静止から時速100kmまでが2.3秒!“公道を走れる初のXX”フェラーリ「SF90XX」とは

出かけてきました。イタリアのマラネロへ。そう聞いて、跳ね馬を思い浮かべるひとは、相当なクルマ好き。

跳ね馬のシンボルマークで知られるフェラーリが、去る2023年6月29日に、新車を発表したのです。

▲満を持してというかんじで実車が公開された瞬間

上でマラネロと書きましたが、発表場所はとなり町のフィオラノ。マラネロもフィオラノも、人口は1.6から1.7万人(2015年/CityFact調べ)。

フェラーリが本社を置くマラネロは、「なんにもない町」ってホテルのレセプションは言います。なんか見どころある? って聞いたときの返事です。

ただおもしろいのは、歩いてみるとすぐわかるんですが、人はあんまり歩いていない。でも、フェラーリがやたら走っている。人口密度よりフェラーリ密度のほうが高いんじゃないの、って思うぐらい。

なんでかっていうと、フェラーリ乗りの聖地だから。世界各地からここに自分のフェラーリで乗りつける人がいるし、フェラーリのレンタカー屋もあります。

フィオラノの町には、ピスタ・ディ・フィオラノっていう、フェラーリのテストコースがあります。そこでフェラーリがクルマを走らせると音ですぐわかるので、数少ないコースがのぞけるポイントはファンで黒山の人だかりになるぐらい。

■SF90XXは、公道を走れる初のXX

▲フィオラノの特設会場でお披露目されたSF90XX

▲リアウイングの効果で、時速250km時に最大315kgのダウンフォースが後輪にかかるようになっているそう

本題がなかなか始まらない。すみません。今回フェラーリは、ピスタ・ディ・フィオラノの敷地内で「SF90XX(エックスエックス)」なる新車を公開。

フェラーリに詳しい人なら、この車名から、ピンとくるかもしれません。つまり…プラグインハイブリッドとして開発されたSF90ストラダーレをベースに、「XX」プログラム用にサーキット専用車として開発されたモデルなんじゃないのって。

「XX」っていうのは、フェラーリが「コルソ・クリエンティ」なる部門を作って、上顧客を対象に、サーキット専用の特別車を(ごく少数だけ)作り、それを買える人たちを招いて、サーキットでの走り方を教える、というプログラム。

うらやましい! って思う人は、きっと少なくないでしょう。ただし、ラッキードロー(くじびき)でなくって、フェラーリ車を買っているって“実績”がものを言うのです。

そんなXX的な走りに特化した部分をしっかり取り込んだのが、SF90XX。たとえばエンジンパワーアップ、たとえばコーナリング性能を高める電子デバイス(の数かず)の採用、たとえば徹底した空力デザインをほどこしたボディ…という具合。

しかし、「SF90XXは、公道を走れる初のXXです」と、フェラーリのスポークスマン的役割を務めるマーケティング担当重役のエンリコ・ガリエラ氏。クルマを紹介しながら、そう解説してくれました。

▲記者にSF90XXを発表するエンリコ・ガリエラ氏

■アグレッシブなノーズに特徴的なリアウィング

▲美しいスタイルを持つスパイダーも出力はクーペと同じ

▲2019年登場のSF90ストラダーレ(写真はクーペ)はV8ターボに、フェラーリ初のプラグインハイブリッドシステムを搭載している

今回のSF90XXの基本的な内容は、SF90ストラダーレに準じてます。4リッターV8エンジンをミドシップ。モーターは前輪左右に1基ずつ、加えてモーターとギアボックスの間にもう1基。

ハマーヘッド(シュモクザメ)って呼ばれる、アグレッシブな印象のノーズと、フロントからリアに向かってきれいに流れるようなボディラインと、力強くふくらんだ前後フェンダー。

F1由来の「Sダクト」や前後フェンダーに入れられたスロット。タイヤハウスにたまる空気を抜くための空力的措置です。

▲フロントのオレンジの部分は、フロントの空気の流れを整流するため、下から空気を吸ってボンネット2ヶ所から排出する「S(サーペンタイン=蛇)ダクト」

▲オレンジとブラックは冷却やダウンフォースなど空気の流れをコントロールする機能を担った部分という塗り分けがユニーク

リアはとくにSF90XXの特徴的な部分。なにしろ、「空力を活かして完全に再設計しました」と、デザイン統括のフラビオ・マンツォーニ氏は言います。

たしかに、大きなリアウイング、空気の流れをコントロールするシャットオフ・ガーニー(新設計)、橫一文字のコンビネーションランプ、その下の巨大なエアアウトレットというぐあいに、SF90ストラダーレとは明確に一線を画したデザインなのです。

性能の一端を、フェラーリが発表した資料から引用すると、静止から時速100kmまでの加速に、2.3秒しかかからないという、おどろくべき数値が公開されています。

空力を見直した最大の理由は、サーキットで速く走るために空気の流れをコントロールするところにありました、とエンジニアリング担当重役のジャンマリア・フルジェンツィ氏。

「前後のバランスをしっかりとりながら、ダウンフォースを(SF90ストラダーレより)20%増して、サーキットでのラップタイムを向上させています」

▲エンジニアリングを統括するジャンマリア・フルジェンツィ氏がSF30ストラダーレの1000CV(735kW)から1030CV(757kW)に上がったと説明

加えて、電子デバイスの数々も。ブレーキ制御でコーナリング中に理想的な姿勢を作りだす「ABS EVO」は一例。

コーナーから出ていくときアクセルペダルを思いきり踏み込むと、電気モーターが一瞬トルクをどんっと積み増す「エクストラブースト」が初採用されました。

ところで、これまでフェラーリは、XXのようなサーキット専用モデルはともかく、ロードゴーイングモデルでは、審美的理由から大きなスポイラーを避けてきたとされていました。

SF90XXであえて大きな固定リアウイングを採用した理由を尋ねられて、ガリエラ氏は「F40やF50といった歴史的なモデルは大きなリアウイングを持っていて、顧客からも、そういうのに興味がある、という声が寄せられていました」と説明。

FXX-Kエボのような従来のXXモデルよりさらに目立つリアウイング。サーキットでの速さを、競合に差をつけるための手段に選んだということでしょう。

▲XXプログラムとして開発されたFXX-K evo(2017年)は6.3リッターV12にエネルギー回生システムをそなえている

プラグインハイブリッドですが、フェラーリは(少なくとも今回の記者会見では)カーボンフットプリントの減少、なんて言葉を口にしていなかったようです(笑)

モーターは先に触れたように、エクストラブーストのために仕事をしていることが強調されています。これは「クオリファイング」(ラップタイム向上みたいな意)なるドライブモードを選んだときに作動します。

どうせだったら徹底的に、というフェラーリの姿勢には、ある種のすがすがしさすら感じる気が。

もちろん、モーターだけで25km走行が可能というので、CO2排出車を制限している区域でも使えます。それをメリットととらえるユーザーだっているでしょう。

■気になるお値段は…

▲前後フェンダーに3つずつ設けられたルーバーをはじめ、あらゆるところに角度がつけられて、スピードを表現したデザインになっている

▲ルーフトップは14秒で開閉

SF90XXには、クーペとスパイダーが同時に発表されました。とりわけ北米西海岸の市場では、スパイダー需要はかなり高くなるようです。

「サーキット走行性能だけでなく、優美さも重視されるので、そのバランスをとるのが、デザインチームの仕事でした」

デザイン統括のフラビオ・マンツォーニ氏が語るとおり、クーペもスパイダーも、美しい仕上がりです。似ている競合車は見当たらない。フェラーリならではのキャラクターがしっかりあります。

▲デザインを統括するフラビオ・マンツォーニ氏

SF90XXストラダーレ(クーペ)の価格は、イタリアで77万ユーロ。1ユーロを158円で換算すると(なんと円の弱いことか)約1億2000万円。同スパイダーは85万ユーロなので、約1億3000万円。

クーペのデリバリーは24年の第2四半期から、スパイダーは第4四半期から開始されるとのこと。販売台数はクーペが限定799台、スパイダーは、限定599台のみ。

ただし「どちらのクルマも(すべて)売約済み」と、マーケティング担当役員のガリエラ氏は、記者会見の最後につけ加えてくれました…。

▲スパイダーのコクピットをみると、黄色を挿し色にしたモデルでは内装にも黄色が使われ、内外装を一体化したデザインというデザイナーのコンセプトがわかる

▲炭素素材を使ったシートはこれまででもっとも軽量だという

▲エンジンのカムカバーを赤く塗る伝統は、最新のモデルにも引き継がれている

▲車体色とSダクトの色の組合せはさまざま

【Specifications】
Ferrari SF90XX Stradale
全長×全幅×全高:4850x2014x1225mm
ホイールベース:2650mm
車重:1560kg
エンジン:3990cc V型8気筒ツインターボ+電気モーター プラグインハイブリッド
駆動:4WD
出力:586kW(エンジン)+171kW(モーター)
トルク:804Nm(エンジン)
変速機:8段ツインクラッチ
モーターによる巡航距離:25km

>> フェラーリ SF90 XX Stradale

<文/小川フミオ、写真=Ferrari SpA提供>

オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中

 

 

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