北米やヨーロッパ、オーストラリアなど国土が広大で乾燥した国・地域では近年、夏季に山火事(森林火災)が多発している。山火事の従来の原因は主に落雷だったが、世界資源研究所(WRI)によると地球温暖化による乾燥が被害増加に寄与しているという。
特にシベリア地方やカナダの一部などを含む北極圏の火災急増が深刻だ。カナダは2023年に過去最高の被害を記録。政府発表によると約6600件の山火事が発生、焼失面積は約18万平方キロメートル(1800万ヘクタール)となった。カナダでは今年7月にもブリティッシュコロンビア州とアルバータ州にまたがる山火事が発生、避難対象地域は今も拡大している。
山火事対策の技術革新を目指すコンテスト「XPRIZE Wildfire」
同じく2023年にはXPRIZE財団が「XPRIZE Wildfire」を発表した。賞金総額1100万ドル、4年にわたって開催される大規模なこのコンテストは、壊滅的な被害を出す山火事を終わらせるための火技術革新を目指すもの。
コンテスト公式サイトでは、宇宙からの検出・インテリジェンス分野(Aトラック)20社と自律型山火事対応分野の(Bトラック)19社の参加者リストが公開されている。Bトラックの1つに選ばれたのが、ドローンによる自律型消化ソリューションを展開するカナダのスタートアップFireSwarm Solutionだ。
同社は7月19日のリリースでトラックBへの選出と次ラウンドへの進出を発表。CEOのAlex Deslauriers氏が自らの被災体験を交えながら喜びを語った。ドローンの「大群」で水を運搬、ヘリが飛べない状況で消火活動
FireSwarmはブリティッシュコロンビア州で昨年創業されたばかりのスタートアップ。同社が提案するエンドツーエンドのソリューションは、消化バケツによる水の運搬と消火活動という流れをドローンで自動化するというもの。社名に「Swarm」とあるとおり、「大群」の重量物運搬用ドローンを同時に素早く正確に展開するソフトウェアを独自開発している。
最先端技術が搭載されたドローンであれば、夜間や煙の立ち込める視野が悪い状況でも自律飛行が可能。水や消火剤を上空から散布する消化ヘリコプターの有人飛行ができない状況でも、効率的に消火作業を行える。
同社は現在、ソフトウェアの開発を進める一方で、ドローン飛行の規制などに関して行政と協議している。また、今秋のテスト実施に向けた準備を進めている。
火災被害者としての実体験から起業
同社CEOのAlex Deslauriers氏自身も「すべてを焼き尽くしながら火の手が家に迫る」山火事の恐ろしさを知る被災者だ。昨年8月18日、同氏は家族と共にランク6の山火事による壊滅的な被害を経験。「火災旋風が大木を根こそぎにし、進路上のすべてのものを破壊していきました」
このときの体験をきっかけに、「自分のキャリアは山火事との戦いに捧げ、大きな変化を起こさなくては」と決意。山火事対策委取り組むために起業を決めたという。
公式サイトからは、共同設立者のMelanie Bitner氏も2023年8月火災の被害者であることがわかる。Deslauriers氏は航空・宇宙航空・防衛各分野で25年のキャリアを持つエンジニアだ。航空会社認定パイロットとして捜索・救助活動のボランティアも行っている。山火事の恐ろしさを目の当たりにした当日に「自分のキャリアは山火事との戦いに捧げ、大きな変化を起こそう」と決意し、自分のスキルや専門知識を活用している。
共同設立者兼COOのDavid Thahn氏は医療・山火事管理・国際緊急対応の分野で 20年以上の経験を持つ。カナダの同州山火事対策局の消防監視員として7年間勤務するなかで、予防・対応・UAV(無人航空機)プログラムに注力してきた。前出のMelanie Bitner氏はCMOとして企業コミュニケーションをはじめブランド戦略、マーケティング戦略を担当。多様な業界における25年の経験で培ったスキルを発揮している。
FireSwarmはソリューションの実用化に向けて資金調達のほか、他社や自治体との提携なども模索しており、今回のコンテスト出場とその結果が今後の展開につながることが期待される。コンテストのパイロットプロジェクトは今年の秋冬開催予定。現在、FireSwarmチームは技術改良に注力している。
参考・引用元:
GlobeNewswire
FireSwarm Solutions
(文・Mizoguchi)
- Original:https://techable.jp/archives/241502
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:溝口慈子
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