同じ大根でも、おろし金を変えれば食感が変わる。同じ米でも、炊く鍋を変えれば香りや粒立ちが違ってくる。料理って、やっぱり道具が面白いんです。
日本には、おろす、切る、炊く、沸かす、焼く、削る…それぞれの動作をとことん突き詰めた専用道具が数多くあります。便利さだけなら家電に任せればいい。でも、少し手をかけるからこそ味わえるおいしさや、道具を操る楽しさも捨てがたいもの。
使えば違いがわかり、使うほど愛着が湧いてくる。そんなメイド・イン・ジャパンの調理道具7品を集めました。
■ふわふわ大根おろしを生む純銅製おろし金
▲純銅製 おろし金・両面・4番 大根/薬味用・正規品/1万450円/大矢製作所
大根おろしなんて、おろせれば同じ…と思ったら大間違い。粗くて水っぽいものもあれば、ふわっと口の中でほどけるものもあり、その差を生むのが“刃”です。
大矢製作所の純銅製おろし金は、錫メッキを施した銅板に職人が鏨と金槌で一目ずつ刃を立てています。機械で均一に加工するのではなく、刃の高さや間隔が微妙に異なるのがミソ。食材のさまざまな面に鋭い刃が当たり、余計な力を加えなくてもスムーズにおろせます。1712年成立の『和漢三才図会』にも似た形のおろし金が描かれているというから、その完成度の高さにも納得。昔ながらの姿には、ちゃんと理由があるんです。

「純銅製 おろし金・両面・4番」は、表面が大根用、裏面がわさびやしょうがなどの薬味用。一枚で二役をこなす、家庭で出番の多いサイズです。
醍醐味は、やはりおろした瞬間。鋭い刃で食材を押し潰さず、細かく切るようにおろすため、大根は水分と繊維が分離しにくく、ふんわりなめらかな仕上がりに。薬味も香りを生かしやすくなります。電源もモーターもない、ただの一枚の金属板。それなのに料理の仕上がりをしっかり変えてくれるのだから侮れません。目立て直しにも対応しており、長く使えるのもうれしいところ。毎日の大根おろしがちょっと楽しみになる道具です。
>>大矢製作所
■切り口まで美しく整える堺の包丁
▲堺孝行「焔 紅蓮 牛刀 225mm」/5万1920円/青木刃物製作所
完熟トマトに刃を当てた瞬間、皮に引っ掛からずスッと入っていく。切れる包丁を使うと、それだけで料理がうまくなった気分になるものです。
そんな切れ味を長年磨いてきた一大産地が大阪・堺。江戸時代にはタバコの葉を刻む包丁で名を広め、そこで培われた技術は料理包丁へと受け継がれました。特徴は、鍛冶師、研ぎ師など各工程のプロが腕を振るう分業制。青木刃物製作所の「堺孝行」も、その仕組みを生かして本職用から家庭用まで幅広い包丁を手掛けています。一人ですべてを作らないからこそ、それぞれの工程をとことん突き詰められる。堺の切れ味は、まさに職人技のリレーで生まれます。

真っ黒な刀身がなんとも男前な「焔 紅蓮 牛刀 225mm」。刃には安来青二鋼を使い、堺鍛冶師・土井逸夫氏が鍛造しています。炎の中で鍛えた表情を残した黒仕上げと、樫木の漆塗り柄との組み合わせも実に味わい深い。
牛刀なので肉はもちろん、魚や野菜まで幅広く使えるのも魅力です。鋼の包丁だけに、使った後は水分をしっかり拭き取るなど少々手はかかります。でも、その手間も道具を育てる楽しみのうち。切れ味が落ちれば研ぎ、手入れをしながら付き合っていく。ピカピカの新品より、使い込んだ姿のほうが似合いそうな一本です。
>>青木刃物製作所
■火加減いらずでふっくら炊ける伊賀の土鍋

ふたを開けた瞬間に立ち上る湯気。粒の立ったごはん。炊飯器の便利さは捨てがたいけれど、土鍋で炊いたごはんには、それだけで食卓の主役になれる魅力があります。
1832年創業の伊賀焼窯元・長谷園が手掛ける「かまどさん」は、伊賀の粗土が持つ高い蓄熱性を生かした炊飯土鍋。土鍋を削り、取っ手を付けるなど、約1カ月以上の時間をかけて職人がひとつひとつ仕上げています。肉厚な本体がじっくり熱を蓄え、中ふたと上ふたの二重構造が内部に適度な圧力を生み、吹きこぼれも防ぎます。伝統的な焼き物を、現代の家庭で使いやすい“炊飯ギア”へ仕立てているところが面白い。火と土、そして人の手で、米のおいしさに真正面から挑んだ道具です。
▲かまどさん 三合炊き/1万9800円/長谷製陶(長谷園)
「かまどさん 三合炊き」は1~3合に対応。米と水を入れて火にかけ、蒸気が上がったら火を止めて蒸らす。基本はこれだけです。細かな火力調節がいらないので、土鍋初心者でも意外なほど気軽に使えます。
火を止めた後も、肉厚な土鍋に残った熱が米をじっくり蒸らしてくれるのがポイント。伊賀の粗土には吸水性もあり、余分な水分を適度に吸うことでべたつきを抑えます。炊飯器のように予約はできませんが、炊き上がりを待つ時間もまた楽しい。ふたを開ける瞬間まで含めて“炊飯”を味わう。休日くらい、そんなごはんの炊き方もアリではないでしょうか。
>>長谷園
■白湯もコーヒーも楽しめる南部鉄器の鉄瓶

ケトルなら数分で済む湯沸かしを、あえて鉄瓶で。効率だけを考えれば遠回りですが、そのひと手間が妙に贅沢に感じられます。
岩手県奥州市で1852年に創業した及源鋳造(OIGEN)は、南部鉄器の技を受け継ぐ老舗。鉄瓶の内側には、高温で焼くことで生まれる酸化皮膜を施しています。鋳鉄ならではのどっしりした質感や蓄熱性を残しながら、サイズや注ぎ口などは今の暮らしに合わせてアップデート。昔ながらの道具を床の間に飾るのではなく、毎日ガンガン使ってほしい。そんなメーカーの姿勢が感じられるのもいいところです。
▲鉄瓶 なつめ形アラレ 0.75L(H-143-S)/1万9250円/及源鋳造(OIGEN)
「鉄瓶 なつめ形アラレ 0.75L」は、約20年前にヨーロッパ輸出向けとして開発されたモデル。伝統的なアラレ模様をまといながら、容量0.75L、重量約1.3kgと比較的小ぶりで、鉄瓶デビューにも取り入れやすいサイズです。
目を引くのは、本体に対してスッと伸びた細い注ぎ口。湯量をコントロールしやすく、白湯や日本茶だけでなくハンドドリップのコーヒーにも好相性です。ツルを倒せるため、給水や内部の乾燥もしやすい設計。朝、少し早起きして鉄瓶を火に掛ける。そんな時間まで楽しみたくなる佇まいです。道具好きなら、キッチンに置いてある姿だけでもちょっと気分が上がります。
>>及源鋳造
■プロの厨房で鍛えられた打出し雪平鍋

プロの厨房で毎日のように火に掛けられる鍋には、余計なものはいりません。軽くて、熱が回りやすく、タフであること。
1958年に東京・千住で創業した中尾アルミ製作所は、そんな現場目線の調理道具を半世紀以上にわたって作り続けてきました。現在も鍋やフライパンは茨城県の自社工場で製造。その定番「打出雪平鍋 N-33」は、純度の高い国産アルミ材に打出し加工を施し、強度を高めています。料理人の声から生まれた内側の目盛りも、その思想の表れ。飾るためではなく、使うために磨かれてきた。そんな潔さが、この鍋にはあります。
▲打出雪平鍋 N-33 18cm/6600円/中尾アルミ製作所
18cmモデルは容量1.6L、重量約0.3kg。味噌汁や少量の煮物、野菜の下ゆでなど、家庭でも出番の多いサイズです。アルミならではの軽さに加え、熱が素早く回るので、「ちょっとお湯を沸かしたい」という場面にも頼れます。
鍋本体に穴を開けず、柄の金具をスポット溶接しているのも特徴。水漏れに配慮しつつ、木柄はネジ留めなので、傷めば交換できます。鍋を丸ごと買い替えるのではなく、必要な部分だけ手を入れて、また使う。毎日の厨房で求められてきた合理性は、家庭に持ち込んでも気持ち良く、長く火に掛けるほど、この無駄のなさが効いてきそうです。
>>中尾アルミ製作所
■ふっくら黄金色に焼き上げる銅の玉子焼鍋

玉子焼き専用の鍋なんて必要? そう思う人にこそ一度試してほしいのが銅製の玉子焼鍋です。
東京・足立区の中村銅器製作所は、100年近く親子4代でものづくりを続ける工房。料理人にも愛用される玉子焼鍋を、一つひとつ手仕事で仕上げています。銅の強みは、なんといっても熱伝導の良さ。火の熱が鍋全体へ素早く回るため、適切に使えば卵へムラなく火を入れやすくなります。内側には錫を手作業で焼き付け。玉子焼きという一品のためだけに素材も形も突き詰める。この潔い専用性こそ、日本の調理道具の面白さではないでしょうか。
▲銅製 玉子焼鍋 12×16cm/実勢価格9680円前後/中村銅器製作所
12×16cmモデルは、卵2~4個程度にちょうどいいコンパクトサイズ。朝食や弁当用に玉子焼きを作るなら、まさに使いやすい大きさです。
銅は熱が素早く均一に広がるため、弱めの火でも卵へ効率よく熱を伝えられるのが魅力。ふっくらした厚焼きや、だしを含んだ柔らかな玉子焼きにも向いています。ただし、最初に油をしっかりなじませたり、強火を避けたりと少しコツは必要。その“ひと手間”も含めて使いこなしたくなるのが、この鍋の魔力です。毎朝作る玉子焼きが少しずつ上手になる。そんな道具なら、専用品を持つ価値は十分にありそうです。
>>中村銅器製作所
■削りたての香りを楽しむ鰹節削り器
▲台屋の鰹節削り器 別注青紙×ウォルナット/1万7600円山谷製作所(台屋)
シュッ、シュッと鰹節を削り、ふたを開けた瞬間に香りが広がる。袋入りの削り節では味わえない、この時間そのものがごちそうです。
新潟県三条市の山谷製作所は、1946年から大工道具の鉋台を作り続けてきたメーカー。その技術を食の世界へ持ち込んだのが、2014年に立ち上げた「台屋」です。鉋は、刃が良いだけではダメ。木製の台と刃が高い精度で組み合わさって初めて気持ちよく削れます。そのノウハウを鰹節削り器へ応用。三条の大工道具づくりと、日本のだし文化。一見離れているようで、実は相性抜群だった2つの技が出会ったプロダクトです。

「別注青紙×ウォルナット」は、見た目だけでも所有欲を刺激する一台。本職の大工用鉋にも使われる安来鋼青紙の刃に、硬く粘りのある白樫の鉋台を組み合わせています。
受け箱には家具材として人気のウォルナットを採用。キッチンに出しっぱなしでも絵になる佇まいです。でも本領は、もちろん削り心地。出荷前には一台ずつ実際に鰹節を削り、切れ味を確認しているという徹底ぶりです。薄く削った鰹節をごはんにのせ、醤油をひと垂らし。それだけでも立派な一品に。便利さとは真逆にある道具ですが、だからこそ使ってみたくなる…そんな魅力があります。
>>台屋
<文/柿内直樹>
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