「農産物の産地直送」は、さまざまな効果をもたらす。まず、農産物の鮮度を極力保った状態で小売店または消費者に届けることができる。次に、産地の「見える化」を実現できる。転売が繰り返されるうちに産地があいまいになるということが、新興国や途上国の農業で頻繁に起こっていることから、この「見える化」には大いに価値がある。
これはつまり、不当な中間マージンによって生産者と小売業者から搾取するような中間業者を排除する効果もある。じつはここが最も重要であり、農家を含むMSMEs (中小零細事業者)の経済発展を阻害している原因を取り除く必要があるのだ。
こうした背景から、フィリピンで農産物のサプライチェーン改善に取り組む「Kita」というスタートアップが、国際的にも注目を集めている。
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Image Credits:Kita
20平米の倉庫から始まったスタートアップ
2021年、わずか20平米の倉庫からKitaは始まった。20平米は約12畳だから、キッチンやバスルーム、収納を含めたワンルームマンションくらいのスペースだ。創業者はカルロス・ミゲル・“マーク”・コンシオ氏。創業当初は、コンシオ氏自らが母親の中古ピックアップトラックで野菜の輸送をしていたという。
生産者から農産物を預かり、それを小売業者や飲食店に運ぶ。これだけならただのトラック配送業だが、Kitaの場合は生産者向けのデジタルプラットフォームを用意しているのが特徴だ。
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Image Credits:Kita
近代化が遅れているフィリピンの農業に、突如として最先端テクノロジーがもたらされることになったともいえるだろう。
AIが農作物の需要を予測
仲買人すなわち中間業者が乱立するサプライチェーンでは、生産者は自分たちの作った作物の適正価格を知らない場合が多い。知識不足から悪質な中間業者につけ込まれ、“詐欺同然”のような買取価格を押し付けられるという事態が当たり前のように生じている。
彼らと戦うには、“情報”という武器がなければならない。Kitaに限らず、新興国の農業流通スタートアップは「作物の適正価格を知らせるシステム」を構築している。アプリを開くか公式サイトにアクセスすることにより、「マンゴー1キロは今の時点では○○ドル」といった情報を把握できるのだ。
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20平米から1600平米に
たった20平米の倉庫から始まったKitaは、2023年10月にシードラウンド300万ドルの出資を得ることに成功した。
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フィリピンはそもそも、気候にも土壌にも恵まれた土地で構成された島嶼国家である。農業分野は巨大な雇用を創出し、GDPを稼ぎ出すことにも貢献している。一方で、あまりに非効率かつ理不尽な流通過程が農業の発展を阻害していたのも事実だ。
新興国の農家にまとわりつく中間業者問題は、巡り巡って児童労働問題にもつながっている。家が貧しいと、子供たちは学校を休んで家業を手伝わざるを得なくなる。サプライチェーンの改善は、教育問題の解消をも促すことをここで確認しておく必要がある。
そのうえで、Kitaはまだシードラウンドを終えた段階である点にも注目するべきだろう。今後シリーズA、シリーズBと進んでいく中で、ますます事業を拡大していくはずだ。フィリピンのアグリテック分野は、それまでの遅れを取り戻すだけでなく世界最先端の仕組みを構築している。今後のグローバルな躍進にも期待したい。
引用元:Kita
(文・澤田 真一)
- Original:https://techable.jp/archives/231304
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:澤田真一
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