記録メディアにおけるデジタル化まっしぐらな昨今でも「チェキ」「写ルンです」のヒットで“写真”文化の継承を手掛ける富士フイルム。そのデジアナ両刀使いの同社ならではのサービスが意外なほどの人気を博している。
■ビデオテープの2025年問題
昭和100年に2度目の大阪万博開催と、とかく昭和が注目される昨今だが、実はひっそりと、意外や意外な分野でも昭和が脚光を集めている。それは昭和メディアだ。
デジタルカメラ「Xシリーズ」でコンパクトからミラーレスまで幅広く展開する富士フイルムだが、同時に、祖業への温故知新とでも言うべきサービスを展開している。しかも盛況だというのだからおもしろい。
それは富士フイルム「ダビング・スキャンサービス」。名称通り「ダビング」や「スキャン」を行うサービスで、主な内容としては、「VHSなどビデオテープ(磁気テープ)のDVD化」「8mmフィルムのDVD化」「写真プリントのレタッチを含むDVD化」など。スマホアプリでDL、再生、編集ができるDVDサービス用アプリ「スマホプラス」などイマドキサービス(※一部商品)もある。

特にビデオテープは普及から40~50年が経過。テープそのものの劣化による再生品質の低下や再生不可も現実に起きてきており、ユネスコからは映像記録の消失荷が警鐘が鳴らされているほどだ。この「ビデオテープの2025年問題」として広まったニュースが引き金となり、現在、VHSを中心とするビデオテープのダビング依頼が引きも切らない状況だという。
「VHS、ミニDVなどのビデオテープのほか、昭和50年代に最盛期を迎えた8mmフィルムをDVD化するのが主なサービス内容です。8mmフィルムからのDVD作成ではお客様のフィルムを実際に映写機で投影し、その動画をビデオでキャプチャーします。また、長期保管されていたビデオテープの多くはカビが生えていますので、まずテープをカセット本体から取り出して、洗浄・拭き取りを行い、最適な状態で再生できるようにコンディションを整えています」。
と語るのは20年にわたり写真ラボでのプロサービスを始め、「ダビング・スキャンサービス」に携わる富士フイルムイメージングシステムズの藤堂正寛さんだ。
▲富士フイルムイメージングシステムズ株式会社事業推進本部ダイレクト営業部シニアグループリーダーの藤堂正寛さん。8mmカメラ&フィルムを手に「はい、フジカ!」のほほ笑み
■とにかく時間がかかる!
もしかしたら読者諸氏の自宅にも保管されているかも知れないフィルムやビデオテープだが、その多くはしまいっぱなしだろう。なにしろもはや再生機器を持っていない、あっても使えないのが実情だろうからだ。となればカビも生えて当然。テープを洗浄してからダビングするのは理に適っている。
▲シングル8のDVDダビングの様子
「工程自体はシンプルで、テープの内容を丁寧に再生しながらデジタル化します。お預かりした映像を1倍速ですべて再生し、投影したものをデジタルデータに変換してDVDに記録するため、時間はかかりますが、その分品質を重視した仕上がりになります」。
実際に映写機で映した画面をカメラでキャプチャーする8mmフィルムのダビングはもとより、ビデオテープだってすべて1倍速で再生したものをダビングする必要があるのだ。なるほどこれは時間がかかる。
■お茶の間ムービーの立役者「シングル8」
さて磁気テープ=ビデオテープではないアナログフィルムの方はどうか? 一般に保管状態さえよければ磁気テープより長期保存がきくフィルムだが、いわゆる8㎜フィルムの場合、しっかり動作する再生機器がほとんど残っていないのが難点だ。
▲1971年12月発売。シングルパルス方式による同調録音を実現した「Z800」
▲1976年4月発売。2.7倍ズームレンズを搭載した同時録音機種の「サウンドZXM300」
「自分でも観た覚えのない、幼少期を映した(らしい)8mmフィルムが出てきた」
「実家を整理していたら故人の遺品の中にあった」
などのきっかけで出会うことも多いだろう8mmフィルムだが、富士フイルムがダビングするのは同社が規格化した「シングル8」。独自規格といってもさほど心配する必要はない。なぜなら「シングル8」が発売された1965年(昭和40年)以降、日本で普及した8mmムービーカメラの多くは「シングル8」であり、オープンパテントとされた「シングル8」には、キヤノン、ヤシカ、エルモ、小西六など多くのメーカーが参加し、製品化を行ったからだ。
「戦後まもなくの時期から、高度経済成長期、その後の現在まで、富士フイルムは写真や記録に注力してきた会社です。その歩みの中で生まれた「シングル8」もまた重要な映像記録のひとつですから、いま「ダビング・スキャンサービス」を通じて観られるようにする、未来へつなぐことは使命だと感じています。
いくつかあるダビングサービスの中でも特に「シングル8」に関しては心温まるご感想が多く、中には「~涙なくして観られない」といった手紙、感謝の声を多くお寄せいただいています。こういうコメントを読むと、私たちも心を打たれ、やっていてよかったと実感します」。
▲80年代前半のシングル8フィルム。パッケージ裏には「あなたのご自慢の8ミリを作品をビデオテープ化(VHS・ベータ)。テレビ画面でオリジナル画像が楽しめるフジビデオプリントをおすすめします」とあり、ホームビデオの普及にあたり、8mmのメディアコンバートサービスが行われていたことがわかる
■「写真プリント」の温故知新
「AIがどれだけ進化しても、一人ひとりの「思い出」だけはAIには絶対に生み出せません。私たちは、そのかけがえのない思い出を写真や映像を通じて蘇らせ、人生の質を高めることを「写真幸福論」と定義し、2023年8月から本格的に活動を始めています。
▲「写真幸福論」イベントイメージ
「写真幸福論」では、写真を“撮る”だけでなく、“プリントして手に取る”、“インテリアとして飾る”という一連の体験を通じて、写真本来の価値や幸せを再発見していただくことを目指しています。具体的な取り組みとして、「一生物のフレーム展」というポップアップイベントを各地で展開しています。ここでは、フレームコンシェルジュと写真に関するエピソードを語り合いながら、最適なフレームを選びます。単に“飾る”だけでなく、写真とエピソードが一体となった“世界に一つだけの作品”を作る体験を提供しています」。
▲「写真幸福論」イベントイメージ
スマホやPCで鑑賞するデジタル画像は鮮やかだし、また無制限。データのやり取りも容易だ。しかし画像をプリントし、プリントをフレームに収め、インテリアとして飾るだけで、部屋の何かが変わる。写真をふと見るたびに、思い出したり、連想が進む。
代官山 蔦屋書店で「一生物のフレーム展」を開催した時も、たとえば、亡くなったおじいさんが愛煙していたタバコのパッケージカラーをフレームの背景に活かす、といったフレームコンシェルジュの粋なアドバイスは大変喜ばれたという。
▲「写真幸福論」イベントイメージ
■「8mmフィルム」を「DVD」で観て…涙
ダビング依頼から待つこと2か月。ビデオテープ2025年問題によって時ならぬフル操業を続ける工場からついに8mmフィルムからダビングしたDVDが届いた。
▲パッケージの様子。DVDデータにはコピーガードがかかっていないためPC等でも視聴可能。8mmフィルムのDVDダビングサービス料金は、ダビング料金1本1540円~(フィルムの長さによる)+送料2200円で3740円~。本数が多いほど単価も下がる
送った8mmフィルムとダビングDVDに収録シーンのインデックスプリントが付属する。
自宅のBDプレーヤーでさっそくPLAY! 8㎜フィルムを提供した家内、チビふたりともどもテレビ前でドキドキする。
「あ、わたしの3歳の誕生日会だ!」
「この小さな子がママなの?」
と盛り上がる。
チビふたりは、自分より幼く見える子供が昔のママである、ということを不思議に感じている様子。そのうちちらちらとチビたちの祖母、5年前に他界した家内の母親が映った。家内は絶句し、「おかあさん…」と泣いている。藤堂さんも「感謝の手紙が届く」と話されたが、それはそうだろう。褪色の進んだ35年前のフィルムだが、観る人にとっての記憶再生はつねに天然色なのである。
ビデオテープ2025年問題で明らかなように、記録メディアも永遠ではない。しかしその中でも銀塩フィルムは、保管状態さえ整っていれば長期保存させることができる。間もなく年の瀬、2026年の正月がやってくる。実家に帰省する人も多いはずだ。もしかしたら残っているかも知れない家庭のメディア資産を、しっかり観られるようにしてみてはいかがだろうか?
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/709113/
- Source:GoodsPress Web
- Author:GoodsPress Web
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