AppleがXserve以来のサーバー再参入か〜M8 Ultra搭載で企業向け

Appleが、M8 Ultraを2基または4基搭載した企業向けAIサーバーを検討していると、海外メディアが報じました。実現すれば2011年の「Xserve」以来となるサーバー市場への再参入で、登場は早くても2029年の見込みです。

Siri AIに設けられる予定の使用制限や、AIを動かすMac Studioの価格とあわせて、この計画が利用者に何をもたらすのかを考えます。

AppleがM8 Ultra搭載のAIサーバーを検討と報道

海外メディアによると、AppleはM8 Ultraを2基または4基搭載する、企業や政府向けのAIサーバーの開発を検討しているようです。主な用途は学習済みのAIモデルを動かす「推論」で、NVIDIAの接続技術「NVLink Fusion」の採用も話し合われています。

計画は約1年前、当時ハードウェア部門を率いていた現最高経営責任者(CEO)のジョン・ターナス氏の後押しを受けて始まりました。登場は早くても2029年とされ、法人向けの支援体制や機械学習フレームワーク「MLX」への投資が課題として指摘されています。

Appleは2011年にXserveでサーバー事業から撤退

Appleが最後に手がけたサーバー専用の製品は、2002年5月に初代を発表した「Xserve」シリーズです。Xserveは、データセンターのラックに収める1Uサイズの本体で、企業や教育機関での利用を想定した製品でした。

Appleは2010年11月、2011年1月31日でXserveの受注を終了すると発表し、以後はMac ProやMac miniをサーバーとして使う構成を案内しており、サーバー専用の製品は15年以上途絶えています。XserveとAIサーバーの違いを整理すると、次の通りです。

項目Xserve報道されたAIサーバー
登場2002年(初代の発表)早くても2029年
チップPowerPC G4ほか(のちにIntel製)M8 Ultraを2基または4基
主な用途Mac OS X Serverを動かす汎用サーバーAIモデルの推論
想定した買い手企業や教育機関AI開発者や企業、政府

大きな違いは、チップを他社から調達していたXserveに対し、新しいサーバーはAppleが自社で設計したチップを中心に組み立てる点にあります。用途もAIの推論に絞られ、15年前とは狙う市場そのものが変わりました。

企業がMac StudioをAI用途で買い始めたことが背景か

Appleが15年ぶりにサーバーを検討する背景には、企業がMac miniやMac StudioをAI用途でまとめて購入する動きがあるとみられます。8月にMac miniとMac Studioが例年より早く発表された背景にも、企業のAI需要があったと報じられていました。

推論用途ではユニファイドメモリが強みに

Appleシリコンの特徴は、CPUとGPUが同じメモリを共有する「ユニファイドメモリ」という仕組みを採用している点です。AIモデルの推論では、モデルをまるごとメモリに読み込めるかどうかで扱える規模が決まり、大容量のメモリを積めるほど有利になります。

Mac Studioでは、M5 Ultra搭載モデルで最大512GBのユニファイドメモリが10月下旬に選べるようになる予定です。M8 Ultraを複数基束ねる構成が実現すれば、大規模なAIモデルを処理するための演算能力やメモリの規模を広げられる可能性があります。

Apple自社用のAIサーバーはヒューストンで製造中

Appleはすでに、Apple Intelligenceを支える「Private Cloud Compute」向けのサーバーを自社で設計して運用中です。2025年2月に米国ヒューストンでのサーバー製造を発表し、2026年2月には同地から予定より早く出荷を始めたと明らかにしました。

報道によると、Appleはこのサーバーを使わせてほしいという他社からの要望を断ってきたとされています。自社向けに作る技術と生産体制が整ったことで、次の段階として他社に販売する選択肢が視野に入ったと考えることもできるでしょう。

NVIDIAの接続技術NVLink Fusionの採用を検討

NVLink Fusionは、NVIDIAが2025年5月に発表した、他社が設計したチップをNVIDIAのデータセンター向けの仕組みにつなぐ技術です。土台になる第5世代NVLinkは、PCIe Gen5の14倍の速さだとNVIDIAは説明しています。

複数のチップで大きなAIモデルを分担して動かすとき、処理速度を左右するのがチップ同士のデータのやり取りの速さです。M8 Ultraを4基まで束ねる構成でこの技術を検討している背景には、チップをつなぐ部分を実績のある外部技術で補う狙いがあるとみられます。

チップからソフトウェアまで長年自社でそろえてきたAppleにとって、サーバーの中核でNVIDIAの技術を検討すること自体が、自前にこだわるよりAIサーバーで実績のある技術を優先する現実的な判断といえそうです。

Siri AIには使用制限が設けられる予定

Appleは、端末だけでは処理しきれない複雑なリクエストを、Appleシリコンを搭載した自社サーバー「Private Cloud Compute」で処理すると説明しています。企業向けのサーバー計画を読み解くうえで、iPhoneのAIとサーバーの関係も押さえておきたいところです。

上限の回数はシステムの需要で変わる

Appleは9月10日に公開したサポート文書で、Siri AIや写真のクリーンアップ、Image Playgroundなど、サーバー側のモデルを使う機能に使用制限を設ける予定だと案内しました。上限に達しても、一定の時間が過ぎれば再び使えるようになる仕組みです。

使える回数の上限は、機能やリクエストの複雑さ、システムの需要などによって変わるとされ、利用枠の拡大は有料になると案内されています。Siri AIは現地時間9月14日に英語のベータ版として提供が始まり、日本語には10月に対応する予定です。

Siri AIの上限と今回のサーバーは別物

日本語のSiri AIが10月に始まれば、国内の利用者のリクエストもAppleのサーバーで処理されます。使える回数の上限を決める要素の1つとしてAppleがあげているのが、システムの需要です。

ただし、今回報じられたサーバーは他社に販売するための製品で、Appleの自社用設備を増やす計画ではないため、Private Cloud Computeの処理能力やSiri AIの使える回数に直接影響するとは報じられていません

制限がかかっている間も、端末の中で処理が終わる機能やiPhoneのほかの機能はそのまま使えるため、日本語版が始まったら、Siri AIや写真のクリーンアップ、Image Playgroundなど、どの機能がサーバーを使うのかを知っておくと慌てずに済むでしょう。

M5 Ultra搭載のMac Studioは約95万円から

報道されたサーバーの登場は早くても2029年とされるため、それまでApple製品で大きなAIモデルを動かすなら、Mac Studioが現実的な選択肢といえそうです。Apple公式ストアでは、M5 Ultra搭載モデルが税込949,800円から販売されています。

メモリ256GBの構成は税込1,903,800円

AIモデルの規模を左右するメモリを増やすと価格は大きく上がり、36コアCPUのM5 Ultraに256GBのメモリとストレージ1TBを組み合わせた構成は税込1,903,800円です。96GBの場合より72万円高く、増えた160GBで割ると1GBあたり4,500円になると試算できます。

最大の512GBメモリは10月下旬に発売予定で、Apple公式ストアではまだ価格が表示されていません。256GBの構成からどこまで価格が上がるのかは、発売を待って確かめることになりそうです。

企業は複数台か専用サーバーかで判断

Appleによると、Thunderbolt 5で複数台のMac Studioをつなぐ「クラスタ化」を使えば、4台構成で1台の場合より分散型のAI推論が最大3倍高速になります。チームでAIの処理能力を分け合う使い方も、8月の発表で示されていました。

専用サーバーの登場は早くても2029年で、中止の可能性もあるため、企業にとっては、当面Mac Studioを複数台そろえてAIを動かすか、専用サーバーを待つかが検討の分かれ目になりそうです。

個人ならM5 Max搭載モデルも候補

個人がAIモデルを試す用途であれば、M5 Max搭載モデルでも最大128GBのメモリを選べ、Apple公式ストアでは税込419,800円から販売されています。動かしたいモデルの大きさに合わせてメモリを決めれば、費用を抑えやすいでしょう。

18コアCPU・40コアGPUのM5 Maxに128GBのメモリとストレージ1TBを組み合わせた構成は税込941,800円で、96GBのメモリを積むM5 Ultra搭載モデルの最小構成とほぼ同じ価格になります。

M8 UltraやMLXなどMacユーザーにも波及する可能性

サーバーは企業向けの製品ですが、計画が進めば、Macを使う個人にも関係する変化が出てくる可能性もあるでしょう。変化の中心になりそうなのは、Mac Studioなどに載るUltraチップと、MacでAIを動かすソフトウェアの2つです。

Ultraチップの開発は今後も続く見通し

Ultraチップは、M3 Ultraの次がM5 Ultraになるなど毎世代出ているわけではなく、サーバーの中核にM8 Ultraが据えられたことは、Mac Studioなどに載るUltraチップの開発が今後も続くことを示唆しています。

9月22日に発売されるM5 Ultraも、ベンチマークスコアがM3 Ultraからマルチコアで30%超向上しており、サーバー向けの需要が加わってUltraチップへの投資が続けば、次のMac Studioでも性能の伸びが期待できそうです。

MLXへの投資でMacのAI環境が充実か

MLXは、Appleの機械学習研究チームがAppleシリコン向けに開発し、オープンソースで公開しているフレームワークで、手元のMacで大規模言語モデル(LLM)などを動かすアプリ「LM Studio」にも使われています。

サーバー計画の課題としてMLXへの投資が指摘されたことから、今後投資が増えれば、個人がMacでAIを試す環境も、使えるモデルやアプリの幅を含めて充実していくかもしれません。

発売は早くても2029年で計画中止もあり得る

報道されたAIサーバーは早くても2029年の登場とされており、NVIDIAの技術を使うかどうかも含めて、発売までの数年間に計画が変わったり、中止されたりする可能性も十分に残っています。

企業に専用機を売るには、導入から保守までを支える法人向けの体制が欠かせず、Xserveで一度撤退した分野にどこまで本腰を入れるのかが焦点になりそうです。企業のAI需要という追い風を生かし、Appleが事業をデータセンターにまで広げられるのか注目されます。


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