「欧米で販売台数シェアNo.1」というオーディオテクニカのレコードプレーヤーに、透明すぎる新モデル誕生&カートリッジ刷新で示すアナログ本気度!

おそらく誰もこんなことになるとは想像だにしなかった。そう、レコードの復権である。コロナ以降直近でも欧米日ともに伸び続けているアナログレコード売上げだが、そんな追い風を受けて絶好調なオーディオテクニカから、VM型カートリッジの刷新&同社史上最高額レコードプレーヤー発売の知らせが届いた!

*  *  *

「弊社はコンポーネントターンテーブルカテゴリーにおいて欧米でトップシェアを頂いております。しかしながら主力製品は$500以下の価格帯であり、中~上級者向けとしては競合ブランドに販売機会を譲ってしまっておりました」。

そう語るのはオーディオテクニカでターンテーブルほかアクセサリー類の開発を担当する由良志之房さん(下写真)。自身ドラム演奏を趣味とする、まことに福々しいお顔立ちをした音楽人間である。

氏の言う「欧米でトップシェア」という発言に意表を突かれたというのが正直なところ。なぜならテクニカはカートリッジメーカーであり、フォノイコライザーを内蔵したエントリー向けプレーヤーも手掛けていると思っていたためだ。現状ラインナップを見るともっとも高額な「AT-LP8X」で13万円+税(公式オンラインストア価格/下写真)となる。

 

「レコード復権は2010年頃、アメリカ発と言われていますが、その前後から弊社のレコードプレーヤーは右肩上がりで売れ続けており、欧州でも広く支持されています。台数を稼いでいるのが$150程度のエントリーモデルであり、Z世代のレコード体験のファーストステップとして愛用いただいています」と、同社ホームリスニング開発課マネージャーの小泉洋介さん(下写真)。

日本の型番でいえば「AT-LP60X」(下写真)といったフォノイコ内蔵、カートリッジ付属、フルオートで実売1万6000円前後のエントリーモデルが売れるのはわかる。つまり「好きなアーティストがレコードでリリースしているから手に入れた。そのレコードを聴きたいからプレーヤーを買う」というニーズに適うのがこのゾーンの製品だからだ。

それゆえオーディオテクニカが狙うべきはこれまで手薄だった中~上級者向け。つまりレコードリスニングこだわり層だと読めるが、どうやらオーディオマニアではなく、音楽とオーディオ製品選びにおいてデザインも重視したいハイセンスこだわり層らしい。

「オーディテクニカ創業60周年記念モデルとして限定リリースした「AT-LP2022」においてアクリル筐体による高いデザイン性を打ち出しました。プライスタグは当社では過去最高額となる$1200をつけましたがこれが大変な好評を得たことで、より高価格な製品に挑戦する手応えを得ました」と由良さん。

なるほど2022年頃の$1200といえば日本円17万円程度($1=約141円換算)。オーディテクニカにとって挑戦的ともいうべき値付けだったことがわかる。そして分厚いアクリルを主素材としたことがオンリーワンの価値につながっただろうことも確かだ。

▲「AT-LPA2」価格オープン(税込実勢33万円前後)。ダストカバー付属。熱心なファンからの「カーボン製トーンアーム単体でも売ってほしい!」なんて声も聞こえてきそうだ

「今回発表する新作「AT-LPA2」は、「AT-LP2022」で好評を得たアクリル筐体をベースとしていますが、電源回路/制御回路の分離別体化、プラッター(レコードを乗せるターンテーブル部)の厚みを16㎜から20㎜として安定性を向上させるなど各所グレードアップしています」。(由良さん)

▲本体、プラッターの厚みがわかる側面カット

▲アームの横滑りを調整するアンチスケーティング機構に糸吊り式を採用

▲別体の電源・制御部

このモデルを見た瞬間から心奪われた。つまり恋をした! 30㎜という分厚い透明アクリルシャーシと20㎜厚プラッターの醸し出すエレガンス、別体電源・制御回路がもつ精緻なメカらしさに。「このプレーヤーを家に迎えたい! このプレーヤーでレコードを思う存分楽しみたい!」そんな気にさせられた。

またこのクラスにしてはめずらしく、というよりオーディオテクニカらしいと言えるのが、MCカートリッジの標準装備だ。MC(ムービングコイル)方式はより一般的なMM(ムービングマグネット)方式より電流が微弱=繊細ゆえ、より高精度なメカトロニクス設計が求められることから、本格クラスにのみに採用されるカートリッジ方式として知られている。

▲高級MCカートリッジを標準装備というのもオーディテクニカらしいサプライズ⁉

そのMC方式のカートリッジが付属するというのだから「AT-LPA2」に与えられた実勢33万円というタグが、いかにバーゲンか分かろうというもの。レコードプレーヤーは数年で調子が悪くなったり、サポートが終了して使えなくなるようなシロモノではない。10年単位で使えるロングライフ製品だ。仮に10年使ったとして3650日。日割りで90円。わたしなら即決だ!

■カートリッジ刷新の大胆不敵

この日はオーディオテクニカ独自のVM方式カートリッジの刷新も発表された。新シリーズ名は「AT-VMx」。

「いまから46年前に生まれたAT100系初代モデル「AT120E/G」に連なるVM型カートリッジの最新モデルとなります。新作「AT-VMx」シリーズのコンセプトは現代のトレンドに最適化し、多種多様なラインナップを用意することで選択肢の幅とカスタマイズの自由度を提供することにあります。ターゲットユーザーはレコードこだわり層、往年のAT100シリーズユーザー、さらにコスパ重視ユーザーも視野に入っています」とは同社カートリッジ開発担当の森田彩さん(下写真)。オーディオテクニカ入社後20代より現職に就き、現在、而立(じりつ)の30代にして豊富な経験を誇るカートリッジテクニシャンである。

今回刷新されたVM型カートリッジはオーディオテクニカのど真ん中であり、リスナーにとってはお馴染みと言える存在だ。そのど真ん中の刷新だというのだから、レコードらしく駄洒落するなら「溝(未曾有)の大事件」である(苦笑)

今回の刷新で新たに登場するのは全9製品。上位ラインの700xシリーズと普及ラインの500xシリーズがステレオで、600xシリーズがモノラル。税込価格で1万5400円から9万6800円と幅広く展開することからも、多くのユーザーへ響く面展開だと知れる。

▲カートリッジ9製品に加え、ヘッドシェルと組み合わせたモデルが3種類、ほか交換針8種類を展開するため、品番としては全20種類展開となる。右下のでっかいカートリッジはオーディオテクニカ伝統の説明用モックだ

■気になるサウンドの変化とは?

森田さんは言う。

「先代にあたる「VMシリーズ」、これは20代の私が担当した思い入れある製品ですが、解像度追及を第一義にしていたと思います。もちろんそれもカートリッジのサウンドキャラクターとしてはいいのですが、いま30代の私が聴くと「もう少し深みや音楽の愉しさがほしいな」と感じてしまう。そういう意味で新作「AT-VMxシリーズ」では解像度や分解能を追いすぎることなく、温度感、湿度感、空間表現など、音楽を奏でる時間そのものを再生するようなサウンドキャラクターをもたせたいと考えました」。

▲森田さんが「おそらく一番の売れ筋」と予想するのがこのヘッドシェル付きモデル「AT-VM520xEB/H」」税込価格2万6400円

シャープペンシルと万年筆との、筆跡や書き心地の違いにたとえられるだろうか。筆記用具としての目的は同じでも、どう読ませ、どう印象付けられるかが大きく違う。だから読み手に対する意味・内容の伝わり方も違ってくるのだ。

むろんステレオカートリッジだけでも2シリーズ、7ラインナップあるので、そのすべてが同じサウンドなわけではない。概してリーズナブルなものになるほどパワフルでガッツがあり、若々しいサウンドになる。ハイグレードに向かえばより繊細に音楽を奏でるすべを身につけてゆく。

▲今回のフルモデルチェンジに伴い、本体にネジを切ることでナットなしのヘッドシェル装着を実現した。地味ながらユーザーフレンドリーな改良と言える

これは今回の発表会における森田さんの試聴レコード選びでも明らかだ。500xシリーズではシティポップやロックを中心に、700xシリーズではジャズやクラシック、アカペラといった生音系を選び、それぞれの商品特性を判りやすく解説してくれたからだ。

■なぜ、いまレコードなのか?

冒頭登場いただいた小泉さんは、

「いまなぜレコードなのか、とはよく尋ねられる質問です。80年代のMTV世代の両親が持っていたレコードに子供世代が関心をもつ、あるいはミュージシャンが新たなビジネス商材としてレコードに注目した等の背景が考えられますが、正直なところわかりません。ただその時期を前後して弊社のレコードプレーヤー売上げは伸びており、欧米でトップシェアを記録するまでになりました。今後は入門モデルで獲得したユーザーへのネクストステップとして、マニュアルプレーヤーやハイクラスプレーヤーの展開に挑みます!」

新製品「AT-LPA2」と「AT-VMxシリーズ」はレコードブームで名を成したオーディオテクニカの「超攻めの一手」なのだ。

2万円以下で買えるフルオートがある。持ち運んでアウトドアでレコードが聴ける「サウンドバーガー」(下写真)がある。BTワイヤレスで楽しめるプレーヤーから、フルマニュアルモデル、「AT-LPA2」のようなデザインコンシャスなモデルもまたある。カートリッジに至っては「どんなお悩みもパウっと解決!」というくらいラインナップが豊富だ。

レコードはオーディオというより楽器なのかも知れない。小さな溝に刻まれた凹凸を、これまた細い細い針がトレースして音楽を奏でるマイクロメカトロニクス。だからこそこだわり甲斐がある。小さな相違が相違としてきちんと出る。プレーヤーを、カートリッジを吟味することは、音楽家がその愛器を探すことに似ている。

結論。君の求めるレコードサウンドは、オーディオテクニカにきっとある。

>> オーディオテクニカ

<取材・文/前田賢紀>

前田賢紀|モノ情報誌『モノ・マガジン』元編集長の経験を活かし、知られざる傑作品を紹介すべく、フリー編集者として活動。好きな乗り物はオートバイ。好きなバンドはYMO。好きな飲み物はビール

 

 

【関連記事】
◆「弾いた瞬間の出音が速い」と話題!東京中野のギターショップ「ダーサウンドプロ」が目指す“誰が聞いてもいい音”の秘密とは?
◆音質、フィット感、デザイン性がお値段以上!プライス別最強「イヤホン」7選【傑作コスパ大本命モノ】
◆名門オーディオテクニカからも遂に登場! いま“ながら聴き”イヤホンが「絶対買い!」な理由とは


Amazonベストセラー

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA