ライダー歴の長い人なら、2000年代の“モタード”ブームをおぼえているかもしれません。モタードとはスーパーモタードの略で、オフロードモデルに17インチのオンロードタイヤを履かせたマシンを指します。元は、オンロードとオフロードが混在したレースの呼び名ですが、軽量な車体にグリップの良いタイヤの組み合わせが街中で扱いやすいことから、バイク便ライダーなどにも支持されていました。
▲1998年式 カワサキ「Dトラッカー」
国内でモタードブームを牽引した存在が、カワサキが1998年にリリースした「Dトラッカー」。オフロードモデルの「KLX250」に17インチホイールを履かせたモデルでした。その後、スズキから「DR-Z400SM」、ホンダからは「XR250モタード」が2003年に登場し、ヤマハも「WR250X」をリリースするなど、国産4メーカーがそれぞれモタードモデルをラインナップする状況に。しかし、現在はすべて姿を消してしまっています。
▲2004年式 スズキ「DR-Z400SM」
■独自の進化を遂げた欧州製モタードマシン
国内ではブームが下火になるとともにラインナップから消えてしまったモタードモデルですが、海外では今も進化し続けています。その筆頭が、今回紹介するガスガスの「SM700」。
ガスガスはスペイン生まれのブランドですが、今はKTMグループの傘下にあり、このマシンもKTMの「690SMC R」や、同じくKTM傘下のハスクバーナ「701 Supermoto」と基本設計は同一です。
エンジンは692.7ccの水冷単気筒。これだけ排気量が大きい単気筒エンジンは、今やKTMグループでしか生産していないレアなパワーユニットです。最高出力は74PS/8000rpmを発揮。単気筒というと、ドコドコした鼓動感が魅力のエンジン型式と思われがちですが、このエンジンは同クラスの2気筒エンジンと比べてもパワフルで、高回転まで気持ち良く回ります。
フレームはクロームモリブデン鋼管を格子状に組み合わせたトレリス構造。軽量で必要な剛性を確保しているだけでなく、ルックス的にも個性的な仕上がりに。サスペンションは前後ともWP製APEXのレーシングスペック。前後ともキャストホイールを装備しており、その点がKTMやハスクバーナの兄弟モデルとの大きな違いとなっています。
このマシンの設計でユニークなのは、ガソリンタンクの位置。通常、エンジンの上に配置されるタンクがシートの下に位置し、シートレールを兼ねる構造となっています。これによって前後に長いシートはエンジンの真上まで伸びていて、ライダーは着座位置を前方にズラすことが可能。フロントタイヤに荷重がかけやすいため、リアタイヤを振り出すようなモタード的なコーナーリングがしやすくなっています。
■驚くほどコンパクトに曲がれるコーナーリング性能
オフロードマシンをベースとした車体のため、シート高は898mmとかなり高め。ただ、サスペンションの沈み込みが大きいため、足付き性は数値から想像するほど悪くはありません。車体もスリムで、車重が148.5kgと軽量なため、片足でも車体が支えやすく感じます。
最大トルクは73.5Nm/6500rpmで、低中回転域のトルクも豊かなので、走り出しての印象は「とても乗りやすい」というものでした。車重が軽く、ハンドルの切れ角も大きいので街乗りはしやすそう。アップライトな乗車姿勢で視界が広いのも、前傾姿勢がキツくなった中年ライダーにはありがたいところです。
しかし、ライドモードを標準の「ストリート」から、よりアグレッシブな「スーパーモト」に切り替え、少し大きめにアクセルを開けると印象は激変します。パフォーマンスを開放されたエンジンは、路面を力強く蹴り飛ばすように軽量な車体を加速させ、短い直線でも驚くほど車速が乗ります。信号ダッシュでも排気量に勝るスーパースポーツと対抗できそうな加速感。この加速は一度体験するとクセになりそうです。
足回りも高性能で、ハイグリップタイヤを履いているため、コーナーリングでも路面に吸い付くような感覚が味わえます。前後に長いシートとアップタイプのハンドルのおかげで、ライディングポジションの自由度が高いのもポイント。ロードバイクのように腰をイン側にズラしてハングオンのように乗ることもできますし、オフロードバイクのように思い切り前に座ることも可能です。
個人的に楽しかったのは、一般のオフロードバイクではできないほど前に座ってフロントに荷重し、フロントブレーキをしっかりかけて前輪だけでコーナーを曲がるような走り方。タイトなコーナーでこれをやると、驚くほどコンパクトに曲がれます。
筆者の場合、過去に「Dトラッカー」に乗ってサーキットや林道を走っていた経験があることもあり、久しぶりに乗ったモタードマシンのフィーリングが懐かしく、とても楽しい試乗体験でした。昨年、カワサキから「KLX230SM」というマシンが登場しましたが、すでに生産は終了。国産現行モデルにはなくなってしまったモタードマシンですが、ぜひ復活させてほしいと思わずにはいられませんでした。
■SPEC
価格:158万円
重量:148.5kg
エンジン:692.7cc水冷単気筒OHC
最高出力」:75ps/8000rpm
最大トルク:73.5Nm/6500rpm
>> GASGAS
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/557381/
- Source:&GP
- Author:&GP
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