スマート気象気球×AI、正確な天気予報を実現する米WindBorneの技術

気候変動の影響で、台風や豪雨による洪水被害、気温上昇による干ばつや森林火災などが世界中で発生している近年、政府や企業、エネルギー供給者、救援団体の間で“正確な気象予測”への需要が高まっている。

精度の高い気象予測は、災害による被害の抑制だけでなく、太陽光発電や風力発電などの運用における出力変動・電力需要の予測にも役立つ。

しかし、気象は地球規模のシステムであるため、精度の高い予報はなかなか得られないのが現状である。実際に、米国カリフォルニア州に10億ドル以上の被害をもたらした北米西海岸の冬の嵐も、予測するのが非常に困難だったそうだ。

そんな中、米国発のスタートアップWindBorne Systemsは、次世代のスマート気象気球から収集した独自のデータソースと、ディープラーニングモデルを融合することで、これまで不確定要素の高かった気象予報の分野にイノベーションを引き起こしている。

テクノロジー活用で“気象の不確実性”の解決へ

一般的に、正確な気象予報は地表から成層圏に至る大気のリアルタイム観測に依存しているが、米国海洋大気局は大気の85%は十分に計測できていないとしている。政府は予測を改善すべく、気象データに毎年100億ドル以上を費やしているという。

Image Credit:WindBorne Systems

世界各地で正確な気象予測が求められるなか、WindBorne Systemsはスタンフォード大学の宇宙構想プロジェクトとして2019年に誕生した。

「大気データのギャップを解決し、これまで目に見えなかった85%の大気領域へのアクセスを可能にし、そのインテリジェンスを使って気候変動に対処する」を使命に、同社は大気中の重要なデータを収集する「WindBorne Global Sounding Balloon」(以下、スマート気象気球)の設計、製造、運用を行っている。

スマート気象気球からの気象データと最先端のAIを融合して、気象の不確実性を解決するというWindBorne Systemsの技術は、米国の政府機関も注目されている。

同社はこれまでに米国海洋大気庁(NOAA)、米国空軍、海軍研究局、国立大気研究センター(NCAR)、国防イノベーションユニット(DIU)などの主要政府機関との契約ですでに収益を生み出した。

Image Credit:WindBorne Systems

WindBorne Systemsの気象予測技術により、ハリケーンや洪水、竜巻など悪天候の正確な経路と強さを予測すれば、公共の安全が向上し、数千億ドルの被害を軽減できるだろう。

また、山火事が最も激しく燃える場所と次に風が吹く場所を知る必要がある消防士に情報を提供することで、被害拡大を防ぐといったことも期待できそうだ。

WindBorne Systemsの次世代スマート気象気球

Image Credit:WindBorne Systems

WindBorne Systemsのスマート気象気球は、持続時間と制御性の高さで、これまで達成できなかった世界規模の大気観測を実現する。従来の気象観測気球が約2時間しかデータを収集しないのに対し、同社のスマート気象気球は1か月以上自律飛行して気象データを収集することが可能だ。

また、知名度の高いほかの気球とは対照的に、コスト効率が高く小型である点も魅力だろう。打ち上げ時の重量は1機あたり6ポンド以下で、手のひらに収まるセンサー・ハウジングを搭載している。

軽量かつ排出ガスもゼロになるように設計されているスマート気象気球は風によって推進するため、恒久的な観測を手頃な価格で持続可能なものにしている。

WindBorne Systemsは、2023年時点で600以上の気球を打ち上げており、大気圏の河川、北極サイクロン、さらには2022年に米国で大災害をもたらしたハリケーン「イアン」など、世界中の異常気象の中で使用した。

高精度なAI気象予測モデル「WeatherMesh」

Image Credit:WindBorne Systems

2024年2月、WindBorne Systemsはディープラーニングとデータ集積技術を通じて、正確な地球規模の中期天気予報を生成する新しいAI予測モデル「WeatherMesh」を発表。同モデルは気温、気圧、風速と風向、露点、雲量、入射放射線、降水量を予測するもので、数年分の予報の進歩に相当する。

WeatherMeshはディープラーニング数値天気予報(DLNWP)モデルとして、24時間のリアルタイム予報において、すでに世界的な予測精度に達しているという。たとえば、GoogleのAI開発組織であるGoogle DeepMindのAI気象モデル「GraphCast」が以前に保持していた記録を超えている。

WeatherMeshは、主要な予測指標である500ミリバールでのジオポテンシャル(地球の重力ポテンシャル)の高さを正確に予測し、GraphCastを11%上回った(0.25度の解像度で評価)。

そのほか、欧州中期天気予報センター(ECMWF)の中期モデル(ENS)が保持する数値天気予報(NWP)として知られる物理ベースの気象モデルの予測精度を凌いた実績もある(WeatherMeshは、5日間予測においてENSより6%~14%高かった)。

スマート気象気球のナビにWeatherMeshを活用

WeatherMeshのAI基盤は、膨大なトレーニングデータとライブ入力データの両方を大規模に処理することが可能。スマート気象気球を通じて取得された温度、風速と風向、気圧、湿度のリアルタイム測定値を含む、WindBorne Systems独自の大気データも活用している。

WeatherMeshは現在、独立して訓練された2つのプロセッサ(1つは1時間のタイムステップ、もう1つは6時間のタイムステップ)を使用。この組み合わせにより、1時間ごとの解像度で任意の長さの予報を生成できる。

Image Credit:WindBorne Systems

スマート気象気球のナビゲートにも使用しており、運用の際は予報をつなげて1週間先までの予報を作成しているという。

このように、リアルタイムの天気予報を提案するWeatherMeshは、公的機関のほか、運輸・物流、農業、航空、旅行、イベント、公共事業、保険、エネルギー・グリッド運用などの業界における商業的応用を実現し、1000億ドル規模に拡大する予測市場の一翼を担うと期待されている。

参考・引用元:WindBorne Systems

(文・たに おさむ)


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