カメラ界の挑戦者シグマが狙う、新デジカメ「BF」の“贅沢すぎるシンプルさ”とは?

毎年2月に開催されるカメラショー「CP+」では多くの新製品がお披露目されるが、今年の話題作と言えばシグマの新デジカメ「BF」だ。そのシンプルさを徹底した撮影機械の“機能するデザイン”を尋ねるべく、シグマ本社を訪ねた。

交換レンズメーカーとして知られるシグマはまた、カメラメーカーとしても写真LOVERたちのハートを鷲掴みにしている。大手のやらない、大手のできないことを、さながら愛好家目線で製品化する姿勢が高い評価を受けているからだ。そんなシグマの新製品とはいえ、今回の「BF」には驚かされた人が多かったろう。なにしろ一見、“銀色の箱”であったからだ。

▲マニアックシグマその① 「sd Quattro」/レンズ交換式デジタルカメラ。シグマSAマウント。FOVEONセンサー搭載。(2016/生産完了品)

 

▲マニアックシグマその② 「dp Quattro」/レンズ一体型デジタルカメラ。30㎜単焦点レンズの「dp2 Quattro」に始まり、最終的に超広角の「dp 0 Quattro」から中望遠の「dp3 Quattro」まで4タイプを発売。FOVEONセンサー搭載。(2014/生産完了品)

■モダン・カメラオブスクラ

▲シグマBF/ボディ価格オープン(シグマオンラインストア価格38万5000円(税込)/シルバーボディは受注生産品)

「コンセプトワードは、モダン・カメラオブスクラです」

シグマで開発主管の任を負う畳家久志さんはそう語る(以下、「」内コメントは畳家さん)。

カメラオブスクラとは暗箱。この暗箱にフィルムを入れてピンホールなりレンズを装着すれば、カメラの出来上がり。つまりカメラボディの原点である。

▲株式会社シグマ マーケットコミュニケーション デザイン部 部長 開発本部 開発第1部 主管の畳家久志さん

「まず『BF』の開発前夜をお話ししますと、2019年に発売した『fp』、これは写真と動画を50:50で使えるカメラとして生まれたものでした。当時すでに撮影=スマホが定着し、マルチカメラでワイドも望遠も撮れるようになっていました。ですから多くの人はスマホでの撮影で満足していたわけです。2021年には高画素モデル「fp L」を発売していますが、この経緯を踏まえ、なぜ敢えて高価なカメラを買うのか、何を撮るのか、どう撮りたいのかを突き詰めて生まれたコンセプトが、先ほどのモダン・カメラオブスクラでした」。

▲「fp」(2019~)

「BF」の設計思想である「過激なまでのシンプルさ」を具現化した「BF」だが、それゆえ造形の随所に、操作部材のそれぞれに、機能するデザインとしての意味が込められた。

「サイズ感でこだわったのは厚みです。スマホオリエンテッドな方にはスリムな方が違和感なく使えるはずなのですが、とはいえレンズ交換式カメラの場合、さまざまな大きさのレンズの装着が考えられますので、薄ければいいとも言えません。そこで厚みの参考としたのが、往年のレンジファインダーカメラでした」。

▲往年のレンジファインダーカメラ並のスリムさ

なるほど、ライカなどに代表される、あの厚み感である。何十年という時間、多くのカメラマンたちに使われてきた事実は、それが道具としてひとつの正解である証だろう。ちなみにフルサイズセンサーを搭載しながらもレンジファインダーカメラ並みのスリムさを実現したにも関わらず、同社山木社長からは「もっと薄くしたかった!」と今だに言われるというのは、ここだけの秘密だ。

露出モードダイヤルも、シャッタースピードダイヤルも、露出補正ダイヤルもない、シンプルに徹した「BF」に戸惑うベテランがいるかも知れない。だが人は“慣れる”能力をもっているし、むろん、シグマ自身「BF」のユーザーインターフェースがこれからのカメラの正解だと主張したいわけではない。

▲フロントに向かって台形となるフォルム。両手で構えるとこの台形フォルムが手にフィットする

「そんな大それたこと言えません(笑) 近年のカメラの機能の複雑化にも理由があります。しかしそれがカメラに対する敷居の高さとなっているのであれば、それを取り払ってゼロから提案してみたい、そういうことです。スマホでの撮影に慣れた人にも親しみやすく、同時に本格的な美しい写真が撮れるカメラを届けたいという思いで開発しましたが、実際のところユーザーに受け入れられるかは、半信半疑でした」。

■正解はレンズ交換できるスマホなのか?

シンプルに徹するのであれば、物理ボタンはシャッターのみで、背面はさながらスマホのように全面液晶とするのがゴールなのではないだろうか?

「その線も検討してみましたが、かなり早い段階でなくなりました。というのも、カメラならではの“操って撮る”楽しさが感じられなかったためです。シンプルに徹する姿勢は崩すことなく、物理ボタンで操作する必要性を検討しまして、結果、ダイヤルとボタン4個に落ち着きました。もちろんボタンの押し心地やダイヤルのクリック感など感覚的な部分も含めて煮詰めています。サブディスプレイはより後の追加要素でしたね」。

カメラ趣味のベテランたちの虚を突くデザインであり、またスマホで写真の愉しさを知った世代への架け橋となる可能性を秘めた「BF」だが、意外に肉体派(?)なエピソードもある。

「カメラ前面に滑り止め機能でもあるギザギザ模様(綾目ローレット)が入っていますが、このギザギザの山の高さや大きさに関しても多くのサンプルを作って検討しました。開発の後半、製品より山が大きくトガっていたサンプルで終日撮り歩いたら、指の皮がギザギザに食い込んでいた(笑)というイタイ経験から、現在のカタチに落ち着いています」。

▲しっかりグリップするけど痛くない(笑) ボディ前面の綾目ローレット

■シグマというカメラメーカー

「BF」の記号性、それはシンプルなデザイン、ボディもレンズもシルバーのワントーン(シルバーは受注限定品)にある。この「ありそうでなかった」、さながらアポロ計画で宇宙へ飛び立ったNASAカメラを彷彿させるエクステリアはいかに生まれたのか。

「シルバーのボディとレンズの組み合わせもあって注目を頂いていると思うのですが、開発はブラック先行でした。ただ検討を進めるうち、アルミ削り出しの質感や精緻感を伝えるには金属の地肌をそのまま見せるのがもっとも伝わるだろうと考え、シルバーの製品化も進めることになりました。同素材で作られるレンズについても一体感を持たせたい意図で2色展開としています」。

▲シグマ「BF」/カラーはブラックとシルバーを展開。シルバーボディは受注限定品

シグマは不思議なカメラメーカーだ。「BF」のような製品企画を通してしまう社風があり、苦労しながらも開発にいそしむスタッフが暗躍(?)する。製品を通じてユーザーに与えるイメージはスタイリッシュであり、おそらく同業他社を引き離すエレガンスをまとってもいる。この“かっこいいマニアックさ”こそがシグマの正体なのだ。

くくっていえば、「BF」はまったく贅沢なほどにシンプルに徹した、シグマらしいカメラということになる。

取材からの帰りしな、畳家さんに「次のカメラは5年後ですか?」と尋ねると、「いえ、それほどはお待たせしないと思います」と回答いただいた。

どうやら僕らは、その次も期待していいようだ。

>> SIGMA

<取材・文/前田賢紀>

前田賢紀|モノ情報誌『モノ・マガジン』元編集長の経験を活かし、知られざる傑作品を紹介すべく、フリー編集者として活動。好きな乗り物はオートバイ。好きなバンドはYMO。好きな飲み物はビール

 

 

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