駐車場でふとクルマを停めると、「STI」のエンブレムがついたスバル車の隣だったりすることがあります。
同様にフロントグリルに「NISMO」のエンブレムがついた日産車、バンパーに「GR」のエンブレムがついたトヨタ車、「HRC」のステッカーを貼ったホンダ車なども見かけることがあります。
いずれのメーカーのクルマに乗ったことがない人にとっては何を示すものなのかよくわからないものだと思いますが、実はこれら、自動車メーカーがモータースポーツで培ったワークスブランドのロゴなのでした。
▲四輪モデルの、特にハイスペックモデルに付けられることが多いワークスのロゴ(画像:スバル)
■【STI(スバル)】「SUBARUを世界一にする」の理念で立ち上がったワークスブランド
▲スバルのワークスブランド「STI」のロゴ(画像:スバル)
「SUBARUを世界一にする」という理念のもと、1988年に設立されたワークス・Subaru Tecnica Internationalの頭文字を取ったのが「STI」です。
ワークスの活動の目的は世界的なレースに参戦し実績を残すこと。特に1990年代から2000年代の世界ラリー選手権(WRC)においてはレガシィRS、インプレッサ555といったモデルで大活躍し、「STI」黄金期と評されるほどでした。
ワークスの設立当初の理念だった「SUBARUを世界一にする」を達成したこと、経営の合理化などから残念なことに2008年に世界ラリー選手権(WRC)からは撤退しますが、近年でもニュルブルクリンク24時間レースでクラス優勝を重ねるなど、輝かしい成績を残し続けています。
これらワークスが培った知見を市販車にフィードバックしたコンプリートカーに「STI」のエンブレムが付けられているというわけです。また、サスペンション、エアロパーツ、マフラー、ホイールなど純正チューニングパーツも開発。「速さ」だけを求めるのではなく、「迅速に曲がれる」「安心して走れる」ことが重視されています。
市販の象徴的なモデルはWRX STI、インプレッサWRCなど。いずれもスバルユーザーの間で抜きん出た人気を誇るモデルとして知られています。
▲「STI」の技術やパーツが反映されたWRX STI(画像:スバル)
▲インプレッサWRC(画像:スバル)
■【NISMO(日産)】「GT-Rの快進撃」で世界中に知られるようになった誇り高きワークスブランド
▲日産のワークスブランド「NISMO」のロゴ(画像:日産自動車)
日産のモータースポーツへの参戦やレース車両・パーツの開発、市販車向けのカスタムパーツ・コンプリートカーの製造販売を行うのが「NISMO」です。
1984年に設立されたワークス・ニッサン・モータースポーツ・インターナショナルが母体で、当初から「NISMO」ブランドの製品を販売してきましたが、2022年に特装車を手がける別会社と経営統合。社名は日産モータースポーツ&カスタマイズとなりましたが、今も「NISMO」ブランドが継続されています。
国内外のレースで活躍したワークスですが、圧倒的な成績の記録は1990年から1993年にかけての全日本ツーリングカー選手権(JTC)。スポーツモデル、スカイラインGT-Rを持って、前人未到の「29連勝」という大記録を樹立。日本国内の大会ではありますが、「GT-Rの快進撃」は世界中に知られ、同時に「NISMO」ブランドを知らしめることにもなりました。
これらの知見を反映した市販車では、2007〜2025年まで販売されたGT-R NISMO、2023年から販売を続けているフェアレディZ NISMOなどがあります。GT-R NISMOは新車価格が3000万円台、フェアレディZ NISMOが900万円台と高額ですが、生産台数が限られており販売開始後すぐに売り切れてしまうため入手が極めて困難なモデルでもあります。
▲「NISMO」を象徴するモデル、スカイラインGT-R NISMO(画像:日産自動車)
▲2023年から販売を続けているフェアレディZ NISMO(画像:日産自動車)
<■【GR(トヨタ)】バラバラだったモータースポーツ活動を一本化したグローバルワークスブランド
▲トヨタのワークスブランド「GR」のロゴ(画像:トヨタ自動車)
トヨタでは当初、TOYOTA Racing、LEXUS Racing、Team Gazooなど、複数のモータースポーツブランドが存在していましたが、2015年、これらを一本化するために発足されたのが「GR」です。GAZOO Racingの頭文字を取ったものですが、実は中古車情報検索サイト「GAZOO.com」は、トヨタ現会長の豊田章男氏が中心となって立ち上がったもの。自動車業界でのインターネット活用の先駆けとなった「GAZOO」の冠をそのままワークスにも取り入れた、というわけです。
他社ワークス同様、世界中のレースに参戦し、これら過酷な環境で得た技術・人材育成の成果を市販車開発にも活かしています。
特に象徴的な市販車は、2019年にGRブランド初のスポーツモデルとして発売されたGRスープラや、最高出力304馬力を誇る高性能2ドアクーペ、GRヤリス。いずれも世界で戦ったホモロゲーションモデルがベースにあり、圧倒的な人気を誇り続けています。
▲「GR」ブランド初のスポーツモデルとして発売されたGRスープラ(画像:トヨタ自動車)
▲高性能2ドアクーペ、GRヤリス(画像:トヨタ自動車)
■【HRC(ホンダ)】二輪・四輪レース用の高性能技術開発を行う名うてのワークス
▲ホンダのワークスブランド「HRC」のロゴ(画像:Honda Racing)
そして最後に紹介するのがホンダの「HRC」です。Honda Racing Corporationの略称で、1982年に設立されたワークスブランドですが、長らく二輪専門で世界的なレースに参戦してきました。
ホンダの四輪でのレース参戦は、1960年代のF1黎明期を除き、1980年代から2010年代まではエンジンサプライヤーとしての供給が中心でしたが、2022年に四輪レース部門も「HRC」に統合。以降、MotoGP、F1、SUPER GT、インディカーといった幅広いカテゴリーで参戦しています。
その理念は「レースで人と技術を磨き、その成果を市販車へ還元すること」……おおむね他社のワークスとよく似たコンセプトでありながらも、「HRC」を冠するモデルはかなり本格的なサーキット仕様ばかり。ワンメイクレース、耐久レースのベース車両に想定されたシビック TYPE HRC Consceptや、国際GTレース規格「GT3」向けに開発されたNSX GT3などは、生産台数が数ないことから購入困難のモデルとなっています。
▲完全なるレース車両として販売されているシビック TYPE R HRC Concept(画像:Honda Racing)
▲「GT3」に開発された競技用車両、NSX GT3(画像:Honda Racing)
■各社のワークスを冠するクルマは特別な意味を持つ
▲「ワークス」の冠は、そのメーカーの知見、技術、矜持が込められた特別なモデルです(画像:スバル)
ここまでの通り、自動車メーカー各社には「ワークス」という、世界規模のレースシーンの極限状況下で技術開発を行う部門があるわけですが、これらは「技術開発の推進」と合わせて、自社ブランドの「イメージ」を世界中に知らしめる目的もあります。
当然、各社の中でも矜持高き部門であり、これを冠する市販車もまた特別な意味を持つ、ということになります。街中や駐車場でたまに見かける各社のワークスのエンブレムが施されたクルマたち。知らない人には何を指しているのかサッパリ分からなかったかもしれませんが、ここまでの話を知る人からすると、ひれ伏すほどの特別なクルマだったというわけです。
<取材・文/松田義人(deco)>

松田義人|編集プロダクション・deco代表。趣味は旅行、酒、料理(調理・食べる)、キャンプ、温泉、クルマ・バイクなど。クルマ・バイクはちょっと足りないような小型のものが好き。台湾に詳しく『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)をはじめ著書多数
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