韓国研究チーム、磁場を用いて脳回路を遠隔制御する新技術を開発|脳とコンピュータを繋ぐ“BCI”の進歩へ

うつ病や強迫性障害などの精神疾患、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経疾患へのアプローチとして、磁場を使用して脳を刺激する「TMS(経頭蓋磁気刺激)治療」が近年注目されている。

今年6月には、韓国の漢陽大学校データサイエンス学科の研究チームが、頭にフィットするマスクでアルツハイマー病の症状を改善するというTMS治療の研究結果を発表し、話題を集めた(参考)。

こうした“磁場を用いて脳へ働きかける技術”の発展が進むなか、韓国の基礎科学研究所(IBS)ナノ医療センターと延世大学の研究グループは、磁場を使って特定の脳深部神経回路を遠隔で制御する「Nano-MIND」という新たな技術を開発した。

脳回路をワイヤレスで遠隔制御する「Nano-MIND」

人間の脳には、複雑なネットワークで相互接続された1,000億を超えるニューロンがある。神経回路を制御することは認知、感情、社会的行動などの高次脳機能の理解や、さまざまな脳障害の原因の特定に不可欠だ。

そこで今回、韓国の研究グループは動物の感情、社会的行動、動機付けなどの複雑な脳機能を調整するために、特定の脳領域をワイヤレスで遠隔制御するNano-MINDを開発した。

Nano-MINDは、磁場と磁化されたナノ粒子を利用して対象の脳回路を選択的に活性化する磁気遺伝学技術。特定のニューロンタイプと脳回路でナノ磁気受容体を発現させ、正確なタイミングで回転磁場でそれらを活性化し、神経活動を制御するという。

マウス実験で母性と食欲の活性化を確認

研究チームはすでにNano-MINDのマウス実験を行い、成功を収めている。母性がない雌マウスのニューロンを活性化したところ、母性のあるマウスと同じように子を巣に連れてくるといった育児行動が大幅に増加したという。

さらに、側頭葉視床下部の抑制性ニューロンを活性化させるとマウスの食欲と摂食行動が100%増加し、逆に興奮性ニューロンを活性化させると食欲と摂食行動が50%以上減少したとの結果も。

これらの結果から、Nano-MINDが目的の脳回路を選択的に活性化し、高次脳機能を双方向に調整することが確認できる。

脳コンピューターインターフェースの進歩にも影響

Nano-MINDは、イーロン・マスク氏らが共同設立した米国のテック企業Neuralinkが開発しているような脳コンピューターインターフェース(BCI)の進歩にも影響を及ぼすと期待されている。

NeuralinkのBCIは「麻痺のある人が神経活動を直接利用してコンピュータやモバイルデバイスを迅速かつ容易に操作できるようにすること」を目的とした完全埋め込み型のデバイスで、“脳埋め込みチップ”とも呼ばれている。

同社は今年1月に初めて人間へのBCI埋め込み手術を実施。インタビュー動画では、四肢麻痺の治療者が、術後にノートPCを脳で操作してゲームプレイする様子が確認できる。

なお、8月に2人目の患者への埋め込みを完了したとのことで、BCIの実用化への期待はますます高まっている模様。Nano-MINDがBCIの進歩にどのように関わってくるのか、今後も動向を追っていきたい。

参考・引用元:基礎科学研究所(IBS)プレスリリース

(文・Haruka Isobe)


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