【ようこそ、オーディオの“沼”へ】
スマホひとつで音楽が聴ける時代なのに、街では“あえて古いほう”に向かう人たちが増えています。黒い円盤を選ぶ人、プラスチックのカセットを買って帰る人。大人世代には懐かしく、若い世代にはむしろ新しい。
そんな“逆回転”のムードを実際に確かめるべく、「ギンザレコード クラマエ」と「ODD TAPE DUPLICATION」を訪ねてみました。
■「ギンザレコード クラマエ」で聞いた、現代にレコードが残り続ける理由
蔵前といえばコーヒーショップやクラフト系の店が点在する、ここ数年で最もホットなエリアといっても過言ではありません。その蔵前駅から徒歩1分のところに「GINZA RECORDS & AUDIO KURAMAE(ギンザレコード クラマエ)」はショップを構えます。
ビル1階には焼き立てカヌレの店が入っており、前を通るだけで甘く香ばしい匂いがふわっと漂います。その奥にあるエレベーターで3階へ上がると、今度は心地良い音が迎えてくれる、そここそが「ギンザレコード クラマエ」です。
▲「GINZA RECORDS & AUDIO KURAMAE」/東京都台東区蔵前2-1-23 K2B 3F
「もともとは“お箸の問屋”だったんですよ」そう教えてくれたのは、オーナーの新川さん。古い建物の落ち着いた空気とレコードの背表紙がよく似合う空間です。
▲ギンザレコード オーナー/新川宰久(しんかわただひさ)さん
「当時働いていた人が今でも寄ってくれて『こんなに素敵になったのね』って声をかけてくれるんです。人が増えても昔のゆるさが残っている。本当に居心地の良い街ですよ」
穏やかにそう話す表情から蔵前という街への親しみが伝わってきます。
■レコードには聞くだけじゃない“体験の広がり”がある

配信やサブスクが主流になり、音楽の聴き方は大きく変わってきました。それでもレコードは姿を消さず、むしろ若い世代にも広がっている動きさえあります。なぜこの“古いフォーマット”が残り続けているのか、新川さんから意外な答えが返ってきました。

「レコードって聞くだけじゃないんですよ。円盤を手に取ったり、針を落としたり、回る様子を眺めたり、ジャケットの紙の匂いを嗅いだり…いわば“五感で楽しめる”と言ってもいいくらいなんです」
レコードは音を再生するだけの機械ではないということ。触る/選ぶ/飾るといった “行為そのもの” が体験として積み重なり、生活の中に入り込んでいくものなのです。

「音を追い込みたい人もいれば、ジャケットが好きで買う人もいるし部屋に飾るだけでもいい。入り口はたくさんあって、どれも正解なんです」
自由で、個人的で、生活と地続きになる媒体。そして、そんな“ゆるさ”や余白を許す感じこそが再び人を引きつけている理由なのかもしれません。
■これからレコードを始めるなら。新川さんが選ぶ“間違いない3台”

レコード人気が盛り上がる中で「初めての1台」を探す人は年齢を問わず増えています。10代の学生もいれば、しばらく離れていた大人が“また始めたい”と訪れることもあるとのこと。
では、今レコードを手にするならどんなプレーヤーを選ぶべきなのでしょう。「ギンザレコード」が“最初の一歩”としてすすめる3台を新川さんに聞きました。

「蔵前店は銀座本店のように1000万円クラスのモデルを並べる空間ではないんです。ここでは“手が届きやすい価格帯の中で長く使えるもの”を選んでいます。安さだけを優先したモデルだとレコードが本来持つ良さが伝わりにくくなってしまうので」
ということで、新川さんにおすすめのレコードプレーヤーを3台ピックアップしてもらいました。
【1台目】Rega「Planar1 mk2」(4万9500円)
▲駆動方式:ベルトドライブ、回転数:33 1/3、45、トーンアーム:Rega RB110(自動バイアス調整機構つき)、カートリッジ:Rega Carbon(標準装着)、プラッター:フェノール樹脂
最初に挙がったのはイギリス・Regaの「Planar1 mk2」。黒一色でまとめた端正なデザインはもちろん、音の“素直さ”で多くのファンを持つブランドです。
「Regaのいいところって“必要なものだけで勝負している”ところなんですよ。余計な装飾がなくて盤に刻まれた情報がそのまま出てくる。派手に持ち上げないぶん、ボーカルの距離感やアコースティックの空気感が自然に立ち上がるんです」
独自設計のトーンアーム「RB110」がブレを抑え、ベルトドライブならではの静けさと安定感が相まって初めてでも扱いやすい。“レコードの生っぽさ”をまっすぐ受け取りたい人にはまさに理想的な1台と言えます。
【2台目】House of Marley「Stir It Up Lux」(4万2980円)
▲駆動方式:ベルトドライブ、回転数:33 1/3、45、78、内蔵フォノイコライザー:あり(オン/オフ切替可)、接続:RCA出力、Bluetooth 5.3(ワイヤレス再生対応)、カートリッジ:Audio-Technica AT-95E 付属
竹素材×ブラックパーツの組み合わせが印象的なこちら。プレーヤーでありながら家具の一部のように空間へ溶け込むのが魅力です。
「これ、見た目が良いだけじゃなくて扱いやすいんですよ。竹の天板って軽くて丈夫だし、触れたときの質感も気持ち良い。回転数もダイヤルひとつで変えられるので古い盤を買ってきてもすぐにかけられるのが便利なんです」
オーディオテクニカ製カートリッジを標準装備しているため、音の輪郭が見えやすくボーカルはクリアに、低音は控えめに締まる傾向。Bluetooth再生にも対応しているのでスピーカーの配置を自由に楽しみたい人、インテリアと音の両方を大事にしたい人にちょうど良い1台です。
【3台目】 Denon「DP‑400」(6万6000円)
▲駆動方式:ベルトドライブ(サーボコントロール)、回転数:33 1/3、45、78、内蔵フォノイコライザー:あり(MM対応・オン/オフ切替)、自動機能:オートリフトアップ/ストップ、カートリッジ:MMカートリッジ付属
安定感と“音のまとまり”で選ばれたのがDenonの「DP-400」。
「レコードプレーヤーって黒が多いんですけど、白が基調の『DP-400』って珍しいんです。インテリアとして選ぶ人も多くて、そういう相談があればまずこれをすすめますね」
音の傾向はクセが少なく、どんなジャンルでも破綻しないバランス型。サーボコントロールによる安定した回転でピッチの揺れが少なく、ボーカル帯域の見通しも良好。また、ストップ時に自動でトーンアームが上がるオートリフトアップは、初心者はもちろん玄人でもありがたい機能。“長く付き合える実直な1台”として選ばれる理由がよくわかります。
■レコードの“深み”を味わうなら良いスピーカーも視野に入れたい

「Bluetoothで飛ばしてイヤホンやヘッドホンで聴くのももちろん良いんですが、専門家の間では“長時間・大音量のイヤホンは耳の奥で音を感じ取る細かな毛のような組織に負担がかかる”という話もあるそうです。そういう意味でも、レコードをきっかけにスピーカーで音楽を楽しむ習慣を始めてみるのも良いかもしれません」
そんな話の延長で紹介してくれたのがSonus faberの「Lumina I」(17万9300円)です。

「コンパクトなんですが音に芯があって情報量も多い。レコード特有の“厚み”をしっかり出しつつ、ボーカルの輪郭や楽器の細かいニュアンスも丁寧に拾ってくれるんですよ。サイズ以上に鳴りっぷりが良いので初めてのスピーカーとしても安心してすすめられますね」
■レコードが今、再び響く理由。そして、もうひとつの“アナログ”へ

レコードが再び注目されているのは、音を聞くだけでなく手に取る・針を落とす・回転を眺めるといった一連の行為そのものが楽しみになるからです。アナログならではの奥行きある音と、自分のペースで向き合える“自由さ”が世代を問わず支持される理由なのでしょう。
そして今、同じくアナログの代表格である「カセット」も存在感を増しています。レコードと共通する魅力があるのか、あるいはまったく別の楽しみ方が広がっているのか。次項ではその辺りについても紹介していきます。
■渋谷のカルチャーをミックスした小さな拠点
「渋谷PARCO」5階といえばファッションやアート、サブカルチャーがごちゃ混ぜになったようなフロア。その一角に小さなポップアップのような顔をしながら確かな存在感で並んでいるのが「ODD TAPE DUPLICATION(オッドテープ デュプリケーション)」です。
▲「ODD TAPE DUPLICATION 渋谷PARCO店」/東京都渋谷区宇田川町15 渋谷PARCO 5F

店に近付くと、まず目に入るのは“色”。赤や青、透明、蛍光カラーのカセットテープが棚いっぱいに並び、隣には洋服や雑貨、ZINE、アートピースが自然に混ざり合っています。
新旧入り混じるカセットの存在感とアイテムごとに異なる色のリズムが重なって、空間全体がひとつのコラージュのように見えます。

“ODD(奇妙)”の名の通り、ここにジャンルの境界はありません。新品の作品も90年代の中古テープも、オリジナルのアパレルも小物も、整然とはしていないのに不思議と調和しています。いわば渋谷に漂う“ごった煮カルチャー”を凝縮したような店と言えるでしょう。

同じ「オッドテープ」でも戸田本店はより音楽寄りでアーカイブ色の強い雰囲気。一方で渋谷店は観光客や買い物ついでの若い人もふらっと入ってくる“開けたムード”があります。
「ODD TAPE」スタッフのりさこさんは、その違いをこう話します。
▲「ODD TAPE DUPLICATION 渋谷PARCO店」スタッフ りさこさん
「渋谷店はまさに“カルチャーの入口”のような存在で、スケーターやアーティストなどさまざまな背景を持つ人がふらっと立ち寄ってくれます」
カセットの仕組みを知らずに買っていく人も珍しくないそう。しかし、それを否定するような空気はまったくなく、むしろ“知らないものに触れられるワクワク感”が店全体に漂っています。
■そもそも、なぜ今「カセット」なのか
店内を眺めているとカセットに手を伸ばす人の動機は大きく2つに分かれる、とりさこさんは言います。

ひとつは “懐かしい”世代。学生時代に自分だけのミックステープを作っていた記憶がふと蘇り、またあの感触を味わいたくなる人たち。
もうひとつは “新しい”世代。カセットをリアルタイムで知らない人たちが「スケルトンがかわいい」「この色めっちゃ良くない?」と純粋にビジュアルから入ってくるそう。どちらも正解で、どちらも間違いじゃない。店内には、その“二方向の熱量”が自然に混ざり合っているように見えます。

そんな盛り上がりの理由についてりさこさんはこう説明します。
「カセットってモノとしての楽しさがあるんですよね。ケースを開ける動作、ボタンを押したときの“カチッ”という音、リールが回る様子…再生までの一つひとつの手順すら愛おしいんです」

そして、カセットは1本ずつ“経年の個性”が異なるのも魅力のひとつだと教えてくれました。
「古いカセットって音の曇り具合が微妙に違うんです。低音だけ妙に太かったり、高音が急に落ちたり。そういうのも面白いですよね」
デジタルの均質な音とは対照的に、アナログにはある種“不完全さと向き合う楽しさ”があるとのこと。その揺らぎごと味わう感覚が今の若い世代には新鮮に映っているのでしょう。
■眺めるだけでもテンションが上がる注目のラジカセ5選
カセットを楽しむなら、まず欠かせないのがラジカセ。今や音楽を楽しむだけでなく、部屋に置くだけで空気を変えてくれるインテリアとしての魅力も大きいのではないでしょうか。
りさこさん曰く、選ぶときはまず家でじっくり聴くための「置き型」にするのか、外に気軽に持ち出せる「ポータブル」にするのかを決めるのが良いとのこと。どこで、どんなふうにカセットテープと過ごしたいかを思い浮かべると自分にしっくりくる1台が自然と見えてくるはずです。
【1台目】SEMIER「SM-336」(1万4800円)

最初に名前が挙がったのはコンパクトながら“ラジカセらしさ”をしっかり味わえるこちら。大きめのスピーカーと、押すたびにカチッと鳴る物理ボタン。見た目以上に軽く、テープを入れて再生する“あの感じ”を気軽に楽しめるのが魅力です。
「置き型なんですが、軽いのでポータブルとしても使えます。スピーカーが付いているので家でも外でも“ラジカセっぽい感じ”がすぐ楽しめるんです。防災用としても有用ですね」
【2台目】RALEDY「Retro Boombox Casstte Tape Player」(2万8900円)

“ザ・ラジカセ”と言いたくなる存在感のある見た目で、棚に置くだけで部屋の主役になる1台。フロントの大きなスピーカーや太い操作ボタン、重厚なブラックの筐体など90年代カルチャーをそのまま引き戻したような雰囲気があります。
「これは “音で遊べる” んですよ。つまみを回して低音や高音の出方を微調整できるのでテープによって鳴りが違うのも楽しめる。ちょっと曇ったテープでも自分好みに仕上げられるのがいいんです」
Bluetoothを搭載しているため、スマホの音を飛ばして普通のスピーカーとして使うことも可能。録音機能もあり、昔と同じように“自分だけの1本”を作る楽しみ方もできます。
【3台目】We Are Rewind「Bluetooth Cassette Player」(2万4800円)

今回のラインナップ中でもりさこさんが「これは本当にかわいいんですよ」とすすめてくれたのがこちら。マットなアルミボディに挿し色ボタンがあしらわれているなど、どこか“北欧の家電”のような佇まいがあり、手に取るだけでテンションが上がるデザインです。
「特にイエローのRecボタンがお気に入り。ちょっとしたアクセントがあるだけで道具としての愛着が全然違うんですよ。機能は現代的なのに見た目は80〜90年代の『ウォークマン』っぽさも残っていて、そのバランスが絶妙なんです」
Bluetooth 5.0を搭載しているためワイヤレスイヤホンやスピーカーとも接続可能。有線派のための3.5mmジャックも備えており、どんな環境でもすぐ聴ける安心感があります。USB Type-C充電に対応し、最大10時間の連続再生ができる点も日常的に使ううえでは大きなメリットと言えるでしょう。
【4台目】FiiO「CP13」(2万2980円)

スケルトンの筐体から内部のメカが覗くデザインは、どこか「ゲームボーイ」の透明モデルを思い出させるルックスです。
「この“中身が見える感じ”、やっぱりテンション上がるんですよ。回転するリールとかボタン機構がそのまま覗けて、カセットの“動き”まで楽しめるんです」と、りさこさんも絶賛。
完全アナログ回路で構成されており、Bluetoothなどのデジタル機能はなし。そのぶん “アナログそのものの音” をダイレクトに味わえます。USB Type-C充電に対応し、最大13時間の再生が可能です。
【5台目】SONY SPORTS 「CFS-902」(5万5800円)

最後は「オッドテープ」の“宝物ゾーン”からの1台。新品だけでなくビンテージのラジカセも取り扱う同店には時代を象徴する名機が並んでいます。その中でもひときわ存在感を放っていたのがこちら。
鮮やかなイエローの筐体に、防滴仕様らしい武骨な作り。1980年代後半に登場したモデルで、当時を知る人には“懐かしい!”と刺さる1台です。もちろん1点物で、現物がこのコンディションで出てくること自体がかなりレア。
「置いておくだけで部屋がパッと明るくなるんですよ。オブジェとして買っていく人も多いです」とりさこさんが言うように、ただ棚に置くだけでインテリアの主役になる存在感があります。
機能を追うというより“モノそのものを楽しむ”タイプのラジカセ。当時の空気ごと持ち帰れる、ビンテージならではの魅力が詰まっています。
■アナログなモノでしか味わえない“趣”がある

今回の取材で改めて感じたのは、カセットもレコードも“所有する楽しさ”が体験の核にあるということ。デジタルが主流になって忘れかけていた感覚が、アナログを手に取ることでパチっと戻ってくるようです。再生までの所作や手の中に残る質感が、それぞれに唯一無二の時間を作ってくれます。
スマホは便利ですが、時間を浪費するばかりで気付けば何も残っていない瞬間も多いーー。だからこそ、レコードやラジカセの“少し手間のかかる感じ”がむしろ心地良く感じられるのではないでしょうか。
>> ギンザレコード クラマエ
<取材・文/若澤 創(GoodsPress Web) 写真/高橋絵里奈>
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