都市部で無数に走るタクシー車・トヨタ「JPN TAXI」は、「2020年東京オリンピック」に先立ち開発されたクルマです。
初登場は2017年、それまでのセダン型のタクシー車とはまるで異う深い濃紺のハッチバック車ですが、「親しみやすく乗りやすい」とタクシー利用者の間で好評を得て「タクシーを拾う際はJPN TAXI以外は乗らない」なんていう人もいるほど。
利用者にとってJPN TAXIが「快適なクルマ」であることに異論を唱える人はそう多くないと思う一方、実際のタクシーの運転手さんたちはこのクルマをどう見ているのでしょうか。それまでとはまるで違うタクシー車に戸惑いや不満はないのでしょうか。
ここではタクシー会社・日本交通の土屋真吾さんにタクシーの運転手さんから見たJPN TAXIの評価を聞いてみることにしました。
▲日本のタクシー車を変えたトヨタ「JPN TAXI」
▲日本交通の土屋真吾さん
■数十台導入後、約1500台以上をJPN TAXIに置き換えた
▲それまでのセダン型タクシー車から、「ニュースタンダードなタクシー車」として登場したJPN TAXI
日本交通はタクシー業界の最大手。創業から96年、日本におけるタクシー文化を切り開いてきた会社で、グループ全体の所有車の総台数は約9000台(ハイヤー含む)とも言われています。
トヨタ側から見れば、大のお得意さんになる日本交通をはじめとしたタクシー業界の各社に意見を聞くなどのヒヤリングもあったようです。
「弊社のそれまでのタクシー車はトヨタ『クラウン』のスーパーデラックスがメイン車でした。次にトヨタ『コンフォート』、日産『セドリック』が多く、少ないもののトヨタ『プリウス』『プリウスアルファ』なども採用してきました。
そんな背景がある中、業界に先駆けて『JPN TAXI』をまず数十台導入。その後、コンスタントに導入を進め、2020年時点では約1500台を『JPN TAXI』に置き換えました。
弊社全体的にも、あるいはドライバー個々にとっても『JPN TAXI』に対し、導入当初からアレルギーはほとんどなく、むしろ『ニュースタンダードのタクシー車だ』と好意的にとらえていました。
それまでのセダン型のタクシー車に対し、ドライバーの間で『不満があった』といったものは特になかったのですが、さらに使いやすくしてれくれたのが『JPN TAXI』でした」
■「利用者の使い勝手」「ドライバーの運転性」とも合理的
タクシーのドライバーたちにとって特にJPN TAXIが優れていたところは、まず「利用者へのサービスのしやすさ」だったと言います。
「室内空間が広くフラットになっているので、乗り降りをしていただきやすいのが一番のメリットでした。特にセダン型のタクシー車は、車椅子のお客さまへの乗り降りのサービスに苦慮するところがありました。しかし、JPN TAXIであればスライドドアで、車体までの段差をフリーにして乗り降りしていただくこともできます。
室内には手すりやグリップがついており、これらの細部も利用者の方にとって使いやすく感じていただけているのではないかと思います。積載性にも優れており、申し分のないタクシー車だと思います」
▲JPN TAXIの後部座席の下には、実は車椅子用のスロープが収納されています
▲設置するとこの通り。車椅子でもバリアフリーで乗り降りすることができます
▲細部には手すりやグリップも。夜間での視認性を高めるため、あえてのイエローを配色
もちろん、JPN TAXIの特長は、運転操作の面にも強く表れているとも土屋さんは言います。
「それまでの一部にタクシー車のミラーは、ドアの両脇についたサイドミラーでした。しかし、サイドミラーで後方を確認する場合、『目線』を前方向より左右にズラさないといけません。その点、フェンダーミラーであれば、前方向から少しだけ『目線』をズラすだけで良いです。
また、ブレーキアシストがあったり、ハザードランプをはじめあらゆるボタンなどがハンドル周りに集約されていたりと、ドライバーがすべき操作が省力化されているのもJPN TAXIの利点です」
▲ドライバーの「目線」に配慮したフェンダーミラー
▲操作ボタン類がハンドル周りに集約されています
■図らずもコロナ禍で奏功したJPN TAXIの意外な効力
「2020年東京オリンピック」に向けて開発されたJPN TAXIでしたが、同時期に新型コロナウイルスの感染拡大で、この画期的なタクシー車が活躍する出番はかなり限定されてしまいました。
しかし、それでもJPN TAXIがあったからこそ実現したサービスもあったと言います。
「コロナ禍で一時、タクシーを利用するお客さまは確かに激減しましたが、私どものJPN TAXIには空気清浄機をつけました。利用者の方に安心して乗っていただけたと考えています。
また、コロナ禍が始まったばかりの頃、多くの飲食店さんに営業制限がかかり、逆にテイクアウトやデリバリーなどの需要が増えました。
このときタクシー業界でも『食料品を有償で運んで良い』という認可が下り、タクシーによるデリバリーを行なっていましたが、ここでもJPN TAXIの利点がありました。
セダン型のクルマの場合、トランクスペースと座席が分離されており、トランク内にエアコンなどの空調を入れられないため、食料品が傷んでしまいます。しかし、JPN TAXIはワンボックスでトランクスペースにも冷房などが届き、食料品の劣化を抑えることができました。このJPN TAXIの特長は、計らずもコロナ禍で実感したことでもありました」
■一般車としても活躍できるが、燃料はLPGガス
タクシー車なので燃費も良く、過不足ないデザインでもあることから別の用途にも活かせそうです。たとえば、JPN TAXIをカーキ色にオールペンすればアウトドアシーンでも活躍するかわいいクルマに変身しそうですし、さらにその居住性や積載性を活かせば、積載力抜群のクルマにも。実際、洋服を何着も運ぶスタイリストさんの中には、このJPN TAXIを仕事用のクルマとして使っているケースもあるようです。
ただし、基本設計はやはりタクシー車。その燃料はガソリンではなくLPGガスです。その供給網から考えると、どうしても使える地域が限定してしまうのもまた現実です。
▲トランクスペース奥にあるLPGガスの給油口
「どのタクシー会社でも契約する特定のLPGガススタンドで給油しています。一度の営業で走る距離もおおむね限られており、これはJPN TAXIになってからも特に不便はありません。燃費・環境への配慮の面でも、今のところタクシー車はLPGガスがベターだと考えています」
他方、近年盛んに進むEV化は実はタクシー業界との親和性は薄いとも。
「環境への配慮だけに注目すれば、確かにEVはベストですし、弊社でも一部取り入れています。
しかし、タクシー業界にとってみると、現状では一度の充電で走れる距離が限られており、一度の営業の時間が短くなります。その充電のために営業できる時間が制限されれば収益が限定されることだけでなく、お客さまが利用される機会も激減します。つまり、結果的に営業効率や利便性を制限することとなるため、まだしばらくはタクシー車のEV化は進まないだろうと考えています。
言い換えれば、現状の全ての面に配慮し、タクシー車として考え尽くされているのがJPN TAXIだと思っています」
■「新サービスの大きなアドバンテージになっています」
▲日本交通が取り組む画期的なサービスも、JPN TAXIによって合理的に実現できているとも
近年、日本交通では旧ホームヘルパー二級に該当する介護職員研修などを修了したドライバーによる「サポートタクシー」や、子どもを自宅から学校・塾などを送迎する「キッズタクシー」などを実施しています。
こういった新たなサービスもJPN TAXIだからこそより合理的に実現できていると言います。
「前述のような乗り降りのしやすさ、グリップなどの充実ぶりは新しいサービスにおいても大きなアドバンテージになっていると思っています。JPN TAXIは現状のタクシーではあらゆる面で配慮されたクルマだと思います」
>> 日本交通
<取材・文=松田義人(deco)>
松田義人|編集プロダクション・deco代表。趣味は旅行、酒、料理(調理・食べる)、キャンプ、温泉、クルマ・バイクなど。クルマ・バイクはちょっと足りないような小型のものが好き。台湾に詳しく『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)をはじめ著書多数
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- Author:&GP
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