老舗プラスチック製品メーカーが作る「トランクカーゴ」がキャンプ収納のド定番になった理由

【The ORIGIN of the CAMP GEAR】

数あるキャンプギアの中でも、定番、王道とも呼べるアイテムを紹介する「the Origin」企画。キャンプの縁の下の力持ちとも呼べる収納ボックスですが、今回は気づかぬうちにお世話になっていたキャンパーも多いであろう「トランクカーゴ」です。

 

■キャンプ用収納ボックスブランド

「トランクカーゴとして本格的にブランド展開を始めたのは2018年前後なのですが、スタンダードタイプ自体はキャンプ第一次ブームの頃になる1998年から発売していました」と話すのは、1953年創業の岐阜の老舗プラスチック製品メーカー、リス株式会社でトランクカーゴを担当する岡村さん。

同社はこれまで、一般家庭でも使用される日用品から、各分野の現場を支える製品など、プラスチックにまつわる幅広い製品の企画、製造をしてきた企業です。

そんなプラスチック製造のプロが作る収納ボックス、トランクカーゴですが、「最近のブランドでしょ?」と思っていた方もいるかもしれません。私も今回取材をするまで、そう思っていました。

▲樹脂製のため地面に直置きしても安心。テーブル代わりにできるので、設営後も無駄にならない使用感が◎

岡村さんによれば、1998年に既に発売されていたスタンダードタイプは、当時のRVブームも相まって人気商品となったそうで、第一次キャンプブーム後は、主に作業現場や工業現場で業務用として愛用されていたとのこと。

その後、今のキャンプブームが始まり、SNSやメディアに取り上げられたことで人気が再燃。その流れの中で「せっかく注目して頂いているのだからブラッシュアップして、しっかりと作り込んでいこう」ということで、トランクカーゴをブランドとしてリニューアルしたそうです。

▲独自のバックル兼ハンドル。シェラカップなどを吊るしておくのもアリ

加えて同社はプロ向けの卸業者や生活用品雑貨の商品を作るOEM企業としても、数多くプラスチック製品を手掛けています。だから、知らないうちに同社製品を使ったことがある人は多いはず。現ブームの初期に流行ったあの“頑丈な収納ボックス”も実は同社製だったり。

ということで、ブランドスタート自体は最近であっても、キャンプにピッタリのスマートな収納ボックスとしてはまさに「the Origin」と言っても過言ではないでしょう。

 

【理由1】車載時も安定、使い勝手も◎、あるようでなかったモジュールシステム

トランクカーゴの一番の特徴は、なんといってもスタッキング可能な独自のモジュールシステム。これが、あるようで実は無かった、目からウロコの機能なんです。

蓋の天板がフラットで、外周部を囲むように凸形状が施されているので、ボックスを重ねたときに横滑りしにくく、安定感バッチリ。車に積載する際も積み込みやすくなり、何より荷崩れの心配も減って、キャンプの移動中も安心というわけです。

▲蓋の外周部に施された凸で上のボックスがしっかりフィット。車載時も荷崩れの心配がなく安心

このモジュールシステムをデザインするに至った経緯を聞いてみたところ、どうやら岡村さんのキャンプ体験から生まれたアイデアなんだとか。

「よく趣味でキャンプに出かけるのですが、その時に『積み重ねて運べたら便利だよなぁ』と思っていました。しかし、それまでの屋外使用されるような収納ボックスは同じサイズで使用することがほとんど。ボックスの上にボックスを置くことはできるけど、違うサイズのボックスをしっかりと積み重ねることができなかったんです。これは不便だなと」

▲スタッキングしたボックスをより強力に固定するためのベルトループもデザインされている

ちょうど、トランクカーゴとしてキャンプ用にリデザインを考えていた時期で、「キャンパーたちがテーブル代わりにも使用する話を聞いて、最初に天板をフラットにする構想がありました。せっかくフラットにするなら、ボックス同士がしっかりスタックする構造にしよう!」ということで、現行の天板デザインになったとか。

▲豊富なサイズ展開でキャンパーを選ばない使い勝手を生み出すモジュールシステム

さらに、このシステムの肝はサイズ展開にもあります。テントやコット、組み立て式のテーブルなどキャンプの大物ギアをだいたいなんでも入れられる50Lサイズと70Lサイズに加え、何かと便利な22Lと30Lもラインナップ。

▲50L(写真下)と50LのLOWタイプ(写真上)。もちろんスタッキング可能

それだけでなく底浅でより使い勝手の良いLOWタイプも用意。元々は30L、50L、70Lの3サイズでの展開だったところ、モジュールシステム構想の中で22LとLOWタイプを追加しサイズを増やしたことで、使い勝手が向上しただけでなく、キャンプ中の見栄えや自宅での収納時の見栄えもアップ。「キャンパーの皆様の反響がすごく大きく、 “リスのトランクカーゴ” と認知いただけるようになったきっかけのひとつでした」(岡村さん)

▲70Lには30Lを2つ、50Lには22Lを2つ組み合わせるとぴったりスタッキングが可能

個人的にはLOWタイプは本当に便利。道具をカテゴリで分けたいときに従来の深型だと、ギアがボックス内で荷崩れしてしまってごちゃごちゃになりがち。浅型だと深さがないので、ギアを積み重ねることなくきれいに収納できるし、何がどこに入っているかがひと目でわかるのでキャンプ中も非常に快適なんです。

▲個人的にはLOWタイプが「よく出してくれた!!」と咽び泣くほど使いやすい

そんなサイズ展開についても、岡村さんの実体験が生きているとか。

「焚き火が大好きで、よく焚き火だけをしにいくのですが、その時に深型ボックスだとすごく不便だったんです。日が暮れて、よし焚き火だ!というときに、ファイヤースターターをうっかりボックス内に取り落としてしまったんです。もちろんボックスの中は暗闇。ライトをつけて探すのも大変でしたし、なによりきれいに整頓したボックスがぐちゃぐちゃに。これは不便だなと」

その時に、LOWタイプを作りたいと考え始めたのだとか。

▲20Lサイズはソロ・デュオ用のテントやタープ、チェアに寝袋と、小型なのに縦積みでしっかり収納できる

このように開発者自身の「不便だな」を片っ端から解消する形でトランクカーゴはリブートされています。そりゃあキャンパーの痒いところに手が届くわけだ。

 

【理由2】キャンパーたちの“アソビ”がきっかけで大幅アップデート

モジュールシステムの話で少し出てきましたが、実はこのアップデート、在野のキャンパーたちのとの、ある“アソビ”が大元にあるんだそう。

ソロキャンプを楽しむ私の友人Kは「SNSで“テーブルボードDIY”を見て、買うのを決めたんだよね。元々使っていた収納ボックスも悪くは無かったんだけど、荷物も減らせたし、自分の好みのテーブル天板をDIYしたら愛着も湧いて大満足」と言います。

そう、キャンパーたちの“アソビ”とは、蓋を使ったテーブルDIYです。

岡村さんは「SNSなどでキャンパーの皆様が、“蓋を利用したテーブルボードのDIY”を知りました。私達では想像もつかない活用法を見て驚きました。そこで、テーブルとしてももっと使いやすく、アップデートをしよう」と思ったそうです。

▲キャンパーたちに愛された「テーブルボードDIY」。自分で作るから愛着が湧くし、本当に良いアソビだと思う

このキャンパーたちのテーブルボードDIYをきっかけに天板をよりフラットに再設計するリニューアルが決まりました。愛用ユーザーたちがいなければ、そもそもトランクカーゴのアップデートは起こらなかったかも。

ちなみに、天板をテーブル化する商品「テーブルボード」を2023年に発売しているトランクカーゴ。にもかかわらず、まさかのテーブルDIY用の型紙データを公開してるんです。…え?

▲トランクカーゴHPには型紙どころか懇切丁寧に作り方を解説する記事まで掲載

「DIYを楽しみたい人には、より良いテーブルボードを自作してもらいたいのでいっそのことテーブルの型紙を公開してしまって、皆様に楽しんで頂こうと」

説明されても太っ腹すぎない? と思わずにはいられませんが、この辺りの対応もトランクカーゴ人気の理由のひとつでしょう。

 

【理由3】複数揃えたくなる絶妙な価格設定

トランクカーゴは価格帯も絶妙です。最も汎用性が高いTC-50S(50Lサイズ)で3980円、小物収納におすすめのTC-30S LOW(18Lサイズ)が2580円と、一般的な屋外用収納コンテナと変わらない価格で販売されています。モジュールシステムを活用するためには複数揃えたくなりますが、懐に優しい価格設定は実に助かります。

▲70Lタイプはかさばりがちなスリーピングギアの収納におすすめ。長さのあるマットもこの通り

「せっかく使い勝手を良くした20年以上ぶりのアップデートですから、どうせだったらたくさんの方に使って楽しんでほしい」という思いが価格設定に込められています。

「そのためには幅広いチャネルで販売できて、かつ買いやすい価格帯でなければダメ。だからこそ既存のボックス商品と変わらない、手に取りやすい価格に合わせて、しかもワンプライス。どのお店で買っても納得頂ける価格設定を目指しました」

▲設営後はサイドテーブルとしてちょうどいいサイズ感の22Lタイプ

一概には言えませんが、仕様も素材も変わらないのに「キャンプ用」「アウトドア」と名前がついた途端に価格が跳ね上がる商品が時折見られる中で、この価格設定には誠実さを感じます。

 

【理由4】キャンパー諸氏に刺さったミルカラー

これまでの通り、その使い勝手や性能から人気の収納ギアとなったトランクカーゴですが、カラーリングも我々キャンパーにぶっ刺さった理由のひとつ。

アースカラーは元々キャンプのメインカラーではありますが、その中でも現在のキャンプシーンのトレンドカラーといえば、ミリタリー色。それ以外であっても、落ち着いた色味のコーディネートを楽しむおしゃれキャンパーも多い。トランクカーゴはGREEN、GRAY、BLACKの3カラーでまさにトレンドを抑えた展開。ツヤなしの風合いがまた良い味出しているんですよね。

▲一世を風靡した、トランクカーゴのGREENカラー。オトコゴコロをくすぐる秀逸なカラーで人気に

「カラー変更についてはトランクカーゴ立ち上げ以前の7〜8年程前です。それまでは、一般的な業務用の収納ボックス然としたカラーだったのですが、現在のGREENカラーに変更しました。当時あまり見ない色味でしたが、ちょうどキャンプシーンにマッチするということで、この変更も分岐点のひとつだったと考えています」

▲オプション品の仕切り板も良い仕事をしてくれる。小物を整理する際の救世主

元々、トレンドに乗らない、長く使える商品展開を作り続けるという信念を持つ同社。そんな実直なモノづくりが結果的にキャンプシーンにマッチするギアの開発に繋がったのが、なんとも興味深い。

 

【理由5】「常識の真逆をいく」タフなスペックで安心感も抜群

もちろん収納ボックスに大事な耐久性もバッチリ。重量のあるギアが多いキャンプ用品を収納しても十分な安心感があります。

▲蓋裏は強度を高めるリブ構造を採用。チェア代わりに座れるのはこの構造のおかげ

キャンプで使用することを念頭に、より肉厚で剛性を高める構造に仕上げているとのこと。岡村さん曰く「一般的なプラスチック製品に比べて、ややオーバースペック気味の強度」とのことで、プラスチック製造業界の常識とは真逆をいく設計なのだそう。

▲本体にしっかり覆いかぶさるような蓋なので多少の雨なら全く問題なし

また、蓋についても上から被せる形で蓋を取り付ける仕様のため、雨や夜露に強いという点もキャンプに最適。完全防水とは言わないまでも、多少の雨なら中をドライに保てますし、秋冬キャンプの大敵、夜露からも中身を守れるので、タープ無しのキャンプスタイルでも荷物を濡らさずに安心してキャンプを楽しめます。

*  *  *

ちなみにモジュールシステムについては、「気軽に遊びに出てほしい」という岡村さんの思いも詰まっています。岡村さんは、アウトドア関連の道具をすべてカテゴリーごとにボックスを分けて収納しているそうです。

「今日は焚き火だけしに行こう」というときは焚き火ボックスだけ持っていき、「今日はキャンプで焚き火をしよう!」というときは、それにキャンプ関連のボックスを追加して持っていくんだとか。

こうすることで外遊びに出かけるときに一番億劫な準備の時間を短縮でき、大変な思いをして準備することがないので、より気軽に外遊びに出かけられる。

だからこそモジュールシステムで、幅広いサイズ展開を準備し、組み合わせてスタッキングできるようにしたのだとか。なるほどなぁ。

そして個人的にずっと疑問に思っている「どの屋外用ボックスも底に向かって徐々に狭くなっている」仕様についても聞いてみました。

▲「どのボックスもなんで底に向かって絞ってあるんだろう?」とずっと思っていた

「射出成形機の製造工程上、製造する際に使用する金型を直角で作ってしまうと製品が金型から取り外せないんです。ですので、弊社商品に関わらず同様の製造方法で作られるボックスは壁面が底面に向かって斜めになった形になります」とのこと。キャンプの謎がまた一つ解けた!

ちなみに「トランクカーゴの壁面が途中で段差状になっているのは強度を高めるため」なんだそうです。

▲側面の段差は強度を出すためなんだとか。これがないと側面がペコペコして強度が下がる

キャンプ用収納ボックスの定番「トランクカーゴ」。収納ボックスとしてピカイチの使い勝手の良さは、開発者自身のキャンプ体験が起点になっているからこそ。そして改善のきっかけはキャンパーのDIY。開発者のアイデアとキャンプブームの良い側面が合わさって、より良いギアが誕生したんですね。

>> トランクカーゴ

>> [連載]The ORIGIN of the CAMP GEAR

<取材・文/山口健壱

山口健壱(ヤマケン)|1989年生まれ茨城県出身。脱サラし、日本全国をキャンプでめぐる旅ののち、千葉県のキャンプ場でスタッフを経験。メーカーの商品イラストや番組MCなどもつとめる。著書に「キャンプのあやしいルール真相解明〜根拠のない思い込みにサヨウナラ」(三才ブックス)

 

 

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