素人でもできる!?ステンレス板からカスタムナイフを作ってみた②【研磨編】

<&GP自作部>

ブッシュクラフトに憧れて始めたカスタムナイフDIY。

前回、苦心してステンレスの板をナイフの形に切り抜くことに成功しましたが、まだナイフの形が見えたくらい。ここから頑張ってカッコいい形を目指し、磨き上げていきたいと思います。

磨き作業をするに当たり、今回購入したのが90mmホームバイス THV-90。まあ要するに万力ですね。こいつをウッドデッキ上の棚に据え付け、ステンレス用ヤスリで外形ラインのデコボコを削ってゆくところから今回の作業は始まります。

前回の金ノコでの切断に比べるとザックザックと削れるから気持ちよく、テンションが上がります!

■ナイフ完成への道は研磨から

この作業のポイントは、金ノコと同じく、質のいいヤスリを使うこと。

ステンレスプレートを削り出してナイフを作る製法を「ストック&リムーバル法」と呼ぶのですが、この加工を左右する工具がヤスリだといわれます。

プロのカスタムナイフ職人は、電動のものを含め多数のヤスリを所持して使い分けているそうです。初心者DIYerはそこまでいかないにしても、最低「ステンレス用」のヤスリでないと文字通り歯が立ちません。

■作業効率を高めてくれる道具を選ぶ

そんなわけで今回用意したのは、まさにプロ向けの逸品。アメリカ・ニコルソン社製の「平ヤスリ・マジカット10インチ」。

ニコルソン社のヤスリは、2年に一度開催される技能オリンピック国際大会に出場する選手たちの間で圧倒的シェアを誇る、ヤスリ界のチャンピオン。特にステンレスに対する研削力とその持続性が高く評価されているそうです。

そのニコルソン社のヤスリは用途に応じて多種多様ですが、ナイフメイキングの現場でよく使われるのが「マジカット」シリーズ。粗削りから仕上げまで使えるので、初めての1本に最適なのです。

■研磨して「刃」を整形する

外側のラインを、目指すナイフの形になるように整えることに成功すれば、続いていよいよナイフの「刃」の整形が始まります。

この工程を「ブレイドべベル研磨」といい、カスタムナイフメイキング最大の山場。

ちなみに「ブレイド(blade)」とは英語で刃のこと。そして「べベル(bevel)」は傾斜の意味なので、「ブレイドべベル研磨」とは背から刃にかけての刀身=ナイフ本体に当たる部分を作る作業となります。これは緊張しますね!!

実際に削り出す前に、ナイフブレイドの種類をご紹介します。実はブレイドの断面形状には様々な種類があるのです。その中でもナイフメイキングで重要な3種類をご覧ください。これはナイフメインキングだけでなく、ブッシュクラフト に使用するナイフを選ぶときの参考にもなると思います。

ただし、今回のように手工具のヤスリだけで削り出せるブレイドは基本的にコンベックスグラインドとフラットグラインドのみとなります。そんなわけで今回は、一般的なフラットグラインドのナイフを目指すことにしましょう。

この削り出し作業で最大のポイントは、繊細なヤスリの操作。一度削った部分は、当たり前ですが元には戻せないのです。

実際この工程をフリーハンドで行うときは、プロのカスタムナイフ作家でも緊張するといいます。削り始めは刃側からスタートし、背側へ向けて徐々に削る面を広げていくのですが、これがなかなか難しい。とにかく重要なのは刃の中心線=エッジラインを守ることです。

このラインを反対面側へ越えてしまうと、デザインが変わるような大修正となるのですから、焦らず、ゆっくり、納得いくようヤスリを動かしましょう。

難しい場面の多いブレイドべベル研磨の工程における最後の難関が、ベベルストップの整形です。

ベベルストップとはナイフの刃の一番手元側の部分。鋼材と刃の境目のラインと考えてください。

ここのラインが裏表対称で同じ位置にないと非常にカッコ悪いのです。ナイフDIY愛好家向け専門の「Matrix-AIDA」のサイトをのぞくと、この部分を研磨する際の専用ガイドが販売されていましたが、最近は金属DIYに熱心な私、ステンレスの板とボルトを使って見よう見まねで自作のガイドを作ってみました。ただし精度はイマイチで、微妙に裏表でラインがずれます。まあ仕方がないですね。

ガイドのエッジを手掛かりに、細目のヤスリを使ってべベルストップを仕上げ、概ねブレイドべベルの完成です。

このあと焼き入れとなる訳ですが、焼きが入ると当然ながら非常に硬くなるなるので、追加の作業は困難となります。

この段階でより美しく仕上げるための耐水ペーパーでの研磨や、ハンドル材を付けるためのボルト穴の開削を忘れずに行っておきましょう。

ちなみに私のナイフは、目印の位置を間違えたり、削り過ぎをカバーするために大きさが変わったりで、穴だらけ(涙)。でもハンドルで見えなくなるから良しとします。

■DIYで難しい焼き入れはプロにお任せ

そしていよいよ焼き入れです。「焼き入れ」とは金属を高温に加熱しあと、急激に冷却処理をすることで、日本刀の製作風景などで見たことのある人も多いと思います。

この処理をすることで金属組織に変化が起こり、より硬く曲げに強い構造になるそうなのですが、詳しい解説を読んでも何が書いてあるか全くわかりませんでした。

その求められる加熱温度はもちろんのこと、微妙な時間配分や作業の安全性を考えるとDIYでやるのは難しい工程です。そのことは「Matrix-AIDA」さんもわかっているようで、1本1100円で処理を受け付けてくれてました。

作業の依頼はレターパックで可能らしいので、早速依頼書とナイフを同封して郵送。

待つこと1週間、戻ってきたのがこちらです。心なしか色が少し黒光りしてるような気もします。指で弾くとより硬質な音がし、嫌が応にも期待が高まりますね。

■ヒルトを整形し装着

さてここからは、いよいよ仕上げの段階に入っていきます。まずはヒルトの整形。

ヒルトとは刃とハンドル(グリップ)の間にある金属パーツで、指が滑って刃に当たらないようガードするためのものです。本来はニッケルなどの金属ブロックから切り出して作るのですが、Matrix-AIDAの初心者向けセットには、加工済みのものが入ってますので楽です。

 

指にあたる部分だけアール状に削り加工終了。ヒルト専用の接着剤とピンでナイフ本体に固定しました。ちなみにこのピンのための穴も、焼き入れ前に開けておきましょう。

■見た目と使い方を考えてハンドルを製作

続いてハンドルを作ります。使う素材は、木を始め、動物の骨や角、樹脂素材など多種多様。ブレイドと同じく、そのナイフの性能や使い心地、そして見た目を大きく左右する重要部品ですので、じっくり選びましょう。

ただし初心者は、加工しやすい木材を選択することをお勧めします。

Matrix-AIDAのサイトでも鋼材以上に多くの種類のハンドル材を取り扱ってますが、こと木工に関しては経験があるので、結構な数の木材をストックしてあり、その中からオニグルミをチョイス。

この板をジグソーでハンドルの形状に切り出し、先ほどとは別の専用接着剤で本体に接着。ファスニングボルトと呼ばれる部品でしっかりと固定します。このボルトは柔らかい金属でできているので、このままヤスリでハンドルと一緒に削れるのです。

そして全体を削り、磨き、刃を研いで、ついに完成したオリジナルナイフがこちらです。いかがでしょうか? 少し歪なところがあったり、ブレイド面にヤスリの傷跡が残ったり、文句を言えばきりがないのは確かです。

でも、苦労して作り上げたMyナイフを手にする満足感は、何ものにも変えがたい喜びです。ぜひ皆さんも挑戦してみてください! 次回はこのナイフの切れ味をご紹介します!!

銃刀法に抵触する疑いのある刃物を製作・所持すると罰せられます。現在、銃刀法では、刃渡り15cm以上の刀や剣、槍などの刃物や刃渡り5.5cm以上の剣(両側に刃のついた刃物)、自動開刃する飛び出しナイフも所持は禁止されています。これらの刃物は作らないようにしましょう。

また所持可能な刃物でも、正当な理由なく携帯することは、銃刀法や軽犯罪法で禁止されています。 法律を守りながら、DIY を楽しんでください。

写真・文/阪口 克

阪口克|旅と自然の中の暮らしをテーマに国内外を取材するフリーカメラマン。秩父郡長瀞町の自宅は6年かけて家族でセルフビルド。家を経験ゼロからDIYで建てる。家族でセルフビルドした日々を描いた『家をセルフでビルドしたい』が文藝春秋から発売中。ほか近著に『笑って!小屋作り』(山と渓谷社)、『世界中からいただきます』(偕成社)など。


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