バイクには変速のないスクータータイプと、ライダーが変速操作を行うタイプがあり、免許にもAT限定のものが導入されています。ただ、最近になって数社のメーカーが変速を自動化する技術をリリース。バイクの魅力のひとつでもあった変速操作にどんな変化が訪れているのでしょうか?
近年のバイクにはクイックシフターの導入も進んでいて、これは走行中はクラッチを切らなくても、シフトレバーを上下するだけで変速ができるというもの。発進時はクラッチ操作が必要なものの、電子制御スロットルとの組み合わせでシフトダウン時にはブリッピング(空ぶかし)をしてくれるものも増えるなど進化が進んでいます。
これとは別に、ホンダは「DCT」と呼ばれる自動変速システムを導入。搭載モデルもラインナップが増え続けています。ヤマハも「YCC-S」という電子制御シフト機構を「FJR1300AS」に採用。どちらも2輪のAT免許で乗ることができますが、今年になって両社とも新しいシステムを搭載したマシンをリリースしています。
■「Eクラッチ」を導入したホンダ
ホンダは古くから「スーパーカブ」に自動遠心クラッチを導入するなど、変速操作の簡略化に取り組んでいましたが、2009年には「DCT」を発表。これはふたつのクラッチを搭載し、変速を自動化するシステムで、ボタンやシフトレバーで変速することもできますが、クラッチレバーはなく、ライダーはアクセルを操作するだけで変速は自動で行ってくれるシステムでした。
▲ホンダ「CRF1100Lアフリカツイン」
2016年に登場した「CRF1000Lアフリカツイン」に採用されたものから、車体のバンク角などを把握する6軸IMUと連携するようになり、ライダーの感覚に合ったものに進化。現行の「CRF1100Lアフリカツイン」や「レブル1100」、「NC750X」などラインナップも拡大しています。
そして2023年後半には「Eクラッチ」という新しいシステムを発表。今年発売の「CB650R」と「CBR650R」にこのシステムを採用しています。「Eクラッチ」はその名の通り、クラッチ操作を電子制御で行ってくれるというもの。ライダーはシフトレバーの操作さえしていれば、発進時にもクラッチを触る必要がありません。いわば「DCT」とクイックシフターの中間的な位置付けの技術です。
▲ホンダ「CB650R」
電子制御によるクラッチ操作は、熟練のライダーよりも正確で緻密。ライダーのアクセル操作に応じてクラッチをつないでくれるので、トップギアの6速に入れたままでも発進できてしまうほど。信号待ちで1速まで落としたつもりが実は2速でエンスト…なんていう恥ずかしいミスを経験したライダーは少なくないと思いますが、そうしたミスを防いでくれます。追加するシステムが最小限なので、安価に導入できるのもメリットで、「Eクラッチ」の搭載モデルと非搭載モデルの価格差は5万5000円程度に抑えられています。
クイックシフター搭載のマシンに乗っていると、走行中はクラッチ操作がなくて楽なのですが、渋滞などに巻き込まれるとクラッチを握るのが億劫に感じるもの。そうしたシーンでストレスを感じることがなくなるのは、ライダーには大きなメリットでしょう。ユニークなのはクラッチレバーは残していて、ライダーが操作することもできるということ。これによってAT限定免許では乗ることができませんが、操作を楽にするだけでなく操る楽しさを重視している点がホンダらしいともいえます。
■自動変速機構「Y-AMT」を導入するヤマハ
今年7月に「Y-AMT」という新たな自動変速機構を発表したヤマハ。2006年に登場した「YCC-S」は、クラッチ操作が必要なく、シフトレバーを操作するだけで変速が行えるというものでしたが、「Y-AMT」はその機構をさらに進化させ、変速を自動化するATモードを備えているのが特徴です。ホンダの「DCT」と「Eクラッチ」の関係とは逆パターンの進化といえます。
▲ヤマハ「MT-09 Y-AMT」
「Y-AMT」にはATモードとMTモードが備わり、ライダーの好みによって切り替えられます。MTモードでの変速操作は、左手側のハンドスイッチによって行い、クラッチレバーと足元のシフトレバーは存在しません。当然、AT限定の免許でも運転できますが、変速の楽しさは味わえるようになっているのが特徴です。
発進時はアクセルを開けるだけで、エキスパートライダーのようなスタートが可能。ATモードであればそのままアクセルの操作だけで走り続けられます。シフトチェンジの際にはECUを介して電子制御スロットルなどもコントロールされ、スムーズな変速を実現。高回転域ではクラッチを完全に切らずに変速するなど、熟練のライダーのようなシフトチェンジをしてくれます。
「Y-AMT」は同社の人気モデルである「MT-09」に搭載されて、年内にも発売の予定。ベース車の変速機構に対して、シフト操作を行うシフトアクチュエーター、クラッチ操作を行うクラッチアクチュエーターなどを追加することになりますが、シンプルな構成で重量増は約2.8kgに抑えられているとのこと。気になる価格は現状では発表されていませんが、構成を見るとそれほど大きな価格アップにはならないことが期待されます。
▲BMW「R 1300 GS Adventure」
国産メーカーだけでなく、輸入ブランドに目を向けてもBMWは新型の「R 1300 GS Adventure」にクラッチとシフト操作を自動化した「Automated Shift Assistant」と呼ばれる機構を採用。変速操作の自動化は、2輪の世界でも大きなトレンドとなりつつあります。
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近年高まっている安全性や快適性へのニーズの高まりが背景にあるようですが、電子制御が進化したことで、シフト操作をスムーズにできるだけでなく、ライダーの意思に合わせた変速などが可能になったことも大きいといえます。
そして、各社とも“操る楽しさ”の部分は損なわないようなシステムとしているところも共通。スクーターに採用されるCVTとは全く異なるものなので、食わず嫌いをするのではなく一度味わってみるとライディングの世界が広がるかもしれませんよ。
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/620018/
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