(棒人間)表示ができるため、児童はスティックピクチャーモードに切り替えて、細かく動作を振り返ります。
そのような活動を行うことで6校時には、友人同士で動きを比較したり相談したりとコミュニケーションが生まれます。その後、児童は再度学習カードを記入、自分の課題の発表と共有を行います。
動作分析を取り入れた授業後は、児童の言語に変化が現れより具体的に表現できるようになったそうです。
例えば、「首跳ね飛び」を学習した児童においては「跳び越し」の局面において、“タイミング”に関する記述に変化がありました。
5校時では教員からのアドバイスにより「タイミング」という意識はあったようですが、6校時では具体的に「遅い」というタイミングを計る記述が加わりました。
SPLYZA Motionで表示できるスティックピクチャー(棒人間)で、自分の動きを見ることでタイミングのズレに気がつき児童自身で「遅い」ことを発見できたそうです。
また、振り返りとしては
「今まで着地が課題だと思って、着地に特化して練習していたが、なかなかうまくいかなかった。SPLYZA Motionを使って、スティックピクチャーで細かく動作分析をしたところ、踏切から課題があることに気がついた。次は踏切を練習するようにしたら、うまくできるようになってきて嬉しかった。」
というような声が運動が苦手だった児童からあがりました。
これまでの体育では、「技能」部分が評価のポイントとして重きを置かれがちでしたが、思考力や観察力、言語化力の部分を可視化し重視することで、運動が苦手な子でも表現できる場を作ることができます。
運動が苦手でも観察力が高い子は周りの子にアドバイスをしてあげられたり、自分自身の成長に目を向けて、点での振り返りではなく映像を活用して線で見せてあげたりすることで、体育の楽しさを知ってもらうことができるようになります。
体育に「見る」「支える」の楽しさが加わり、運動が苦手な生徒でも体育の授業で活躍の機会を持つことができるわけです。また、新学習指導要領の「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力、人間性など」を体育の授業でも表現する場ができるようになります。
私たちSPLYZAは、このようなアプリケーションの開発によって体育の教育的価値の向上を目指しています。
<著者プロフィール>
豊嶋果以
株式会社SPLYZA
広報・マーケティング担当2016年に新卒でスポーツテックベンチャー企業に入社。スポーツアスリート向けのコンディション管理ツールの営業や事業開発に携わる。その後、2020年から株式会社SPLYZAに営業として入社して映像分析ツール「SPLYZA Teams」の拡販に従事。その中で、自社のサービスだけでなく、「スポーツの教育的価値の向上」という価値観や「スポーツは考える力を育む」というコンセプトをより広めていきたいという想いのもと2年目に広報の立ち上げを行い、現在は広報・マーケティングなどに携わる。
株式会社SPLYZA:https://www.splyza.com/
- Original:https://techable.jp/archives/199227
- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
- Author:Techable編集部
Amazonベストセラー
Now loading...