【The ORIGIN of the CAMP GEAR】
「廃盤寸前になった『フィールドラック』がこれほど売れるとは…。商品を出すタイミングが早すぎたのでしょうか…」と苦笑交じりに話すのは、質実剛健なモノづくりとユニークなアイテム展開で人気のブランド、ユニフレームの営業部 野﨑さん。
株式会社新越ワークスのアウトドアブランド「ユニフレーム」は、金属加工の町・燕三条を拠点に、周囲の協力工場とともに日本のキャンプシーンを30年以上に渡って支え続けています。
そんなユニフレームの「フィールドラック」(4510円)は、汚したくないギアケースを地面から離して置けることや、重ねて多段ラックとして使えるだけでなく、テーブルにもなるなど、マルチに使えることから人気です。
私の記憶では2016年前後から人気が爆発した印象ですが、実はその起源は30年近く前まで遡るんです。
■原型から数えれば30年!のヒストリカルなキャンプギア
「1996年に『テントサイトシステム』として販売したアイテムがフィールドラックの原型なんです」
ということで、見せてもらったのは当時のカタログ。これ、ほぼフィールドラックじゃないですか!
▲1996年当時のカタログに掲載された“テントサイトシステム”。使い方も含めてほぼフィールドラック
“テントサイトシステム”が発売された1990年代は、第一次オートキャンプブームの真っ只中。まだまだ「オートキャンプってなんぞや?」という状況でした。新しいギアが次々と開発される中で、キッチンスタンドシステムが人気に。今でこそ当たり前のギアカテゴリですが、当時は非常に画期的でした。そこで発売したのが“テントサイトシステム”でした。
「今のフィールドラックに近い構造でしたが、3個1セットで販売しており、重ねて使ってバーナースタンドとして使うもよし、ウォータータンクやクーラーボックススタンドとして使うも良しのアイテムでした」
ここまで聞くとまんま「フィールドラック」ですね。
キッチンスタンドだけでなく、「洗い物を水きれ良く置けたらいいよね」ということで、格子状の天板にしたそうで、「弊社は古くからザルなどの調理器具を製造するメーカーですので、板材を線状に加工するのが得意だったということもありますね」と野﨑さんは話します。
▲ちなみに1997年には“テントサイトシステム”を応用した焚火台を販売していたことも。この時代にこの焚き火台は先進的すぎたか?
2002年には、キッチン機能を強化した「キッチンスタンド」を発売。その拡張アイテムとして、“テントサイトシステム”から1枚だけで使用可能なものに仕様変更し、「クーラーボックススタンド」の名称で販売をスタート。この時点で「フィールドラック」と同じ仕様になっています。
しかしこの頃は第一次キャンプブームが終わり、業界が完全に冷え切っていました。
「専用のスタンドとしては他社から良い製品が出ていたので非常に苦しい状況が続きました。“このまま売れなかったら廃盤に”という話が社内でも現実味を帯びていた時期でした」
といったように、かなり苦しい局面に陥っていた「クーラーボックススタンド」。そんな同商品を救ったのは、開発部長の個人的な使い方だったといいます。
「いっそのことスタンド以外の使い方をしてみようと、開発部長の田瀬が提案してきたのが、積み重ねて使う“ラック”としての使い方でした。今思えば原点回帰の使い方ですが、試せることは全部試そうということで、カタログにもこの写真を載せ、販売店にもこの形でのディスプレイをお願いして回りましたね」
▲廃盤間近の2010年時のカタログで、重ねて棚として使う方法の例が初登場した
まさに藁にもすがる気持ちで、地道に“ラック使い”を提案していくうちに、じわじわとユーザーに浸透しはじめたといいます。その後、ヒアリングを重ねていくと、多くのユーザーが“ラック”として使っていることが分かり、「名前、変えましょうよ」ということで、「フィールドラック」の名称になったのだとか。
▲ショップ限定カラーも発売されるなど、気づけばキャンプの大人気ギアに。
「実はこの『フィールドラック』の名付け親は私なんです」と、なんてことのないように話してくれた野﨑さんの“ややドヤ顔”、見逃してませんよ。
■ある時はラック、ある時はテーブルと、マルチに使える
「フィールドラック」はその名の通り、ラックとしてとても有能。それこそクーラーボックスはもちろん、ギアボックスや小物類を置くのに便利で、2段重ねにすれば、上段に2バーナー、下段に調理器具や食材をおいて、ロースタイルのキッチンカウンターとしても使えます。
▲ロースタイルなキッチンシステムとしても使える。下段があると食材も置けて何かと便利
それに道具の底を汚して持ち帰りたくないですよね。「フィールドラック」があれば地面から高さが取れるので、ギアボックス類の汚れを気にする必要もなくなりますし、特に雨天時には泥はねからも守ってくれます。
スチールにカチオンメッキを施した素材は熱にも強いので、調理後のアツアツのスキレットやダッチオーブンも置けます。個人的には、地面へのダメージを与えそうな薪ストーブや背の低い焚火台を置いて使うことも多いですね。
さらに専用オプションのテーブル用天板を購入すれば、ローテーブルに早変わり。
▲テーブルとしても十分な広さがあるのがいい。シングルバーナーで調理しつつそのまま食事も可能な広さ
ソロ〜デュオキャンプくらいなら、2セットくらいあれば十分な広さのテーブルになります。
ただ、少々面食らうのが組み立て方法。わかってしまえばなんてことはないのですが、ひと目で理解するのが難しい。そこそこ力を入れて引っ張って足の爪を天板側に引っ掛けるという簡単な構造ではあるものの、慣れるまでは「え? 本当にそこに引っ掛かるの?」「どこまで引っ張るんだっけ?」となることも。
▲パッケージ裏に正しい組み立て方がわかりやすく書いてあるので必ず確認しよう
何かと便利な、なんぼあってもいいフィールドラックですが、慣れるまでの組み立てにくさというのはあるので、購入を検討している人はショップで触ってみてからがいいと思います。
■ブラックにカラー変更で売上5倍!? 根強いシルバー人気も
2017年に定番色をシルバーからブラックに変更した「フィールドラック」。これまでのシルバーカラーでも十分に人気だっただけに、突然のカラー変更に少し戸惑った覚えがあります。
これについて野﨑さんは「私達営業チームも“人気の商品にテコ入れしなくてもいいんじゃないの?”と戸惑い気味でした」と笑います。
▲かつての定番カラーのシルバーは今でも根強い人気を誇る。私ももう一枚買っておけばよかった
「ある日の営業会議で田瀬が突然、“試しに黒に塗ってみたらすごく格好よくなったんだけど、営業のみんな、どう?”と(笑)。たしかに格好よくて、じゃあいきましょうとなりましたが、正直そこまで変わらないだろうというのが営業チームの予測でした」
しかし、このカラー変更は営業チームの予想を良い意味で裏切り、なんと売上が5倍に。思い返してみると、2016年あたりからギアのカラーリングを統一したキャンプスタイルを楽しむキャンパーが話題になっていた時期でもありました。
▲熱に強い金属製なので、アツアツのスキレットやダッチオーブンを載せて大丈夫
「営業活動の中で、カラーについての市場の動向は掴んでいて、それを田瀬にも共有をしていました。それを受けての変更でもありましたが、まさかここまで売れることになるとは思ってもいませんでした(笑)」
実際、使い勝手の良さに流行りのカラーリングも相まって、キャンプのラックといえば「フィールドラック」と言えるほど、キャンプ場に行けば必ず見かけるほどでした。しかし、それゆえに一時は品薄になったことも。
「2017年頃は生産が追いついておらず、多くの方々にご不便をおかけしておりました。2018年には生産体制を整え、現在は十分な供給量を確保しております」
製造機器をユニフレームが購入、協力工場へ提供することで、製造ラインを増設したといいます。買いたくても買えず、高額な転売も行われていたほどだったので、店頭に再び並び始めた時はなんだかホッとしたのを覚えています。
▲地味に便利なのが、洗い物あとの乾燥ラックとしての使い方。連泊のキャンプではどうしても洗い物が出るので助かる
ちなみに、ブラックに変更した後も数量限定でシルバーを販売してました。これについては、「一番の決め手はお客様からの残在庫の問い合わせですね」と野﨑さんは言います。
というのも、ブラックに変更したことで、“シルバーを1台は持っていて、ゆくゆくは追加したい”と思っていたユーザーが、カラー変更で困ってしまったとのこと。
そこで「シルバーで統一したいキャンパーさんが追加できるように、限定生産という形で何度か販売をおこなったんです」ということだそうです。
このあたりの、ユーザーの声をしっかり拾い上げて、商品展開に生かしていく小回りの良さはさすがです。
* * *
第一次キャンプブームから営業を続けるアウトドアメーカー・ブランドの方は、「バブル崩壊後に訪れたキャンプブームの終焉は、それはもう苦しいもので、乗り越えるのがとにかく大変だった」と誰もが口を揃えて話します。
この「フィールドラック」はそんな苦境を乗り越えたキャンプギアのひとつでした。人気が出てきたのがここ数年のことで、最近のギアだとばかり思っていましたが、キャンプの酸いも甘いも噛み分けたギアだったんですね。
▲オプションの天板をあえて上下裏返しにして使うのが好き。お箸などが転がって地面に落ちてしまうのを防げる
今でこそコピー商品も多い「フィールドラック」。使いやすくシンプルな仕様だからこそ、真似がしやすいアイテムなのかもしれません。ですが、その人気の裏側には様々な試行錯誤があったわけです。
ユニフレームに限らずですが、オリジナルのアイテムを生み出せるアイデアや開発力を持っていて、キャンパーに向けて地道な提案を続けてくれるアウトドアブランドをこれからも応援したいなぁ、なんてことを個人的に思ってしまう今日このごろです。
>> ユニフレーム
>> [連載]The ORIGIN of the CAMP GEAR
<取材・文/山口健壱>
山口健壱(ヤマケン)|1989年生まれ茨城県出身。脱サラし、日本全国をキャンプでめぐる旅ののち、千葉県のキャンプ場でスタッフを経験。メーカーの商品イラストや番組MCなどもつとめる。著書に「キャンプのあやしいルール真相解明〜根拠のない思い込みにサヨウナラ」(三才ブックス)
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/589278/
- Source:&GP
- Author:&GP
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