天文台の近くではiPhoneの衛星通信が使えない?国内3地域の理由を調べた

携帯電話の圏外で助けを求められるiPhoneの衛星通信にも、国内に利用制限区域があります。なぜ天文台や宇宙観測所の周辺が対象なのでしょうか。本記事で取り上げるのは、観測施設が受ける微弱な電波との関係、衛星経由の緊急SOSが必要な場面、出発前に済ませたい準備です。

国内3施設の周辺は利用制限区域

山間部へ出かけるとき、携帯電話の圏外でもiPhoneの衛星通信があれば大丈夫だと思う人もいるでしょう。しかし、Appleは国内3施設の周辺を衛星サービスの利用制限区域として案内しています。

施設Appleが示す範囲
国立天文台水沢VLBI観測所周囲およそ50km内
JAXA臼田宇宙空間観測所周囲およそ40km内
国立天文台VERA石垣島観測所周囲およそ25km内

制限は施設の敷地内だけではなく、最大で周囲約50kmに及びます。一方、Appleの説明は「使用できない可能性があります」であり、区域内で常に接続できないと断定しているわけではありません。

また、これはiPhoneの衛星サービスに関する制限です。区域内の携帯電話回線やWi-Fiまで、一律に使えなくなるという意味ではありません。

制限の背景は微弱な電波を守るため

Appleは3施設を挙げていますが、制限する理由や50km、40km、25kmという距離の算出方法までは公表していません。ここから先は、各機関の一次情報を組み合わせた技術的な推論です。

Appleの衛星サービスが利用するのは、移動衛星通信に割り当てられたL帯とS帯です。国際電気通信連合(ITU)の勧告では、1,610.6MHz〜1,613.8MHz帯を移動衛星通信と電波天文が共用する場合、観測所の周囲に分離距離、制限区域、除外区域を設ける考え方が示されています。

水沢にはVERAの20m電波望遠鏡があります。石垣島局の直径20mアンテナは、S帯なども受信対象です。

臼田は、遠く離れた探査機から届く微弱な信号を受ける施設です。JAXAによれば、都市雑音などの妨害電波が少ない場所として選ばれました。

これらの資料を合わせると、利用制限はiPhoneから発する人工電波が観測や探査機との通信へ影響するのを避ける措置だと推測できます。ただし、Appleが個別の理由として明記した説明ではありません。

圏外では衛星が救助要請を中継する

衛星経由の緊急SOSは、携帯電話とWi-Fiのどちらも使えない場所から、公的な緊急通報サービスへ助けを求めるための機能です。日本では2024年7月30日に提供が始まりました。日本での衛星経由の緊急SOS提供開始については、過去記事でも紹介しています。

緊急時は、まず110(警察)、118(海上保安庁)、119(消防・救急)へ通常の電話をかけてください。118番は、海上で事件や事故が起きたときの緊急通報番号です。

契約中の通信事業者が圏外でも、別の利用可能な回線を通じて発信できることがあります。それでもつながらなければ、画面の案内に従って衛星経由のテキストへ進んでください。

たとえば登山中にけがをし、通常の緊急電話がつながらない場合を考えてみましょう。衛星SOSでは、次の順に救助を求めます。

  1. iPhoneに表示される緊急事態に関する質問に答える
  2. 回答と現在地、高度、バッテリー残量などがGlobalstarの低軌道衛星へ送られる
  3. 衛星から地上局へ情報が届く
  4. 地上局から警察、消防、海上保安庁などの緊急通報機関へ伝わる

設定済みのメディカルIDや緊急連絡先も、救助要請に添えられます。

緊急通報機関がテキストを直接受け取れない場合は、Appleの中継センターが間に入り、訓練を受けた担当者が内容を伝える仕組みです。

衛星電話のように声で話すのではなく、iPhoneの案内に従って質問へ答え、必要に応じてテキストをやり取りします。声を出しにくい状況でも、救助に必要な情報をまとめて送れる機能です。

衛星SOSを使う前に準備したいこと

衛星経由の緊急SOSは、日本ではiOS17.6以降を搭載したiPhone14以降で利用できます。対応機種を持っていても、出発前に設定を済ませてください。

出かける前に、次の4つを確認します。

  1. iPhoneを最新のiOSへ更新する
  2. ヘルスケアアプリでメディカルIDと緊急連絡先を設定する
  3. 「設定」>「緊急SOS」>「デモを試す」で接続方法を確認する
  4. 行き先が3施設の利用制限区域に含まれないか調べる

デモは緊急通報サービスへ発信せず、衛星を探す画面やiPhoneの向きを確認する機能です。

衛星通信には、空と地平線が見える屋外が必要です。葉の茂った木、山、建物などに囲まれた場所では、制限区域の外でも接続できない場合があります。

制限区域では衛星通信を当てにしない

タイトルの問いに答えるなら、水沢、臼田、石垣島にある3施設の周辺では、iPhoneの衛星通信を使えない可能性があります。前述の資料からは、天体観測や探査機との通信に使う微弱な電波への影響を避けるための制限と読み取れます。

登山やドライブの予定地が区域に近い場合は、衛星経由の緊急SOSだけを連絡手段にしないでください。出発前に家族へ行程と帰宅予定を伝え、携帯電話がつながる地点を調べます。必要に応じて、自治体や施設が案内する連絡手段、予備の電源も用意しましょう。

区域外へ出かける場合も、iPhoneのデモで操作を試し、メディカルIDと緊急連絡先を確認しておくことが第一歩です。衛星SOSを「圏外なら必ず使える機能」ではなく、条件がそろったときの最後の連絡手段として備えてください。


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