人々の上をドローンが飛ぶ。コロナ禍がおわり、深圳のメイカーフェアが帰ってきた
11月11・12日の週末、深圳南山区の万科雲城にて、メイカーフェア深圳2023が開催され、DIYテクノロジー愛好家を中心に2日間で3万人の来場者が訪れた。コロナ禍により、2019年を最後に深圳のメイカーフェアは休止していた。今年は4年ぶりの開催になる。
万科雲城は、DJI本社ツインタワーの前に広がるデザイン・クリエイティブ企業が多く入居している、メイカーフェアにふさわしい地区。会場にはDIY愛好家のほか、子どもたちが学校単位で訪れるなどさまざまな来場者が訪れた。
「メイカーフェア」とは世界的なDIYのお祭りだ。メーカー(maker)=大量生産を行う製造業、メイカー(MAKER)=自分のアイデアでハードウェアを自作する愛好家という定義のもと、多様なDIY祭りが世界各地で数え切れないほど行われているが、「メイカーフェア」というブランドはアメリカのMake:Community社が管理して、各地のオーガナイザーが同社に申請して開催している。
筆者はこれまで38都市で100を超えるメイカーイベントに参加してきた。おそらく世界一だと思われるが、どの街のイベントも、その街や国のテクノロジーとの付き合い方が見られて興味深い。
出展者懇親会での記念撮影は、野外で群衆の上にドローンを飛ばして行う。深圳とドローンの関係を象徴的に表す瞬間だ。
Raspberry Pi、3Dプリンタ、PCB制作サービスなど、ハードウェア開発サポート産業が集結
深圳でのメイカーフェアは、PCBA基板製造サービスなどで有名なSeeed studioが主催して2012年に始まり、現在はChaihuo Makers(Seeed studioが開設した、よりパブリックなメイカースペース)が主催となり、深圳の学校や土地デベロッパーのほか、多くの企業がパートナー・スポンサーとして協力している。
今年の目玉の一つは、イギリスからRaspberry Piが、CEOのエベン・アプトン含め参加したことだ。Linuxベースのシングル・ボード・コンピュータでは最も有名なRaspberry Piは、DIY愛好家だけでなく、ロボットの開発者や産業IoTのコントローラなど広い用途で使われている。年間の出荷は700万台(2021年)を超えるヒット製品だ。
中国では独自の開発ボードを使う企業も多いが、特に海外に販売するロボットなどのコントロールボードとしてRaspberry Piを採用する企業が多く、今回のメイカーフェア深圳で直接話す機会が設けられたことが、ほかの出展者を集める要因にもなっていた。
初日のキーノートで対談した、Seeed studio CEOのエリック・パン氏(左)とRaspberry Pi CEOのエベン・アプトン氏。拡大を続けてきたメイカーフェア深圳とRaspberry Piの歩み、プロトタイプやDIY目的で始まったメイカームーブメントが、IoTやスタートアップのムーブメントと繋がって重要な産業の一部分を再確認するものになった。
3Dプリンタ大手のBambu Labのブースにはいつも人だかりができていた。深圳の3Dプリンタメーカーはピーク時には数百社を数えたと言われ、過当競争でお互い消耗する段階から、いくつかの大手ブランドに収斂する段階に入りつつある。
DIYから産業へ、産業からDIYへ
Raspberry Piや3Dプリンタは、DIY用途で使われていた製品が産業へ広がった例だが、メイカーフェア深圳では逆に産業分野からDIYへの進出した企業も見られる。
東莞市に本社を構えるWorldSemi社は、プログラムで光り方をコントロールできるLEDを開発している。WS2812シリーズなどのLEDは、ゲーミングPCやLEDディスプレイ、さらには街頭広告など、あらゆるところで活用され、年間の出荷数は数億に及ぶ。
CEOのイン氏は日々新しい製品の研究開発に余念がないメイカーで、メイカーフェアでもさまざまな出展作品を眺め、LEDをどう使っているか、どう使いたいかについてコミュニケーションしていた。
WorldSemiのブース。こうした産業用部材の企業もメイカーフェアに出展しているのは、ほかの場所に見られない、深圳の特徴だ。
人気のマイコンボードM5Stackブースに見る、日本との強い関係性
筆者は日本のDIY愛好家・ハードウェア設計者向けにセンサーやマイコンボードなどのツールを販売することを仕事にしているが、年々深圳からのハードウェアは増えてきている。
中でも2018年に日本での販売を開始したM5Stackシリーズのマイコンボードは急速にシェアを拡大している。西和彦氏率いるIoTメディアラボラトリーが開発するMSX0シリーズのハードウェアとして採用されるなど、多くの日本人メイカーに支持されている。
M5StackはIoT開発用のツールキットで、ESP32シリーズのSoCを採用し、5cm角の筐体にLCD画面、バッテリ、Wifi/BT、多くの拡張ポートなどを備えている。一通りの環境が揃っていることですぐプロトタイプが始められること、最初から画面による確認ができることなどから初心者・熟練者を問わずユーザーが多い。
Preparing for #mfsz2023 pic.twitter.com/Yc1ZwmB0Sh
— M5Stack (@M5Stack) November 8, 2023
こちらはイベントでの展示用に作成した50cm角の巨大M5Stackデモ。このように重ねる(Stack)ことで機能や拡張ポートを増やしていくことができる。
そのM5Stackブースでは、現行製品・開発中の新製品のほかに、日本のM5StackファンたちがM5Stackを利用して作成したオープンソースのコミュニケーションロボット「スタックチャン」を展示。
スタックチャンはM5Stackを顔に見立てたコミュニケーションロボットで、オープンソースでデータファイルやプログラムが公開されていることから、多くのユーザーが思い思いのスタックチャンを自作している。
上の写真では、耳をつけたもの、毛でくるんだもの、足がクローラーになっているものなど、色も形もさまざまなロボットが持ち込まれている。
これらのロボットはそれぞれ別々のユーザーが開発して、今回メイカーフェア深圳のM5Stackブースに、スタックチャンプロジェクトの発起人ししかわさんが持ち込んだものだ。
M5Stackは企業出展でスポンサーとしてメイカーフェア深圳に参加しているが、その中に日本のDIY愛好家活用事例が大きく紹介されることは、深圳のスタートアップと日本のハードウェア開発者が深く結びついていることを感じさせる。
主催者発表での地域別出展者は、
- 日本-7
- 香港-4
- 韓国-2
- アメリカ,スペイン,ネパール,ロシア-それぞれ1
(全体の出展は123で、80%以上は中国国内)
と、国際組では日本からが一番多い。これはブース単位でのカウントなので、前述のスタックチャンは入っていない(深圳M5Stackとしてカウント)など、実際はさらに日本からの出展組が目立つメイカーフェアとなっていた。
DIYと産業の融合はますます進む
ユーザーと一緒になって製品を開発することは、スタートアップから独自性ある製品が生まれやすいことなどと相まって、ますます重要になっている。
DIYのお祭りであるメイカーフェアも、研究開発や教育といった産業との結びつきが強くなり、新しいアイデアをユーザーと一緒に検証する貴重な機会として活用する企業が増えている。
特に深圳の場合、開発ボードや3Dプリンタなど、「メイカー向け産業」とも言える多くの企業が出展することで、より産業との結びつきが目立つ。今後も注目していきたい。
(取材/文・高須正和)
- Original:https://techable.jp/archives/223374
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:高須正和
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