Magic Leapに投じられた26億ドルはいったい何だったのか

【編集部注】本稿はJosh Evans氏による寄稿記事である。同氏は、HappyFunCorpエンジニアリング担当CTOだ。グラフィックノベル、紀行本など6作品を発表し、受賞歴もある著述家でもある。2010年よりTechCrunchの週末コラムを担当。

筆者は2年前、Industrial Light & Magicが開催した「Innovation in Immersive Storytelling」というイベントに参加した。そのイベントでは、Magic LeapのChief Game Wizardが紹介されていた。魔法のような製品であるというイメージを植え付けようとするイベントの題名を見た時に、この製品の終焉が不可避であることに気づくべきだった。しかし実際は、イベントに出席する前はMagic Leapに対して半信半疑だったのに、イベントが終わった頃にはその疑念が半減していたのである。

Magic Leapは数年の間に多くの信奉者を引き付け、26億ドル相当の資金を集めた。Andreessen Horowitz(a16z)、Kleiner Perkins、Google(Google VenturesではなくGoogle本体)をはじめ、多数の企業が出資に加わった。また、Sundar Pichai(サンダー・ピチャイ)氏はMagic Leapの取締役会に名を連ねた。そして、これらの出資者たちはMagic Leapを大絶賛したのである。ベンチャーキャピタルが自社の出資先を絶賛するのはよくあることだが、Magic Leapの場合はそれとは違った。

これは画期的だ。ピクセル数やフレームレートが桁違いになったではなく、センサー、光学機能、モバイル機器側のボリューム、さらには飛躍的に向上したコンピュータビジョンなど、常々私が夢見ていた機能がすべて搭載されている。この製品は驚くほど素晴らしく、他の製品と一線を画している。

Kleiner PerkinsBing Gordon

没入感が信じられないほど自然で、部屋の中にいるのに、自分の周りを本当にドラゴンが飛び回っているようだった。開いた口がふさがらないほど驚いて、顔がニヤけて仕方がなかったよ。
— Legendary PicturesのCEO、Thomas Tull

Legendary Picturesとa16zは、Magic Leapに出資する前に、Oculus Riftに出資していたことがある。Tull(タル)氏は「Magic Leapのアプローチは他社とはまったく異なっている」とTechCrunchに語ったことがあるほどだ。この発言は興味深い。というのは、Magic Leapが5年の歳月と16億ドルの資金を注ぎ込んでやっとリリースしたMagic Leap Oneという製品について、OculusのPalmer Luckey(パーマー・ラッキー)氏が手厳しく批判するレビューを発表したからだ。確かに同氏の批判は想定の範囲内だった。しかし、その詳細は非常に印象的だった。

その製品は「Lightwear」と呼ばれている。Magic Leapが主に「フォトニック明視野チップ」、「ファイバ走査型レーザーディスプレイ」、「デジタル明視野をユーザーの目に投影」、さらにはヘッドマウントディスプレイ開発者を何十年にもわたって悩ませてきた輻輳調節矛盾を解決するという夢のような話について延々と語ることで注目を集めてきたのが、このLightwearである。(長いので中略)「フォトニック明視野チップ」とやらは単にシーケンシャルカラー反射型液晶ディスプレイやLED照明を導波管と組み合わせたものにすぎない。Microsoftの最新世代のHoloLensをはじめ、他社がこれまで何年も使ってきた技術と同じものだ。Magic Leap Oneは、一般的に受け入れられているどんな定義に照らしても「明視野プロジェクター」や「明視野ディスプレイ」とは言えない。

「他社とはまったく異なっている」と言われたMagic Leapのアプローチに何が起きたのだろうか。

ほとんど見かけ倒しのテクノロジーに投資家の関心を何とかつなぎとめようと策が講じられたことは注目に値する。Magic Leapは「当社の社員が今まさにオフィスでプレイしているゲームの映像です」と言って、動画付きのメールをプレス関係者に配信した。しかし後に、その動画はすべてWeda Digitalが制作した特殊効果映像だったことがThe Informationによって暴露された

Magic Leapは次に、「Magic Leapのヘッドセットを通して見た映像を直接撮影したものです。撮影日は2015年10月14日。特殊効果や合成は一切使用していません」と言って、別の動画を公開した。信じていいのか。前回の動画の件を考えると、疑うのは当然だ。しかし、総合的に考えてみると「おそらく大丈夫」という答えになりそうだ。Kevin Kelly氏が、2016年にWired誌でMagic Leapの目玉機能についてあまり詳細に触れていないことにも注目してほしい。

主な3つのMR(複合現実)ヘッドセットのいずれにおいても、半透明の物体(大抵はナノスケールのリッジ加工が施されたガラス)に対して斜めに投影される画像が使用されている。ユーザーが、そのガラスを通して外の世界を見ると、バーチャルな物体はガラス部分の横にある光源から投影され、ガラスに施されたビーム分割ナノリッジ加工によって反射されて、目に届く。Magic Leapは、光線を目に届けるこの方法は自社独自の技術だと話しているが、その詳細については現時点で説明することを拒否している。

このことが、Magic Leapの超目玉である「Lightwear」テクノロジーはまったく特別なものではないとするLuckey氏の報告(筆者の知る限り反論は出ていない)とどのように整合するのか。投資家やジャーナリストを歓喜、熱狂させた社内デモ版のような手ごたえが感じられる製品をリリースできなかったという点については言うまでもない。

答えは簡単だ。「The Beast」である。

ザ・インフォメーションのReed Albergotti(リード・アルベルゴッティ)氏が3年以上前に報じたように、The BeastというのはMagic Leapの最初のデモ機だった。これは注目の的になった。驚くほど素晴らしく、夢のような、画期的なテクノロジーだった。そして、重さは100kg以上もあった

The Beastの後継モデルである「The Cheesehead」は人間の頭部にフィットする大きさで、「Magic Leapが発明した明視野発信機を小型化できる可能性を示した」モデルだと言われた。しかし、依然として重さは10kg以上あり、実用化するには明らかに重量オーバーだった(この2つのモデルの写真はCNETのリンク記事で見ることができる)。

The BeastとThe Cheeseheadを見れば、複数回にわたって多額のベンチャー投資が行われたことにも納得がいく。しかし重要なのは、Magic Leapがその後、自社の画期的テクノロジーを実用化可能なレベルまで小型化できたのかということである。

明らかにできなかった。そして、それこそが問題の核心、つまり、Magic Leapが26億ドル(約2800億円)の資金を集め、従業員の半数をリストラしながら7年間ほとんど何の製品もリリースしてこなかった理由である。Vanity Fair誌はMagic LeapのCEOであるRony Abovits(ロニー・アボビッツ)氏がThe Informationに語った言葉を引用し、こう書いている。

アボビッツ氏はThe Informationに対し、The Beastに使われているテクノロジーは「当社が最終的に実用製品として発表するものではない」と語った。また、プロトタイプは投資家をはじめとする関係者に、製品の「長所と短所」を紹介するためだけのものであるとも語った。

悪意があったかどうかにかかわらず(筆者は、悪意があったとは考えていない)、Magic Leapは26億ドルの見かけ倒しプロジェクトとなってしまった。この先どうなるかは明白だ。

TechCrunchライターのLucas Matney(ルーカス・マトニー)は、1年前に「なぜMagic Leapに大金を投ずるのか?」という記事を書いている。Magic Leapのデバイスの売上は散々だ。同社は先月、100億ドルという金額で身売り先を探したが、TechCrunchライターのJosh Constine(ジョシュ・コンスティン)がこれを「馬鹿げている」と評したのも当然である。その後、同社は従業員の半数をリストラして会社を守った。こうなると、次の問題は「Magic Leapが倒産したらどうなるのか」ということである。

「The Beast」のテクノロジーがいつか実用化されて、一般家庭、学校、オフィスなどで使用されるようになる可能性はあるのだろうか。ないとは言えない。2014年から6年間かけて26億ドルを注ぎ込む価値はあったのか。やはり、なかったとは言えない。しかし、投資に見合う利益をあげることはできなかった。結局のところ、Magic Leapの一件で、ハードウェアの開発、さらには人間の感覚(特に視覚)を操るプラットフォームの開発は困難だと投資家が嘆くことはあっても、彼らがMagic Leapに対して激怒したり腹を立てたりすることはないだろう。

[原文へ]

(翻訳:Dragonfly)


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