2011年の「FinePix X100」発売を皮切りに、APS-Cフォーマットとラージフォーマットの二刀流で「Xシリーズ/GFXシリーズ」を展開する富士フイルムに大型新人が誕生。命名「FUJIFILM GFX100RF」が、これまで以上に“ディテールにこだわる理由”を直撃取材した!
「まず「GFX100RF」開発の背景と企画主旨をお話します」と語るのは、富士フイルム 商品企画グループの米田泰治さんだ。
▲「GFX100RF」が搭載する横43.8×縦32.9㎜のラージフォーマットと他フォーマットのサイズ比較。「GFX100RF」の有効画素数は1億200万画素
「フルサイズより大きなラージフォーマットイメージセンサーを搭載する「GFX」シリーズは2017年発売の「GFX 50S」に始まり、新製品「GFX100RF」で8機種目になります。その商品素性から商業、学術ニーズの多かったGFXですが、ラインナップの多角化を進めるなかで「もっと多くの写真愛好家に使ってほしい!」という願いを込めて開発したのが、小型軽量&レンズ一体型の「GFX100RF」です」。
どうやら『レンズ交換式はニコンやキヤノン』というユーザーでも「これだけは別腹」とばかり(笑)にコンパクトデジカメ「X100」シリーズを愛用する実態があるらしい。ということは「GFXシリーズでもこのポジションを狙えるはず!」。
富士フイルムにとって中判サイズ(ラージフォーマット)はフィルム時代からの得意ジャンル。写真館での家族写真、入学卒業式の記念写真、観光地の集合写真などなど、誰しもが意識しないうちに、富士フイルム製カメラの被写体となっていたのだ。そう考えればラージフォーマットデジカメを手掛けることは、富士フイルムの運命、はたまた宿命なのである。
■撮る道具としての美しさ
さて【1億200万画素! レンズ一体型! 実勢価格80万円超!】といった目立つトピック満載の「GFX100RF」だが、そのフォルムを見てうっとりしない、こだわり派の&GP読者はいないだろう。そう、写真を撮る道具として、まずもって美しいからだ。
「諸々の条件を検討していくと、どうしても80万円を超える価格設定になってしまうのですが、それはユーザーにとって大きな数字です。であるなら、金額に見合う以上のモノとしての魅力がなければいけない、これが企画出発時からあったデザインのスタンスです」。
とは同社デザインセンターのチーフデザイナーで「GFX100RF」を担当した兵藤岳郎さんだ。
▲「GFX100RF」のデザインを担当した富士フイルムデザインセンターのチーフデザイナー、兵藤岳郎さん
「まず個性的なタテ型フォルムについてですが、これはスナップカメラとして重要なホールディングに寄与する形状です。というのも、レンズ一体型で小型軽量とはいえ約735gありますので、タテ長グリップのほうがしっかり掴めるからです。また往年の中判フィルムカメラ「GA645」等が持つ佇まいを継承したい想いもありました」。
▲富士フイルムの代表的な中判フィルムカメラ「フジフイルム GA645W プロフェッショナル」(左)と「フジフイルム GA645Zi プロフェッショナル」。「GFX100RF」にはこれらタテ型フォルムを意識した部分もある
ところで「GFX100RF」を眺めて気づくことがある。それは操作部材の多さだ。あちこちにボタン、ダイヤル、レバーの類が見え隠れ…いや隠れてなどおらず全部露出しているではないか! まるで部材が「俺を操作しろ!」と主張しているかのようだ。
▲軍艦部に並ぶ露出補正ダイヤル、シャッタースピードダイヤル、アスペクト比切換ダイヤル。萌えてきません?
「これまでのレンズ交換式「GFXシリーズ」のユーザーはプロ中心。タフネスや操作の効率重視で選ばれるのに対して、「GFX100RF」の想定ユーザーはハイアマチュア中心です。よって、趣味性の高さ、道具としての質感、所有欲を満たす精密感、撮る楽しさ、写欲をそそるスタイリング、マニュアル操作の魅力、そういった感性を刺激する要素として操作部材を配置しています」と兵藤さん。
操作部材が多いということは、カメラを手にあれこれ操作する機会が生まれるということ。早い話がカメラとより長い時間を共に過ごせるということだ。またAPS-Cフォーマットの「Xシリーズ」よりダイヤルのローレットパターン(網目模様)を粗目にすることで、ゴリっとした道具的な感触をもたせたという。なるほど、こだわりは細部に宿るのだ。
■アスペクトとテレコンを遊びつくせ!
ディテール/機能面でもっとも注目されているのが「アスペクト比切換え」と「デジタルテレコン」だろう。
「いずれも1億200万画素のラージフォーマットイメージセンサーがあってこそ実現できた機能です。"単焦点レンズだけどいろいろな撮り方、使い方ができる”という楽しさを提案したいと思いました。積極的に操作して、撮影前に撮りたいイメージを決定して、瞬間を切り撮っていただきたいですね」。
デジタルテレコンはフルサイズ画角28㎜相当から、36㎜、50㎜、63㎜まで4パターンを用意。むろん「撮影後にPC上でトリミングすれば同じこと」だが、撮りたい被写体が目の前にあるその瞬間を、どのアスペクト比で、どの画角で写しとめるか、その瞬時の判断こそがスナップショットの醍醐味だ。
「大きく撮っておけば後でどうにでもなる」は間違いではないが、少なくとも「GFX100RF」においては、さながら単焦点レンズを4本所有するがごとく、アスペクト比の異なるカメラを複数所有するがごとく、「選んで撮る」のが正しい作法。
だから、操作しやすい場所、言い換えれば目立つ場所にダイヤル、レバーが配置されているのだ。わけても正面に鎮座する【シャッターボタン~電源レバー~コマンドダイヤル~デジタルテレコン切換レバー】の四段重ねは、「GFX100RF」の機能するデザインを表す最良のディテールといえるだろう。
▲シャッターボタン~電源レバー~コマンドダイヤル~デジタルテレコン切換レバーの四段重ねは精巧なビルドクオリティのあかし
「製造上の特長としては、軍艦部をはじめとして、アルミインゴットからの削り出し部品の多用が挙げられます。これは部品としての剛性感やビルドクオリティの向上に貢献していると考えます」と兵藤さんが言えば、さらに米田さんが、
▲軍艦部のみならず、底板、バッテリーふた、さらにはホットシューカバーまでもがアルミ削り出しとはオソレ入る
「今回「GFXシリーズ」としては初めてシルバーを用意しました。これは趣味性の高さ、クラシックな佇まいという意味で「GFX100RF」には必要だと判断したためです。より筐体が引き締まって見えるためか現在のところブラックの方が好調ですが、この傾向はたとえば「「X100シリーズ」だと逆転して、おおむねシルバー優勢となります」。
また、色調についても「「X100シリーズ」とは変えている」と兵藤さん。
「表面処理はカラーアルマイト(含浸着色)なのですが、たとえば現行品の「X100Ⅵ」に比べると、ブラックはより濃くして品位の向上を狙い、シルバーはやや青みを出してアルミ削り出しの質感を高めています」。
■「そこまでやる!?」の嬉しすぎる付属品
そしてやたらと嬉しいのが付属品だ。フード、アダプターリング、フィルター、ストラップ、そのいずれもが確かなデザインと機能性をもっている。フードは遮光、フィルターは対物レンズ保護、ストラップは可搬性向上の役割をもつが、アダプターリングの役割は? フィルター装着のためというのは正解だがもうひとつ重要な役割がある。
▲アダプターリング、フードを装着した状態で防塵防滴構造となる
「アダプターリングは、ノッチの工夫によってねじ込み式フードを常に正位置に固定することができるよう設計されています。さらにアダプターリング~フィルターを本体に装着することで「GFX100RF」が防塵防滴構造となるのです! ぜひガンガン持ち出してスナップを楽しんでください」(米田さん)。
「Xシリーズ」には多くのサードパーティがアクセサリーを提供しているが、これを見ると「さすが純正品!」と声をあげたくなる。なぜならこれらアクセサリーはドレスアップとしてのみならず、機能するデザインでもあるからだ。
■「GFX100RF」という新しいヘリテージ
新しいヘリテージ、「GFX100RF」はそんなデジカメといえるだろう。
それはレンジファインダースタイルからの印象のみならず、たとえばアスペクトでタテ長に撮れる「3:4」や、パノラマサイズで撮れる中判フィルムカメラ「GX617」に由来する「17:6」、フォーマット切替カメラ「TX-1」の「65:24」など、富士フイルムらしいカメラづくりの伝統を継いでいることからも明らかだ。
▲横17㎝、縦6㎝のパノラマサイズで撮れる中判フィルムカメラ「フジ パノラマGX617プロッフェッショナル」
▲通常の3:2に加えて65:24のパノラマサイズでも撮影できる「フジフイルムTX-1」と、「GFX100RF」のEVFにおける65:24の撮影フレーム表示
「GFX100RFがGFXシリーズの最初の一台に選ばれ、他機種も手に取ってもらえることは理想ですが、『上がりのカメラとして最後はこれ!』 と思って選んでいただけてもうれしいです。」(兵藤さん)。
「手ブレ補正機能なし、F4の単焦点レンズ、レンジファインダースタイルながらEVFだけ(光学ファインダーを積まない、という意味)と言えば一見地味に思われますが、デジタルテレコンでレンズ4本分、アスペクト比切り換えでカメラ9台分を操る楽しさがあるのです。使えばきっと『これはいけるぞ!』と思っていただけるはずです 」(米田さん)。
「GFX100RF」はラージフォーマットイメージセンサー推進における挑戦作である。スペックや価格もさることながら、中判フィルムカメラの伝統要素をディテールへのこだわりとして落とし込んでいるからだ。
▲【フィルムメーカー】ならではの「フィルムシミュレーション」は全14種類。これも伝統の継承だ
「さあ、いち早く手に入れろ!」など、おいそれとは言えない。しかし街のスナップシューターを気取るキミなら、買い物リストの筆頭におくべきだ。そしておそらく、最後まで悩まされるのは「ブラックにするか、シルバーで決めるか」に違いない。
▲FUJIFILM GFX100RF/価格はオープン【市場想定価格は83万500円(税込)】
<取材・文/前田賢紀>
前田賢紀|モノ情報誌『モノ・マガジン』元編集長の経験を活かし、知られざる傑作品を紹介すべく、フリー編集者として活動。好きな乗り物はオートバイ。好きなバンドはYMO。好きな飲み物はビール
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/672678/
- Source:&GP
- Author:&GP
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