ともすれば見過ごしてしまいがちな小さな演出まで見ていくと、映画はもっと面白くなる。
そんな小ネタ的発想から、映画鑑賞の楽しみを一歩深める、あの1杯を紹介。

【DOG LOVER】
川本繁晴(かわもとしげはる・バーテンダー)
『coffee & beer COBRA』オーナー 1972年生まれ、東京都出身。四ツ谷のレンタルビデオショップで働いた後、ビデオの卸売会社に勤務。2006年に東京・江古田にバー『coffee & beerCOBRA』をオープン。ダウンビートな音楽とお酒でゆったりした時間を提供。中型犬2頭と暮らしている。
■リアルは痛み止め代わりではなく、たしなみに
【バーボン】

【RECIPE】
▲[材料]ブラントン
『ジョン・ウィック』
(2014年/アメリカ)
監督:チャド・スタエルスキ
裏社会に語り継がれる殺し屋ジョン・ウィック。愛を知り、表の世界へと足を洗い平穏な日々を送っていたが、ある日、愛するものすべてをマフィアに奪われ、独り復讐へと立ち上がる。という1作目によって始まり、その後4作が公開されている。犬が重要なポジションで登場する、愛犬家はより楽しめるアクション映画。
シリーズ4作目、医師に「痛み止めはいるか?」と聞かれたジョン・ウィックがそれを断り、代わりに飲んだのがブラントン。一つの樽からボトリングしたシングルバレル・バーボンだ。昔はブレンデッドが主流だったけど、昨今は世界中でクラフト蒸留所ブームが起きていて、シングルバレル(カスク)が増えてきた。シングルバレルはクセが強い。中には、“個性”と言って押し通そうとしてないか? と感じるものもあるけれど、その点ブラントンは、万人が美味しいと思えるような飲みやすい仕上がり。ジョンが愛飲するだけあるし、高いだけある。
■家でもあえて、ジョッキグラスで泡なしで
【ビール】

【RECIPE】
▲[材料]バドワイザー※お好みで
『パターソン』
(2016年/アメリカ)
監督:ジム・ジャームッシュ
バス運転手のパターソンの1日は、朝、隣に眠る妻ローラにキスをして始まる。仕事に向かい、乗務をこなす中で、心に芽生える詩を秘密のノートに書きとめていく。帰宅して妻と夕食を取り、愛犬マーヴィンと夜の散歩。バーへ立ち寄り、1杯だけ飲んで帰宅し、眠りにつく。過ぎ去るものを眺めるかのような、彼の7日間の物語。
毎日のルーティンを守って生きる主人公のパターソンが、夜の犬の散歩途中に立ち寄るバーで、決まって飲むのがジョッキのビール。ポイントは、ジョッキを用意して、泡なしで飲むこと。劇中の“バーでジョッキ”というのが面白いし、ビールの泡って日本特有の文化で、だから映画の中でも存在しない。ちなみに毎日のルーティンだけでなく、物語の最後の構成にもブルドッグのマーヴィンが大きな役割をしている。単館映画のスター監督ジム・ジャームッシュの、余韻が残るいい映画だ。
■多種多様なニューヨーカーを表す現代的なカクテル
【コスモポリタン】

【RECIPE】
▲[材料]
・ウォッカ ............................30ml
・コアントロー ......................10ml
・クランベリージュース ...........20ml
・レモンジュース ...................15ml
『セックス・アンド・ザ ・シティ』
(2008年/アメリカ)
監督:マイケル・パトリック・キング
ニューヨークで独身生活を謳歌する4人の女性の恋愛模様、仕事、友情、性事情がスキャンダラスに描かれたテレビシリーズ『セックス・アンド・ザ・シティ』の映画版。ビックと一緒に暮らすための家を探し、結婚を決めたキャリーの話を中心に、サマンサ、シャーロット、ミランダのそれぞれの物語が展開していく。
映画『セックス・アンド・ザ・シティ』で一気に流行ったカクテル。お酒にもトレンドがあって公開当時は最先端をいく、多種多様なニューヨーカーたちを表すような現代的なカクテルだった。キャリーたち4人のように。女性の活躍推進が盛んに言われるようになった社会に、この映画はぴったりハマッた。当時はうちのバーでもよく出ていて、実際オーダーするのはほとんどが女性だった。サマンサが恋人のスミスと別れ、犬を抱いてNYに戻ってきたところもまた、妙なデジャブがある。
■テキーラを好む動機には、思想が隠れていることも
【テキーラ】

【RECIPE】
[材料]
・パトロン・シルバー (ブルーアガベ100%テキーラ)
※劇中はドン・フリオ 1942
『ソーシャル・ネットワーク』
(2010年/アメリカ)
監督:デヴィッド・フィンチャー
Facebook創設の舞台裏を、創設者マーク・ザッカーバーグの葛藤とともに描いた作品。ハーバード大学に通うマークは女の子に振られたことが発端でSNSを作る。それが巨大サイトへ成長し……。『セブン』や『ファイト・クラブ』、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』などのデヴィット・フィンチャーが監督。
2011年の公開当時、シリコンバレーはリベラルな人が多く、『patagonia』のベストを着ることでそれを主張するような時代だった。映画の中で、IPOを祝うパーティーの場でショーン・パーカーがオーダーするのがブルーアガベ100%のテキーラ、ドン・フリオ1942。祝いの席ならシャンパンとか、アメリカの保守であったらバーボンになるところ、あえてのテキーラだと考えると面白い。テキーラはメキシコのお酒だから、移民に対して寛容ですということを表現しているとかね。
■映画史に残る名シーンの、あの1杯
【マティーニ】

【RECIPE】
▲[材料]
・ジン ..................................50ml
・ドライ・ヴェル モット ...........10ml
・オリーブ ............................1粒
・レモンピール .......................適量
『アパートの鍵貸します』
(1960年/アメリカ)
監督:ビリー・ワイルダー
出世と上司へのゴマスリのため、自分のアパートを愛人との密会場所として重役に提供するバクスターこと通称バド。お調子者で、出世街道に乗り意気揚々とするが、思いを寄せていた女性までもがアパートを出入りする一人と知り、愕然とする。ビリー・ワイルダーはこの作品でアカデミー監督賞を受賞した。
サラリーマンの主人公バドは、上司の不倫場所に自分の部屋を貸している。その間は家を出ないとならないから、バーで、情事が終わるのを待っている。しかもクリスマス。そこで飲んでいるのがマティーニ。マティーニはオリーブをピンに刺して飾るのだけど、バーカウンターに並ぶピンの数で時間の経過を表す演出も秀逸な、映画史に残る名シーン。ビリー・ワイルダー監督は悲劇を喜劇に描くのが本当に上手で、普通に聞いたら不愉快なこの話も、見事なロマンスコメディになっている。
■バーテンダーの心がざわつく、新たなハイボール?
【ラム・ハイボール】

【RECIPE】
▲[材料]
・マウント・ゲイ .....................30ml
・ソーダ ................................適量
『007/カジノ・ロワイヤル』
(2006年/アメリカ・イギリス・チェコ)
監督:マーティン・キャンベル
シリーズの第21作目で、イアン・フレミングが1953年に発表した原作の3度目の映画化作品。裏切り者に対する暗殺任務を成功させ、00(ダブルオー)エージェントに昇格した若きジェームズ・ボンドは、初めての任務で犯罪組織の資金源の調査とその根絶に乗り出す。そこで浮上した一人の男とモンテネグロのカジノで向き合うことに。
マティーニの流れから。『007』のマティーニはジンではなくウォッカ、ステアではなくシェイクするなど、バーテンダーの間では「ヴェスパー・マティーニ」という別名がついているくらい有名。「ヴェスパー」は、ボンドが最初に惚れるヒロインの名前。当然、原作に戻った『007/カジノ・ロワイヤル』のヒロインの名前はヴェスパーだ。なんだけど、劇中で今度は、「マウント・ゲイのソーダ割を」とか言うシーンが出てくる。ハイボールが流行る中、今度はハイボールのラム版とくるから頭が下がる。
■エレガントなカクテルを、だらしなく
【ホワイト・ルシアン】

【RECIPE】
▲[材料]
・ウォッカ ..............................45ml
・カルーア・コーヒーリキュール .. 15ml
・生クリーム ............................適量
※ 参 考 ま で 。ご 自 由 に!
『ビッグ・リボウスキ』
(1998年/アメリカ)
監督:ジョエル・コーエン
ジョエル&イーサン・コーエン兄弟が監督・脚本を手がけ、同姓同名の富豪と間違えられて誘拐事件に巻き込まれた男の騒動を描いたコメディ。1991年、ロサンゼルス。その日暮らしの気ままな生活を送る無職の中年男デュードは、同姓同名の富豪リボウスキと間違われる。2人組のチンピラから借金を返せと脅され……。
その日暮らしを送るデュードが、家で飲んでいるのがホワイト・ルシアン。ホワイト・ルシアンを家で作って飲むこと自体も印象的だけど、トランクスにガウンを羽織っただけのだらしない格好で、家で雑に作って飲むというちぐはぐ感もすごい。ところが映画だと、そんなデュードが無性にカッコよく見えてくる。オフビードなコメディセンスの賜物だろう。だからここでは、材料の量も気にせずに。生クリームも、ポーションミルクや、何ならクリープでもいいくらい!
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<写真=岡崎健志/構成・文=川本央子>
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/715740/
- Source:GoodsPress Web
- Author:GoodsPress Web
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