日本だけでなく海外でも興味深いモデルが続々! 各社の工夫と独自デザインが光るウルトラコンパクトカーの魅力

小さなクルマというのは、いつだって魅力的です。限られたスペースの使い方への工夫が興味深いし、小さいから目立つ必要があるってことなのか、デザインも凝っています。

日本は軽自動車に代表されるように、ウルトラがつくようなコンパクトカー選手権ではいつも横綱級でした。SUVもあれば、車内で立って歩けてしまうほどのトールボーイスタイルもあるし、EVも、という具合。

■世界から見るとユニークなスズキ「ジムニー」

ユニークさでいうと、代表選手はスズキの「ジムニー」でしょうか。セパレートシャシーにリジッドアクスルと、悪路での走破性は抜群のスペックス。

一般道では後輪駆動で走り、いざというとき(悪路走行時)は手動で2WDと4WDを切り替える機械式副変速機を使うパートタイム4WD。ステアリング形式も路面からのショックをドライバーに伝えにくいボール循環式と、凝っています。

ボディも、ぶつけても修復が容易そうな平面で構成され、かつては汎用品と交換容易という理由で丸型だったヘッドランプなど、往年のクロスカントリー型4WD車のイメージを引き継いでいます。

 

■大人3人乗りというコンセプトのトヨタ「iQ」

▲最高のコンセプトだったトヨタiQ

軽自動車以外では、トヨタ自動車が2008年から16年まで生産していた「iQ」はすぐれたコンセプトでした。全長は3m以下で、ホイールベースは2000mm。

大人3人乗りを基本としたパッケージはなによりユニークでした。実際、大型ミニバンだって、ほとんど前席2人で使われているというメーカーのデータもあり、ふだん使いはiQのパッケージで十分なのです。

問題があるとしたら、無段変速機を使って好燃費を狙っていたため、さっと加速したいときにもたもたしてしまうこと。最後は6段マニュアル変速機モデルの設定もありました。これはいいんです。どっちかというとレアですが、中古車市場で探せます。

 

■海外のコンパクトカー

▼イギリス/アストンマーティン

iQは、一時期、アストンマーティンに供給され「シグネット」の名前で売られました。アストンマーティンのスポーツカーと共通のフロントグリルがカッコいいクルマでしたが、2011年から13年までと短命。そりゃあそうですよね、400万円を超えていたんですから。

このシグネットをベースに、アストンマーティンは4.7リッターV8を載せたモデルを作りました。私は実際に、英国南部の「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」というイベントで、ホンモノが走るのを見たことがあります。

▲CO2排出基準をクリアするためにアストンマーティンがトヨタから購入して自社ブランドで発売したシグネット(魅力的)

▲アストンマーティンのカスタマイズ部門がシグネットの可能性を追求してV8エンジンを載せたモデル

グリルなんかとっぱらって、そこからエンジンが見えていたし、太いタイヤを収めるためどんっとフェンダーが張り出していて、めちゃくちゃカッコいいモデルでした。が、もし市販されていたら、とんでもない”じゃじゃ馬”だったでしょう。乗ってみたかったです。

かつてミニにも、ERA(英国のエンジニアリング・リサーチ&アプリケーション)という会社がチューニングした、パワフルな1.3リッターターボエンジン搭載モデルがありました。やたら足回りが硬くて、小さなサーキットで走らせたときは、スリリングでした。

現代のコンパクトカーに話を戻すと、海外にも興味深いモデルがいろいろ出てきています。

▼フランス/シトロエン

ひとつは、仏シトロエンが開発した「アミ Ami」。全長2410mmしかない2人乗りのピュアEVです。フランスの空港のサービスカーで使われていたり、パリの街角にある充電スタンドに停まっているのを見かけたりします。

前後のタイヤがボディの四隅ぎりぎりにあって、側面から見ると、前後輪のあいだはドアが占めています。そこに金魚鉢を逆さにしたようなキャビンが載っかっています。サイドウインドウは半分だけしか開きません。

▲シトロエン・アミは日常の足にも使えるしカーゴ(荷物運搬車)としても機能性が高い

▲アミ(カーゴ仕様)のコクピット(サイドウインドウは2CVのような下半分だけ跳ね上げ式)

アミってフランス語で”友だち”の意味。もうひとつ、アミには意味があります。シトロエンが1961年から78年まで作っていた小型車です。2CVというモデルの車台に、乗用車的なボディを載せたクルマであります。

見る人によってはキュートと思えるボディの魅力も手伝って、いまもけっこう人気のあるモデルです。同じ名前を使ったのは、オリジナルのイメージの再来も狙っているのでしょう。

▼イタリア/フィアット

コンパクトカーづくりにおいては、シトロエンに負けない“伝統”を持っているのがイタリアのフィアット。23年7月に全長2535mmのピュアEV「トポリーノ」を発表しました。

イタリア語でハツカネズミを意味するトポリーノは、1936年にフィアットが手がけた「500」の愛称です。これがいわば最初のチンクエチェント。2人乗りですが、後ろにひとが乗れてしまう大きな荷物置き場を持っていたのが特徴です。

▲遊び心を感じさせるフィアット・トポリーノ「ドルチェビータ」

▲トポリーノの車体は2タイプあるけれど車体色や内装などはモノグレードで価格を抑えている

ルーフは、エンジンの騒音を逃がすのと、万が一クラッシュ事故のときの緊急脱出用とを兼ねて、ゴム引きキャンバスのルーフでした。ドアを使わずルーフから車内に出入りできちゃう様子は、『ローマの休日』(1953年)や『甘い生活』(60年)といったローマを舞台にした映画でも観ることができます。

新世代のトポリーノには、まさに『甘い生活』の原題である「ドルチェビータ」という仕様が設定されています。特徴はドアがないこと。乗員が転げ落ちると危ないので、ロープが1本渡されています。

EU(欧州連合)には「クオドリサイクル Quadricycle」(四輪軽自動車みたいな意味)というジャンルがあります。もともと欧州では、日本でいうところの普通運転免許が必要ない小さな1人乗りのクルマが存在していました。日本では「虫」なんて呼ばれていました。そんなクルマのために特別な免許制度があります。

今回は、1992年に原案が作られ、2000年代になってから具体案が練られてきました。英国を含む欧州各国で、普通免許取得可能な年齢に達する前の14歳から16歳など、ある種の交通弱者を対象に、小さなクルマの運転許可を与えるというものです。アミやトポリーノは、その市場も対象のようです。

少なくとも欧州では、クルマがないと生活ができない都市が多く存在します(たとえばローマ)。ウルトラコンパクトカーは趣味の道具というより生活必需品。でもどうせだったら、キュートにデザインしようというのはメーカーの心意気。そこはとてもいいですね。

<文/小川フミオ>

オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中

 

 

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