“VPP(仮想発電所)”がアフリカ経済発展の鍵に?Asobaがアフリカの送配電網改革に挑む

世界的な脱炭素の潮流から、太陽光をはじめとした再生可能エネルギーの推進が叫ばれてから久しい。日本でも2012年より固定価格買取制度(FIT制度)の施行以来、大規模な太陽光発電所や風力発電所が至るところに建設されているニュースを日々目にする。

その一方で、経済産業省資源エネルギー庁の「エネルギー白書2023」によると、2020年時点で、世界の総人口の約1割、日本の人口の約6倍にもなる約7.6億人もの人々が電力供給を受けることすら叶っていない。

その未電化人口の77%をも占めるのが、サブサハラ・アフリカである。そんなアフリカ地域において、電力供給インフラを支えるべく仮想発電所(バーチャルパワープラント、VPP)事業を推し進めるのが、Asobaだ。

2021年に設立され、南アフリカ・ケープタウンと米国サンフランシスコにオフィスを構え、アフリカ南部の電力会社や産業用電力利用者に対してVPPソリューションを提供している。

VPPが必要とされる背景

経済産業省資源エネルギー庁によると、再生可能エネルギーは、天候などの影響で発電量が左右され供給量の制御が難しいことから、近年世界では、大規模発電所に依存した従来型のエネルギー供給システムが見直され、需要側の分散型のエネルギーリソースの普及が進んだ。

このような背景から各地に分散して造られた発電所を束ねるのが、VPPである。IoTによって、点在する発電所を遠隔・統合制御することで、電力の需給バランス調整に活用できるようにする。

VPPは、電力負荷の平準化や、再生可能エネルギーの供給過剰の吸収、電力不足時の供給などの機能として電力システムで活躍することが期待され、世界中で官民一体となり少しずつ導入が進んでいる。

Image Credit:Asoba

一般的なVPPのニーズが分かったところで、それではアフリカのような、そもそも電力供給インフラの整備が不十分な地域ではどうだろうか。それについては、Asobaが、VPPのアフリカにおける必要性や、ひいてはVPPがアフリカ大陸の経済発展の鍵になりうることを説明している。

Asobaは、アフリカにおけるVPPの重要性や同社サービスについて、上記動画内でこのように述べている。

「停電は、電力の需要が供給を上回ると発生する。停電を防ぐために電力会社は意図的に特定の地域への電力を遮断する緊急措置をとるが、これは破壊的でコストもかかる。

そこで、VPPとグリッド(送配電網)の分散化が解決策になる。太陽光や風力、蓄電池など、グリッドに接続されていない、あるいはグリッドに縛られていない分散された個々のエネルギー源を、マイクログリッドとして、一つのフレキシブルな発電所として機能するように、ソフトウェアで制御しながら接続するのだ。それがVPPである。

VPPによって、マイクログリッド内の需要の変化に素早く対応することができ、負荷調整の必要性を減らすことができる。また、オフグリッドからの発電も分散化されているため、グリッドで何かが発生しても照明を点灯し続けられる。

Asobaでは、AIを用いて、電力需要や天候パターン、電力市場価格を予測し、可能な限り24時間365日の電力供給を保証する。また、顧客が生産コスト、CO2排出削減、エネルギー効率化にフォーカスできるようになる柔軟性も持つ。

さらに、余剰エネルギーは貯蔵でき、需要が高いときにグリッドに売電することもできるので、余剰電力が新たな収益源にもなりうる。

VPPとマイクログリッドによって、発電と電力利用のあり方が大きく変化しようとしている。停電を過去のものとし、電力を、送電網を本来担うべき企業や人々の手に取り戻すのだ。」

送電網に対する99.999%の信頼を目指して

Image Credit:Asoba

Asobaは、経済発展とは、信頼性が高く、かつ広く利用可能な送電網を通じた電力が存在して初めて実現可能になるものであると考える。しかしながら、アフリカ大陸の全企業の80%近くがその送電網にすらアクセスできないという残酷な事実がある。

そこで同社は、アフリカ随一のクリーン・エネルギー・ネットワークを構築するというビジョンを掲げた。同社による専門的なエンジニアリング、標準化された調達管理、最先端の仮想送電網管理ソフトウェアの組み合わせにより、送電網に対する99.999%の信頼性の達成を目指すという。

電力アクセス改善でアフリカのGDP上昇に貢献

このような野心を抱くAsobaを率いるのが、Google出身で、同社を設立したCEO・Shingai Samudzi氏だ。同氏はアフリカにおける電力・エネルギー業界の見本市「Enlit Africa 2023」のCEOプログラムに参加した際に、以下のように語っている。

「我々がアフリカに興味を持つ理由の一つは、大きなチャンスがあるから。しかし、私自身にとってさらに重要なのは、私がジンバブエ出身だという点にある。私は米国で育ったが、コアはアフリカ人だ。

アフリカでは多大なる潜在的な経済力が抑制されていて、それは電力供給や送電網の不安定さに直接関係している。そのため、より安定した電力供給を可能にし、もっとアクセスしやすくするソリューションを提供できれば、アフリカの潜在的な経済力が引き出され、GDPの成長が実現するのだ。

つまり、1人あたりのGDPと電力アクセスには、非常に密接な関係がある。電力アクセスが良い国は、GDPも良い。アフリカがどこでどのように発展できるのか、実に明確だろう。

再生可能エネルギーは、欧米諸国を中心に、失敗や問題点も抱えながら発展してきた。これらの経験をもとに、アフリカにも横展開できると考える。それが、アフリカにおいても再生可能エネルギーによって国を工業化することができると実証できる効果的な方法になるだろう。」

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米国の調査会社GRAND VIEW RESEARCHのレポートによると、世界のVPP市場規模は、2022年に34.2億米ドルと推定され、2023年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)22%で成長すると予測されている。今後、VPPが世界の電力市場で担う役割はますます高まっていくであろう。

加えて、アフリカでは人口成長率も著しく、IMF(国際通貨基金)のレポート「AFRTICAN CENTURY」によると、アフリカの人口は2050年に約25億人に達し、世界人口の約4分の1を占める世界最大の人口を擁する経済圏になると、2022年時点では予想されている。

つまり、約25年後には地球の4人に1人がアフリカ人になるのだ。当然、必要とする電力もその分増加していく。このようなデータから、今後アフリカでのVPP市場がさらに盛り上がっていくことは一目瞭然であろう。

プレーヤーも増えていくと予想されるなか、アフリカにおけるVPPビジネスに比較的早期に着手したAsobaは先行者利益を得続けられるだろうか。今後のAsobaの活躍に要注目だ。

参考・引用元:
Asoba公式サイト
Asoba LinkedIn公式ページ

(文・Mika Ito)


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