2023年に開催された「ジャパンモビリティショー2023」に出品されたコンセプトモデル「eVX」の市販モデルとなる「e VITARA」がイタリア・ミラノでワールドプレミアされたのは2024年11月。
スズキ初のBEVモデルとなるe VITARAが今年度中に日本にも導入されます。今回、メディア向けに千葉県・袖ケ浦フォレストレースウェイで開催されたプロトタイプ試乗会に参加。モデル概要や乗り味をリポートします。
■スズキのラインナップに加わるBEV
2012年9月にフルモデルチェンジした5代目ワゴンRに次世代環境技術のエネチャージを初搭載したスズキは、2014年8月のマイナーチェンジでマイルドハイブリッドの前身となるS-エネチャージを搭載。今では軽自動車から登録車まで、多くのモデルにマイルドハイブリッドを搭載しています。
2016年11月にはソリオとソリオバンディットにストロングハイブリッドを設定。その後、ストリングハイブリッドはスイフトにも設定されました。
スズキは軽自動車&小型車メーカーとして積極的に電動化に取り組んできたと言えるでしょう。
そんなスズキのラインナップに、満を持してバッテリーEV(BEV)が加わります。それがe VITARA(イー・ヴィターラ)です。
e VITARAはスズキの子会社であるマルチ・スズキ・インディア社のグジャラート工場で生産され、日本に輸入されます。昨年発売されたコンパクトSUVのフロンクスや、発表と同時に注文が殺到して受注停止になったジムニーノマドと同じ方式です。ちなみにスズキ四輪車の年間生産台数は日本が102万9910台なのに対し、インドでは206万2361台。今後はインド四輪車市場の拡大に備えて約400万台の生産能力を確保できるようにすると言います。
スズキは海外でコンパクトSUVのVITARAを販売しています。これは日本でも2024年までエスクードの名称で販売されましたが、e VITARAはこのモデルとは全くの別物。それを証明するのがプラットフォームです。
e VITARAにはBEV専用に開発されたHEARTECT eを採用。BEVは大量のリチウムイオンバッテリーを搭載するためどうしても車両重量が増えてしまいます。HEARTECT eは高ハイテン材を多用して軽量化するとともに、フロア下のメンバーを廃止して電池容量を多くしています。
サイズは以下の通り。
全長4275×全幅1800×全高1640mm
ホイールベース:2700mm
最低地上高:185mm
スズキが生産するクルマは欧州で販売される一部のモデルを除くと全長が4m以内に収まります。日本で販売されているモデルもフロンクス=3995mm、ジムニーノマド=3890mm、クロスビー=3760mm、ソリオ=3810mm、スイフト=3860mmとなっているので、e VITARAは他のスズキ車と並ぶとかなり大きく感じます。今回実車を見た第一印象も「意外と大きいな」と感じました。でもSUV全体で見るとかなりコンパクトな部類に入ります。
駆動方式はFFと4WDの2種類で、4WDは前輪と後輪を独立したモーターで駆動する方式になります。バッテリー容量は49kWhと61kWhの2種類を用意。グレード構成は3種類になる予定です。航続距離は日常使いはもちろん、ちょっとした旅行でも満充電での出発なら途中充電無しで戻ってこれるだけの性能が与えられました。
グレード | 駆動方式 | フロントモーター最大出力 | リアモーター最大出力 | バッテリー総電力量 | 車両重量 | 一充電走行距離(WLTCモード) |
標準 | FF | 106kW | ― | 49kWh | 1700kg | 400km以上 |
上級 | 128kW | 61kW | 1790kg | 500km以上 | ||
4WD | 48kW | 1890kg | 450km以上 |
■先進的なイメージとSUVらしい力強さを融合したデザイン
「Hi-Tech & Adventure」をコンセプトにしたエクステリアはBEVならではの先進的なイメージと、SUVらしい力強さを融合したデザインを採用。特にフロントまわりの多角形ブロックを組み合わせたようなスタイルが印象的。スズキとしては珍しい(恐らく2代目カルタス以来の)グリルレスデザインも相まって、洗練された印象を持ちました。
サイドビューはHEARTECT eによるロングホイールベース化されたスタイルと大径タイヤ、そして大きな前後フェンダーが踏ん張り感を与えています。実際のサイズ以上に大きく見えるのはサイドビューの力強さがもたらしているものだと感じます。
インテリアはプレミアムさを感じさせるブラウンを多用したデザインにより、上質で落ち着いた雰囲気にまとめられています。シフト操作はフローティングデザインのセンターコンソールに配置されたダイヤルで行います。ドアトリムには車内を淡い光で演出するアンビエントライトが配置されるなど、高級感が高められているのも特徴です。
異素材を組み合わせたシートは高級感だけでなくアクティブさも感じさせるデザインで、身長188cmの筆者が座っても小ささを感じません。リアシートも頭上、膝周りともに十分なスペースがあり、大人4人がゆったりと移動することができます。
荷室の詳細な容量などはプロトタイプ試乗時点では公開されていませんが、コンパクトSUVとして十分な広さがあります。後席は40:20:40の3分割式なので、4人乗車で長尺物を積んで出かけることもできます。
ひとつ残念なのは、開発者にも確認しましたがパワーバックドアの設定がないこと。昨今のSUVやミニバンなどには上級グレードにハンズフリー機能付きのバックドアが装備されています。BEVを求める人は先進性を感じる装備や利便性の高い装備への関心が高いはずなので、正式発売後の改良などで改善されることを望みます。
■静粛性が高く、軽やかな乗り味
プロトタイプの試乗は61kWhのFF車からスタートしました。まずはドライブモードでノーマル選んでの走行。第一印象は走行時の車内がとても静かであることに驚きました。我々は3人でe VITARAに乗り込んで試乗しましたが、約100km/hで走行していても助手席はもちろん、リアシートに座る編集担当者ともごくごく自然に会話ができます。
今回の試乗はサーキットという路面状況がいい場所だったので一般道などに比べると静粛性には有利な環境ですが、それでもエンジンを搭載しないBEVのメリットを最大限活かすために、NVH性能を高める努力を緻密に行っていることが伝わってきます。今回の試乗ではサーキットのタイトコーナーだけでなく、コース内にスラロームエリアも設置されています。高速で走るストレートからスラローム中まで、ロードノイズが耳障りになるようなこともありません。
もうひとつBEVらしさを感じたのが、スラローム走行時。ボディ下に重量のあるバッテリーが敷き詰められる分重心がかなり低くなるので、タイトコーナーが連続するようなシーンでもロールがしなやか。もちろんこれはサスペンションセッティングもしっかり煮詰められてのこと。試乗車はまだプロトタイプでしたが、市販車の静粛性や乗り心地にも期待が持てます。
ここでドライブモードをスポーツに変更。するとアクセルを踏み込んだ時のレスポンスが向上し、力強く加速する感じが心地いいです。しかし、いわゆるBEVの強烈な加速とは異なり、あくまでマイルド。このあたりはガソリン車から乗り換えても違和感のない乗り味を目指したのだと感じました。
続いて4WD車に試乗しました。4WDには前後の独立したモーターのトルクを緻密に制御して安定感のある走りを提供するALLGRIP-eが備わります。
オートモードでは路面状況に応じて加減速や一定速度での走行、滑りやすい路面を走行する際などにトルク配分をリアルタイムに変更していきます。今回の試乗では試していませんが、この制御によりアダプティブクルーズコントロール使用時の加減速がよりスムーズになると言います。
そして悪路走行時はトレイルモードを選ぶことで、タイヤが空転するような時にブレーキを介入させることで反対側のタイヤに駆動力を配分し、ぬかるみなどからの脱出をサポートしてくれます。
4WD車はFF車の上級グレードより車両重量が100kg重くなります。FF車も1790kgとかなり重量があるのに、乗り味は軽やかさを感じました。一方で4WD車の乗り味はかなり重厚感のある雰囲気。これは重さだけでなく後輪を駆動させることも影響しているでしょう。いずれにしても乗り味がかなり異なるので、今後購入を検討する際はぜひ両方に試乗して自分好みの方を選んでください。
<取材・文/高橋 満(ブリッジマン)>
高橋 満|求人誌、中古車雑誌の編集部を経て、1999年からフリーの編集者/ライターとして活動。自動車、音楽、アウトドアなどジャンルを問わず執筆。人物インタビューも得意としている。コンテンツ制作会社「ブリッジマン」の代表として、さまざまな企業のPRも担当。
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