【達人のプラモ術】
エアフィックス
「1/144 SLS ARTEMIS」
■祝!56年ぶりの月周回飛行
2026年4月、アメリカの宇宙船「オリオン」が月上空を周回し、地球に無事帰還しました。有人月周回は1972年12月のアポロ17号以来となるので、実に53年ぶりでの快挙です! 打ち上げから月周回、そして緊迫の大気圏突入での帰還。これは宇宙大好き少年(現オッサン)にとっては心躍る大興奮のイベントでした。
1969年、小学5年生の宇宙大好き少年は、米ソによる宇宙開発競争で次々と開発される宇宙ロケットに宇宙船、そして月を目指したアポロ計画など、当時、国内外のメーカーから発売されていたサターンロケットやアポロ宇宙船のプラモデル、はたまた宇宙グッズにお小遣いの全てを注ぎ込んでいました。
当時の新聞に掲載されたアポロ関係の記事を切り抜いたスクラップブックは今も手元に残っています。
まぁそんな宇宙少年はそのまま歳を取っちゃいまして宇宙大好きSF大好きオジサンになっちゃったワケです。それだけに今回、53年ぶりとなるオリオン宇宙船での有人月周回飛行の成功は心躍るイベントだったんですね。
だって人類が最後の月を周回したのは1972年12月のアポロ17号(アポロ計画最後の宇宙船)が最後。それから53年もたってしまったんですからね。宇宙少年もオッサンになるワケです。
そして2028年末に予定されているアルテミスVで有人の月着陸ミッションが予定されており、人類を再び月に立たせるアルテミス計画! いやたまらなく魅力あふれるロマンです!
▲日本時間2026年4月2日、フロリダ州のケネディ宇宙センターの39B発射台から打ち上げに成功した「アルテミス2」 Photo:NASA/John Kraus
長谷川迷人|東京都出身。モーターサイクル専門誌や一般趣味雑誌、模型誌の編集者を経て、模型製作のプロフェッショナルへ。プラモデル製作講座の講師を務めるほか、雑誌やメディア向けの作例製作や原稿執筆を手がける。趣味はバイクとプラモデル作りという根っからの模型人。タミヤ公式YouTubeチャンネルなどでもハウツーレビューを
■エアフィックスの最新キットで作るSLSアルテミス
オリオンの打ち上げに使われたロケットはSLS(Space Launch System/スペース・ローンチ・システム)が使用されました。このロケットは、アメリカ航空宇宙局(NASA)により開発されたものですが、スペースシャトルから派生した最新の大型ロケットです。今回はこのSLSを1/144スケールのキットを製作しました。いち早くSLSをキット化したのはイギリスの老舗模型メーカー、エアフィックスです。
宇宙開発には消極的なイギリスの模型メーカーとしては意外ですが、同社はアポロ宇宙船、サターンロケット、ソ連(当時)のソユーズロケットなど宇宙関係のプラモデルを多数発売しています。夢多き宇宙ロケットの模型は英国の子どもたちにも人気があるのだと思います。今回製作したSLSアルテミスのキットは1/144。とはいえ実物は98mもあるので完成後のサイズは68cmにもなります。ちなみにアポロ11号の打ち上げに使われたサターンV ロケットは110mですから、SLSアルテミスは僅かに小さいんですけどね。
キットはぶっちゃけると、アルテミス2ではなく2022年に無人で打ち上げられたアルテミス1(SLSブロック1)をモデル化したものです。なのでオリオン宇宙船は再現(搭載)されていませんが、外見的にはほとんど同じ(SLSのマーキングが微妙に違う程度)。ただし残念なのが、打ち上げに使われた超カッコいい39B発車台が付属していないことです。専用の展示ベースは付属していますが、複雑なトラス構造がモデラー心をくすぐる発車台は是非欲しくなります。
実はエアフィックスのSLSに合わせた39B発車台は別メーカーがキット化しており、速攻で注文したのですがトラブルがあり今回は間に合いませんでした(後で詳しく説明)。
▲エアフィックスから発売されているアポロ計画のサターンVロケット。今回発売されたSLSと同じ1/144スケール。ボックスアートは最新のもの。現在も発売中で価格は7000円前後
▲ケネディ宇宙センター第39B発射施設は、フロリダ州メリット島にあるケネディ宇宙センター内のロケット発射場に設営されている。元々アポロ計画のために建設され、後にスペースシャトル計画のために改修された伝統の打ち上げ施設でもある。そして39B発射台がSLSの打ち上げに使用された。 Photo:NASA/Joel Kowsky
■キット解説
ロケットのスケールモデルって、筒を積み上げていくだけといったら乱暴なんですが、製作はあまり楽しくないです、SLS本体そして左右に2基連結されたRS-25ブースターも見事なまでに真っ二つに分割されているので、合わせ目の処理(※1)に手間がかかります。
▲製作中のSLSロケット。パーツは左右分割なのがロケットモデルの辛いところ
(※1)合わせ目消しはモデラーが嫌う作業のひとつ。最近のキットは合わせ目が表に出ないような配慮されているものが多い。SLSは40cmからの合わせ目をサンディングと瞬間接着剤パテで消さなくちゃいけません…。
■SLSの製作
SLSは2段式ロケットで、2段目上部にアルテミス宇宙船とフェアリングが搭載されています。キットの1段目ブースターは4基のRS-25エンジンのノズルを再現。エンジン基部はカバーで覆われているので、アポロの打ち上げに使われたサターンVのF-1エンジンのようなノズル上部の燃料配管やタービンのメカメカしたディテールがなく、あっさりした印象です…。これも進化なのでしょう。
上部には酸化剤タンクが再現されていますが、2段目とのフェアリングをつけてしまうとほぼ見えません。でもロケット外壁の電路配管などは別パーツで再現されています。
悩んだのがSLS本体の塗装で、つや消しのオレンジ色なんですね。いろいろ調べてみると、スペースシャトルの外部燃料タンクと同じように極低温の液体酸素や液体水素が太陽光で暖められて蒸発するのを防ぐための断熱材の色とのことです。キットには接着剤と水性アクリルの専用塗料が付属しているので、それを参考にやや暗めに調色したMr.カラーで塗装し、シャトル外部燃料タンクを参考に濃淡のグラデーションを入れています。
▲SLS本体を塗装中。サイズが大きいので下地塗装を含めて塗料の使用量も半端ない。オレンジ色は独自の調色したもの
ところで1段目に4基使われているRS-25Dエンジンは、スペースシャトルに使われたRS-25エンジンを再利用したものなんだそうです(初期設計は1972年!)。スペースシャトルはSSMEを3基搭載していましたが、SLSではミッションに応じてRS-25を4基、あるいは5基を利用するそうです。そしてRS-25Dを使い切った後は、改良型のRS-25Eが搭載されることになっています。
▲SLSに搭載するため運ばれるRS-25エンジン ©NASA
▲ロケットモデルの見せ場でもあるエンジンノズル周りだが、SLSのRS-25はシンプルそのもの。SLS個体燃料ブースーターもノズル周りはスッキリしている
▲キットはアルテミス1を再現しており宇宙船を収納するフェアリングのみ再現されている。先端の細い部分はSLS緊急脱出システムで、打ち上げ時の事故から宇宙飛行士を守る最重要安全装置。異常発生時に点火して数秒でクルーモジュールを親ロケットから引き離し、安全な距離へ移動させられる。下のオレンジ色の部分はSLSの2段目とアルテミスモジュールを繋ぐフェアリング
▲SLS 1段目の上部内側には推進剤(液体水素と液体酸素)のタンクが再現されている
■SLS雑学
発射前のSLSは、トラブルや天候不順による発射中止や発射の遅延のために、最小で13回のタンク注入サイクルが可能で、また組み立てられたロケットは180日間発射台に据え続けられるようになっていて、待機の状態でも解体する必要なしに少なくとも200日は据え続けられるんだそうです。
宇宙開発初期のアトラスロケットなどは燃料を注入しないと自立できな構造だったり、ソ連のソユーズロケットは自重でつぶれないように発射台から吊り下げていたことを考えると、スペースシャトルのエンジンを流用したりしていても、やっぱりSLSって凄い進化をしているんだと痛感させられますね。
▲超重量級のSLSロケットを4マイル(約6.4km)先にある39B発射台へと運ぶNASAのCT-クローラー・トランスポーター2(CT-2)。このクローラーは約8165tの積載能力を持つ。Photo : NASA/Joel Kowsky
■SLS 2段目の制作
先にも書きましたが、キットはアルテミス1をモデル化したもので、2段目上部のフェアリングのみで内部のアルテミス宇宙船は再現されていません。とはいうものの、LES (打ち上げ脱出システム:ロケットの打ち上げ失敗時に有人宇宙船の乗員モジュールのみをロケット本体から離脱させる機構)にある曲線構成が特徴的なアルテミス宇宙船のフェアリングがいい感じです。また下部には1基のDCSSロケットも再現されています。
1段目、2段目とそれぞれ違うエンジンが装備され、アポロを打ち上げたサターンVならば3段目もありで、これが多段式ロケットの魅力なんじゃないでしょうか。ロケット模型のロマンです(笑)。
▲SLSの2段目はアルテミス宇宙船を格納した円錐状のフェアリングと繋がる。内部にはDCSS(デルタ極低温第2段ロケット)1基が装備されており、キットでもロケットノズル部分が再現されている
■ブースターの製作
SLSの第1段ロケットには左右それぞれブースターロケットが装着されています。ブースターロケットもスペースシャトルで使用されていたSRB(固体燃料補助ロケット)を改修したものです。ただしスペースシャトルでは、燃焼終了後に切り離されたブースターを回収し再利用していましたが、アルテミスミッションでは回収されずに使い捨てとなっています。
キットではブースター1基が10パーツで再現されたシンプルな構成ですが、雰囲気はいい感じです(リング状の凸モールドが多いので左右接合線を消すのがこれまた大変ですが…)。SLS本体へは接着せずとも固定でき、取り外しも可能ですが、完成後の保持強度を優先するなら接着固定をオススメします。
▲ブースターはSLS本体同様左右分割なのだが、凸状の補強用リング?が複数モールドされているため、左右パーツの接着線を消すのが大変だった。NASAのロゴはキット付属のデカールだが、黒のラインはフィニッシュシートを使用している
▲SLS本体と左右側面に装備される2基の固体燃料補助ロケットブースター。第1段ロケットで飛行する最初の2分間だけ同時に燃焼したのち切り離される
■SLSの塗装
ロケットの塗装は、いつも悩まされます。基本的には使い捨てだからウエザリング(汚し塗装)は不自然になっちゃうし、今回のSLSは本体がオレンジ色! それも断熱材の色だし、ブースターやアルテミス宇宙船のフェアリングは白です。以前製作したサターンVロケットも白と黒のツートンと、いやなんと言いますか塗装しがいががないんです(笑)。SLSのオレンジ色にしても、発色を良くするために下地に白を塗装しているので、白を大量に消費しております。
キットにはチューブ入りの接着剤と小さなボトルに入った水性アクリル塗料、筆が付属していますが、60cmからあるSLSの本体をこれっぽっちの塗料とこんな細い筆で塗れるワケないじゃん! とツッコミを入れたくなります。
作例の塗装は基本エアブラシで、オレンジは茶色を僅かに加えることで、彩度と明度を抑え、デカールを貼った後にSLS本体、ブースターともにつや消しで仕上げています。
■悩ましきは39B打ち上げ発車台
キットのボックスアートにも、複雑なトラス構造を持つ発射台から打ち上げられるSLSが描かれており、やっぱり発車台がなくちゃイカンなぁということで、本キットと同じ1/144スケールでサードパーティメーカー発売されいる39B発車台のキットをネットで注文(SLSのキットより3000円高い15000円)したのですが、当初一週間で届くはずが、遅れますの通知が。むむむとギリギリまでキット到着を待ったんですが、さらに配達日は未定との通知が届いた時点で製作を諦めざるを得ませんでした。無念です。
▲キット付属の展示ベース
■自然光での撮影にチャレンジ
通常は撮影ボックスで作例を撮影しているのですが、今回のSLSは全長60cm超。撮影ボックスに収まりません。以前製作したハセガワのラフテレーンクレーンのクレーンアームを伸ばした状態よりでかいです。
そこで今回は、作例を野外に持ち出して自然光(太陽光)で撮影してみました。
いざ撮影では、普段の行いが悪いこともあって曇り、雨と悪天候による順延に泣かされましたが、ようやくの晴天で、ビルの屋上にて撮影した次第です。
雲のない青空とSLSのオレンジがいいコントラストで、巨大感のあるリアルな画像になってくれました。まぁ撮影時に風が強かったので撮影中にSLSが倒れて破損するというアクシデントに泣かされましたが、結果オーライです。
▲自然光での撮影。カメランレンズによるパースが効いてSLSを下から見上げた雰囲気が出た
▲打ち上げ後、上昇中のSLSのイメージ
▲逆光でも雰囲気ありあり。下段付け根部分は固定しているため、どうしても若干カットすることになる
▲自然光の回り具合でSLSの巨大感がよく出たお気に入りのカット。撮影直後に風に煽られてSLSが倒れて緊急脱出ロケットとブースターを破損するトラブルに見舞われる
■ロケットモデルの魅力
ロケット単体はシンプルなデザインで、模型的な魅力に乏しいかもしれません。でも宇宙開発というバックグラウンドには大きな魅力が溢れていて、再び人類を月に送り込むアルテミスミッション、それを担うSLSロケットは、打ち上げ時にサターンVを超える約4000トン推力を発生するんです。その先端には4人の宇宙飛行士が乗っているワケで、言うなればバカでかい花火の先端に乗って宇宙に飛んでいくようなものななんですね。これって凄いロマンでありアドベンチャーなんですよ。
映画『ライトスタッフ』(1983年公開)での、マーキュリー計画アトラス9号で最後の単独飛行宇宙飛行士となったゴードン・クーパーの言葉「今日も我宇宙を目指す」は最高にカッコ良いのです! ロケットは男のロマンなんですよ。
今後、アルテミス宇宙船のプラモの発売も予定されるとのこと。56年の時を経ての人類月着陸! プラモで大いに盛り上げていきたいですね。それとエアフィックスには39B発射台もセットになったキットも発売してもらいたいものです。
アルテミスSLSロケットはいかがでしたか? さて次回はどんなモデルを作りましょう。乞うご期待!
>> [連載]達人のプラモ術
<製作・写真・文/長谷川迷人>
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- Source:GoodsPress Web
- Author:GoodsPress Web
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