近年、オンライン食料品配達サービス業界における競争が激化している。
StatistaのOnline Food Delivery のレポートによると、世界のオンライン食料品配達市場は2024年には1兆2200億米ドルに達し、CAGR9.49%で2029年には1兆9200億ドルにまで成長すると予測されている。特に中東地域では、デジタル技術の普及やパンデミックの影響によって食料品配達サービスの急速な成長が見られる。
アラブ首長国連邦(UAE)では、多国籍な人口構成も一因となり、多様な食文化に対応した食料品配達サービスのニーズが非常に高い。そのUAEで2015年に設立されたのがInstashopだ。ドバイを拠点としながらエジプトやオマーン、カタール、バーレーン、レバノン、ギリシャといった中東・北アフリカ地域で食料品配達サービスを展開する。
Instashopならではの強みと独自性
食料品配達サービスの大手にはUberやAmazonなどがあるが、それらと比較したInstashopの優位性とは何だろうか。次の4点が考えられる。
①地域密着型サービス:大手企業が提供する標準化されたサービスとは異なり、Instashopは地域の特性に合わせたカスタマイズされたサービスを提供している。②迅速な配達:配送先にもよるが、平均30~60分で配達が完了するという。短時間での配送は、特に新鮮な食材が求められる食料品配達において非常に重要だ。大手配達サービスは広範なエリアをカバーする一方で、配達時間が長くなる場合がある。
③地元のスーパーマーケットや専門店との強力なパートナーシップ:多様な商品ラインナップが実現するのは、仕入先との良好な関係があってこそ。ユーザーは新鮮な食材や日用品を簡単に購入できるだけでなく、地元のニーズに合った特別な商品も入手できる。
④ユーザーエクスペリエンス:使いやすいアプリと直感的なインターフェースも魅力の一つである。顧客はアプリを通じて注文のステータスをリアルタイムで追跡でき、配達時間の選択肢も豊富だ。2024年6月時点で当該アプリのApple Storeにおける評価は星4.8と非常に高い。
食料品以外の豊富な事業展開
筆者もアプリをダウンロードしてみたが、サービス対象地域外のため閲覧ができなかった。ただし、Webブラウザからのショップや商品の閲覧は可能だ。
Instashop公式サイトの「Shop now」より入り、「Marketplace」へ訪れてみると、ショップが分かりやすく分類され、また各ショップの評価も表示されており、欲しい商品までスムーズに辿り着ける仕様となっている。
また、サイトを訪れると一目瞭然だが、同社が配達する商品は食料品だけではない。処方薬、ペット用品、コスメ、生花など合計16種類のサービスから選ぶことができる。市販薬、ペットケア製品、精肉の取り扱いは2019年6月から試験導入したのち同年10月に正式ローンチした。市販薬だけでなく、処方せんをアプリにアップロードすれば処方薬も配達してもらえる。特にパンデミック期間中に重宝されたサービスだ。
B2B市場への進出により更なる高みへーGroCart買収
2023年6月には、InstashopはB2BオペレーターであるGroCartを買収し(買収価格非公開)、卸売部門への進出を果たしている。GroCartは、200以上の主要サプライヤーと提携し、5000以上もの商品を提供する企業だ。この買収により、Instashopは小売顧客の獲得だけでなく、レストランやホテルなどのビジネス顧客にもサービスを拡大した。GroCartと自社の既存のインフラを統合することで、より効率的なB2Bソリューションも実現している。
B2B市場への進出は、安定した収益源を確保し、ビジネスの持続可能性を高める重要なステップである。この戦略的な拡大により、Instashopは市場シェアを拡大し、さらに多様な顧客基盤を持つことができた。
なお、Instashopは2020年にはドイツのDelivery Heroへ3億6000万米ドルで売却されている。InstashopはDelivery Heroの広範なネットワークやインフラを利用し新市場に参入できるようになり、配達効率やサービス品質の向上にも繋がった。このように、変化を恐れず短いスパンで柔軟に会社の形を変え成長していくスタイルも、同社の急成長に貢献していると言えよう。
中東の食料品配達市場を変革した創業者のチャレンジャー精神
Instashopの共同設立者は、ともにギリシャ出身であるJohn Tsioris氏とIoanna Angelidaki氏。
John Tsioris氏は、ギリシャのクレタ工科大学で生産工学を学び、オランダのロッテルダム経営大学院で総合経営学を修了。Philipsの中東及びトルコ地域管轄マーケティングインテリジェンス部門を設立しマネージャーを務め、同社在籍中から音声ソーシャルネットワークサービスを展開するVoundを創設した。
PhillipsおよびVoundから離れた後、Instashopを立ち上げCEOに就任したが、2023年11月にはこの座を退き、 COOであったNikola Cabarkapa氏に引き継いだ。 なお、その後John Tsioris氏はテクノロジー企業Revotechを創設してCEOに就任している。
また、Ioanna Angelidaki氏は、InstashopだけでなくVoundの共同設立者でもあった。InstashopではCMO(最高マーケティング責任者)としてスタートアップ文化と電子商取引の波に乗り、同社の成功を支え続けた。InstaShopがMENA地域の主要オンラインマーケットプレイスへ大きく成長できたのは、彼女のマーケティング戦略とビジョンあってこそ。 同氏も2024年2月にInstashopのCMOより退任し、現在は新たな道に向かって進もうとしている。
食料品配達市場がさらなる拡大を見せるなか、競合は一層激化することが予想される。Instashopはその革新性によって王座の地位を保ち、さらなる新境地を開拓できるだろうか。同社の未来に益々期待が高まる。
参考・引用元:
Instashop
Instashop LinkdIn公式ページ
John Tsioris氏 LinkdInページ
Ioanna Angelidaki氏 LinkedInページ
(文・Mika Ito)
英国在住。元総合商社勤務、現在は在宅フリーランスとしてWebライター・業務支援などに携わる。
- Original:https://techable.jp/archives/237577
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:芥田かほる
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