令和のポラロイドカメラを体験! 最新デジカメに慣れきった体が目覚めます。「Polaroid I-2」試用レポ

“ポラロイド”という言葉、一度は聞いたことがあるんじゃないでしょうか。インスタントカメラの代名詞として長い歴史を持っています。折りたたみ式の「SX-70」という50年前のモデルが今でも人気で、ポラロイド用フィルムも紆余曲折ありつつ現在も入手可能です。

インスタントカメラというのは、撮影したその場で、つまり現像のために写真屋さんにフィルムを預けたりしなくても画像を見られるのが特徴です。今やカメラといえばデジタルで、そうでないものを「アナログカメラ」と呼ぶようになりましたが、かつてインスタントカメラが登場した時の驚きはどれほどのものだったでしょうか。今回は最新のインスタントカメラ「Polaroid I-2」を、アナログ時代の撮影術にも思いを馳せながら楽しみました。

▲カラーとモノクロのフィルムを用意しました。ポラロイド用のフィルムは何タイプかありますが、「i-Type」という電池非搭載のフィルムが価格的にも入手性的にもオススメ

▲カートリッジをカメラの手前側から挿入します。「ウィーン!」というメカニカルな音とともに遮光紙が排出され、撮影可能な状態になります

ちなみに、富士フイルムの「チェキ」(INSTAX)もインスタントカメラの仲間です。I-2が使うフィルムは画面サイズが77×79mm、チェキで最もポピュラーなINSTAX miniの画面サイズは62×46mm、デジカメ好きの合言葉「35mmフルサイズ」(35mmフィルムの1コマと同じ)は36×24mm。インスタント写真はフィルムをそのまま鑑賞するので、フィルム自体が大きい必要があるんですね。これだけでも令和におけるインスタントカメラのゼイタク感、伝わるでしょうか。

そうそう、たまに「写ルンです」もインスタントカメラと混同されますが、写ルンですは普通のカラーネガフィルムを使って撮影するためインスタント写真ではありません(撮影後、写真屋さんに行く必要がありますね)。写ルンですのような製品をカメラ業界では「レンズ付きフィルム」と呼んでいます。そして、“使い捨てカメラ”とは呼べないぐらい、リユース&リサイクルが徹底されてきた歴史を持っています。

▲Polaroid I-2で使用するフィルムの画面サイズは77×79mm。撮影してから画像がハッキリ見えるまでに、5〜10分ぐらいかかります

ポラロイドの話に戻ります。このほど登場した「Polaroid I-2」というカメラは、最新のレンズ製造技術とカメラ技術を組み合わせて、昔ながらの味わいあるインスタント写真の世界に没入できる本格派のモデルです。日本ではクラウドファンディング経由で税込9万8075円(カラーフィルム2パック付き)、一般発売時は税込13万9800円になるようです。フィルムは1パック8枚入りで税込3490円からと、なかなかにプレミアムな体験です。

▲Polaroid I-2のお姿。アイコニックでキュートでステキです

正面から見た姿は、どこか懐かしいポラロイドカメラの面影があります。赤いボタンでシャッターを切ります。そして背面を見ると、縦長の表示画面があり、パワーボタンの長押しで起動します。全体的にデザインがスマートで、ポラロイドカメラのアイコニックな姿と、現代的な操作インターフェースが融合しています。心地よい操作感を持つ金属製のダイヤルは、単純なカメラ操作を上質な体験として演出しようという狙いが感じられます。

▲前面。左の赤いボタンがシャッターレリーズ、その上がフラッシュ。中央の撮影レンズを挟んで右側は、上からLiDARセンサーとファインダー

▲溝の刻まれた部分は、撮影設定時に使うダイヤル。金属製でクリック感も品位があります。手前のノッチが付いているダイヤルは露出補正

▲情報表示パネルはハイテク感があります。レンズ周囲のダイヤルと表示パネル下の横長ボタンを併用して、撮影モードや設定項目を切り換えます

さて撮影ですが、これは必ずしも優雅なお楽しみではありません。思った通りの構図で、ピントが合っていて、適切な明るさで、手ブレもなく…スマホのカメラであれば意識すらしないようなことが、このカメラではとても重要です。

ピント合わせはオートです。LiDAR測距という、照射したレーザー光が被写体に当たって戻ってくるまでの時間を測って距離を算出する方式です。被写体に光を当てるので、途中にガラス面があったりすると距離測定が思い通りにいかないケースもあるでしょう。ファインダーを覗いてもピントの合い具合は見えませんが、左下に撮影距離(ピントを合わせているものまでの距離)が表示されるので、目で見た被写体までの距離とだいたい一緒であれば、大ハズシは回避できます。

▲手ブレ補正機構なんて存在しませんから、いかにカメラをホールディングするかのワザが問われます。肘をついたり、柱に寄りかかったり……この緊張感も今や楽しいのです

▲参考までにファインダー内をスマホで撮りましたが、肉眼ではもっと歪み・滲みなく鮮明に見えます。画面の右上寄りを囲んだ部分は、“近距離だとこれぐらいの範囲が写るよ”という目安。ファインダーと撮影レンズが別々のため、パララックス(視差)が生じます。一眼レフ/ミラーレスカメラにはない現象です

自動モードで撮影する場合、カメラ前面の赤いシャッターボタンを半押しすると、ピント合わせと露出設定が行われます。まずは、撮りたい被写体を真ん中に置いてみるといいでしょう。慣れたら“AFロック”というワザを使って、シャッターボタン半押しで狙った被写体にピントを合わせつつ、ピントが合ったら指を離さずカメラを動かして被写体の置く位置を調節し(カメラを前後に移動するとピンボケするので注意)、それからシャッターボタンを全押しします。被写体を真ん中に置いた“日の丸構図”だけではツマラナイと思った場合に試してみてください。

▲充電はUSB Type-C端子から行います。満充電でフィルム15パック分(120枚)を撮影可能とありますが、私のお財布が持ちません。左は外部フラッシュ用のシンクロ端子です

▲純正スマホアプリ「Polaroid」を使うと、スマホカメラで撮影フィルムをスキャン(複写)して共有できます。アプリからカメラの設定操作も可能です。ハイテクです

▲Polaroidアプリで複写しているところ。フィルムのフチを自動検出するので、斜めから撮っても補正してくれます。映り込みを避けるのに便利です

こうして数日間、I-2を連れて出かけましたが、私は1日に3枚ぐらいを撮るのがいいところでした。先に述べたピント、ブレ、そもそも写真的に面白いか……などと熟考していると、なかなかお気楽にシャッターを切れません。いざカメラを構えても、「本当にそれでいいのか? フィルム1枚いくらだと思ってるんだ? 結果を見て撮り直すのに10分かかるぞ?」みたいな鬼コーチが肩にずっと乗っかっている感じなのです。

しかしこの生々しいプレッシャーが、ようやくシャッターを切れたときのカタルシスを生み、じんわり現れた画像が狙い通りだったりすると心の底から嬉しいわけです。これこそ他のカメラでは得られない体験であり、アナログ時代に名作を残してきた“写真家”の偉大さを思い知ります。あえて制約の中に身を置くという意味では、ライザップ的というか、とにかくそんな「写真道」が見えてくるのです。

▲よくありそうなモチーフですが。珍しい形のカメラに、観光客の視線を感じます

▲パーキングエリアに停めたクルマを撮影。内蔵フラッシュを当てたことでメタリック感が強調できました

▲懲りずに夜景撮影。片膝立ちの状態で、膝に肘をつき、呼吸を止めて1秒。ブレはしませんでしたが、露出アンダーでした。落ち着いてマニュアル露出モードに切り換え、より長い露光をかけるべきでした

例えば、初日に3〜4枚撮影したら、その写真を見て「このフィルムは暗めに写るのか、じゃあ今度は少し露出補正をプラスにしてみよう」、「絞ったらもう少しシャープに写るのかな?」と発見があり、次の日にまた3〜4枚。私には、それぐらいのペースが合うなあと思いました。

▲思ったよりコントラストが高く、ビルの外壁が暗く落ち、夕陽のギラリとした反射が引き立ちました。スマホアプリで複写する際にデスクライトの光が入ったため、フィルム表面のスリ傷が目立っています

▲こちらはモノクロフィルムで撮影。フィルム自体の特性か、気温が高かった影響か、狙いよりかなり明るく写ってしまいました。背景も消し飛んで鉛筆画のような雰囲気です

▲その夜、明るめに写る特性を見越して、室内で三脚にセット。絞りも少し絞って撮影。ようやく期待通りに撮れました

そして思い知ったのは、三脚の偉大さでした。室内で静物を撮る時、暗いからマニュアル撮影で、シャープに写したいから多少絞り込んで(F8ではなくF16とかF32にする)、と設定していくと、シャッタースピードは数秒にもなります。1/60秒でもブレる時はブレるのに、数秒間も微動だにしないのはムリです。光量もなければ手ブレ補正もない。頼れるものは三脚だけでした。

▲底面に三脚ネジ穴があります。室内撮影では三脚の偉大さを思い知りました

そんなこんなで最新のポラロイドカメラを通じて、昔の人の凄さを追体験しつつ、入魂の写真が数日で数枚だけ手元に残るという、実にゼイタクな時間を過ごしました。&GPのYouTubeチャンネルでは、&GP編集部の若澤さんと一緒に多重露光にも挑戦してみましたので、ぜひご覧ください。レジャーのお供に、お互いを撮りっこするのも素敵な思い出になると思います。

今回体感したPolaroid I-2は、買ったら即、バエる写真が撮れるお気軽アイテムではなく、操作がシンプルゆえにレンズやフィルムの特性をトライ&エラーで感じ取りつつ、だんだんイメージした写りに近い写真が撮れるようになっていくという、自分自身の成長を楽しめるカメラでした。便利機能満載のデジタルカメラに慣れきっていた私の体もビシッと目覚め。これでイイ写真を撮れるようになる頃には、きっとどんなカメラでも名作をモノにできるでしょう。“いい写真養成ギプス”とも名付けたい一品でありました。

▲ある日の撮れ高。「次はもっと上手く!」という欲求が湧き上がりました

>> Polaroid

<取材・文/鈴木

鈴木|ライター。カメラ専門ニュースサイトの編集記者として14年間勤務し独立。趣味はドラム/ギターの演奏とドライブ。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。YouTube「鈴木誠のカメラ自由研究

 

 

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