レコード市場が拡大を続けている。日本市場に限っても15年弱で生産金額は46倍! 生産枚数は約30倍に拡大しているのだ。それだけレコードに関心を寄せる人が増えればプレーヤー市場もまた盛り上がる。
「スピーカー一体型などガジェット系プレーヤーで聴いてきたけどやっぱりちゃんと聴きたい」「アナログレコードの音の個性を浴びまくりたい」と考えるモノこだわり派なら、本格プレーヤーへの第一歩を踏み出すべきだ。
そこでオススメなのが、マニュアルプレーヤー。盤に針を載せる、ターンテーブルを起動する、トーンアームを戻すなどの主要な操作を手で行う機種である。その作法ともいうべき一連の手順がレコードリスニングという趣味をより深みのあるものへ、より探求しがいのあるものへと導いてくれるからだ。

「2010年頃までの熱心なアナログユーザーは、DJとコレクターが中心でした。それが近年、レコードカフェでの映える画像が共感を得たり、レコードプレーヤーが観葉植物、間接照明と並ぶ“インテリア三種の神器”としてもて囃されるなど、動き~ゆらぎのあるインテリアギアとして注目を集める向きもあります。また、部屋の持ち主の個性をあらわすアートピースとしてレコードが活用される実態もあります」
とは、テクニクスでマーケティングを担当する伊部哲史さん(以下「」内コメントは伊部さん)。
▲テクニクスマーケティング担当の伊部哲史さん。大の角松敏生ファンだとか
ムーヴが先行するアメリカではセレクトショップでアーティストのアパレルとレコードが並べられ、売れていくなどしている。つまりレコードを買う場所自体が広まっている。だが日米とも、レコードのインテリア性やアート性には関心が高くても、その環境整備がまだまだ、という点では共通しているようだ。
「レコードは買うけどプレーヤーは持っていない(注・MP3のダウンロードパスが付いてくるアルバムもある)、あるいはポータブルしかない、という人はかなり多いようです。しかしそれでは好きなアーティストの作品を楽しめているとは言えませんよね。テクニクスは10万円以上のレコードプレーヤー市場では非常に高いシェアを頂いています。だから『もっといいサウンドで、より多くの人にレコードの世界を楽しんでほしい』という願いや責任感を背景に『SL-50C』の企画化を進めました」
▲SL-50C(グレー)
黒くてギラっとした質感をもち、違いのわかる趣味の道具といった雰囲気をまとう既存「SL-1200シリーズ」とは、見た目でわかる指向性の違いがある。テラコッタといったカラバリが最たるところだが、10万円を切る価格設定を必達目標とし、エントリー層にも末永く満足いただけるデザインを追求したという。
また『GoodsPress』世代として「それでこそ!」と嬉しく思うのは、価格を実現する中でさまざまな割り切りが求められたにもかかわらず、テクニクスの技術的・精神的支柱(!)であるダイレクトドライブ方式を採用したことだ。ターテンテーブルとモーターを直結して超高精度でパワフルな回転を実現するダイレクトドライブ方式は、テクニクスが考える「レコードの情報を正確にとらえて伝える」虎の子の技術だからだ。
■居場所があるプレーヤー「SL-50C」
特に大都市圏でのマンションが高騰している、逆に戸建ての着工数が減っている。都市部のマンションが人気になれば大きな延床面積は買いにくい。また近年、間取りをあまり区切らない傾向がある。つまり昭和の時代のような「お父さんの個室」はもちろん「オーディオルーム」などは実現の難易度が高い。要するに、間取りの広いこだわりのLDKの中にこそオーディオの居場所があるのだ。「SL-50C」の際立つデザイン性や、インテリアになじむテイストはそういった環境から逆算されたひとつの正解と言っていい。
▲テラコッタブラウンは、一昨年発売され好評を得ているパワードスピーカー「SC-CX700」と色調が揃う
「SL-50C」はデンマークの名門カートリッジメーカー「オルトフォン」のMMカートリッジを標準装備し、フォノイコライザーも内蔵しているので、アンプ内蔵のパワードスピーカーに接続すればスタンバイOK! あとはレコードをかける作法さえ身に着ければ、ガジェット系レコードプレーヤーとは段違いの美音が手に入る。レコードというパッケージメディアを愛するなら、そのサウンドを味わい尽くすことにも力を注ぐべきである。
▲SL-50C(ブラック)
■「本格プレーヤーとは何か?」
「もちろん『SL-50C』はテクニクスならではの本格派プレーヤーです。しかし仮にオートバイに例えるなら『SL-50C』はビッグスクーターに近いと個人的には考えています。ビッグスクーターだって快適だし速いけど、将来的にマフラーやパーツを変えることを視野に入れるならワンランク上の『SL-1500C』(13万円)をお勧めします。各部調整の幅が広く、筐体の剛性がより高いため、パーツ交換によるわずかな違いを音に反映しやすいためです」
▲SL-1500C/13万円
「じゃあ『SL-1500C』でジャンプアップ!」と思わず腕まくりのモノ好き層も、この色、このデザイン。私なら『SL-50C』一択です!」というバランス派もおられるだろう。プレーヤーへ関心を抱くことは価値も意味もあることだから、大いに悩んでいい。
レコードをもっと楽しもう! ごひいきはテクニクス「SL-50C」か、はたまた有力ライバルの注力作か⁉ レコードをかけることは“耳へのごちそう”である。サンタからのプレゼントを期待するよりここはいっちょう奮発して、お気に入りを選ぼうじゃないか!
■本格プレーヤーはじめよう~もうひとつの選択肢【DENON】

最初の「選択肢」は、「SL-50C」より手頃だが、ロングセラーを多数輩出しているデノンの「DP-400」だ。価格は6万7100円設定だが実売は5万円切りだとみていい。「DP-400」の面白いところは、33-1/3回転、45回転に加えSPレコード盤再生用の78回転に対応するため再生できるディスクが幅広いこと。

本体色はブラックのほかフレッシュなホワイトカラーを展開するが、独特な形状をしたダストカバーがそのままレコードジャケットを飾るスタンドとして使えるなど、レコード好きを楽しませる“隠し味”が多いのも特長だ。
■本格プレーヤー始めよう~ふたつ目の選択肢【TEAC】
「もうひとつの選択肢」の2台目はティアックの「TN-4D-SE」。価格は8万800円設定だが、実売は7万円前後のようだ。

「TN-4D-SE」の特長は「SL-50C」同様のダイレクトドライブ方式とし、高級トーンアームブランドSAEC社とコラボしたナイフエッジトーンアーム、アメリカのSUMIKO社カートリッジを採用する点にある。本体色はブラックのほかシャビーなインテリアに好適なウォルナットから選べる。

長年にわたり業務用機器ブランド「タスカム」を展開する名門としてゆるぎない信頼をもつティアックのキレのいいサウンドをお洒落に楽しみたい。
■本格プレーヤー始めよう~最後の選択肢【AUDIO-TECHNICA】
「本格プレーヤー始めよう」最後の選択肢は、日本が世界に誇るカートリッジの名門、オーディオテクニカの超意欲作「AT-LPA2」だ。

価格は「SL-50C」を大幅にしのぐ33万円となるが、他に選択肢のない“一目惚れレコードプレーヤー”として触れておく。
分厚く高剛性なクリアアクリル製シャーシ&プラッターにコントロール部と電源ユニット別体型フォノイコライザー。このデザイン、仕様にKOされたらもう買うしかない⁉ 付属カートリッジには一般的に付属されるMM型(VM型)より繊細な再生をもたらすMC型のAT-OC9XENを標準装備(単体ならこれだけで約5万円だ!)と、これまた豪勢。

もはや一生モノといっていいお宝プレーヤーである。その実力を発揮させるまでの道のりは手ごわくも楽しいもののはず。どうだい、チャレンジしてみないか?
<取材・文/前田賢紀>

前田賢紀|モノ情報誌『モノ・マガジン』元編集長の経験を活かし、知られざる傑作品を紹介すべく、フリー編集者として活動。好きな乗り物はオートバイ。好きなバンドはYMO。好きな飲み物はビール
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/710025/
- Source:GoodsPress Web
- Author:GoodsPress Web
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