まもなく40周年。プリムス「2243バーナー」が愛され続けるその理由

【The ORIGIN of the CAMP GEAR】

創業1892年というスウェーデンの老舗燃焼器具メーカー、プリムス(PRIMUS)。パラフィンを燃料とした“PRIMUSストーブ”からスタートし、1953年には世界で初めてLPG(液化石油ガス)を燃料にした家庭用ガスコンロの大量生産を開始。さらに、専用ガスシリンダーを使用した持ち運び可能なモデルを発売するなど、屋外で使用できるガスコンロやバーナーの開発を行ってきました。

その性能の高さから世界中の冒険家たちに愛用されてきたブランドは、現在でもシングルガスバーナーを中心に多くのアウトドアファンから信頼を得ています。

▲1950年代から1970年代頃の広告やカタログに実際に使用されたイラストや写真。当時の雰囲気を感じられる貴重な資料

そんな数多くのバーナーを手掛けてきたプリムスの中でもロングセラーとなっているのが、通称“2243”と呼ばれるシングルガスバーナー「クラシックトレイル」(9350円)です。大きなヘッドにX字ゴトクが特徴のこのバーナーは1985年に誕生しました。

昨今のキャンプブームでは特にギアの進化が顕著で、バーナーも例外ではありません。そんな群雄が割拠する市場においても長く根強く愛され続けている「2243」。人気の理由は非常にシンプルで、安定感の高さと高火力にあります。

【理由①】X字ゴトクが生み出す安定感と耐風性能

▲X字に配置された独自のゴトクが生み出す安定性と防風性能

「2243」最大の特徴は、何と言ってもその安定感の良さ。大型のバーナーヘッドに、独特のX字に施されたゴトクにより、クッカーを選ばずに使用できます。

お湯を沸かす程度の使用であれば、軽量で3本爪のバーナーでも十分ですが、大きめのクッカーを使う場合やしっかりと調理をしたい場合はなにかと怖いものです。「2243」は3〜4人用程度の中型クッカーでもしっかりと保持してくれるので、複数人分の湯沸かしだけでなく、しっかり料理を作って楽しみたいという人にとって使い勝手がよいアイテムといえます。

▲一体型ガスバーナーの中でも背が低く、太めのバルブ周りというのも安定感を高めている

また、X字ゴトクの持つメリットは、耐風性能にも関わってきます。

「バーナーヘッドの上をゴトクが4分割することでブレードが風から炎口を守るので、風に強いんです」と話すのは、イワタニ・プリムスの金牧さん。

▲ブレードでヘッド上が分割されることで、風の影響を極力受けにくくする構造

シングルガスバーナーといえば小型・軽量がトレンド。それらと比べて、収納サイズや重量面で見れば携行性は一歩譲るものの、安定性の高さと風への強さはアウトドアシーンにおいて十分なアドバンテージといえるでしょう。

 

【理由②】市場の声に応え続けたアップデートの歴史

「発売して30年以上経ちますが、実はかなり細かいアップデートを重ねています。主に火力アップを目指した改良ですが、“単純に燃料の供給量を増やしたり、加工を大きくしたりすればいい”というものではないんです」(金牧さん)

▲イグナイターは2代目から標準装備に

「2243」といえばハイパワー。285個の炎口が生み出すブルーフレイムは3300kcal/hと高火力です。

「燃焼のためには燃料だけではなく、多くの酸素を取り込む必要があります。先ずはバーナーヘッドと燃料のOD缶をつなぐ管にあいた大きな穴から“一次空気”として空気を取り込み、燃焼に必要な約6割の酸素が燃料とミックスされます。この管を“混合管”と呼んでいます」(金牧さん)

▲混合管に施された一次空気を取り込むための穴。ここから必要な酸素の6割を得る

また、良く見てみると、バーナーヘッドの一部に炎口がありません。“火力を出すなら炎口を増やした方が良くない?”と素人目線で思ってしまいますが、これも実は高火力のために一役買っているのだといいます。

先ほどの混合管から燃焼に必要な6割の酸素が取り込まれるとありましたが、ヘッドの炎口がない部分は、残りの4割を得るためのもの。ここから取り込んだ“二次空気”から残りの酸素を得ることで、美しい青炎と高火力を実現できるのだといいます。

ずっと何のための穴なのかと思っていたけど、ここ空気孔だったんですね。

▲ヘッド上の炎口がない箇所から二次空気を取り込むことで、燃焼に重要な酸素の4割を得る仕組み

1985年に発売されて以来、実に10回以上の変更が行われていた「2243」。火力向上はもちろん、それ以外にもバルブのつまみの素材や長さといった使い心地に関わる部分まで、非常に細かい修正を繰り返されてきました。

▲最新のアップデートではつまみが幅広で折り畳み可能なものに変更された

常に市場のニーズに合わせて変化してきたわけですから、ロングセラーというのも納得です。

*  *  *

ちなみに「2243」のバーナーヘッド、他のバーナーにも使われてるって知ってましたか?

「大きいサイズのヘッドのため、火の広がり方が非常に優秀なんですね。高火力はもちろんですが、大型のクッカーにもしっかり火を当てることができるため、オートキャンプ用のバーナーにも採用しています」(金牧さん)

このあたりからも、「2243」の完成度の高さが伺えます。

▲収納時にはバーナー本体とバルブパーツが分割できるため、サイズの割に収納しやすい

1970年代に登場して以来、その携行性の高さやメンテナンス性の良さから徐々に浸透していったガスシングルバーナー。それまで主流だったガソリン式のバーナーと比べて、その軽さとコンパクトさはかなり衝撃的だったと聞きます。

▲クッカーを選ばずに使用できるので、複数人のキャンプやアクティビティ中の食事にも使える

今でこそ、より小型で軽量なシングルガスバーナーが各社から発売されていますが、クッカーを選ばずに使える、安定感のあるバーナーは実はそれほど多くありません。そういうニーズを上手に拾っているのもここまでロングセラーな理由ではないでしょうか。

>> プリムス

>> [連載]The ORIGIN of the CAMP GEAR

<取材・文/山口健壱

山口健壱(ヤマケン)|1989年生まれ茨城県出身。脱サラし、日本全国をキャンプでめぐる旅ののち、千葉県のキャンプ場でスタッフを経験。メーカーの商品イラストや番組MCなどもつとめる。著書に「キャンプのあやしいルール真相解明〜根拠のない思い込みにサヨウナラ」(三才ブックス)

 

 

【関連記事】

◆キャンプで人気のシングルバーナー、SOTO「ST-310」の意外なルーツと人気の理由
◆20年以上愛され続ける名機がリニューアル!“王道かつ定番”なフォアウィンズ「COMPACT CAMP STOVE」
◆収納サイズにもこだわりアリ!人気コンパクト焚き火台「ピコグリル」開発秘話


Amazonベストセラー

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA