<ヴィブラムのスゴさを体験する>
シューズマニアに限らず、一度はその名を耳にしたり、目にしたりしたことがあるに違いないイタリアのソールブランド ヴィブラム(Vibram)。
ひきつづきヴィブラムジャパン社のショールームにてヴィブラムのスゴさを体験しつつ、ジャパン マーケティング マネージャー平野伸弥さんに、これまでのプロジェクトや今後の展望など、ヴィブラムのディープな世界についてお話を聞いた後編。
■ヴィブラムのビジネスとは
▲ヴィブラムジャパン マーケティング マネージャーの平野伸弥さん
――さて、ビジネス的にはどのあたりのジャンルが多いのでしょうか?
山岳で生まれているので、当然その分野は充実しています。あとは日本でのマーケットを現在開拓中ですが、産業用のコンパウンドです。例えば安全靴とか、消防士さん用だったり、冷凍庫で作業する人用だとか、厨房で油に強いコンパウンドとか、専門職的な分野ですね。
ただ、実はヴィブラムジャパンの売上はアウトドアの売上自体はそこまでなく、やはりファッションやライフスタイル。要は都市部でのグリップとか、クッション性、軽さというところに追求したコンパウンドを多くご用意しているんです。
▲一般的なビジネスシューズに使用されるコンパウンド
――たしかに、日本には登山靴を生産しているブランドが少ないかもですね。
そうなんですよ。
あと、ヴィブラムはエコ関連にも力をいれてまして、コンパウンド自体が石油由来のものをたくさん使うので環境には優しくない。「ECOSTEP RECYCLE(エコステップ リサイクル)」というモデルは、製品にするときにはみ出しの部分を削るのですが、その30%分をバージン素材に混ぜて再利用しています。
つまり、石油由来のものを30%使わなくて済むというコンパウンドですね。あとは天然由来のものを90%使用している「ECOSTEP NATURAL(エコステップ ナチュラル)」というコンパウンドも用意しています。
▲「ECOSTEP」は、はみ出しの部分を削る製造工程で出るこの余分な部分をもう一度30%分を再活用
――エコにはかなり気を使われているんですね。
「LITEBASE(ライトベース)」というテクノロジーがありまして、ベースというのがソールの一番薄い部分のことなのですが、これを裏にファイバーを貼ることでさらに50%薄くつくる。薄くして重量が30%軽くなるというテクノロジーなんです。高い山に登る人は自身の食糧を削って軽くしようとしたりとか、トレランする人は軽いものを好みますから、そういうカテゴリーに供給しています。
これらは用途に応じて作られたテクノロジーではないので、アウトドアで使用されることもあれば、ライフスタイルで使われることもあります。
▲こちらが「LITEBASE」と呼ばれるテクノロジー、裏にファイバーが貼られて耐性を強化
■ヴィブラムを体験してみる
野外イベントなどで使用されている機材を実際に体験してみました。
▲こちらがPOP UPなどで使用されている体験機材。右が濡れた岩上、左が濡れた氷上をリアルに体験できる機材
――「ARCTIC GRIP」というのはコンパウンドなんですか?
実は、コンパウンドの上に乗っているテクノロジーのことなんです。
▲「ARCTIC GRIP」と呼ばれるテクノロジー、ファイバーが縦に埋め込まれているので、ザラザラした触り心地で濡れた氷上でもグリップ力を発揮してくれる
――ザラザラした触り心地ですが、どんなテクノロジーなのですか?
それはファイバーなのですが、垂直に毛が埋まっているようなイメージで、ある程度摩耗してもそのまま機能が保てるということんですよ。とにかく、用途に応じて、さまざまなコンパウンドが存在しています。
――ひと言でソールと言っても、いろいろなシーンで使い分けられていたり、素材を変えたりしているんですね。
これが言葉だととても伝えづらく、、、動画にしてもいまいちよく分かりづらいんですよね。だから、日々イベントなどで我々が何をやっているかというと体験機材を使っているんです。そこで、今日は実際に体験していただこうと。
世の中にデザインとコンパウンドが一緒の靴というのはあるのですが、デザインが同じでコンパウンドが違うというのはほとんどなく、純粋にコンパウンドだけ比較しようとおもったら、同じデザインじゃないとダメなんですよね。この靴はソール部分がマジックテープで剥がせてコンパウンドを変えることができる靴なのですが、いまは左右同じデザインで用途が違うコンパウンドがついています。
まずは、これを水が流れている、いわゆる濡れた石の斜面で試していただきます。
▲左右異なるコンパウンドで濡れた石を体験
▲左右異なるコンパウンドで、水が流れる濡れた石を体験中
――右足がかなり滑りますね。
左足が「MEGAGRIP」なので濡れた地面に強く、右足は「XS TREK」と言ってトレッキングシューズに使用されているものです。ただ、右足のコンパウンドは柔らかい素材だから、長距離を歩くときは楽なんですね。逆に言うと、「MEGAGRIP」で長距離を歩くと硬いから疲れるんですよ。
さて、次は右足に別のテクノロジーを上から付けてテストします。滑りが良いという、スケートも同じ原理ですが、摩擦で雪と板の間に水の膜ができるから滑るんですね。ということで、いちばん滑りやすい環境、濡れた氷をご用意しました。
いかがでしょうか?
▲右足に別のテクノロジーを装着して、濡れた氷上を体験中
――今度は左足が滑りますね。右足はほとんど滑らないです。
右足に取り付けたのは「ARCTIC GRIP」なのですが、これがコンパウンドが何十種類も必要な理由なんですね。さまざまな状況、環境、用途によって適したコンパウンドが必要になる。そんな感じでものをつくっている会社なのでございます(笑)。
▲右足に取り付けた「ARCTIC GRIP」。濡れた氷上でもほとんど滑らず
▲左足には「MEGAGRIP」。濡れた岩上は滑らないが、氷上では滑る
――なるほど!とてもよく分かりました(笑)!こういう体験ポップアップをさまざまなアウトドア系のイベントでやっていらっしゃるんですね。
はい。
先日は、日本最大のトレイルランニングイベントで体験イベントをやりました。でも、会社としてのトレランの売上ってまだまだですので(笑)。
――基本的にはライフスタイルが一番の収入源ということですね。
もちろん大手のアウトドアブランドさんとのお付き合いもありますが、彼らのアウトドアシューズって基本的には本国なんですよね。日本で開発しているのは、ライフスタイル系シューズが多く、ブランドはアウトドアだけどライフスタイルのものを多く作っていますね。
――最近のヴィブラムのプロジェクトがあれば教えてください。
最近、2025年4月からトレイルランナーの長尾暁人選手と、日本人としては初めてアスリート契約を結びました。それは偶然の出来事が重なったのですが、昨年『信越五岳トレイルランニングレース2024』というレースに初出店した際に商品提供をしたのですが、本来主催者が選手に渡すはずだったモノが手違いで私が直接渡すことになったんですよ(笑)。それが知り合うきっかけになって、彼もたまたまシューズの契約をしていなかったこともあり、それで「やりましょう!」と。いろんな良い要素が絡まって契約に至りました。
――たまたまの偶然が重なったんですね。
売上自体はライフスタイルがメインですが、パフォーマンスブランドであることを謳っていくにあたって、やはりスポーツや山岳は欠かせないと考えています。すでに他のアスリートの方へのアプローチはしている状態でして、そういった方面へのコミュニケーションは今後も継続してやっていく方針ですね。
あと石油製品をたくさん使うという部分でCSR(企業の社会的責任)として、環境保全というところをきちんとやっていきましょうというのはあります。
▲リサイクルラバーをバージン素材に混ぜて再利用してつくられた「ECOSTEP RECYCLE」のコースター
――それはどんなことをやられているのですか?
日本独自にやっているものとしては、『コンサベーション・アライアンス・ジャパン』という、もともとアメリカにあった『コンサベーション・アライアンス』を参考に作られた団体があって、そこに加入しています。ほぼすべてと言っても過言ではないアウトドアブランドが集まってまして、日本各地で環境保全をやっているNPOや団体をサポートしていくという趣旨なんですよ。
その他は、年に数回、社員が登山道整備に行ったり、、、実際に山をたのしんでいるのは私だけなんですけれど(笑)。
――そうなんですか(笑)。ひとりはちょっと大変そうですね。
あと、面白い実例としては環境保全に近いことなのですが、接着剤を使わないシューズというのがありまして…接着剤って毒なんですよ。
▲接着剤を使用していないシューズ
▲接着剤を使用していないシューズ。アッパーをヒモで留めている
――ヒモでアッパーを留めているんですね。
接着剤を使わない分、環境に優しいし、ソールだけとか、アッパーだけとかの交換も可能なんです。
それで、徳島県にある上勝町という自治体が「ゼロ・ウェイスト」宣言ということをされていて、ゴミを100%リサイクルしようとしている町なのですが、すでに80%リサイクルしているらしく。やり方としてはゴミを45分別しているんですよ。
――45分別!?それはすごい!
「?」の形をしたゴミの集積場がありまして、そこでビンの色まで分別しているんです。「?」の「点」の部分がホテルになっていまして、そこのホテルのスタッフのユニホームにこのシューズが採用されたんですね。
じつは靴って分別できなくて、燃やすか埋めるかしかなく、それで彼らも困っていたところに見つけたのがこのシューズで採用していただきました。私たちもそこに行って、ワークショップをしたりしています。その他、学校の授業に行ったり、いろんなことをやっています。
▲接着剤を使用していないシューズ。アッパー、ソール、インナーソール、すべてが簡単にバラバラに、しかも組み立ても簡単
▲こちらは接着剤を使用していないシューズの新作
――本当にいろんなことをやられているんですね。
あと、現在グローバル企画としては、「#REPAIR IF YOU CARE(Repair If You Care)」というプロジェクトをやっていて、靴のリペアに力を入れています。
――ソールの張り替えということですか?
はい。
インスタの広告でシンプルに「靴を捨てないでください!」というメッセージを出していまして、クリックすると修理屋さんの場所の地図に飛ぶのですが、靴を直したい人と修理屋さんをマッチングさせるというキャンペーンなんです。これを年2回やっています。
日本では靴のソールの張り替えができるという認知がとても低く、いま広めているところなんです。単純に壊れた靴を修理するだけではなく、「性能を上げることもできますよ!」と。
――たしかにソールが交換できることを知らない方はけっこう多いと思います。
日本独自の企画としては、不定期でリペアを訴求するポップアップを開催しています。過去には代々木八幡にある「FRONT 11201」さんというヴィンテージショップをお借りしたり、atmos千駄ヶ谷店ともコラボして実施したりもしました。知っている人でも革靴のようなステッチダウンしている靴しか張り替えられないと思われている方も多くて、カップソールもあるからミッドソール部分を丸ごと変えることができて、実際はスニーカーでもなんでも張り替えられるんですよ。
そんな活動を今後も続けていく感じですね。
――壮大すぎるお話、ありがとうございました!
▲オフィスのドアをしっかりグリップしていたのは、オリジナルのドア留め
基本はシューズのソールメーカーながらも、活動はシューズのソール(靴底)だけにとどまらず。
名前はもちろん知っていたけれど、知っているようで、知らなかったことの方が多かったヴィブラムの深いお話。
想像以上に壮大でディープな世界でした。
>> Instagram:@vibram_japan
<写真&文/カネコヒデシ(BonVoyage)>
カネコヒデシ|メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine / トーキョーマガジン」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。 バーチャルとリアル、楽しいモノゴトを提案する仕掛人。http://tyo-m.jp/
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/680451/
- Source:&GP
- Author:&GP
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