【趣味カメラの世界 #19】
写真が好きな人にとって、「カメラと過ごす一日」はちょっと特別な時間かもしれません。重厚な画質を備えたプロ仕様のカメラであっても、もっと気軽に、日常の延長として持ち出せたら…そんな想いを叶えてくれそうな1台を、フォトグラファーの田中利幸さんがレビューします。
監修・執筆:田中利幸(たなかとしゆき)|ファッション誌などでブツ撮りやポートレートを中心に活動するフォトグラファー。カメラ・ガジェット好きで自身で運営するブログ「Tanaka Blog」において、カメラやガジェットに関するちょっとマニアックなことを書いている。
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カメラを持って街を歩いてみると、いつもの見慣れた景色が、なんだかちょっと違って見えることがあります。2025年4月10日に発売を控えるFUJIFILM(富士フイルム)の「GFX100RF」(83万5000円)は、そんな“気づき”をくれるようなカメラだなぁと思いました。
1億200万画素のラージフォーマットセンサーが見せてくれる、細かくて繊細な世界。それを受け止めるのは、新しく開発された、小さくて軽いのに、ちゃんと高画質なレンズです。なのに、扱いはわりと気軽。見た目に反して、意外とサクサク動いてくれるので、なんだか頼もしいです。
今回はこのカメラを片手に東京の街をぶらぶらと歩いてみて、あれこれ感じたことを、スナップの作例といっしょに紹介していこうと思います。
■見た目も手触りも上質。「GFX100RF」は持ってるだけでうれしくなるカメラだ
ひと目見て「あ、FUJIFILMのカメラだな」と分かるデザイン。「X100VI」をはじめとする人気モデルにも通じる、あのクラシックでちょっと渋い感じが、本機にもちゃんと受け継がれています。
せっかくなので、私物の「GFX50S」と並べてみました。GFXシリーズ最初のカメラである「GFX50S」も、こうして見ると、ラージフォーマットセンサーを積んでいるとは思えないくらいコンパクトです。
ゆえに、「あれ? そんなにサイズ変わらないかも」と思ったのですが、横から見てびっくり。厚みがぜんぜん違いました。
最新機は初代と比べると、ボディそのものがだいぶスリムになっているのがわかります。
実際、レンズ込みでも厚みが7cmを切っています。1億200万画素のラージフォーマットセンサーを積んでいるとは思えないほどのコンパクトさで、これはもう、手に取ったときに「おおっ」となるやつです。
軍艦部のダイヤルまわりは、なんというか、男ゴコロをくすぐるメカメカしさがあります。
しかもこれ、見た目がかっこいいだけじゃなくて、パッと見るだけで今どんな設定になってるかがわかりやすい、というちゃんとした実用性もあるんです。
絞りダイヤルは、1/3段ごとにカチカチっとしたクリック感があります。ダイヤルまわりや絞りリングの操作はどれもすごくなめらかで、「あ〜、ちゃんと作られてるなあ」としみじみ感じます。
アルミ削り出しのパーツに、ダイヤルのローレット加工。シャープなんだけど、どこかやさしい手触りのエッジ。
こういう、手がふれる部分の心地よさに“ちゃんとした上質さ”があって、なんだか持ってるだけでうれしくなってきます。
■ラージフォーマットをもっと身近に。スナップとの好相性を実感
先述の通り、本機はけっこう小ぶりなボディ。小さめのカメラバッグにもすんなり収まるので、街をふらっと歩きながらのスナップ撮影がとてもはかどります。
▲シャッタースピード1/100秒、F11、ISO800、フィルムシミュレーション:クラシッククローム
▲シャッタースピード1/160秒、F8、ISO100、フィルムシミュレーション:クラシックネガ
▲シャッタースピード1/250秒、F10、ISO80、フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
作例は、ラージフォーマットと広角レンズの組み合わせを活かした1枚から。
WEB用にリサイズしてはいるんですが、それでも建物の細かいディテールには、1億200万画素の精密さがちゃんと残っていて、ちょっと感心してしまいます。
▲シャッタースピード1/640秒、F5.6、ISO80、フィルムシミュレーション:ベルビア
▲ シャッタースピード1/30秒、F8、ISO80、フィルムシミュレーション:ブリーチバイパス
▲ シャッタースピード1/125秒、F8、ISO80、フィルムシミュレーション:クラシックネガ
35mm(35mm判換算で28mm)の広角レンズは、ゆがみもほとんどなくて、画面の端っこまでシャープです。小型軽量ながら、フルサイズよりもひとまわり大きなセンサーを積んでいる本機は、街の細かいところまでしっかりと描いてくれます。
WEB用に小さくリサイズされた写真でも、その高精細さの片鱗は感じられるのですが…やっぱりこれは、実際に撮ってみてこそわかる“すごさ”があります。
ちょっと個人的な話になりますが、じつは私、スナップで広角レンズを使うのがちょっと苦手でして。「GFX100RF」使い始めたときも、しばらくはこの広い画角に戸惑っていました。
▲ シャッタースピード1/500秒、F5.6、ISO200、フィルムシミュレーション:クラシックネガ
でも、しばらく使っていくうちに気がついたんです。
ラージフォーマットとレンズが持つ圧倒的な描写力で、街並みを“平面的に捉える”というのが、だんだん面白く感じるようになってきました。
隅々までシャープに写るこのレンズは、壁とか看板とか、そういう平らな被写体をすごく濃密に描いてくれます。そしてその感じが、どこか絵画っぽいというか、ちょっと不思議な面白さを生んでくれる気がするんです。
▲ シャッタースピード1/640秒、F8、ISO100、フィルムシミュレーション:プロネガハイ
▲ シャッタースピード1/200秒、F5.6、ISO100、フィルムシミュレーション:クラシッククローム
GFXシリーズらしい高画質なセンサーは、ハイライトからシャドウまでの光のグラデーションを、とてもきれいに表現してくれます。豊かな階調は、平面的な構図の中にもたくさんのディテールを描き出していて、そこに立体感や空気感のようなものがふわっと生まれてきます。
私自身、以前から「GFX50S」を使っていたので、FUJIFILMのラージフォーマットの画質については「もうだいたい分かってるつもり」だったのですが…1億200万画素という最新の描写力には、正直ちょっとびっくりしました。
このコンパクトさに加えて、広角レンズの描写もすばらしいので、ふだんから持ち歩いたり、旅のおともに連れていきたくなるカメラだなと感じました。
■気軽に試せるスローシャッター。「内蔵NDフィルター」のありがたみを感じる
このカメラには、4段分のNDフィルター(減光フィルター)が内蔵されています。
NDフィルターというのは、いわばレンズにつけるサングラスのようなもので、入ってくる光をちょっと暗くしてくれるものです。
これがカメラの中にあらかじめ入っているので、外付けする手間もなく、サッと露出をコントロールできて便利。4段分なので、晴れた昼間に極端なスローシャッターを切るにはちょっと足りないのですが、たとえば絞りを開けて動画を撮りたいときなんかには、ちょうどいい存在です。
▲ シャッタースピード1.0秒、F16、ISO80、フィルムシミュレーション:クラシッククローム
もちろんスチール撮影でも、NDフィルターはしっかり役に立ちます。たとえば、少しずつ日が傾いてきた夕方前。絞りをグッと絞れば、1秒のスローシャッターも切ることができます。
そのくらいの時間になると、横断歩道を渡る人の動きがブレて、ちょっとアーティスティックな雰囲気に。普段の街の風景が、少しだけ特別に見えてくる瞬間です。
▲ シャッタースピード1.0秒、F5.6、ISO160、フィルムシミュレーション:クラシックネガ
こちらも同じく、1秒のスローシャッターで撮ったカットです。さきほどの写真は三脚を使っていましたが、こちらは手持ち。WEB上のサイズではあまり目立たないかもしれませんが、実はちょっと手ブレしています。
「GFX100RF」には手ブレ補正機能がついていません。おそらく、小型軽量を優先した結果なんだろうなぁ…とは思うのですが、これだけの高画素を気軽に楽しむには、やっぱり手ブレ補正はあってほしかったなと思います。
■「GFX100RF」と過ごすうちに、ふと旅に出たくなっている自分に気づいた
「GFX100RF」を手にして街を歩いてみると、いつもの見慣れた風景が、どこか違って見えてきます。軽くてコンパクトなボディに、1億200万画素のラージフォーマットセンサー。そんなすごい解像感を、気軽に持ち運べるというのは、自分にとってまったく新しい体験でした。
アナログっぽい操作感や、メカっぽいデザインも楽しくて、写真を“撮る”という行為そのものがちょっと特別に思えてきます。細部まで丁寧に作られた外装や、ダイヤルを回したときの気持ちよさには、カメラという道具を超えたような、なんとも言えないよろこびがあります。
最初は少し戸惑った広角レンズも、だんだん「この画角で何を切り取ろうか」と考えるのが楽しくなってきました。さらにデジタルテレコン機能もあって、撮影の幅はぐっと広がります(このあたりはまた次回、詳しくご紹介する予定です)。
豊かな階調と、細やかなディテール。そこには、街の空気ごと写し取ってくれるような感覚さえあります。どこへでも気軽に持ち出せて、撮るたびにちょっとした発見がある「GFX100RF」。このカメラを持っていると、なんだかふらっと旅に出たくなってきます。そんな、不思議な魅力をもった1台です。
>> 趣味カメラの世界
<取材・文・写真/田中利幸 取材協力/富士フイルム富士フイルムイメージングシステムズ>
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/666581/
- Source:&GP
- Author:&GP
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