小排気量でも高い出力を得られる2ストロークエンジンは、1990年代までバイクの世界では主役と言っても過言ではないパワーユニットでした。ただ、排出ガス規制がどんどん厳しくなってくる中、燃料と一緒にオイルを燃焼させる構造が仇となり、2000年代には公道向け市販バイクの世界では姿を消してしまいます。
とはいえ、開発されなくなったわけではありません。オフロードバイクの世界では、まだ第一線で活躍していて、カテゴリーによっては“2ストでなければ勝てない”と言われていたりします。そんな2ストロークバイクの最新モデルに試乗して、進化のほどを体感してきました。
■2ストの独壇場のカテゴリーとは!?
2ストエンジンが今でも現役で活躍しているのはオフロード競技の世界。特に“ハードエンデューロ”と呼ばれる崖のような斜面や、岩のゴロゴロしている山の中を走る競技では、上位に入賞するのは2スト車ばかりという状況が続いています。その傾向はレベルが高いレースになるほど顕著で、世界一過酷といわれ完走率1%という「レッドブル・エルズベルグロデオ」というレースでは、4スト車が完走したことがニュースとなるほどです。
▲4スト車で「レッドブル・エルズベルグロデオ」を完走し話題となったトライアンフ「TF 250-E」
そんなカテゴリーで、高い戦闘力を発揮しているのがKTM製の2ストエンジン搭載モデルです。傘下にある「ハスクバーナ」「GASGAS」といったブランドでも2ストエンジンのオフロードモデルをラインナップし、世界的に大きな支持を得ています。
どんな点が支持されているのか体感するため、現行モデルのKTM「150 EXC」とハスクバーナ「TE 250」にオフロードコースで試乗してみました。
■とにかく軽い! そしてセル付き
ハードエンデューロだけでなく、オフロードの世界で2ストが好まれる大きな理由は軽さです。今回乗った「TE 250」で107kg、「150 EXC」に至っては97.8kg(ともに燃料なしでの重量)という軽量な車体は、過酷な状況になればなるほどメリットに感じられるでしょう。
▲KTM「150 EXC」
競技専用車両でウィンカー等は装備されていませんが、ヘッドライトやセルスターターは付いているので、バッテリーも積んでいてこの軽さは魅力です。昔の2スト乗りは、2ストにセルが付いているイメージがないかもしれませんが、近年のオフロード車はモトクロッサーでもセルが付いているほど一般的な装備になっています。
▲ハスクバーナ「TE 250」
また、走り出してみると、さらに軽く感じるのが2スト車の魅力でもあります。これはエンジン内部でカムシャフトが回っていない構造のため、エンジン内の回転慣性の影響が少なく、左右にバンクさせるような操作が軽くできるのです。ホンダがオフロード競技車にDOHCではなくSOHCを採用しているのも、少しでも回転物を減らしたいためと言われています。
■2ストなのに低速域で粘る!?
2ストエンジンというと、パワーバンドに入ったときの加速感をイメージする人が多いかもしれません。筆者もそれが大きな魅力だと思っていますが、逆に言うとパワーバンドまで回す前の低回転域はトルクが薄いというイメージを持っている人も少なくないでしょう。
ただ、近年の2ストマシンが支持されているのは、低回転域でも粘るようなトルクを発揮することが大きな理由です。4ストエンジンはピストンが2回上下する間に1回点火して爆発する構造。それに対して2ストエンジンは毎回点火します。この爆発間隔が短いことが、低回転域での粘りを生み出しているようです。
エンデューロやモトクロス向けの競技バイクは、車体を軽くスリムにするために2スト、4ストともに単気筒。しかもハードエンデューロでは歩くようなスピードで走るセクションが多く、そこまで速度を落とすと圧縮の高い4ストエンジンはエンストしやすかったりしますが、2ストエンジンにはそれがないため、ハードなセクションになるほどメリットが活きてくるのです。
実際に試乗していても、極低速で走るようなシーンでも粘るようなトルクを発揮してくれて、4ストのエンデューロマシンと比べても乗りやすいと感じるほど。特に「TE 250」は半クラッチを使うシーンもほとんどないほど低速トルクがあり、エンストの心配もないので安心して乗ることができます。2スト250ccの競技モデルにはハイパワーだけどピーキーというイメージがありましたが、そのイメージは完全に覆されました。
そしてアクセルを開ければ瞬間的にワープするようなパワーを取り出すことができます(「150 EXC」で最高出力は39PSほどだとか)。いわば、どこからでも一瞬でパワーバンドに入る感じ。この瞬発力も過酷レースシーンで2ストが支持されている理由です。その加速感は4ストエンジンとは明確に異なるもので、排気音や鼻に届く2ストオイルが焼ける匂いも昔からの2ストファンにはたまらないものでした。
この低回転域の粘りや、どこからでも加速できる瞬発力は、最新のインジェクションシステムによって支えられています。KTM製の現行エンジンに搭載されているのは、電子制御スロットルボディインジェクション(TBI)。以前は掃気ポートに燃料を噴射するTPIと呼ばれるシステムが採用されていましたが、2024年モデルからTBIに切り替わりました。
このTBIはスロットルバルブの前後に2つのインジェクターが装備されていて、低回転域ではシリンダー側のみ、高回転になると両方から燃料を噴射するので、粘りと爆発的なパワーの両立が可能になったとのこと。電子制御なので、回転数やスロットル開度だけでなく、クランクケース内の圧力や気温、水温などから判断して最適な空燃比を実現してくれるのです。また、このシステムによって競技用の2ストマシンですが、エンジンオイルも分離給油となっています。
150ccと250ccの2種類の2ストエンジンを味わってみましたが、どちらも低回転から粘りがある点は共通。どちらかというと、150ccのほうが2ストらしい伸びを味わえて、250ccの方は低回転域からそのまま爆発的に加速できるような特性でした。個人的には250ccの方が乗りやすく感じましたが、これはリアサスペンションがKTMのほうがリンクレスで、ハスクバーナはリンクタイプを採用していることによる影響もあるかもしれません。
ただ、どちらも最新の2ストの魅力を存分に感じられる点は共通。ぜひ多くの人に味わってもらいたいところですが、問題は「150 EXC」で134万5000円、「TE 250」は152万1000円という価格でしょうか。これだけの高額なバイクを、オフロードで転かしても動揺しないメンタルとお財布を持ちたいものです。
>> KTM
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/683085/
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