絵画用のアクリル絵の具を筆塗りして生物の質感を再現【ジュラシック・パークIII スピノサウルス 】

【達人のプラモ術】
エクスプラス
「1/35 ジュラシック・パークIII スピノサウルス」
02/03

前回組み上げたエクスプラスの1/35スピノサウルス。いやー、ディテールや動きのあるポーズが実に良い感じです。第2回となる今回は塗装編。アクリル絵の具を使っての筆塗りで、現在公開中『ジュラシック・ワールド/復活の大地』にワラワラと群れで登場するスピノサウルスに仕上げます。(全3回の2回目/1回目

長谷川迷人|東京都出身。モーターサイクル専門誌や一般趣味雑誌、模型誌の編集者を経て、模型製作のプロフェッショナルへ。プラモデル製作講座の講師を務めるほか、雑誌やメディア向けの作例製作や原稿執筆を手がける。趣味はバイクとプラモデル作りという根っからの模型人。タミヤ公式YouTubeチャンネルなどでもハウツーレビューを配信中。

 

■パワーアップしたスピノサウルス

今回製作しているのは2001年公開の『ジュラシックパークⅢ』に登場したスピノサウルスです。劇中で最強と言われていたティラノサウルスと戦って噛み殺しちゃう強烈なインパクトで登場しています。

今年公開された『ジュラシック・ワールド/復活の大地』では、この最強恐竜スピノサウルスがパワーアップ。体はひと回り大きくなり、また最新の研究で陸上だけではなく海も泳いでいたということから手足の指には水かきが追加され、首が短くなり、尻尾も水中での活動に適した形状に変更されているんですね。そして体色も、特徴的な背びれを中心に、より派手なオレンジの縞模様が入っています。

そして何よりインパクトがあるのが、海中から鮫みたいに背びれを出して海面を切り裂きながら群れで登場し船を襲ってくるシーン。詳しく書いちゃうとネタバレになるので、あとは劇場で迫力ある襲撃シーンを観てください。

作例は、エクスプラスのジュラシックパークⅢ版スピノサウルをストレート組みして、派手になった体色の再現のみ。改造等は加えていません。

劇中では個体によって体の模様が微妙に異なっていたりと細部まで作り込まれているのが凄い(確認のため映画2回観ました)。キットはディテールやマッシブな肉食恐竜の動きを再現しているので、『ジュラシック・ワールド/復活の大地』に登場するパワーアップしたスピノサウルスの迫力を再現できます。

『ジュラシックパークⅢ』
映画『ジュラシック・パーク』シリーズの第3作。古生物学者のグラント博士は実業家を名乗る男ポールとその妻アマンダから、恐竜が生息するイスラ・ソルナ島を上空から見学するツアーのガイドを依頼される。多額の報酬を積まれ仕方なく引き受けるグラントだったが、ポールたちはグラントとの約束を破って島に着陸してしまう。実はポールとアマンダの真の目的は、8週間前に島の近くでパラセイリング中に消息を絶った息子エリックを捜すことだった。第1作でグラント博士を演じたサム・ニールが再び同役を務める。
製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ
監督:ジョー・ジョンストン
2001年製作
劇場公開日:2001年8月4日

TM & (C) 2001 Universal Studios and Amblin Entertainment, Inc. All Rights Reserved.

 

■アクリル絵の具「U-35」

さて今回のメインテーマとなる筆塗り塗装ですが、使用したのは模型用塗料ではなく、ターナー色彩の水性アクリル絵の具「U-35 アクリリックス」を使用しています。絵画用のアクリル絵の具です。

これまでも、模型塗装でも絵画用の絵の具や油絵の具、アクリルガッシュが使われていましたが、扱いが面倒な油絵の具や、乾燥後に不透明で完全なマットな仕上がりとなるアクリルガッシュとは異なり、「U-35」はアクリルエマルジョン塗料で、乾燥後の明度が高く、塗布後は半光沢な質感に仕上がります。また専用のメディウムと合わせて使うこことで、艶消しや光沢仕上げとすることも可能と汎用性が高く、筆塗りでは模型用のアクリル塗料と比べても遜色がありません。

またプラスチック素材への食いつきも良く、乾燥後は耐水性になることから、近年プラモデルをはじめホビーの塗装シーンでも広く使用されるようになりました。

今回のように生物的な質感を筆塗り塗装で再現するにはオススメです。

最近では量販店のホビーコーナーにも「U-35」が置かれるようになりました。今回は24色セットをしていますが、必要な色だけ単色でも購入可能です。

また水性アクリル塗料なので、ラッカー系塗料のような刺激臭もなく、筆も使用後は水洗いでOK。希釈すればエアブラシ塗装でも使用できます。

▲今回は水性アクリル絵の具「U-35 アクリリックス」を使用しての筆塗りでスピノサウルスを塗り上げていく

 

■筆塗りは楽しい!

最近、塗装でも筆塗りが見直されているんです。特に今回作っている恐竜のような生物の質感の再現では、エアブラシ塗装のシャープできれいな塗装よりも筆塗装の方が、爬虫類的なウロコや皮膚のテクスチャーの再現には効果があると思います。

水性アクリル絵の具「U-35」は、扱いがラクで伸びも良く、ブレンディング(※)塗装といった質感の再現などでも扱いやすいこともあり、生物を塗るには適した塗料だと思います。

塗装に際して特に筆は選びませんが、達人的には今回はナイロン製の筆(水彩画用)を使用しています。

▲ターナー色彩「アクリル絵具 U-35ヘビーボディータイプ 24色セット」(6050円)内容:20ml/24色、素材:アクリルエマルジョン、特性:乾燥後耐水性

※ブレンディング塗装

一般的に水彩画を描く時には、絵の具はパレットの上で絵の具を混ぜて調色したものを塗りますよね。ブレンディング塗装は、本来油絵を描く際に使われてる技法のひとつで、描いてるキャンバスの上で複数の色を混ぜ合わせることで、微妙な濃淡の再現、グラデーション、陰影等を再現していく技法なんですね。近年ではホビーシーンにおいてもフィギュアの塗装などホビーの塗装においてポピュラーな技法となっています。プラモデルの塗装では、パーツ表面に複数の色を置いて筆で混色しつつ塗り伸ばしていく技法で、微妙なグラデーションや陰影の再現に適しています。乾燥の早い模型用塗料では不向きですが、乾燥が遅い水性アクリル塗料では効果のある塗装のテクニックです。

 

■サーフェイサーで下地を塗装

「U-35」は定着性が高いので、プラスチックにそのまま塗布しても定着しますが、より定着力をアップさせるためにサーフェイサーで下地塗装をオススメします。使用したのはタミヤのオキサイトレッドのサーフェイサー。本来は戦車などのAFVモデルで使用するものです。ちなみにこの下地塗装のみ、缶スプレー使用となります。

▲定着力が高い「U-35」だが、プラスチック素材のような表面が平滑な素材の場合、より定着性をアップさせるためにサーフェイサーで下地塗装をしておくことがオススメ

▲今回使用した筆は水彩画用のインターロン。ナイロン毛と獣毛のハイブリットで、水性アクリル絵の絵の具のみならず、ラッカー系塗料との相性も良い。形状記憶ナイロン使われているので、よくある毛先に曲がり癖がついてしまったり先割れるといった筆あるあるトラブルも、熱めのお湯に筆先を漬けることで元の状態に戻せる。価格が手頃なのもありがたい

▲アクリル絵の具塗装であると便利! ターナー色彩「ペーパーパレット SS 50シート入」(484円)パレット紙の表面には特殊なコーティングが施されており、水彩画、アクリル画、油絵、インクなどを伸ばせて染み込まない。模型用塗料などの塗料の混色に適している使い捨て紙製パレット

▲体は、黒に近い茶色の「U-35」の“ローアンバー”をメインに、明るい茶系の“バーンシェンナー”を混色したもので塗っていく。コツは水で薄めすぎないこと。「U-35」は伸びが良いので、穂先を水で濡らした程度の水分で十分。またキレイに塗るのではなく、濃淡陰影をつけていくのがポイント

▲塗り上げた頭まわり。このままでは色味が暗すぎてせっかくのディテールが目立たない

▲「U-35」の“ローアンバー”と“バーントシェンナー”。混色はペーパーパレットを使うとやりやすい

▲“ローアンバー”と“バーントシェンナー”の塗装が乾かないうちに、“バーントシェンナー”単色を塗り重ねて陰影をつけていく

▲さらに体の下側やお腹まわりは明るめの“イエローオーカー”を重ねて下地の色とブレンディング

▲ブレンディングしつつ自然なグラデーションとなるように塗っていく

▲“ローアンバー” “バーントシェンナー” “イエローオーカー”の単色それぞれを表面でブレンディング。ドライブラシも併用することでウロコのディテールが際立つように塗り上げた状態の頭部

▲3色を重ねて、頭→胴体→背ビレ→腕と脚→尻尾の順に塗っていく。ブレンディングで陰影をつけて塗り上げた状態。ウロコなどのディテールが秀逸なので、この状態でもいかにも恐竜らしい感じになった

▲先に塗った色が乾いたら、さらに“アンブリーチドチタニウム”(ややくすんだ暗めのホワイト)で体全体にドライブラシを入れることで、ウロコのハイライトを強調していく

▲ウロコなどのハイライトを活かしてくれる“アンブリーチドチタニウム”。ドライブラシは、模型用塗料と同じく、筆に含ませた塗料をよく拭き取ってディテールの凸部分に擦り付けるように、塗るというより乗せる感じで

▲ドライブラシでハイライトを入れることでより生物的な質感が活きてくる

 

■派手な恐竜がいたっていいじゃない

『ジュラシック・ワールド/復活の大地』のスピノサウルスは、背ビレから胴体にかけてオレンジ色の縞が入り、前作と比べて見た目が随分と派手になっています。

まあ恐竜の体色なんてのは化石からは分からないので、そこはそれ、映画製作サイドの創作なんでしょうけれど、しかしこれが説得力あるんですよ。オレンジの縞が入った背ビレが海面を割って迫ってくる映像はインパクト大です。

というわけで塗り上げた地味目のスピノサウルスに、オレンジ色の縞を描いていきます。先にも書きましたが、今回は群れで襲ってくるスピノサウルス、よく見ると個体ごとに微妙に縞のパターンが違うんですね。

スクリーンだと動きが速いので、なかなか全体像が掴みにくい。そこでトイ○らスで、映画公開に合わせて発売されたスピノサウルスの塗装済みフィギュアを買ってきたんですが、あんまり参考になりませんでした。なのでオレンジの縞々は、こうだろう的な推定が入っております。

そこで使用したのは鮮やかな“パイローオレンジ”。わずかに“バーントシェンナー”を加えて彩度を下げて塗っています。

▲“パイローオレンジ”に僅かに“バーントシェンナー”を加えることで、彩度を落として不自然な色にならないように調色。「U-35」は下地色の隠蔽力(下地を隠す力)も高い

▲オレンジは数回筆で塗り重ねて、不自然医ならないように抑えめに発色させている。ちなみに劇中のスピノサウルスはオレンジの縞も鮮やかでかなり派手

▲背ビレと尻尾にオレンジの縞の塗装が完了したスピノサウルス。尻尾の縞はオモチャのスピノサウルスを参考にしたのだが、なんかアライグマみたいになってしまったので、塗り直しを考慮中

 

■スピノサウルス、体の筆塗り完了!

オレンジの縞も入り、しっかり『ジュラシック・ワールド/復活の大地』版のスピノサウルスになりました。次回完成編では口腔内や爪、悪そうな目どや細部の塗装を仕上げて完成を目指します。お楽しみに!

▲いかにも凶暴そうなスピノサウルスに塗りあがった

>> [連載]達人のプラモ術

<製作・写真・文/長谷川迷人>

 

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