【達人のプラモ術】
ホビーの達人流HowTo
<エアブラシ編>
03/03
プラモの達人流エアブラシ解説の第3回となる今回は、エアブラシを使った塗装中にありがちなトラブルとその原因、そして解決法を紹介します。
長谷川迷人|東京都出身。モーターサイクル専門誌や一般趣味雑誌、模型誌の編集者を経て、模型製作のプロフェッショナルへ。プラモデル製作講座の講師を務めるほか、雑誌やメディア向けの作例製作や原稿執筆を手がける。趣味はバイクとプラモデル作りという根っからの模型人。YouTube「
モデルアート公式チャンネル」などでもレビューを配信中。
【Q1】エアブラシ使用後に洗浄を忘れて、カップの中の塗料がゲル状になってしまった
使用後に塗料を抜いて、エアブラシ内は洗浄しておくのが基本ですが、つい洗浄を忘れてしまうこともあります。塗料カップの蓋がしてあれば1〜2日程度は塗料を入れたままにしておいても問題はありませんが(使用時に再稀釈は必要)、溶剤が揮発してしまい、塗料がドロリとした状態になってしまった、塗料の薄め液で洗浄してもカップ内の塗料がキレイ取れない。さて困った!
<A:専用のクリーナーで内部を洗浄する>
エアブラシ内部で塗料の溶剤が揮発してドロリとした状態になってしまった場合、溶剤で再希釈しエアを逆流させてて攪拌すればカップ内部の塗料は元の状態に戻ります。しかし、エアブラシ本体内部の塗料はなかなか溶けてくれません。
こうした場合、ラッカー系塗料であれば強力な「エアブラシクリーナー」「ツールクリーナー」といった洗浄用溶剤を使うことで塗料を溶かせ。
カップ内にクリーナー溶剤を入れ、3〜5分程度置いてからエアを逆流させて攪拌→カップ内の塗料を捨て吹き。これを2〜3回繰り返ことでエアブラシ内部に残った塗料も落とせます。洗浄後、エアブラシを分解してニードルの汚れなどを拭き取ればより完璧です。
ただし分解洗浄は、知識がないとニードルを曲げたりノズルを破損させる恐れもあるので、自己責任でおこなってください。
▼水性塗料の場合
一部の水性系アクリル塗料は、有機溶剤を含むクリーナーを使用するとゲル状になってしまい、かえって事態を悪化させてしまうので注意が必要です。
一度固まった水性塗料は専用溶剤や水で洗っても溶かすことができません。その場合のオススメは、家庭用洗剤のマジックリンを使います。そう! 台所の油汚れを落とすのに使われている家庭用洗剤です。
水性塗料を使用したあとのエアブラシのカップにマジックリンを入れ、エアを逆流させてすすぐことで、こびりついた塗料も分解されてキレイに洗浄できます。
ちなみにラッカー系塗料には効果がありません。マジックリンはエアブラシ洗浄だけではなく、アクリル塗料を使った筆の洗浄、またアクリル塗料で塗装したパーツの塗料落としにも使えます。溶剤成分を含まないので筆の穂先やプラを傷めません。
■エアブラシ洗浄に効果抜群のクリーナー
▼タミヤ「エアブラシクリーナー」(726円)
エアブラシのメンテナンスなどに適した強力タイプの洗浄液。洗浄が難しいエアブラシ内部に付着した塗料の汚れも、きれいに洗い落とせる
▼Mr.ホビー「Mr.ツールクリーナー 改(特大)」(880円/400ml)
筆やエアブラシに付着した塗料を、強力に落とせる。塗料成分を破壊してしまうので、うすめ液としては使用できない。同様に下地を侵す(プラスチックを溶かす)ため、塗料はがし液として使用も不可。
▼ガイアノーツ「T-04L ツールウォッシュ」(1760円/1000ml)
筆やエアブラシの塗料汚れを強力に落とす洗浄用溶剤。プライマーなど硬化後に強く塗膜となる塗料でも溶解効果が高い。
【WARNINIG!】
クリーナー系溶剤は有機溶剤が含まれていることで刺激臭の強いものあるので、使用時には必ず換気を心がけてください。また強力なのでクリーナーを入れたまま放置するのはNGです。エアブラシ内部に使われているOリングを痛めてしまいます。またプラスチックも侵してしまうのでパーツの表面を拭くのもNGです。
▼アクリル塗料の洗浄に抜群の効果!
花王「キッチンマジックリン」(実売価格:250円〜400円前後)
マジックリンは「強アルカリ系洗剤」に分類されており、タンパク質や油脂を分解する特性がある。この特性を利用してメデュムの成分が化学組成的に油脂に近い性質を持つ水性ホビーカラーなどの水性アクリル系塗料、シタデルカラーなどの水性エマルション系塗料を分解、洗浄することに応用できる。使用経験ではタミヤアクリル、Mr水性カラー、ファレホ、Vicカラー、シタデルカラーで使用可。
【Q2】空気は出るけど塗料が出ない!
さて塗装という時に、エアブラシから空気は出るんだけれど塗料がでない! カップにはちゃんと塗料も入っているのに…。こんな経験ありませんか?
<A:エアブラシ内部のパーツの緩みをチェック!>
空気は出るのに塗料が出ないといったトラブルでは、原因がいくつかあります。前回解説したように、エアブラシは大変細いノズルから塗料を吹くため、模型用塗料の大半は希釈が必要です。濃いままの塗料を使用してしまうと(顔料粒子の粗い金属色含む)、塗料が出ない場合があります。
しかし、塗料も希釈しているのに吹き付け出ない…。その原因の大半はパーツの緩みです。
①ノズルキャップの閉め忘れ
ノズルキャップが緩んでいると塗料は出ません。この場合、カップ内に空気が逆流するのですぐに分かります。
②ニードルチャックネジの閉め忘れ
この状態ではボタンを押しても(あるいはトリガーを引いても)、ニードルが後退しないので塗料は出ません。
③塗料ノズルの閉め忘れ
全分解メンテナス等をした後にありがちなのが、塗料ノズルの閉め忘れです。ノズルを本体に取り付ける際の締め込みが足らず、正しい位置に取り付けられていないと、エア漏れを起こして塗料が出なくなります。ただし塗料ノズルは非常に精密なパーツなので、ねじ込む際には専用のノズルレンチを使う等、細心の注意が必要です。
④ゴミ(塗料の欠片など)の混入
またごく稀にですが、カップに入れた塗料にゴミや固まった塗料の欠片などが混入して、それが詰まって塗料が出ないということもあります。この場合は、先に紹介しているエアブラシクリーナーやエアブラシメンテキットを使っての分解掃除が必要となります。
▲Mrホビーの「エアブラシ プロコンBOY WAアクション」に付属している内部図解。各パーツの位置関係が良くわかる
▲①がニードルチャック。②はニードルスプリングケース。この部分も閉め忘れや緩みやすい部分でもあるので定期的にチェックが必要だ
▲ノズルキャップは、カップ内洗浄の際に空気を逆流させるため緩めることがあるので、閉め忘れが多いので気を付けたい
▲塗料ノズルは、そう頻繁に取り外すことはないが、大規模メンテナンスで取り外して、取り付ける際に締め付けが甘いと緩むことがある
▲ただし締めすぎるとネジ山をねじ切ってしまうことがあるので、取り扱いは慎重に行いたい
【Q3】エアが出たまま押しボタン(トリガー)が戻らない!
どちらかといえば、ダブルアクションタイプで起きやすいトラブルです。
吹き付けの際、押しボタンから指を離したのに、ボタンが戻らずエアが出たままになる、あるいは戻るけれど戻りが渋い、といった症状です。トリガータイプでは、同じように引いたトリガーが戻らず空気が出たままになるといった症状です。
指で引っ張れば元に戻るのですが、これでは使いにくいので何とかしたですよね。
<A:押しボタンのシャフトを洗浄すれば解決!>
戻りが渋くなる原因は、押しボタンのシャフトが貫通しているピントンパッキンに塗料が入り込み、固まってしまうためです。
症状が出たら分解して、押しボタンのシャフトをクリーナーで洗浄。汚れがひどい場合は、綿棒を使いピストンリング側も洗浄します。
最後に押しボタンのシャフトにグりス(メンテナンスキットに付属)を塗布してやれば、スムーズ動くようになります。
▲Mr.ホビーの「エアブラシ プロコンBOY トリガータイプダブルアクション」に付属している取扱説明書
▲ダブルアクションでは押しボタンのシャフトに塗料が回ることで動きが渋くなってしまう
▲取り外した押しボタン。矢印のシャフトに塗料が付着することで動きが悪くなる
▲矢印が指している穴の部分が押しボタンのシャフトが収まるピストンリング部分。ここに塗料が固着してしまうと、やはり押しボタンの動きが悪くなってしまう
▲トリガータイプでは矢印のスライドカムが塗料で汚れると動きが渋なりトリガーも戻りが悪くなる
【Q4】突然エアブラシが水を吹いた!
毎日蒸し暑い日が続きますね。こんな日は外に出ずにクーラーの効いた家で模型製作に没頭するのが一番ですよね。とはいうものの、プラモのエアブラシを使った塗装の大敵が湿度なのをご存知ですか?
雨の日や湿度の高い日にコンプレッサーに繋いだエアブラシを使って塗装していたら、いきなりビシャッと水を吹いて塗装が台無しになってしまった…。水性塗料でもないのになんで? って経験のある方も多いと思います。なぜこんなことが起きるでしょう、そしてどうすればふせげるのでしょうか?
<A:レギュレーターやフィルターを使うことで水吹きを防ぐ>
湿度の高い日や、コンプレッサー稼働時間が長い時に起きるトラブルが、エアブラシの水吹き問題です。
コンプレッサーが空気を圧縮した際、空気に含まれる水分も圧縮されます。その結果、大量の水分を含んだ圧縮空気となり、エアブラシに繋いだホース内で空気が冷やされることで、そこで結露、水滴に。これがエアブラシで塗料に混入し、一緒に吹き出してしまうために起こるトラブルです。
ホース内で結露する量は多くはありませんが、ホースの中の結露は確認しづらいため、ある日突然、塗料と一緒にビシャッと吹き出してしまうということです。
これを防ぐには、湿度高い日は塗装をしない…。それがベストではあるのですが、高温多湿の日本ではそうもいきません。
そこで対策としてコンプレッサーに水抜きタンクを装備する、あるいはエアブラシにドレンキャッチャーを取り付けることになります。
水抜きタンクの場合は、コンプレッサーの空気をいったんタンクに貯めて、そこからホースに空気を送るので、含まれる水分がホースに回るのを防いでくれます。
市販されている多くの模型用コンプレッサーは、初めから水抜きタンク装着されているものが多く、大抵の場合、エアーの圧力を調整するレギュレーターと一体になっています。模型用のレギュレーター(水抜きタンク)は、タミヤやMr.ホビーをはじめ各社から発売されているので、現在使用中のコンプレッサーに水抜きタンクが付いていない場合でも、後付けが可能です。
また、小型のコンプレッサーや低圧タイプでは、水抜きタンクがつけられない場合もあります。
その場合、簡易型としてエアブラシとホースの間に取り付けるドレンキャッチャーがあります。エアブラシとホースの間に繋ぐことで空気をいったん内部に溜めてくれるので、エアブラシに結露した水が回るのを防いでくれます。
あと達人的には、コンプレッサーに水抜きタンク、さらにコンプレッサーとエアブラシを繋ぐホースに透明なものを使用して予防しています。ホースが透明だと内部の結露が目視できるメリットがあります。そして最終防衛線として、エアブラシにドレンキャッチャーを装着することで水吹きを防いでいます。
▼タミヤ「エアーレギュレーター メーター付き」(6600円)
コンプレッサーからのエアー圧力の調整およびエアー中の水分やホコリも取り除けるレギュレーター。レギュレーターのないコンプレッサーに接続して使用する。本体上部の調整ダイアルを回して、エアーの圧力をゼロから最大まで無段階に調整できる。エアー圧力が一目でわかるメーター付。エアーホース接続は、模型用エアブラシの一般的な規格ネジSサイズを採用しているので、ほとんどのホースが取り付け可能。
▲タミヤ「スプレーワーク パワーコンプレッサー」(3万9600円)はエアーレギュレーターを標準装備している
▼Mr.ホビー「Mr.ドレン&ダストキャッチャー ライト」(3850円)
「Mr.ドレン&ダストキャッチャー」をエアブラシに接続することで、エアブラシ手前でエアホース内の水滴を除去してくれる。「ライト」タイプはアルミ製で24gと軽いのが特徴。また取り付けることでグリップの替わりにもなり、エアブラシが握りやくなる。
▲「Mr.ドレン&ダストキャッチャー」を取り付けた状態。これによりエアブラシのホールド感が良くなり、吹き付けの際の安定感が増す
▼タミヤ「エアーブラシ用フィルター」(2090円)
エアブラシとホースの間に接続することで、水分とホコリがエアブラシに侵入するのを防げる簡易フィオルター。「HGエアーブラシ」「エアーブラシライト」をはじめ、他社のエアブラシにも装着可能。本体がクリヤーブルーなので水が溜まっても視認しやすい。内部に溜まった水分はバルブを押すだけで排出できる。
▲「エアーブラシ用フィルター」を取り付けた状態。本体がクリヤーブルーなので水が溜まってもすぐに分かる
▼ウェーブ「HG スパイラルエアホース」(1980円)
ホースが透明なので、結露した水を確認しやすい
▲ウエーブの商品紹介でもホース内の結露が見やすいことを謳っている
【Q5】金属色を吹いたあと洗浄したのに、いつまでも金属粒子が取れない!
エアブラシでシルバーなどメタリック色を吹いたあと、しっかりと洗浄したにも関わらず、次にカップに入れた色に金属粒子が混ざってしまう。特にシルバーのあと黒色を塗装したような場合、塗装にシルバー粒子が混ざってしまうといったトラブルがあります。
エアブラシクリーナーなどを使ってしっかり洗浄したのに、銀の粒子がなかなか取れない。これも困ったものですよね。特にダーク系のソリッドカラーで仕上げたいカーモデルのボディに粒子が混ざってしまうのは最悪です。
<A:濃い塗料でしつこい金属粒子を絡めて排出!>
シルバーやゴールドなどのメタリック色は、金属粒子が含まれているため、エアブラシクリーナーやツールクリーナーを使っても通常のうがい洗浄ではなかなか取れません。エアブラシメンテナンスキット使っての完全分解洗浄という手もありますが、これも扱い慣れていないと、ニードルを曲げたり、ノズルを潰してしまったりといったトラブルの原因になるので、ビギナーユーザーにはあまりオススメできません。
塗装に気を使うカーモデラーに中には、エアブラシをソリッド系カラー専用とメタリック色専用を使い分けてる人もいます。詰まる所、それくらい洗浄が厄介だということです。
でもそのためにエアブラシをもうひとつ購入というのも懐に痛いですよね。
実はエアブラシ内部にこびりついた銀粒子は、意外な方法で落とすことができます。
通常のうがい洗浄を行ったあとに、ビン入りサーフェイサーや、艶消しのグレーなどを1%〜5%程度の希釈。塗料カップに1/4程度入れて、一度うがい撹拌したあと、塗料をそのまま捨て吹きします。
こうすることで、濃い塗料が金属粒子を絡め取り、エアブラシ内をキレイにしてくれるというワケです。
吹き捨てに使う塗料の濃度は、エアブラシの口径にもよりますが、0.3mm以下の口径では塗料は濃い目を維持しつつ、エア圧を高めにして吹くと良いでしょう。
捨て吹きが終わったら、改めてうがい洗浄してやればまずほとんどの粒子は取れているはずです。綺麗にならないと悩んでいる方はぜひ試してみてください。
▲ラッカー系でも水性アクリル系でも金属色を均一に仕上げるにはエアブラシは欠かせないのだが、使用後のクリーニングが大変。内部に残った粒子がなかなか取れない
▲銀塗装後、エアブラシクリーナーで3回うがい洗浄。ニードルもいったん引き抜いて拭き取り(オススメせず)をしても、通常のラッカー溶剤(薄め液)を入れたら表面に粒子が浮いてきた
▲さらに2回洗浄を繰り返して、黒塗料入れたところやはり粒子が浮いてきた。このままでは黒に銀粒子が混ざってしまう
▼Mr.ホビー「Mr.サーフェイサー 1000(ビンタイプ)」(374円)
▲銀塗装後のエアブラシ内部の捨て吹き洗浄でよく使用しているのは、ビン入りの「Mr.サーフェイサー 1000」だ。口径0.3mmのエアブラシでは5%程度、口径0.5mmのエアブラシではほとんど希釈なしで捨て吹きに利用している
■エアブラシは長く使えるツール
今回紹介したエアブラシのトラブルは、達人のプラモデル講座で相談を受けることの多いものの中からチョイスしてみました。
もちろん他にも「ニードルを曲げたらどうする」とか、「塗料が偏向してしまう」など、エアブラシにまつわるトラブルはたくさんあります。でもそのほとんどは解決できるものです、大事に扱い、適切なメンテナンスをしてやれはエアブラシは10年、20年と問題なく使えるツールです。
タミヤやMr.ホビーの公式YouTubeでもエアブラシのメンテナスを紹介もしています。そちらも参考にしていただければ幸いです。
▼タミヤのエアーブラシの特徴と選び方」
▼「GSIクレオス 長谷川迷人監修 エアブラシの概要説明」
さて! 次回はプラモの制作に戻ります、どんなキットを作りましょうか? お楽しみに!
>> [連載]達人のプラモ術
<写真・文/長谷川迷人>
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